上 下
24 / 261
第3章:石造りの楽園

第3話:政局不安

しおりを挟む
「き、貴様! まだフローラをそんな風に見ていたのかっ!」

 国王:ロータス=クレープスは執務机の椅子からずり落ちそうになるところを必死に我慢しながら、第1王子:フィルフェン=クレープスを叱り飛ばす。椅子に座り直し、ガンッ! と一度、執務机を右手で叩いてみせる。しかし、その脅しはまったくフィルフェン=クレープスには通じず、彼は言いたいことを言いのけたとばかりに国王に背を向けて、さらには右手をひらひらと軽く振って、それを退出の挨拶とする。

 叱る相手を失くした国王:ロータス=クレープスが次に視線を向けた相手は自分の妻である。王妃は首を傾げ、右頬に右手を添えつつ、困ったものですわと呑気なことを言ってみせる。

 直接的な親族間での近親姦は北ラメリア大陸のどこの国でもご法度であり、それが王族だとしても、例外ではない。従兄妹の間柄であれば、まだ言い訳は立つが、直系同士では忌み嫌われている。それがダメだとを決めたのは神たちそのものであり、北ラメリア大陸の住民たちはその神たちの言葉を忠実に守っているのだ。

「何故にフィルフェンさんは実妹のフローラさんにご執心なのか、わかりませんわ……。これなら、まだアイリスさんとレオナルトさんの仲を素直に認めていたほうが良かったかもしれませんわね」

「ええいっ! 私が全て悪いというような遠回しの言い方をやめろっ、オリビア。あいつは策士だっ! このような話の流れになるようにと、私とお前は巻き込まれたのだっ!」

 国王は次から次へと王宮内に問題が持たされることにやきもきしていた。大体、アイリスとレオナルトのクソバカとの問題に、長子と長女の問題が絡み合うことなど絶対に無いはずであった。しかしながら、第1王子はここにきて、チェスボードを土台からひっくり返すという手を打ってきたのだ。ここから考えられることは、第1王子にとって、アイリスとレオナルトのクソバカの件はぶっちゃけどうでもいいことであり、自分の願いを叶えるための材料になれば良いだけなのだということを知る国王:ロータス=クレープスであった。

 国王の執務室から退出したフィルフェン=クレープスが向かう先など、この執務室にいる者たちなら、誰しもが予想済みである。それゆえに国王は従者に宰相と首席騎士を呼んでくるようにと指示を出す。10数分後には、国王の執務室に宰相:ファーガス=ユーリィと首席騎士:ゴーマ=タールタルが呼び出されることとなる。だが、ふたりとも渋い表情をその顔に浮かべている。国王はフィルフェンをどうにかしろと彼らに命じる前に何があったのかを聞かねばならない状況となる。

「姫様が食事を取ることを拒否してから早三日が経とうとしております」

 首席騎士:ゴーマ=タールタルがまず、第2王女であるアイリス=クレープスの現況について報告をする。だが、あの大喰らいがこれ以上、我慢できるわけがないと一蹴してしまう。次いで宰相:ファーガス=ユーリィが非常に申し訳無いといった感じでウィーゼ王国とバルト帝国との停戦協定の話を持ち出す。

「バルト帝国との停戦協定についてですが、あちらで政変が起きるのではないかという情報を手に入れていますのじゃ。今回のいくさでバルト帝国が矛を収めたのは現みかどであるシャライ=アレクサンダーが愚帝であるからと……」

「それで? シャライ=アレクサンダー様は停戦協定自体を蹴って、再び、我が国に攻め寄せようとしているのか?」

「い、いえ。そうではありませんのじゃ。政変が起きるやもしれぬという言葉通りなのですじゃ。国王様は少々、がんばりすぎたと……」

 なんとも歯切れの悪い言いであった、宰相:ファーガス=ユーリィは。そもそもとして、ウィーゼ王国の国王であるロータス=クレープスが散々にシャライ帝を虚仮こけにし続けていた。これはあくまでもウィーゼ王国の発言力を高めるためであったのが、バルト帝国では政変が起きるやもしれぬ状況に変わってしまったのだと、宰相は言う。

