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第3章:石造りの楽園
第3話:政局不安
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「き、貴様! まだフローラをそんな風に見ていたのかっ!」
国王:ロータス=クレープスは執務机の椅子からずり落ちそうになるところを必死に我慢しながら、第1王子:フィルフェン=クレープスを叱り飛ばす。椅子に座り直し、ガンッ! と一度、執務机を右手で叩いてみせる。しかし、その脅しはまったくフィルフェン=クレープスには通じず、彼は言いたいことを言いのけたとばかりに国王に背を向けて、さらには右手をひらひらと軽く振って、それを退出の挨拶とする。
叱る相手を失くした国王:ロータス=クレープスが次に視線を向けた相手は自分の妻である。王妃は首を傾げ、右頬に右手を添えつつ、困ったものですわと呑気なことを言ってみせる。
直接的な親族間での近親姦は北ラメリア大陸のどこの国でもご法度であり、それが王族だとしても、例外ではない。従兄妹の間柄であれば、まだ言い訳は立つが、直系同士では忌み嫌われている。それがダメだとを決めたのは神たちそのものであり、北ラメリア大陸の住民たちはその神たちの言葉を忠実に守っているのだ。
「何故にフィルフェンさんは実妹のフローラさんにご執心なのか、わかりませんわ……。これなら、まだアイリスさんとレオナルトさんの仲を素直に認めていたほうが良かったかもしれませんわね」
「ええいっ! 私が全て悪いというような遠回しの言い方をやめろっ、オリビア。あいつは策士だっ! このような話の流れになるようにと、私とお前は巻き込まれたのだっ!」
国王は次から次へと王宮内に問題が持たされることにやきもきしていた。大体、アイリスとレオナルトのクソバカとの問題に、長子と長女の問題が絡み合うことなど絶対に無いはずであった。しかしながら、第1王子はここにきて、チェスボードを土台からひっくり返すという手を打ってきたのだ。ここから考えられることは、第1王子にとって、アイリスとレオナルトのクソバカの件はぶっちゃけどうでもいいことであり、自分の願いを叶えるための材料になれば良いだけなのだということを知る国王:ロータス=クレープスであった。
国王の執務室から退出したフィルフェン=クレープスが向かう先など、この執務室にいる者たちなら、誰しもが予想済みである。それゆえに国王は従者に宰相と首席騎士を呼んでくるようにと指示を出す。10数分後には、国王の執務室に宰相:ファーガス=ユーリィと首席騎士:ゴーマ=タールタルが呼び出されることとなる。だが、ふたりとも渋い表情をその顔に浮かべている。国王はフィルフェンをどうにかしろと彼らに命じる前に何があったのかを聞かねばならない状況となる。
「姫様が食事を取ることを拒否してから早三日が経とうとしております」
首席騎士:ゴーマ=タールタルがまず、第2王女であるアイリス=クレープスの現況について報告をする。だが、あの大喰らいがこれ以上、我慢できるわけがないと一蹴してしまう。次いで宰相:ファーガス=ユーリィが非常に申し訳無いといった感じでウィーゼ王国とバルト帝国との停戦協定の話を持ち出す。
「バルト帝国との停戦協定についてですが、あちらで政変が起きるのではないかという情報を手に入れていますのじゃ。今回の戦でバルト帝国が矛を収めたのは現帝であるシャライ=アレクサンダーが愚帝であるからと……」
「それで? シャライ=アレクサンダー様は停戦協定自体を蹴って、再び、我が国に攻め寄せようとしているのか?」
「い、いえ。そうではありませんのじゃ。政変が起きるやもしれぬという言葉通りなのですじゃ。国王様は少々、がんばりすぎたと……」
なんとも歯切れの悪い言いであった、宰相:ファーガス=ユーリィは。そもそもとして、ウィーゼ王国の国王であるロータス=クレープスが散々にシャライ帝を虚仮にし続けていた。これはあくまでもウィーゼ王国の発言力を高めるためであったのが、バルト帝国では政変が起きるやもしれぬ状況に変わってしまったのだと、宰相は言う。
そもそもとして、事の発端はあくまでもシャライ帝が自分の権威と権力を増強させるために、バルト帝国内で元老院を廃止しようとしたことである。それに対して、ウィーゼ王国の国王:ロータス=クレープスが異を唱え、さらにシャライ帝が帝の地位に就くこと自体が間違いであったと声高々に主張してみせた。そして、ついに今から2年ほど前にバルト帝国とウィーゼ王国は戦争状態へと移行し、2カ月前にやっと一時停戦という運びになったのだ。
