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第11章:自由を縛る鎖

第5話:マリア=アコナイト

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 マリア=アコナイトは亜人族と言われる中でも特に肌がシルクのようにに白く滑らかな|半猫半人ハーフ・ダ・ニャンであった。亜人が多く住まう国といえばバルト帝国を思い起こすことが出来る。彼女は亜人でありながら、エルフとニンゲン族が人口比を多く占めるウィーゼ王国で娼婦として生活していた。

 とある理由により、バルト帝国からウィーゼ王国へと流れてきたマリア=アコナイトとその母であったが、彼女の母は生来からの病弱が祟って、マリア=アコナイトが14歳の時に病没してしまった。それからマリア=アコナイトは酒場のウェイトレスなどで生活費を稼ぐ日々となるが、彼女にはまたしても不幸が訪れる。

 彼女が酒場から追い出されたのはウィーゼ王国とバルト帝国の戦争がきっかけであった。親兄弟をバルト帝国の亜人兵士に殺された者は数多くいた。しかし、戦争が起きれば、兵士が死ぬのはやむを得ない。だがそれでも亜人族に対する忌避感は強まり、酒場に置いておくことは出来ないと判断した酒場のマスターはマリア=アコナイトを解雇してしまう。

 食うに困ったマリア=アコナイトが流れ着いたのは娼館街であった。身を崩さざるえなくなったマリア=アコナイトはそれでも懸命に日銭を稼ぐ。そんな彼女をさらに追い詰めたのはいくさから帰ってきた元兵士くずれであった。彼らは傷ついた身体を癒すために娼館街通いを繰り返す。

 そして、亜人であるマリア=アコナイトは娼館所属であるのに、亜人という理由だけで客を取ることが出来なくなってしまう。マリア=アコナイトは娼館に居づらくなり、ついには『立ちんぼ』まで身を落としてしまう……。

 バルト帝国とウィーゼ王国との終戦から早2か月が経とうしていた。マリア=アコナイトは喰うか喰われるかの生活に追いこまれ、あばらが浮き出るほどの華奢な身体になってしまう。そして、そんな抱くだけで折れそうな身体をレオナルト=ヴィッダーは散々にペット扱いしたのだ。

「いぎぃぃぃ! お尻はダメなのぉぉぉ! あたい、壊れちゃうぅぅぅ!!」

 レオナルト=ヴィッダーとクルス=サンティーモは泊っている宿屋に戻ると、リリベル=ユーリィとエクレア=シューにその娘、どこで拾ってきたの!? 元のところに返してきなさいよっ!! と叱られたが、レオナルト=ヴィッダーはこいつは今晩から俺の所有物だっ! と一喝して返す。

 そう強く言われては、リリベル=ユーリィとエクレア=シューは黙る他無かった。逡巡する彼女たちにレオナルト=ヴィッダーは宿屋の女将に亜人に喰わすメシを用意させてくれと頼む。リリベル=ユーリィとエクレア=シューは互いの顔を複雑な表情で見合った後、レオナルト=ヴィッダーに言われた通りの行動に移る。

 レオナルト=ヴィッダーはまず、今にも倒れそうなほどに貧相な身体をしているマリア=アコナイトにたらふくメシを食わせることとなる。マリア=アコナイトは最初、とまどったが、久方ぶりの肉料理と温かいスープが眼の前のテーブルに置かれている状況に我慢できず、とても女性とは思えないほどに、スプーン、フォーク、箸も使わずに素手でがっつきまくる。

 実のところ、この時点でマリア=アコナイトはここ三日間で1食しか食事を摂っていなかった。彼女の全財産は銅貨20枚程度であり、リンゴを1~2個買えるかどうかだけである。彼女は客と寝る時に、自分も何か頼んでいいか? と聞き、それで飢えをしのいでいたのだ。そんな生活をしているからこそ、客が取れない日が続けば、彼女は飢え苦しむしかない。

 幸か不幸か、行き詰ったマリア=アコナイトは宿屋が立ち並ぶ区画で、散歩をしていたレオナルト=ヴィッダーに喧嘩を吹っ掛けた。それが彼女の人生を大きく変えるきっかけとなる。

「もうかんにんしてぇぇぇ……。お尻がバカになっちゃぅぅぅ……」

「うるせぇ! おい、クルス。もっとマリアに嬌声をあげさせろ! 乳首に歯型をつけてやれっ!」

 レオナルト=ヴィッダーとクルス=サンティーモは自分たちが寝泊まりしている一室に腹が膨れたマリア=アコナイトをひっぱり込む。そして、レオナルト=ヴィッダーは舐めるように視線をマリア=アコナイトの頭のてっぺんから足先まで移動させる。

 立ちんぼの客は質がとことんに悪い。マリア=アコナイトが客に頼めることは、一張羅をビリビリに破かないようにと注意を促すことだけであった。しかし、レオナルト=ヴィッダーはマリア=アコナイトの頼みを一蹴し、彼女の服の襟元を左手で掴むや否や、その左手を一気に下へと振り下ろす。レオナルト=ヴィッダーの左腕には素戔嗚スサノオが食い込んでいる。鬼の手とも呼べるレオナルト=ヴィッダーの左手はマリア=アコナイトの痛んだ一張羅を簡単に引き裂いてしまう。

 彼女が着こんでいた薄汚れた服は下着ごと無理やりに剥ぎ取られる。マリア=アコナイトは諦めに似た感情を抱いていた。殺されないだけマシなのだ、『立ちんぼ』という商売は。ことが終わったあとで、レオナルト=ヴィッダーから服代も請求すれば良いと考え直す。

 マリア=アコナイトは剥き出しにされた無い胸を精いっぱい、張ってみせる。乱暴にされようが、心までは折られてたまるものかと、眼尻に涙を貯めつつも彼女は威勢を張ってみせた。そんな気を張り詰めているマリア=アコナイトの背中側で待機していたクルス=サンティーモは彼女を後ろから優しく抱きしめる。

 クルス=サンティーモは不意打ちをしたのだ、マリア=アコナイトに対して。クルス=サンティーモは今までよく頑張ったのですゥ。今夜からもう心配しなくて良いんですゥと言いながら、彼女の燃えるような赤髪と猫耳を右手で優しく撫でながら良い子良い子するのであった。

 エクレア=シューは身体をますます強張らせてしまう。それは何故かというと、そんな風に頭を撫でられたのは自分の母親が臨終の間際以来であったからだ。汚いシーツが敷かれたベッドの上で、盛大にせき込みながらも、今わの際までマリア=アコナイトの将来を心配していたマリア=アコナイトの母は最期の力を引き絞り、ベッドに伏したまま右手で優しく娘の頭を撫でてみせた。マリア=アコナイトは両目から大粒の涙をボロボロと流して、わんわんと泣く。

 マリア=アコナイトの母は臨終の間際に娘が幸せになるようにと神様に最後のお願いをした。それから2年半の月日が流れる。マリア=アコナイトはどん底もどん底の生活を強いられることになるが、ついに『自由を得るための暴力』と出会うこととなる。

 神や他人が押し付けてくる『運命』という鎖を引きちぎるための『暴力』。それを左腕に装着した男がマリア=アコナイトと邂逅した。マリア=アコナイトを不自由から解放するために、その男はマリア=アコナイトの身体の隅々を蹂躙しはじめる……。
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