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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》

34 エレの首は良い値段

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 あの時は面倒だから避けていたが物は考えようだ。涸沢ターシアでは奇襲や武器の性能に頼りっぱなしだったから身体機能は実のところ分からなかったからな。
 路地裏の先を通っていくと、ゴミや使い捨てられた家具が集まっている開けている空間を見つけた。
 五人の冒険者はそこに到達するや否や展開し、オレを取り囲む。

「おまえは──」とまたろれつの回っていない口でモノを語る。

「何いってんだかわかんねぇって」

 一応、予定までは時間がある。
 戦うまえに、少し聞いておきたいことがあるからソレを済ませておこう。
 
「なぁ、懸賞金って言ってたろ」

「それがなんだよ!! ぶっ殺すぞ!」

「いくつでる? 金貨5枚──あー、5万ウォルぐらい出るのか? それだけ教えてくれ」

 金貨だのウォルだの言い方が面倒だが、金貨五枚(5万ウォル)もあれば、贅沢な暮らしは出来ずとも母と父と子どもの一月の生活は賄えるだろうといったところ。
 マルコが買った牛串が鉄貨五枚くらい。50ウォルと言っていた気がする。
 この言い方が統一されていないのは、前まで金貨何枚という言い方で済んでいたのに、現国王になってから呼び名が変わったからだ。
 東の方では普通に金貨何枚で通じるが、王都ではウォルで伝える方が早い。面倒だが、そういう仕組だ。

 鉄貨:10ウォル
 銅貨:100ウォル
 銀貨:1,000ウォル
 金貨:10,000ウォル
 大金貨:100,000ウォル
 白金貨:1,000,000ウォル

 このように高くなっていく。
 オレが海蜥蜴の尻尾レーヴェンテールで受付嬢に払ったのは、金貨3枚。迷惑料だと考えれば高くない。

 ──そう思っているが、実のところ、エレの金銭感覚が狂ってるだけである。

 オレに懸賞金が掛けられているといった情報はどこから来ているかは分からんが、そこまで高いものでもないだろう。

「聞いて驚くなよ……白金貨10枚だ」

 想像の上過ぎて、言葉が出てこない。
 白金貨は10枚は金貨が……1000枚か、合ってるか?
 高すぎるだろ。王国も必死だな。

「驚きすぎちまったか? そりゃあそうか。どれだけ遊んで暮らしても一生金に困らねぇ大金だ。装備の新調から女遊び、酒飲み放題! オマエみたいなチビを殺して大金がゲットできるんだ。みんなこぞってオマエを襲うだろうさ」

 鉱人ドワーフの装備やら何やらを買おうとすると足らないかもしれないが、コイツらが生活する分には十分だろう。オレが麗水の海港パトリアに建てた2階建ての一軒家くらいは建てられる。
 ……といっても、すぐに賭け事やなにやらして散財しそうだが。

「そうか……まぁ、大金ではあるが。……でも、それなら境界線ボーダー超えの魔族一体を殺して魔石を奪えば同じくらいの価値が着くこともあるだろう。人殺しをするより余程そちらのほうが良いと思うがな」

 大金ではあるが、稼げれない額ではないのも事実。

境界線ボーダーの魔族を殺せねぇからオマエになってんだろうが」

「あぁ、そうか。すまん」

「わざと言ってんだろ、殺すぞ……?」

「殺すつもりだったんだろうが。まぁ、謝るよ」

 どうやら怒らせてしまったらしい。
 彼らは銀等級の冒険者。金等級までは上がれるだろうが、白金等級からは単独で境界線ボーダー以下の魔族を殺せれる実力があることを証明しなければならない。
 それまでに組合からの信用問題や、知名度、最近流行りのクランに所属して下積み……などを考えるとかなり時間がかかる。
 だったら、オレを殺した方が早い。そうなるのも当然だ。なるほど、分かった。

「じゃあやろうか。色々教えてくれたお礼だ」

 その場で、トンットンッと跳躍する。
 先日に暗殺部隊と戦ったばかりだ。その疲労が若干残ってるが、仕方ない。

「オマエ……オレらのこと舐めてるな……??」

「バカにしやがって……!!」

 ギチッ、柄が握力によって悲鳴を上げた。

「ぶっ殺せェ──!!」

「……!」

 愚直に真っ直ぐにくる男たち。武器は構えずとも、両の手を構えていると──

 突如として現れた男が、襲いかかってきた男たちをゴミ山に蹴飛ばした。

「──ガッ……!?」

 大きな振動を立て、気を失う冒険者たち。ゴミと瓦礫の山に背中をぶつけたのだ、それは仕方ないが。
 砂埃が舞う中、オレは目を疑った。

 ──視えなかった。

 気がつけば冒険者が飛んでいた。武器は抜いていない。
 体術か? だとしても速すぎる。

 そして、そんな時頃良く只人が割り込んでくる訳もない。
 尾行していたのだろうが、それにも気づくことが出来なかった。
 何者だ……?

「やぁ~……冒険者はどうしてそこまで争うのがお好きなのでしょうか……」

 服に着いたゴミを払うような音が聞こえると砂埃が晴れて……自分が見ているものを信じられなかった。

「…………父さん……?」 

「え……?」

 そこに立っていた男は、燕飛服に身を包んでいる──幼き頃に見た父親の姿をしていた。
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