しかし、宰相:ファーガス=ユーリィの言う通り、ウィーゼ王国軍は頑張りすぎたのだ。シャライ帝はウィーゼ王国軍を半壊させたことで、ウィーゼ王国に対する仕置きは済んだと元老院に報告を行った。だが、元老院はウィーゼ王国という小国相手に2倍の被害を被ったことを問題視したのだ。こと、ここにおいて、シャライ帝と元老院のいがみ合いは内乱を引き起こす手前まで来ており、どちらも矛を収められる状況ではなくなったのだ。
バルト帝国が政局不安になれば、北ラメリア大陸の情勢不安にも繋がっていく。北ラメリア大陸全体を巻き込んだ大戦争が起きる可能性も否定できなくなってしまったのだ。そんな中でウィーゼ王国軍が半壊してしまっているのは大きな痛手となってしまう。
「ふむ……。少しばかり元老院側に肩入れしすぎたか……。では、今更ながらではあるが、シャライ帝に乗り換えて、シャライ帝に恩を売っておくというのはどうだ?」
「さすがは我が君。英断でございます。では、さっそくこのシャライ帝からの親書にサインをいただきたいですのじゃ」
国王:ロータス=クレープスは自分で良いことを言ったと思った矢先に、シャライ帝の後ろ盾になるための手筈を整えていた宰相相手に苦笑せざるをえなくなる。やり手の宰相は、まずは自分にお伺いを立てて、さらには自分の意思が尊重されているかのような誘導を行い、結局のところ、ウィーゼ王国全体として上手く立ち回れる方策を示してみせる。ここが宰相と自分本位の第1王子と違うところだ。
第1王子はあくまでも自分の欲に忠実であり、宰相は国や国王に対して忠実であった。国王:ロータス=クレープスがシャライ帝からの親書を宰相:ファーガス=ユーリィから受け取り、それをじっくり読んだ後、別の書類に一言添えて、自分の名を記名する。その書類を大事そうに受け取った後、宰相はホッとした安堵の表情を浮かべる。
「さて、これで問題のひとつは片付いたな。では、私が今現在、危惧していることを言わせてもらおう。我が愚息がまたしても、第1王女にちょっかいをかけようとしている」
「あ、それは無理です。自分は退出させてもらいましょう」
「それは無理ですじゃ。家族間の問題について、差し出がましいことは出来ないと法で決められていますのじゃ。というわけで、わしも退席させてもらいますのじゃ」
国王:ロータス=クレープスは執務机の椅子からずり落ちそうになるところを必死に我慢しながら、第1王子:フィルフェン=クレープスを叱り飛ばす。椅子に座り直し、ガンッ! と一度、執務机を右手で叩いてみせる。しかし、その脅しはまったくフィルフェン=クレープスには通じず、彼は言いたいことを言いのけたとばかりに国王に背を向けて、さらには右手をひらひらと軽く振って、それを退出の挨拶とする。
叱る相手を失くした国王:ロータス=クレープスが次に視線を向けた相手は自分の妻である。王妃は首を傾げ、右頬に右手を添えつつ、困ったものですわと呑気なことを言ってみせる。
直接的な親族間での近親姦は北ラメリア大陸のどこの国でもご法度であり、それが王族だとしても、例外ではない。従兄妹の間柄であれば、まだ言い訳は立つが、直系同士では忌み嫌われている。それがダメだとを決めたのは神たちそのものであり、北ラメリア大陸の住民たちはその神たちの言葉を忠実に守っているのだ。
「何故にフィルフェンさんは実妹のフローラさんにご執心なのか、わかりませんわ……。これなら、まだアイリスさんとレオナルトさんの仲を素直に認めていたほうが良かったかもしれませんわね」
「ええいっ! 私が全て悪いというような遠回しの言い方をやめろっ、オリビア。あいつは策士だっ! このような話の流れになるようにと、私とお前は巻き込まれたのだっ!」
国王は次から次へと王宮内に問題が持たされることにやきもきしていた。大体、アイリスとレオナルトのクソバカとの問題に、長子と長女の問題が絡み合うことなど絶対に無いはずであった。しかしながら、第1王子はここにきて、チェスボードを土台からひっくり返すという手を打ってきたのだ。ここから考えられることは、第1王子にとって、アイリスとレオナルトのクソバカの件はぶっちゃけどうでもいいことであり、自分の願いを叶えるための材料になれば良いだけなのだということを知る国王:ロータス=クレープスであった。
