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4-1 理外回帰編:大規模クエスト

185 クラディスのステータス

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 掃除だ掃除だ、わーい。たのしい。
 先生の部屋掃除たのしいなぁ。たのしい…………はぁ。
 この体が若いからいいけど、こんなに「よいしょ」って言葉が出てきそうな動作ばかりしてたら、腰に来るぞ。

「分担をしましょう!」と言ったのはアン。手には箒と雑巾が握られている。
 
 やる気満々なところすごく申し訳なかったけど、使われていた部屋を僕がやって、使用してなかった部屋はアンに任せた。共同は後回し。
 いくら熱量があっても、知らない人の部屋の掃除はさせるのは酷だ。同性だとしても。
 僕だって一応は先生のことを女性だと認識はしてるけど、先生は先生だ。だから『女性の部屋を掃除している』という感覚がない。
 佳奈の部屋も汚かったからよく掃除して――させられてたし、それと一緒だ。一緒。

 先生が使っていた部屋を簡単に掃除をしていたら、出てくるわ出てくる。
 可愛らしい寝間着、訓練の時にいつも持っていたパンの紙袋、片方しかないソックス、伊達メガネ……。他にも先生の私物と思われるモノがどんどんと。

「先生が帰っちゃってから一か月くらい経ったよな。脱ぎ捨ててるモノだったら……やばいな」

 使えなさそうなソックスを捨て。まだ使えそうな髪留めを拾い上げ、掃除済みの机の上へと置いた。
 普段つけてたのは少しは丁寧に保管がされてた。さて、どう処分をしよう。
 使う物なら持ち帰ってるはず。先生だし、収納袋の一つや二つは持ってるか。

(……こっちで勝手に処分しとくか。次いつ会えるか分からないもんな)

「――すぅ……ますたー! お話がありまぁぁす!!」

「っ……あー…………急に大声出したらびっくりしちゃうでしょ、エリル」

「えええっ!! びっくりしてくれない……」

 掃除中に自分以外の息を吸い込む音が聞こえたら、そりゃ身構えますとも。

「……で、どうしたの? お話って」

「進捗の報告です! ますたーが言っていたことを勉強してきましたよ、完璧ですよ完璧!」

「おお、完璧とは。さすがです」

「私のお仕事ですからね! もっと労ってくだされば、まだまだ頑張りますよ!」

 あの一件の後、この世界のこともそうだけど地球のことの情報収集をしてもらってた。
 この前、夫婦ですね! って言ってきたから、そこらへんを色々と。
 自由な時間で好きなことを調べてもらうついでに、料理のレシピとかこの世界でも使えそうな情報を仕入れてもらった。

