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第25章:七人の天使

第9話:俺は悪くねえ!

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「ワタシは退く。アクラシエル、貴女の言に従オウ」

 ジェレミエルは苦々しい表情のままに、矛を収める。その姿にアクラシエルは肩をすくめてみせる。その後、レオナルト=ヴィッダーの方に顔を向けて、にっこりと天使の笑みで語り掛ける。

「バージニア本国で合いまショウ。ワタクシは貴方にとっっっても興味がありましテヨ」

 レオナルト=ヴィッダーはギリッと歯噛みする。クルス=サンティーモの天使の笑みは、おちんこさんがスタンディングオベーションをしてしまうが、このアクラシエルと呼ばれる女の天使に微笑みかけられても、レオナルト=ヴィッダーは性的興奮をまったく覚えない。

 レオナルト=ヴィッダーは思った。こいつは『毒婦』の類であると。魅惑的な天使の笑みをしているが、その腹の中ではマムシよりも強力な毒を仕込んでいると。それゆえに、レオナルト=ヴィッダーが心に持つ敵愾心は収まるどころか、余計に膨れ上がってしまう。

 金縛り状態のレオナルト=ヴィッダーを舐めるように見つめ、さらにはレオナルト=ヴィッダーの顎を左手でなぞってみせる。こうされていながらも、レオナルト=ヴィッダーのおちんこさんはまったく無反応である。

 ジュレミエルがパチンと右手の親指と中指を鳴らしてみせる。レオナルト=ヴィッダーは金縛りからの状態から解放され、その場で片膝をつく恰好となる。さらには、麗しの眠り姫スリーピング・ビューティで眠っていた面々もようやく目覚めの時が来る。

「魔皇、それにコッシロー=ネヅ。ついでにレオナルト=ヴィッダー。お前たちを生まれ変わったバージニア王国で出迎えヨウ。千年王国ミレニアム・キングダムと化した聖城で、お前たちの息の根を止めてヤル!」

 ジュレミエルがレオナルト=ヴィッダーたちに背中を向けて、背中にある天使の6枚羽を羽ばたかせる。塩対応のジュレミエルとは対照的に、アクラシエルは礼儀正しく、ペコリと頭を下げた後、ジュレミエルを追いかけるように大空へと浮かび上がる。

「食べ甲斐がありそうな殿方ばかりデスワ。ワタクシ、とってもお腹が空きましたノ。でも、それはもう少し後の楽しみに残しておきマスワ」

 アクラシエルはまさによだれが零れ落ちそうな顔をしていたが、口からよだれが垂れそうになるのを必死にこらえて、その場から去っていく。レオナルト=ヴィッダーは去っていく2人の天使たちに向かって、左手を突きつける。大きく開かれたレオナルト=ヴィッダーの左手の先から黒い玉が生まれることは無かった。

「クソッ! 体力の限界かっ!」

 皆が眼をこすりながら、次々と目覚めていく中、レオナルト=ヴィッダーだけが深い睡眠欲に支配されていく。かすむ眼で大空へと昇っていくジュレミエルとアクラシエルを睨みつけるが、1分も経たぬうちに、レオナルト=ヴィッダーの意識は完全に断たれることになる……。

 そんなレオナルト=ヴィッダーが眼を覚ましたのは夕刻を過ぎた頃であった。彼は硬いベッドの上で覚醒する。未だに力が入りきらぬ身体を押して、右の腕先に嵌めている前腕固定型杖ロフストランドクラッチを支えにし、皆と合流する。

