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4-1 理外回帰編:大規模クエスト
191 英雄に焦がれる者
しおりを挟む「あの匂いがする袋、あれもあんたらがやったのか?」
「お前はこの人数不利の状況で、そんなことを聞くのか? 自分の立場分かってんのか」
否定も肯定もせずはぐらかすというのは、したとみていいだろう。
態度はでかいが脳みそは小さいらしい。
「なんのために魔法を打った? 冒険者同士の揉め事はタブーだと知ってると思うけど」
「なんのために……? ハンッ。いいぜ、教えてやるよ。……俺らはな、簡単に有名になって英雄になりてぇんだ」
「……?」
なにそれ。
人数有利で、こちらの両手が人を背負って塞がっているからか余裕を醸し出しているのがよく分かる。余裕なのは分かるけど、何を言い出すかと思ったら……。
少しだけ張り詰めてた緊張感や緊迫感が薄れて、目の前の年上の狼人が、将来の夢を語る少年にしか見えなくなってきた。
「俺らが英雄って言われるためには、何だってする。お前らにさっき打った魔法もそうさ。お前らを殺した方が競争率が下がるからな」
「英雄ね……、もしかして蜥蜴人の人が僕にゴブリンのクエストを進めたのも」
「そうだよ、僕はアレで君が死んでくれたらいいと思っていた」
いい人だと思っていた人が一人減ってしまった。残念だよ、ほんと。
今思うと『ゴブリン退治』なんて最初のクエストでやるような内容じゃないもんな。
初めてのクエストはそれこそ薬草採集や、ダンジョンがある森ではなくて、普通の森や平原にいるスライムとかを倒すのが一般的なんだろうし。
「僕はあなたのことを信じてたんですけどね」
「勝手にどうも。まぁ君以外の冒険者は、俺が勧めたクエストで大体死んだから……僕としては大成功な作戦だったよ」
「情報が少ない駆け出し冒険者は憐れだな、はははっ」
「しょうもない……。あるじ、行きましょう。構ってるだけ時間の無駄です」
「行かせると思うのか?」
アンが森の中に入ろうとしたのをスケアが剣を向けて制した。
目の前に振り下ろされた剣。それを見て眉一つ動かさなかったが、その時に袖から見えたモノには目を見張った。
「刺青……お前、フーシェンの……」
「あぁ、バレちまったか。そうさ、俺たちはついこの前フーシェンにスカウトされた。利害の一致だよ、あそこは俺たちの野望を叶えるための最適な場所だ」
「冒険者を減らせば、それだけ私達が目立つことが増える。だからこのクエストで多くの冒険者を殺そうとしたのさ」
マトモだと思っていた森人の人の口から「多くの冒険者を殺す」と聞こえて、先程の行動が間違いであったという可能性はなくなった。
僕達に魔法を撃ってきたのはこのベルトゥアって森人だ。
魔素が一緒な時点で99%故意だとは思っていたけど……この人も真面目な人だと思っていたんだけどなぁ。
「ということは、匂い袋はやっぱり君たちなんだねぇ。数を減らすって言いながら魔物の手を借りて、自分の手は汚さないんだ」
「お前らに何がわかんだよ。俺らは全力でやってんだ……!! 成りたいモノに成ろうとして何が悪い――ッ!!」
グッと剣をアンの喉元まで上げた――次の瞬間スケアの体が宙を舞い後方の木へと蹴り飛ばされた。
「威嚇のつもりでも、殺せる道具を人に向けた時点で殺る気だと捉えれるが……殺るのか?」
「がはっ……! ってめぇ!! 俺らのバックにはフーシェンが居るんだぞ!! タダで済むと思うな――」
「それがどうした」
「……なんだと?」
「後ろに何かが居たとして、お前らは何もしないのか? 英雄とはそんなものか……呆れる」
骨のある人達かと思っていたら「僕らの後ろには大きな組織が~」って悪役みたいなセリフ吐き出したらもう終わりだ。そのビッグネームに甘えてるだけの人間っていう印象になってしまう。
それにしてもフーシェンと僕らの関係を知らされてない……のか?
もしかして一端の血盟員には知らせてないのか? 知らせる利益と知らせない利益だったら、知らせる方が大きいと思うんだけどな。
「俺らは楽に名を上げるんだ!! 名を売る為の土台が……お前らは動かずにただ踏まれとけばいいんだ!」
「英雄になりたいなら周りを蹴落とさずに自分達が強くなればいい。お前らがやっているのは遠回りだ」
アンのオブラートに包まない正論パンチで、六人の表情が一気に変化した。
「……俺達が強くないって? 有名じゃないって……? 何も知らずに知ったような口を叩くんじゃねぇ!!! 俺達はダンジョンの記録保持者だ!! それに目立つために同じ思考を持つ他種族を集めてパーティーを組んだ!!」
「才能がないから何でも全力を尽くして名前を上げようとしてんのさ! やりたくないことだってする!! みんながやってる努力だけじゃ足りないんだ……!」
「才能がある人間には分からない話だろうよ!!」
激昴に激昴だ。溜め込んでいた鬱憤がチラチラと見える。
不思議に思っていたけど、英雄になりたいって人はこの世界じゃ珍しくないのか。
だって、小さな時から御伽噺を聞かされて実際に数百年前には魔王を撃退した英雄がいるんだ。
称号Ⅰを持っていてもいなくても、誰もが英雄になれるチャンスがある。
だが、野球選手になりたい人が他人をバットで殴打して他の選手を殺したりはしない。そういうことをして目標の存在に成れたとしても、後ろめたさはないのだろうか。
そこまでして英雄という存在になりたいのか。
「ベルトゥアァッ! 拘束魔法だ!! まとめて殺るぞ!!」
エルフが杖を構えたのを確認すると、ケトスが指先を空になぞった。
「――『複合魔法:多重泥壁』」
次の瞬間には、攻撃態勢に入っていた6人は水と土が混ざった泥の壁で囲われていた。
一度包囲することが出来ると、そこから何重にも重ねていき、終いには10層以上の壁が彼らを覆う。
えぇ……絶対、これから熱い戦いが!! ってところだったろうに。
「えげつない……」
「あれだけ英雄願望がある子なら直ぐに出てこれるさ」
「殺さなくてもいいのですか?」
「アンの手は料理や掃除ができる綺麗なお手手なんだから、したらダメー」
「あるじ……」
「親バカしなくてもいいから!!! 早く行くよ!!」
「邪魔だ! 間に入ってくるな!!」
こちらに近づいたアンの間にケトスが割って入って……って、何だかケトスが真面目に対応してくれるようになったから笑ってしまう。
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