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第14章;レオのかつての親友

第2話:雷光

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 レオナルト=ヴィッダーが素戔嗚スサノオから呪力ちからを引き出すことで、恩恵を受ける存在が居た。それは蝙蝠羽付きの白いネズミであった。コッシロー=ネヅは精霊であり、自分の魔力は素戔嗚スサノオと連結されていた。それゆえに、暴走状態に入ったレオナルト=ヴィッダーのおかげで、エクレア=シューに匹敵するほどの魔術障壁マジック・バリアを展開するだけの呪力ちからを得るという皮肉が起きる。

 レオナルト=ヴィッダーの身を包む黒い全身鎧フルプレート・メイルの表面から生える刃は魔物モンスターのみに飛んでいたのではない。相手を選ばず、その凶刃が肉へと食い込もうとした。しかし、コッシロー=ネヅがそれを許さなかった。

(チュッチュッチュ。レオンを暴走させるのが敵の目的でッチュウね? そして、レオンの手により、仲間を傷つけさせようとしているのでッチュウ。敵はなかなかに策士でッチュウ)

 レオナルト=ヴィッダーが暴走状態に入ってから、早5分が経過しようとしていた。魔物モンスターたちの大軍の残りは大鬼オーグを含め、3~4匹まで目減りしていた。魔物モンスターが壊滅しきれば、次にレオナルト=ヴィッダーが凶刃を振るう相手はレオナルト=ヴィッダーが大切にしているヒトたちであることは明白であった。

 それゆえにコッシロー=ネヅはこの魔物モンスターたちをけしかけてきた存在の居場所を特定しようとする。

「見つけたのでッチュウ! レオン、お前が真に倒すべきはあの丘の上で、僕たちをほくそ笑みながら観察している奴らでッチュウ!!」

 コッシロー=ネヅは賭けに勝った。レオナルト=ヴィッダーを暴走させるトリガーとして機能しているコッシロー=ネヅは、彼を暴走状態へ移行する許可を与える。そうでありながらも、レオナルト=ヴィッダーの仲間を傷つけさせる方向へとは導かなかった。

 レオナルト=ヴィッダーは全身から血を噴き出していた。黒い全身鎧フルプレート・メイルの隙間から、レオナルト=ヴィッダー本人がダラダラとヨダレのように垂れ流していた血が滲み出る。その滲み出た血がぽたぽたと草地を紅く染め上げる。しかしがなら、それでもレオナルト=ヴィッダーは獣面をコッシロー=ネヅが言う方角へと向ける。

 そして、獣のように4本足を駆使して、コッシロー=ネヅが指し示す丘を一気に駆け登る。

「うぉおおおおおおんんん!!」

 レオナルト=ヴィッダーの身を包む黒い獣と化した全身鎧フルプレート・メイルが空気を振動させて、獣の雄叫びをあげる。真に殺さなければならない存在を畏怖させるために雄叫びという名の衝撃波を、前方へと解き放つ。

「ククッ! 『束縛を生み出す運命』よ! 俺様に呪力ちからを与えろっ! レオナルト=ヴィッダーに残酷な現実を教えてやれってんだぁぁぁ!!」

 丘の上に居る人物がそう叫ぶや否や、その丘の上に雷が落ちる。幾百もの稲光が丘の上に降り注ぎ、黒い獣と化したレオナルト=ヴィッダーが放った衝撃波を打ち消してしまう。それだけではなかった、衝撃波を掻き消されても、レオナルト=ヴィッダーは突進を止めなかった。レオナルト=ヴィッダーは4本足を用いて、宙に向かって跳躍する。それだけでない。レオナルト=ヴィッダーは前方向へと三十重回転し、黒い全身鎧フルプレート・メイルから次々と短剣ダガーを放ち、丘の上に居座る人物を穿とうとする。

 しかし、黄金色の全身鎧フルプレート・メイルを纏う人物は雷が走る大剣クレイモアを横薙ぎに振るう。それと同時に雷が四方八方へと飛んでいく光の矢となり、レオナルト=ヴィッダーが生み出した黒い刃の雨を打ち落す。黒い刃の雨つぶの全てを穿った光の矢が次に向かった先はレオナルト=ヴィッダー本人であった。

 光の矢群は弧を描きつつ、黒い獣と化したレオナルト=ヴィッダーの身に吸い込まれていく。それと同時にレオナルト=ヴィッダーが行っていた縦回転は無理やりに止められ、さらにはレオナルト=ヴィッダーは空中で指先すら動かせなくなってしまう。

「うが、うがががが!?」

 レオナルト=ヴィッダーの身体の隅々まで電流が走り、レオナルト=ヴィッダーは身体の機能が麻痺してしまう。レオナルト=ヴィッダーをそうした状態に陥らせた人物はクローズド型フルフェイス兜の内側で邪悪な笑みを浮かべ、さらには舌なめずりしてみせる。

「レオナルト=ヴィッダー。お前は俺様にとって、踏み台にしかすぎねえんだ……。だから、ここらで大人しく死ねっ!!」

 黄金色に包まれた人物が両手で持つ大剣クレイモアを構え直し、空中で縛り付けられている黒い獣と化したレオナルト=ヴィッダーに向かって、真っ直ぐにソレをぶっこもうとする。しかし、黄金色に包まれた人物の思い通りにさせない女性が居た。

「レオを殺させはしないっ! わたしはレオの盾であり、剣なのっ! レオはわたしが護るっ!!」

「ちっ! てめえが居たのを失念してたぜっ! フィルフェンの懐刀がっ! 俺様の野望の邪魔をするんじゃねえっ!!」

 レオナルト=ヴィッダーにトドメをさそうとしていた黄金色に包まれた人物を止めたのは、リリベル=ユーリィであった。彼女は薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアの刃部分を用いて、黄金色に包まれた人物が放つ凶刃を止めてみせる。しかし、トドメの一撃を止められたその人物は身体全体から不快感を発する。その不快感が幾百の落雷を呼ぶ。

 幾百の落雷は丘に堕ちることで、衝撃波を次々と生み出す。しかし、リリベル=ユーリィの身に直接的に落雷が落ちることは無かった。褐色のダークエルフが真っ黒こげのダークエルフへと産まれ変わらなかったことに、黄金色に包まれた人物の頭に血が一瞬で昇ることとなる。

「リリベル様だけに戦わせるつもりは……ないの……です~~~」

 リリベル=ユーリィが幾百もの落雷によって、黒焦げにならなかったのはエクレア=シューのおかげであった。彼女は己の身に宿る最後の魔力を振り絞り、丘の上で戦うリリベル=ユーリィとレオナルト=ヴィッダーの身を海色の魔術障壁マジック・バリアで包みこんだのだ。海色の魔術障壁マジック・バリアは幾百の落雷を防ぐが、落雷が生み出した衝撃波までは防ぎきれなかった。

 海色の魔術障壁マジック・バリアは百枚のガラスが一斉に割れる音を奏でながら、粉砕されることとなる。エクレア=シューは朦朧とする意識の中、リリベル=ユーリィに対して、申し訳ない気持ちで一杯であった。リリベル=ユーリィに対しての援護をこれ以上、出来ないことに歯がゆさを感じていた。

 しかし、リリベル=ユーリィはエクレア=シューに対して、感謝の念で心を埋めつくされていた。エクレア=シューが直接的な落雷を防いでくれていなかったら、自分は落命していてもおかしくなかったのだ。時間にしてあと数秒ほどの『生』しか残されていないとしても、その時間を与えてくれたエクレア=シューに感謝しか抱かなかった……。
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