 ホワイトウルフ号は完全に足を止めていた。それもそうだろう。午前の戦闘で船長であるルイ=マッケンドーが重傷を負い、クルス=サンティーモが彼の看病に当たっていた。

「あのゥ……。緋喰い鳥の羽根を勝手に使ってしまって、すいません……」

「いや、良いんだ。ルイ船長が大怪我を負ったのは、俺にも責任があるからな」

 レオナルト=ヴィッダーの返答に、クルス=サンティーモが『え!?』と驚きの表情を浮かべながら、レオナルト=ヴィッダーに何があったのかを聞きだそうとする。レオナルト=ヴィッダー以外の面々は、ジュレミエルが放った麗しの眠り姫スリーピング・ビューティで眠ってしまっていた。それゆえに、その間に何があったのか、まったくわからなかった。

 それゆえに、レオナルト=ヴィッダーが眠りから目覚めた後に、何が起きたのかを聞こうということで、まずは現状回復に努めていたのである。レオナルト=ヴィッダーは皆を集めてくれと、クルス=サンティーモに言い、クルス=サンティーモは別室や甲板上で待機している皆に、レオン様が目覚めたと伝えに走る。

 皆が船長室に集まったところで、レオナルト=ヴィッダーは吼えた。

「俺は悪くねえっ! 俺はあくまでもジュレミエルの幻惑術にかかっていただけだっ!」

「チュッチュッチュ。大方を察したでッチュウ。レオンがルイ船長をぼこぼこにしたんでッチュウね?」

「大事なことだから、二度言うが、俺は悪くねえっ! ありのままに話すと、俺はジュレミエルを蹴りまくったんだっ! 気づいたら、ルイ船長が虫の息だったんだっ!」

 レオナルト=ヴィッダーの逆ギレに、船長室に集まった皆はあからさまに呆れたといった感じでハァァァ……と嘆息してみせる。しかしながら、レオナルト=ヴィッダーを叱責しようとする者は誰もいなかった。そもそも、レオナルト=ヴィッダー以外の面々は、ジュレミエルの放った麗しの眠り姫スリーピング・ビューティで、深い眠りに堕ちてしまっていた。

 そして、孤軍奮闘して、そのジュレミエルを追い返してくれたのが、レオナルト=ヴィッダーなのである。彼を褒め讃えるつもりでいた皆であったが、レオナルト=ヴィッダーが異様にルイ=マッケンドー船長のことで、責任転嫁をおこなうために、褒める言葉を贈るタイミングを掴めないでいたのが現状であった。

「落ち着くッス。レオンが馬鹿なのは皆がわかっているッス」

「お、俺は自他共に認める馬鹿なのは確かだっ! だから、俺は騙されたんだっ!」

「だから、落ち着けって言ってるッス! ああ、もうっ! リリベルっち、レオンを黙らせろッス!1」

 レオナルト=ヴィッダーは良心の呵責からか、言い訳じみたことを延々と述べ続けた。これでは、話が先に進まないと思った空気を読む気がない白銀の獣皇ことシロちゃんも、いい加減うんざりとなり、強制的にレオナルト=ヴィッダーを落ち着かせようとしたのである。

「レオ、タイキックねっ!」

「ありがとうございますっっっ!」

 ケツを金属製の脛当て付きの右足で蹴り上げられたレオナルト=ヴィッダーは前のめりに倒れていく。レオナルト=ヴィッダーによって、騒がしかった船長室に一時的にだが、静寂が訪れる。ようやく落ち着きを取り戻したレオナルト=ヴィッダーはジュレミエルとの戦いに決着がつきそうだった時に、アクラシエルという女天使が現れて、戦いを無理やりに収めてしまったことを皆に告げる。

「フム……。われらが眠っている間に、『7人の天使』が2人もそろっておったとはな……。結果的であれ、レオナルトが2人を追い返したことは賞賛に値するぞ」

「あれ!? 俺、もしかして褒められてる!?」

 レオナルト=ヴィッダーはルイ=マッケンドー船長をぼっこぼこにしたことを心の底から後悔しており、それがゆえに先ほどまで散々に言い訳めいたことを喚き散らしていた。しかしながら、魔皇の一言で、自分がようやく動けぬ皆を立派に護ったのだという自覚を持つことになる。
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