130 / 283
2-6 少年立志編:ティナちゃんのテスト
128 テスト開始
しおりを挟む「以前話した通り、仕上げじゃから今日は量が少なめで質が高めになっておる。一体一体に注意を向けて立ち回ってみせるんじゃぞ~」
「ふぅ…………。わかりました」
すっかり落ち着いたティナ先生は普段通りに戻って場を仕切り、仕上げを始める前の確認をしてくれた。
手持ちの武器は本数を増やして6つの短刀が腰の小物入れに入っている。収納袋の要領で手に召還ができるようになるまでには少し練習が必要だったが、慣れたら直に腰に下げるよりはるかに便利だった。
服は普段通りの訓練着を着て、右腕には訓練でできた怪我を覆うために包帯を巻いている。
再度深呼吸をして竹林の方に意識を向けると、ティナ先生の足音が響き、それが合図となり僕の訓練の仕上げが開始された。
しばらくは魔物が出てくる様子はなく、お互いに様子見をするような時間が流れると、森の奥から一斉に僕目掛けて僕の握りこぶし程の大きさの石が投げられた。
投石って、いつの戦い方だって話だ。
飛んでくるモノを全て躱して、避けきれないものは小刀で切って体に当たらないようにした。しばらくその時間が続くとピタっと投石が落ち着いて、再び何もない時間が流れる。
「どう考えても一体や二体じゃないよな?」
投石が横に幅広く展開しながらのモノだったので、複数の個体が連携を取りながら攻撃をしてきたのは少し考えれば分かることだった。
気配や殺気を感じるところに目を向けながら小刀を手の平で器用に回しながら進んでいくと、視界に収まるギリギリの上の木の枝が不自然に軋んだのを感じた。
「っ!!」
危険を感じてその場から飛びのくと、次の瞬間には僕がいた場所に大きな斧が深く刺さっているのが見え、背筋に冷たいのが走った。
斧を手にしていたのは僕よりはるかに大きく、ゴリラというよりもオラウータンのような体躯をしている大きな一つ目の魔物。毛皮や肌は黒く、腕や脚の筋肉は黒い肌からでも分かるほどゴツゴツとしていた。
コイツ、いつの間に僕の上を取っていたんだ。
(気配を消していた……?)
だとしたら、投石はコイツが僕に気づかれないように意識を背けるためのモノか。
『ヴィィァァアアアアァッ!!!!』
刺さらなかったのを悔やむように鳴き、斧を地面から引き抜いて地面に引きずるような持ち方でこちらに近づいてくる。
投石があった森の奥から気配が消えているのを確認して、目の前のウッグにだけ集中するようにした。
斧で地面に線を作りながら近づいてくるウッグの歩数に合わせて後ろに後退していくと、歩幅は向こうの方が大きいから自然と僕とウッグの距離は縮まっていった。
大きな瞳に僕が映っているを確認し、分かりやすいように僕は右足、左足と交互に後ろに引いていく。
その動きに合わせてウッグが大きな一歩を踏み出したタイミングで、引こうとしていた足を前に振り子のように出した。
後退ばかりだと勝手に思い込んでいたのか、ウッグは反応に遅れ、重心が中途半端なまま武器を構えるが腰が入っていない状態だ。
「頭がいいと思っていたけど、こんな簡単なのに引っかかるのか」
僕が懐に詰めるまで一秒もなかったが、ウッグ何とか力任せに斧を振り下ろした。
(早いには早いけど……当たらないな)
落ちてくる斧を目で捉えながら体を捻って躱した。
「その太い腕、落とすぞ」
僕から外れて地面に着いた斧を振り上げようとしていた腕を小刀で切り飛ばし、武装を解除させた。そのままスルっと、踏ん張るために大きく開いている股を抜けて背後に回って僕は高く飛んだ。
弱点とか知らないけど、恐らくここらへんが構造的に……。
「弱点だろっ!」
右手の小刀を逆手に持ち替え、僕の倍はある体のうなじ目掛けて深く抉るように差し込んだ。
『ヴァアアアアアッ!!!!??』
「うわっ……と」
すさまじい声を上げて腕を振り回し始めたので、背中を蹴って遠目に着地をした。
そこから首を両手で覆いながら地面をのたうち回ったウッグだったが、すぐに動きが落ち着き、大きな目を閉じた。
「死んだ……?」
確認のために近くによってみるが、出血の量で生きてはいないだろうと思って近くに落ちていた血が付いている斧を拾い上げた。
これを振り回していたのか……ふむ。
少し軽く振り回してみるが、僕でも十分扱えそうなのを確認して筋力が付いてきたのを実感した。
……前は木刀すら持てなかったっていうのに、いまは本物の小刀を腕に負荷なく扱えているからその時点で成長しているのは何となく分かっていたけど、これだけの大きな武器を持てるっていうのは嬉しい。
「強くなってる……明らかに。でも、僕は今、どの程度にいるのだろうか」
斧をブンっと空気を切り、音を鳴らすほどの速度で振ってみると体も斧に持っていかれはするが、扱えそうだ。
これが使えるなら、小刀じゃなくてティナ先生が使っていた細い剣か刀でも良さそうだ。小回りが利くなら何でも扱えそうだけど、やっぱり二本持ちをずっとやってきているから両手に何か持っておきたい。
テストが終わったらティナ先生とナグモさんに提案してみよう。
斧の刃先を見つめていると、ズズズッとウッグの死体が森の奥に入っていくのが見えた。
「……え、へ? 動いた……?」
よく見てみると、死体の足を何者かの手が握って、持って運んでいるように見えた。
(死体回収……ってことは先生か?)
先生の方を見てみるが、こちらを見ているままだったから別の何かだと分かった。斧を地面に刺して小刀を手元に召還をすると、それは奥から一斉に姿を現した。
「……なるほど」
姿を見せたのは五体のウッグ。それぞれ前の三体は大剣と大斧と素手で、奥にいる二体は袋に石を詰めて腰に携えている。
仲間が倒されているのに激怒しているのか、息が荒く、目が充血している。
「こいつらが本隊だな」
呼吸を整え、相手の出方を伺う前に攻撃を仕掛けていった。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる