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第5章:天使の嬉し涙

第8話:嬉ションの効能

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 レオナルト=ヴィッダーは全身から力が抜け落ちていく感覚に囚われる。満足に歩けない身体になってまで手に入れたモノは、自分にとっては何の価値も無いモノだった。そのことに、ははっ……と力無く、さらには自嘲気味に笑うしかなかった。

 明らかに気落ちしているレオナルト=ヴィッダーに対して、フィルフェン=クレープスとしては珍しく誰かをフォローする役割に回る。

「そんなに気落ちしなくても良いと思いますよ、レオナルトくん。きっと、これは淫婦の天使のやさしさです。レオナルトくんが地獄に落ちないようにと、せめて、これで元気づけてもらおうという計らいなのです」

「俺が元気づけられる? これで?」

 レオナルト=ヴィッダーは天使の嬉ションが入ったポーションに対して、怒りとも悲しみとも言えない表情を見せていた。明らかに関心を失くしている顔である。フィルフェン=クレープスはこれがどれほどにレアなアイテムなのかを説くのだが、レオナルト=ヴィッダーの眼には、無価値なモノとして映っていた。

「いやですから……。これを一口飲めば、おちんこさんは終始性欲魔人タチッパナシ。男がこれを喜ばないわけがないでしょう??」

「俺のおちんこさんはアイリスを孕ませる時に立てば、それだけで良い」

「本当にそうですか?」

 レオナルト=ヴィッダーの返事に対して、フィルフェン=クレープスは挑発するように、そう言ってみせる。カチンときたレオナルト=ヴィッダーは、視力が落ちている眼をさらに細めて、眉間に深いシワを作り出して、抗議の色を強める。まるで自分は誰に対してでも、おちんこさんを立たせてしまう、不埒な男だと言われている気がしてならないからだ。

「レオナルトくん。勘違いしないでください。あなたが節操無しだと言っているのではありません。半天半人ハーフ・ダ・エンゼルのクルスくんはどうなるのか? と聞いているのです」

 フィルフェン=クレープスのその一言に、レオナルト=ヴィッダーは、ハッ! と気づかされる。クルス=サンティーモの母親の死因を思い出したからだ。そして、それに気づいた瞬間には、レオナルト=ヴィッダーの顔はクルス=サンティーモの方に向いていた。クルス=サンティーモはまさに天使の笑顔で、レオナルト=ヴィッダーを迎える。

「ぼくのことは気にしないでください。ぼくがレオン様のしか受け入れないと決めたのは、ぼくの勝手なんですゥ。レオン様の責任じゃないんですゥ」

 淫婦の天使が客に惚れてはいけない理由。それがクルス=サンティーモの母親の死因に直結していた。そして、クルス=サンティーモは愛する男を決めてしまっている。レオナルト=ヴィッダーはその責任の重さを今更ながらに知ることとなる。先ほどまでゴミ箱に投げ捨ててしまおうと思っていた天使の嬉ション入りポーションの瓶であったが、それを急いでふところにしまい直す。そして、服の上からそれをギュッと抱きしめながら

「俺の命は俺の勝手で使う。だが、俺のためにクルスが死ぬ必要はないっ!!」

「ハハッ! そのわがままが全てを救うんです。ちなみにリリベルくんも定期的にレオナルトくんのスペル魔を摂取しないと死んでしまう病気です」

 レオナルト=ヴィッダーは驚いたといった表情でフィルフェン=クレープスとリリベル=ユーリィの顔を交互に見やる。しかしながら、リリベル=ユーリィの顔は困惑しきっている。そんな話は聞いてないぞという表情をレオナルト=ヴィッダーとリリベル=ユーリィがふたり揃って、フィルフェン=クレープスの顔を見る。しかし、ふたりから凝視されようが、フィルフェン=クレープスは気にもしていないといった感じで、次の話に移ろうと提案する。

 大事な話をあからさまに逸らされたレオナルト=ヴィッダーであったが、今はリリベル=ユーリィのことよりも、アイリス=クレープスの身体を縛り付ける鎖を1本でも多く斬り飛ばすことが肝心なのだ。どうせ、のらりくらりとかわすのが得意なフィルフェン=クレープスの言うことだ。本気でとらえれば、泥沼にハマることは間違いない。

「さて。天使の嬉ションの1本は、先生が大切に保管させてもらいます。そして、こちらで手に入れた情報をまとめたところ、失われた朱鷺が居る場所が判明しました」

 フィルフェン=クレープスはそう言った後、わざとらしく話を止めて、溜めを作り出す。もちろん、これは話術の一種であり、相手への期待感を高めるためだ。それにあっさり乗せられて、レオナルト=ヴィッダーとクルス=サンティーモは不覚にもゴクリと喉奥に唾を押下してしまう。リリベル=ユーリィはそんな兄に対して、パシンと軽い音を立たせて、兄の後頭部をはたいてしまう。

「失礼。蚊が飛んでいましたので払っておきました」

 クルス=サンティーモはいつものようにキョトンとした顔つきで首を傾げる。リリベル=ユーリィはなんでいちいちこの子は可愛いのかしら? とイラっとしてしまう。本当に兄やレオと同じモノが股間についているのか? と疑わしい気持ちになってしまう。

 実際のところ、フィルフェン=クレープスのはフランクフルトであり、レオナルト=ヴィッダーは素戔嗚スサノオ呪力ちからで強化しなければ、バナナより少し大きい程度だ。そして、クルス=サンティーモのはポークビッツであり、彼らふたりのいかがわしいものと比べてはならない可愛らしいおちんこさんなのである。この点をリリベル=ユーリィはひとまとめにくくってしまうところがまだまだ浅いと言って良いだろう。

 そんなことは置いておいてだ。フィルフェン=クレープスは溜めに溜めた後、やっと本題に入る。彼が言うには失われた朱鷺が居るのは、オールドヨークから東に海へ出て、300海里ほど進んだ先にある地上の楽園と呼ばれる場所だと。レオナルト=ヴィッダーはその言葉を聞き、苦笑せざるをえなくなる。

「天界の楽園の次は、地上の楽園ってか……。これは何かの縁なのか?」

「縁というより業でッチュウね。しかし、あの楽園には番人がいたはずでッチュウ」

 今までムシャムシャと骨付き肉を食べていたコッシロー=ネヅが、地上の楽園という言葉を耳に入れ、いったん、歯を止めて、皆の会話に参加する。コッシロー=ネヅは二本足で立ち上がり、自分の記憶を掘り返す。そして、ポンと前足2本を叩き合わせ

「そうでッチュウ。緋喰い鳥でッチュウ。やっぱりえにしではなく、業でッチュウ。おい、喜べ、レオン。緋喰い鳥に気に入られれば、朱鷺を手に入れられるだけでなく、お前の身体からのろいの毒を少しばかりは取り除くことが出来るのでッチュウ」

 コッシロー=ネヅの言うことをレオナルト=ヴィッダーはほとんど理解出来ないでいた。自分の身体の状態は自分が一番わかっている。だからこそ、この身体に染み込んだのろいを少しだけでも取り除けると言われても、ピンとはこなかった。今更、少しだけで、どうしろというのだ? というのが正しい反応とも言えた……。
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