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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
50 おくりもの
しおりを挟む──数刻前。
「アレッタちゃん。いい子だったなぁ」
「あの子のことですか?」
「うん。ちょっと、昔に戻ったみたいで楽しかった。……それに、いい話も聞けたし。エレ、元気かなあ」
長い下り坂を降りながらオーレは落ちるように呟いた。
その表情には笑みが浮かんでいる。手で隠そうとしているが、その喜びは隠しきれていない。だって、エレがちゃんと生きて、仲間とやらを集めていると分かったのだ。誰がこの感情を止められるだろうか。
「なにか楽しそうですね?」
「あ、へへへ……うん」
冒険者は不思議そうな顔をした。オーレの様子が普段の様子からかけ離れていたからだ。
「ね、皆さんって冒険者ですよね? エレって知ってます?」
「エレ?……あぁ! 有名人ですよ?」
ニマッと口角が青天井になるオーレ。
「でもいい噂は聞かないですね」
「え、そうなの……?」
「はい。私達のクランマスターが前にお世話になってたみたいですけど、今は国賊に指定されてるって話でしたよ?」
「国賊……?」
「どうも、魔王退治の邪魔をしたらしいですね」
……エレが? なんで?
「勇者の邪魔をして大怪我させた。だから、今、勇者は旅に出れないとも聞きました──」
エレが、勇者の邪魔をして、大怪我をさせた?
「……なに、そのはなし」
誰が信じるの?
誰がそんな事を言ってるの?
「そんなわけがないよ。……エレは、だって」
「オーレさん?」
「あ……いや、なんでもないよ。あぁ、なんでも……」
そこから、冒険者の話はオーレの耳に入ってこなかった。アレッタに返すのを忘れていたエレに送られていた招待状に再び目を通す。
指定されている場所は冒険者組合の旧倉庫。オーレはそこで魔法をかけた。
間違いない。冒険者組合長はオーレとエレの関係性を知っている。
「?……これ、なにか裏に」
眺めていると手紙の後ろ側に《ことば》が刻まれていた。それも、何重にも《姿隠し》が重ねられて、わからないようになっている。
倉庫にかけた《ことば》よりも強力なソレは塔の魔法使いなら分かるかも知れないが、塔出身以外ならば解読はおろか認識すらもできないだろう。
つまり、この招待状のこの面だけはエレ宛ではない。
その《ことば》に手をかざし、見えてきた言葉にオーレは言葉を飲んだ。
「…………なに、これ」
そこに書かれていた言葉は、冒険者組合長の言葉だった。
──根絶するほどの破壊を贈り物とする私をどうか許さないでくれ──
それでようやく頭の中で繋がった。
そして同時に、罪悪感が胃袋を刺激した。
「──っ!」
吐き気がこみ上げてくる。
──ボクを呼んだ理由は、コレだったのか。
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