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第12章:ロケット・パンチ

第5話:起死回生の一撃

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先祖返りジュウジンモード発動ッッッ!!」

 三体の合成獣キメラたちに徐々に追い詰められていくだけの状況を嫌ったロック=イートは起死回生の先祖返りジュウジンモードを発動する。ロック=イートの筋肉という筋肉が肥大化し、その筋肉を覆うように獣の毛が生えそろっていく。

 ミーナ=バーナンはギョッとした顔つきになり、ロック=イートを注視せざるをえない状況となる。あの怪我の状態から先祖返りジュウジンモードを発動させれば、それは確実に自分自身の手で寿命を削る行為となるのだ。それなのに、負けるほうが嫌だとばかりにそれを発動させたロック=イートに驚かされてしまう。

(あいつは馬鹿か何かピョン!? こんなどうでもいい勝負すら勝ちを拾いにいってどうするピョン!?)

 ミーナ=バーナンは頬を引きつらせながら、ロック=イートと合成獣キメラとの戦いに注目する。ロック=イートほどの実力者が先祖返りジュウジンモードを解き放てば、いくら三体もいる合成獣キメラと言えども、確実に一体一体狩られていくだけの存在に成り果てる。それを合成獣キメラ側も承知しているのか、ロック=イートの身体にまとわりつかせた手足を離そうとしなかった。密着さえしていれば、彼の動きを鈍らせることが出来る。そうすることで、少しでも自分たちの生存率を上げようとしたのだ。

 いくら魔物モンスターとほとんど変わらぬ身として産み落とされた合成獣キメラたちではあるが、生存本能までもが失われているわけではない。彼らはれっきとしたニンゲンであり、死ぬために産まれてきた存在ではないのだ。だからこそ、合成獣キメラたちは先祖返りジュウジンモード化したロック=イートに抗おうとした。その腕を、足をロック=イートの身体に絡ませて、彼の自由を奪おうとする。

 だが、それでもロック=イートは腰を落としていき、両足を大きく開く。そして、左足で石畳を力強く蹴っ飛ばす。左足から生まれた推進力はロック=イートにしがみつく合成獣キメラごと、前へと運ぼうとする。そして、ロック=イートは右足をドンッ! という音と共に石畳を踏み抜く。その威力はすさまじく、石畳は亀裂どころではすまずに、彼の右足を中心に跳ね上がることとなる。

 ロック=イートが頑丈な石畳を足で踏みぬいたこと以上に観客たちを驚かせたのはロック=イートの立ち位置であった。なんと、ロック=イートは身体に合成獣キメラ三体分の体重を課せられたままなのに、それを使役していると思われるミーナ=バーナンの間近にまで接近していたのだ。

「ロケットォォォ・パーーーンチッ!!」

 ミーナ=バーナンはその時、驚愕の表情をその顔に浮かべてしまう。自分の鼻先に向かって真っ直ぐに突き立てられてくる黒光りする義腕を黙って見ていることしかできなかった。ミーナ=バーナンは女性らしからぬブベボィオ!? という声をあげつつ、遥か後方へと吹っ飛ばされることとなる。もちろん、彼女が両腕で抱きかかえるように持っていた緋緋色金製の手甲ナックル・カバーも、試合場の外である芝生の上に転がることとなる。

 ミーナ=バーナンは鼻の両方の穴から出血しながら、芝生の上でのたうち回ることとなる。そして、鼻を右手で抑えながら立ち上がり、眼に黒い炎を宿らせる。自分に恥をかかせたロック=イートに対して、明確な殺意を抱いたのだ、彼女は。ミーナ=バーナンはロック=イートの身に未だしがみつこうとする合成獣キメラたちに下がれと指示を出す。合成獣キメラたちは互いの顔を見やり、コクリと頷き、ミーナ=バーナンの方へ走り出し、彼女の後方にある影の中へと消えていく……。

「殺してやる……、殺してやるピョンッ!!」

 ミーナ=バーナンはギラつく眼でロック=イートを睨みつける。まるでその様は視線だけで相手を呪い殺さんとばかりの眼力であった。だが、ロック=イートはその視線を真正面から受けながらも、一歩も後退する気は無かった。ロック=イートはグルルゥゥ! と低く唸り声をあげつつ、彼女が再び石畳の上にやってくるのを待つ。

 ミーナ=バーナンは裾だけぶかぶかのタイトなパーカーを着ているのだが、両腕をゆらゆらと揺らしつつ、その裾の中に一旦、両手を引っ込める。そして次にその両手を外に出すと、その手の中には片手に一本づつ、計二本の苦内が収まっていた。ミーナ=バーナンはそれをロック=イートに向けて下手したてに投げ飛ばす。ロック=イートは両腕を振り回し、いともたやすく苦内を弾き飛ばしてしまう。

 だが、その苦内の尻の部分には細いワイヤーが取り付けられており、ミーナ=バーナンはそのワイヤーを巧みに操作して、弾き飛ばされた苦内の軌道を空中で変えてしまう。さらにはミーナ=バーナンはもう一度、裾の中に両手を引っ込ませて、さらに二本の苦内を取り出し、それもロック=イートに向かって投げ飛ばす。

 ロック=イートがいくら両腕を用いて、その苦内を弾き飛ばそうが、空中で自在に動く苦内四本はロック=イートに纏わりつくように動く。ロック=イートはこのまま闘っていては無駄に時間を浪費させられて、先祖返りジュウジンモードを解除させられてしまうと感じる。

 それゆえにロック=イートはミーナ=バーナンとの距離を自分から縮めるために彼女へと接近する。その動きを悟ったミーナ=バーナンの口の端が歪む。投げ飛ばしている最中の苦内を巧みに操り、ロック=イートの背中側へと回り込ませる。ロック=イートは眼の端でその苦内の動きを把握はしていたが、今の先祖返りジュウジンモードの状態で、苦内が四本、背中に刺さったところで致命傷には至らないと見切りをつける。

 いくら道着がズタボロになっていたからといっても、背中部分はまだマシな状態であるし、さらにインナーシャツを着こんでいる。そして背中には先祖返りジュウジンモードで厚くて柔軟な背筋が存在する。それらを合算すれば、ダメージをかなり軽減できると踏んだロック=イートは足を前後に動かし、さらにミーナ=バーナンへと接近していく。

 しかし、ロック=イートはミーナ=バーナンの狙いを完全に見誤ることとなる。ミーナ=バーナンが四本の苦内で狙ったのはロック=イートの背中ではなく、ロック=イートが太陽の光を浴びて、石畳の上に映し出す影そのものであったのだ。

「キョーコ=モトカード流拳法・裏 『影縛り』だピョンッ!」
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