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第20章:東への帰路

第1話:女王との謁見

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――北ラメリア大陸歴1495年4月1日 ミシガン王国:首都:ジカーゴにて――

「カッツエ=マルベール女王、お久しぶりッスワン。こいつらが紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンを追い返した英雄たちッスワン。左からレオナルト=ヴィッダー、リリベル=ユーリィ、クルス=サンティーモ、エクレア=シュー、そして俺っちの今現在の恋人であるマリア=アコナイトッス」

「ふむ……。こう言ってはなんですけど……。ボロボロですわね」

 ミシガン王国の女王であるカッツエ=マルベールは玉座に座りながら、白銀の獣皇に率いられ、王宮に参上したレオナルト=ヴィッダー一行を値踏みする。彼らが着こむ部分鎧や服は紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンとの戦闘が痛々しいものだったと主張してやまなかった。

 しかしながら、一国の女王と謁見するのであれば、それ相応に相応しい恰好があるのではなかろうかと思ってしまうカッツエ=マルベール女王であった。

「女王様があからさまに怪訝な表情になっているんですニャン……。やっぱり衣服を新調してから、謁見に預かったほうが良かったですニャン……」

「シロちゃんの助言に従ったのは間違いだったのです~~~。シロちゃんの提案を聞いた時は皆、そうしようとノリノリでしたけど、いざ、女王様の前でこの恰好は悪手だったのかもしれないのです~~~」

 白銀の獣皇ことシロちゃんが、どれほどまでに過酷な戦いであったかを見せつけ、さらには新しい衣服の資金も女王からせしめようという提案の下、着の身着のままで登城したは良いが、女王のみならず、その女王の周りを固めている宰相や貴族たちはきやびらかな恰好をしていた。それに比べると、自分たちはまるで浮浪者とでも言いたげな恰好である。マリア=アコナイトとエクレア=シューは恥を感じざるをえなくなる。

 だが、そんな彼女たちとは違い、レオナルト=ヴィッダー、リリベル=ユーリィ、クルス=サンティーモは誇らしさを保ったまま、片膝をついた状態から、直立不動の姿勢へと持っていき、胸を張ってみせる。その真っ直ぐな態度にカッツエ=マルベール女王は、ほぅ……と思わず感嘆の声が口から漏れだしてしまう。

「なるほど……。ボロは着てても、心は錦。まさに貴方たちは救国の英雄ということですわね……」

「そうッスワン。こいつらのふてぶてしさと言ったら、俺っちでも裸足で逃げ出したくなるほどッスワン。こいつら、城に閉じこもって、城の隅で縮こまりながら奥歯をガタガタ震わせているだけだった貴族たちをバカにしてやろうぜということで、戦いによってボロボロになった格好を見せつけに来たんっスよ!? 悪ふざけが大好きな俺っちでもドン引きしたッスワン!!」

 もちろん、これは白銀の獣皇が吐いた嘘が9割を占めている。こう言ったのは白銀の獣皇自身であり、レオナルト=ヴィッダーたちは間違ってもこんなことを一言も口から零してはいない。心の中では白銀の獣皇が言う事ももっともだと賛同はしている。それでも、言っていいことと悪いことがあることは、レオナルト=ヴィッダーたちは重々承知である。

 しかしながら、白銀の獣皇の軽口は止まらない。やれ、貴族たちは穀潰しだと揶揄し続けた。国民から税を絞りとる権利がある以上、国民が何かの災厄に巻き込まれた時は、その国民に喰わせてもらっている貴族たちが、その身を盾にして、国民たちを護らなければならないと、強烈に主張する。

 貴族たちはギリギリと歯ぎしりしながら、白銀の獣皇の言葉を受け止める他無かった。さもレオナルト=ヴィッダーたちがそう言っていたと、彼らを前面に立てながら、白銀の獣皇は貴族批判を繰り返す。白銀の獣皇がレオナルト=ヴィッダーという緩衝材を挟むのは、直接的に貴族たちを非難すれば、貴族たちがまったくもって反論できなくなってしまうからだ。

 それゆえ、貴族たちもレオナルト=ヴィッダーという緩衝材を挟み、自分たちはやむをえない事情のために、紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンとの戦いで、矢面に立てなかったと、レオナルト=ヴィッダーたちに弁明しつつ、白銀の獣皇に反論する。

「レオナルト=ヴィッダー。彼らはわたくしの命を護ることを最優先にしてしまったのです。彼らを責める気持ちはわかりますが、わたくしにも責任があります。今後は国民の命をないがしろにしないことで調整いたしますわ」

「カッツエ=マルベール女王あってこそのミシガン王国なのはレオナルト=ヴィッダーたちもわかっているッス。とりあえず、住む家すら失くした国民たちのために早急に仮の住居を準備するッス。レオナルト=ヴィッダーもそれで良いッスよね?」

「ああ……。俺の名前をいちいち出されるのは釈然としないが、それで丸く収まるってのなら、俺から何も言うことは無い」

 レオナルト=ヴィッダーは何故、直接的に白銀の獣皇と女王はやりあわないのかと不思議でたまらなかった。白銀の獣皇は神に等しき存在である。カッツエ=マルベール女王相手と言えども、頭ごなしに叱りつければいいのではないのか? と思えてしょうがない。

 レオナルト=ヴィッダーがこう思うのも仕方がないと言えよう。白銀の獣皇はミシガン王国の守護獣であることは周知の事実である。しかしながら、ミシガン王国の政治を担っているのは、カッツエ=マルベール女王を初め、貴族たちである。白銀の獣皇はあまり政治に口出しをしたくないのだ。あくまでも可愛いニンゲンたちを見守る立場で居たいのである。

 そういうこともあり、白銀の獣皇は歯に衣を被せる恰好で、女王を始め、貴族たちを非難したのである。この辺りの機微を理解できないレオナルト=ヴィッダーはまだまだ若いとしか言いようがなかった。

「レオナルト=ヴィッダー殿の忠告、痛みいりますわ。本来なら貴方はウィーゼ王国の国民。それなのに、ミシガン王国の国民たちのために、我が身を顧みずに女王であるわたくしに意見してくださる……」

「あ、ああ……。俺なんかの言いたい放題で無責任な発言を受け止めてくれて、ありがとうございます……」

 レオナルト=ヴィッダーとカッツエ=マルベール女王の間には何とも言い難い空気が流れていた。レオナルト=ヴィッダーはこの居心地の悪い空間から、出来る限り早く退散したかった。しかし、レオナルト=ヴィッダーのその願いは叶うことない。白銀の獣皇が取るモノ取ってからだと言わしめん発言をしだしたのである。

「ミシガン王国が被った損害は計り知れないモノなのは承知の上で言わせてもらうッス。レオナルト=ヴィッダーたち、救国の英雄に対して、それ相応の対応をしてもらいたいッス」

「おい……。シロ……。これ以上、俺たちを巻き込もうとするんじゃねえ。嫌な予感がプンプン匂ってきてしょうがねえ……」
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