「――それはそうとして。私が居ない間に……あの子と仲良くしちゃってたんじゃないですかぁ?」

「えぇ? なに、急に、どうしたの」

 突然話を変え、ジト目でススっと近寄って見上げてきた。

「いーえ? でも、急に首元まである服になったなぁーって」

「そりゃあ、冬が近いし。寒いからだね」

「同じ屋根の下。男女が二人きり。転生者ということを気軽に話せれる間柄……。ねぇ、ますたー、何かやりました?」

「ううん。何を想像してるか分からないけど、不健全なことはやってないよ」

「ますたーの体、私とリンクしてるんですよぉ? 感情とか、痛痒つうよう共有は切ってます、が……私がスリープモードじゃなかったら、からね」

 胸をツンと突き、片頬を引き上げながらの追及。
 そのエリルの脇に手を差し込み、グイっと持ち上げた。

「わ!」

「鎌かけは止してって。じゃ、掃除があるから、また終わってからゆっくり話を聞かせて」

「むぅ……」

 エリルを端っこの椅子に座らせて、掃除の続きをする。その間もじーっと睨むように見てくる。
 気まずい……。何もしてないって言っても、信じてもらえないんだろうなぁ。


      ◇◇◇


 ようやく掃除が終わったというところで、開いている引き戸をコンコンとノックする音。
 見上げると、開けていた扉の前にアンが立っていた。
 
「掃除、終わりました」

「お、ご苦労様。あとは共同……の前に、少し休憩しよっか」

「わかりました」

 エリルが顔をひん曲げて、ぶつぶつと念仏の様に何かを唱えながらアンを睨んでる。
 もちろんエリルの姿や言葉はアンには聞こえてはいない。
 
「ほかの部屋とかどうだった? 私物とか」

「はい。ですが、後で見てもらえると安心できます。わたしなりに綺麗にしたつもり……ではあるのですが」

「掃除に関しては私の方があなたよりできますよ! ね!」

 くわっと威嚇をして、こちらに確認の目を向けてきた。何に敵対心を抱いているのか。

「はは……えっと、大丈夫だと思うよ、一応は見ておくようにするけど。ちゃんと家事とか覚えてくれたもんね」

「料理はまだまだ修行不足ですが、掃除なら、なんとか」

「私はまだ、あなたを認めてませんから! ますたーの母代理として! 体の一部代表として!」

 認めるも何も、アンがいないと僕死んでるんだけど。
 とはいえ、エリルが居なかったら僕はとっくの昔に死んでるから、僕からは何も言えません。

「えぁ……っと、これから、ね。頑張ってこ?」

「はい!」

「何を頑張るんですか! ますたー!?」

(家事の話でしょ)

 念話で付け加えると、頬を子どもように膨らませてぷいっとそっぽを向いた。
 子どもっぽい所があるお母さんだこと。それでも世話を焼いてくれるし、よく助けてくれるから助かってるんだけどさ。
 エリルはサポーターさんとして情報の収集をしてくれてるし、魔導書を一緒に読むだけで理解度も全然違ってくる。
 何より、僕の魔素を使って僕より威力が高い魔法を撃てるっていうのはズルい。僕がそう思うんだから、敵側からしてもそうに違いない。
 最初のゴブリン戦の時にやった『魔素を共有しての連続攻撃』は、もはや切り札レベル。あれはズルではなくて大ズルだ。
 魔素が湯水のようになくなっていくから無闇に使えないけど、本当に僕の『切り札』だ。

「これ、全部あるじの先生の私物ですか?」

「そうそう。眼鏡とか髪留めとか、好きなの使っていいと思うよ。ちゃんと綺麗にしてからだけど」

「……ふむ、髪留め……」
 
 机の上に並べていた先生の私物をアンは興味深そうに見ていく。
 何も思わずにその姿を見てると、そういえば、と思い出した。

(切り札とかって……アンもすごいの持ってたよな)

 あの、カディツロ……みたいな、バイオリンにありそうな名前のやつ。
 450レベルオーバーの人達相手に無双できる人の切り札。かっこいい、いいなぁ……。

 そういう技を持ってないから、やっぱり転生した時の贈物ギフトでそういうのが欲しいと思ってしまう。
 僕も結構成長したから、ステータスに何かそういうのないかな。でも、まだ見たらいけないし――……。

「……ん」

 あれ。そういえば、なんでステータスって見たらいけなかったんだっけ。

「……あ」と間抜けな声が出た。

「どうしました?」

「三か月……か。もうそんなに経ってたんだ……」

「……?」

 アンが小さく首を傾げたから、誤解を生まないように手を横に振る。

「別に大きな話じゃないよ。ただ、訓練期間が終わるまではステータスを確認しないって決めてたってだけ。それを思い出したの」

「おぉ……でしたら!」

「うん。見ようと思う」

 ものすごく興味深そうに目を輝かせ、長耳を上下に揺らす。

「なにっ! 早く見ましょう! 私だって我慢してたんですよ!」

 部屋の隅でくつろいでいたエリルもぴょんっと飛んできた。
 布団の敷いていないベッドの床板に座ると、二人は覗き込むように両隣に座る。

「さぁ、果たして目標のレベルは達成をしているのか……っと」

 ギルドでの到達目標レベルは180。これは下位ダンジョンをクリアできる程度らしい。
 一度大きな深呼吸をしてステータス開示を念じてみると、ぶぉんっと目の前にステータスボードが広がった。
 それを見ると隣のエリルは「わぁ!」と感嘆の声を上げ、僕も「はぁー……っ」と安堵の息をつく。

「ますたー! これ! これは、すごいステータスですよ!」

「あるじ、どうでしたか?」

 隣で座ったままぴょんぴょんしてるアンの声を聞き、もう一回自分の目の前に開かれてるステータスボードを見て口元が綻んだ。

「うん。とりあえずは、よかった……かな」



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