国王の執務室から退出したフィルフェン=クレープスが向かう先など、この執務室にいる者たちなら、誰しもが予想済みである。それゆえに国王は従者に宰相と首席騎士を呼んでくるようにと指示を出す。10数分後には、国王の執務室に宰相:ファーガス=ユーリィと首席騎士:ゴーマ=タールタルが呼び出されることとなる。だが、ふたりとも渋い表情をその顔に浮かべている。国王はフィルフェンをどうにかしろと彼らに命じる前に何があったのかを聞かねばならない状況となる。
「姫様が食事を取ることを拒否してから早三日が経とうとしております」
首席騎士:ゴーマ=タールタルがまず、第2王女であるアイリス=クレープスの現況について報告をする。だが、あの大喰らいがこれ以上、我慢できるわけがないと一蹴してしまう。次いで宰相:ファーガス=ユーリィが非常に申し訳無いといった感じでウィーゼ王国とバルト帝国との停戦協定の話を持ち出す。
「バルト帝国との停戦協定についてですが、あちらで政変が起きるのではないかという情報を手に入れていますのじゃ。今回の戦でバルト帝国が矛を収めたのは現帝であるシャライ=アレクサンダーが愚帝であるからと……」
「それで? シャライ=アレクサンダー様は停戦協定自体を蹴って、再び、我が国に攻め寄せようとしているのか?」
「い、いえ。そうではありませんのじゃ。政変が起きるやもしれぬという言葉通りなのですじゃ。国王様は少々、がんばりすぎたと……」
なんとも歯切れの悪い言いであった、宰相:ファーガス=ユーリィは。そもそもとして、ウィーゼ王国の国王であるロータス=クレープスが散々にシャライ帝を虚仮にし続けていた。これはあくまでもウィーゼ王国の発言力を高めるためであったのが、バルト帝国では政変が起きるやもしれぬ状況に変わってしまったのだと、宰相は言う。
そもそもとして、事の発端はあくまでもシャライ帝が自分の権威と権力を増強させるために、バルト帝国内で元老院を廃止しようとしたことである。それに対して、ウィーゼ王国の国王:ロータス=クレープスが異を唱え、さらにシャライ帝が帝の地位に就くこと自体が間違いであったと声高々に主張してみせた。そして、ついに今から2年ほど前にバルト帝国とウィーゼ王国は戦争状態へと移行し、2カ月前にやっと一時停戦という運びになったのだ。
しかし、宰相:ファーガス=ユーリィの言う通り、ウィーゼ王国軍は頑張りすぎたのだ。シャライ帝はウィーゼ王国軍を半壊させたことで、ウィーゼ王国に対する仕置きは済んだと元老院に報告を行った。だが、元老院はウィーゼ王国という小国相手に2倍の被害を被ったことを問題視したのだ。こと、ここにおいて、シャライ帝と元老院のいがみ合いは内乱を引き起こす手前まで来ており、どちらも矛を収められる状況ではなくなったのだ。
バルト帝国が政局不安になれば、北ラメリア大陸の情勢不安にも繋がっていく。北ラメリア大陸全体を巻き込んだ大戦争が起きる可能性も否定できなくなってしまったのだ。そんな中でウィーゼ王国軍が半壊してしまっているのは大きな痛手となってしまう。
「ふむ……。少しばかり元老院側に肩入れしすぎたか……。では、今更ながらではあるが、シャライ帝に乗り換えて、シャライ帝に恩を売っておくというのはどうだ?」
「さすがは我が君。英断でございます。では、さっそくこのシャライ帝からの親書にサインをいただきたいですのじゃ」
国王:ロータス=クレープスは自分で良いことを言ったと思った矢先に、シャライ帝の後ろ盾になるための手筈を整えていた宰相相手に苦笑せざるをえなくなる。やり手の宰相は、まずは自分にお伺いを立てて、さらには自分の意思が尊重されているかのような誘導を行い、結局のところ、ウィーゼ王国全体として上手く立ち回れる方策を示してみせる。ここが宰相と自分本位の第1王子と違うところだ。
第1王子はあくまでも自分の欲に忠実であり、宰相は国や国王に対して忠実であった。国王:ロータス=クレープスがシャライ帝からの親書を宰相:ファーガス=ユーリィから受け取り、それをじっくり読んだ後、別の書類に一言添えて、自分の名を記名する。その書類を大事そうに受け取った後、宰相はホッとした安堵の表情を浮かべる。
「さて、これで問題のひとつは片付いたな。では、私が今現在、危惧していることを言わせてもらおう。我が愚息がまたしても、第1王女にちょっかいをかけようとしている」
「あ、それは無理です。自分は退出させてもらいましょう」
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