 そもそもとして、事の発端はあくまでもシャライ帝が自分の権威と権力を増強させるために、バルト帝国内で元老院を廃止しようとしたことである。それに対して、ウィーゼ王国の国王:ロータス=クレープスが異を唱え、さらにシャライ帝がみかどの地位に就くこと自体が間違いであったと声高々に主張してみせた。そして、ついに今から2年ほど前にバルト帝国とウィーゼ王国は戦争状態へと移行し、2カ月前にやっと一時停戦という運びになったのだ。

 しかし、宰相:ファーガス=ユーリィの言う通り、ウィーゼ王国軍は頑張りすぎたのだ。シャライ帝はウィーゼ王国軍を半壊させたことで、ウィーゼ王国に対する仕置きは済んだと元老院に報告をおこなった。だが、元老院はウィーゼ王国という小国相手に2倍の被害を被ったことを問題視したのだ。こと、ここにおいて、シャライ帝と元老院のいがみ合いは内乱を引き起こす手前まで来ており、どちらも矛を収められる状況ではなくなったのだ。

 バルト帝国が政局不安になれば、北ラメリア大陸の情勢不安にも繋がっていく。北ラメリア大陸全体を巻き込んだ大戦争が起きる可能性も否定できなくなってしまったのだ。そんな中でウィーゼ王国軍が半壊してしまっているのは大きな痛手となってしまう。

「ふむ……。少しばかり元老院側に肩入れしすぎたか……。では、今更ながらではあるが、シャライ帝に乗り換えて、シャライ帝に恩を売っておくというのはどうだ?」

「さすがは我が君。英断でございます。では、さっそくこのシャライ帝からの親書にサインをいただきたいですのじゃ」

 国王:ロータス=クレープスは自分で良いことを言ったと思った矢先に、シャライ帝の後ろ盾になるための手筈を整えていた宰相相手に苦笑せざるをえなくなる。やり手の宰相は、まずは自分にお伺いを立てて、さらには自分の意思が尊重されているかのような誘導をおこない、結局のところ、ウィーゼ王国全体として上手く立ち回れる方策を示してみせる。ここが宰相と自分本位の第1王子と違うところだ。

 第1王子はあくまでも自分の欲に忠実であり、宰相は国や国王に対して忠実であった。国王:ロータス=クレープスがシャライ帝からの親書を宰相:ファーガス=ユーリィから受け取り、それをじっくり読んだ後、別の書類に一言添えて、自分の名を記名する。その書類を大事そうに受け取った後、宰相はホッとした安堵の表情を浮かべる。

「さて、これで問題のひとつは片付いたな。では、私が今現在、危惧していることを言わせてもらおう。我が愚息がまたしても、第1王女にちょっかいをかけようとしている」

「あ、それは無理です。自分は退出させてもらいましょう」

「それは無理ですじゃ。家族間の問題について、差し出がましいことは出来ないと法で決められていますのじゃ。というわけで、わしも退席させてもらいますのじゃ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話

カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます! お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ    学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。  ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。  そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。  混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?  これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。 ※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。 割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて! ♡つきの話は性描写ありです! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です! どんどん送ってください! 逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。 受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか) 作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~

山鳥うずら
ファンタジー
東京に勤務している普通のおっさんが異世界に転移した。そこは東京とはかけ離れた文明の世界。スキルやチートもないまま彼は異世界で足掻きます。少しずつ人々と繋がりを持ちながら、この無理ゲーな社会で一人の冒険者として生きる話。 少し大人の世界のなろうが読みたい方に楽しめるよう創りました。テンプレを生かしながら、なろう小説の深淵を見せたいと思います。 彼はどうやってハーレムを築くのか―― 底辺の冒険者として彼は老後のお金を貯められたのか―― ちょっとビターな異世界転移の物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...