上 下
62 / 283
2-1 少年立志編:勇者と転生者の出会い

60 スキル確認ワンツースリーの作戦会議

しおりを挟む



「強くなるためには必要なことがあります!」

 と言うエリルの声は真面目そうな声かつ、ふざけているような気もする。
 そしてその一言を言ったのちに、わざとらしい険しい顔を作って黙り込んだ。

「……」

「…………」

 これ、僕の発言待ちか?
 
「あー……はい」と挙手をしてみると、エリルはチラと目を開けた。

「はい、クラディス君!」

「えーと、これは何の茶番でしょうか」

 訓練場に座っている僕と立っているエリル。その服装はなぜかアメリカの大学の卒業式の衣装一式。
 また何か変な情報を仕入れてきたな、これ。
 
「いい質問ですね。クラディスくん」

 と言って、四角い帽子の先端を持ちふふんと鼻を鳴らした。

「さぁ! 作戦会議をしましょう!!」
 
 くわっと大きな声を出したエリルはとても楽しそうな表情。
 うわ、そのテンションついて行けないかもしれない。

「ってか自分で言うんだ」
 


      ◇◇◇



 なんだか連日で大変な思いをした後『転生者への認識を変えるには何をしたらいいのか』という内容をエリルとの議題に挙げた。
 個人的には、

 ・転生者は悪くないですよ! という慈善団体を立ち上げる。
 ・街路を埋め尽くすほどの人員を集め、デモ活動でもしてみる。
 ・いちばん手っ取り早いのは《解析士》という職に就いている人にステータスを見てもらい、身の潔白を証明してもらう。

 だけど【解析士】は全体数が極端に少ない。世界に1人って話も聞いた。それに【転生者】嫌いであった場合のことを考えたらリスクが高い。
 慈善団体やデモ活動も同じ理念をもっている仲間を探すこと自体が難しい。

 そういったことを考えていた中、エリルの答えは「強くなってこの世界にとって必要な人材になり、そこで【転生者】の潔白を自らが証明する」――つまりは、冒険者として名を上げればいいのでは、だった。

 リスクと膨大な時間を伴う計画であるが、誰の手も借りずにできる最良の手段ですよ、と。

 結局、二人議論してまとまったのが「努力する」っていう。なんとも情けない結果だが。
 とまれ「一気に事が進む訳もないから地道にやっていきましょう」と言う感じで締めくくられ、エリルにこの訓練場まで連れてこられたわけだが――……。

「……それで作戦会議とは、何をするのでしょうか」

「ふっふっふ。よろしい! そんなクラディス君に説明をしようではないか」

 エリルに「クラディス」と言われるのに面白いくらい違和感を覚える。
 まぁ、でも敬って呼ばれるの正直に言ってモゾモゾとするからそのままでいてほしい。

「――あぁ、疲れた。では、ますたーに説明しますね」

 そう言って大学の衣装からスッと本来の衣装へと戻した。

「で、もうクラディスって呼ばないの?」

「ますたーって呼ぶ方がサポーターっぽいので!」

「なんだそりゃ。そんな理由だったんだ」

「そんな理由だったのです!」

 そんな理由だったのですか。
 と、一通りの茶番が終わるとエリルはスクっと姿勢を正した。 
 
「作戦会議と言っても、クエストにおけるお話とますたーのスキルに関するお話です」

「あ、そう言う感じなんだ」

「あっ、転生者のことに関する作戦会議だと思いましたあ? それはこの前したからもう言いません。先生は大事な話は二度しないのです」

「あらぁ」

 でた、最大の矛盾。大事なことだったら二度も三度も言えばいいのに。
 これも多分今日の茶番の為に仕入れてきたんだな。
 さすがポンコツ優秀サポーター……おっと、いけないいけない。

「では、まずスキルの把握から始めます。ますたーのスキルを言っていってください」

「うん。衝撃インパクト水柱ラォル風刃ガウィン火槍ファイアランス……あとは、土壁ロテムですね」

「それで全部ですね?」

「全部、だと思う。お恥ずかしながら剣闘士ウォーリアーのスキルと治癒士クレリックのスキルはまだ未習得なので」

「ふむふむ。なるほど、よーくわかりました」

 魔導書を読み始めてかなり経つが、本の魔法は一通り使えるようになった。
 それぞれがその名前の通りで、水の柱を発現させる『水柱ラォル』。風の刃を飛ばす『風刃ガウィン』。めちゃめちゃ熱い火の槍を作る『火槍ファイアランス』。
 魔法一つ一つの魔導は全くの別物。正直骨が折れた。

 って、エリルと一緒に勉強をしたんだから内容とか分かってるはずだが。
 
「だったら、今使える魔法の中で何が得意ですか?」

衝撃インパクト土壁ロテム水柱ラォルかな? 最初の方に覚えたっていうのが大きいんだけど」

「では、それを主軸に置いて戦い方を考えましょう」
 
 こうして本格的に、初めてのクエストに向けてのスキル確認と魔法の用途の話が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...