上 下
113 / 122
第12章:ロケット・パンチ

第1話:乱入者

しおりを挟む
 弓神:ダルシゥム=カーメンが碧玉サファイア色の外套マントをサラ=ローランの身体にかけようとした時、彼の左肩に手を置く人物が居た。それは蹴聖:コタロー=サルガミであった。彼は自分の大事な女性が先祖返りジュウジンモードの暴走状態になったことで、居ても立っても居られない状態となり、アンゴルモア大王に断りを入れて、この試合場へと足を踏み入れたのである。

 そして、弓神:ダルシゥム=カーメンもそのことを悟り、彼に自分の外套マントを預ける。蹴聖:コタロー=サルガミはこくりと彼に頷き、外套マントを受け取った後、サラ=ローランの身体にかける。そして、彼女の両腕から緋緋色金製の手甲ナックル・カバーを外した後、彼女をお姫様抱っこしながら石畳の上から退場していく。だが、そんな蹴聖:コタロー=サルガミに対して、ロック=イートが声をかける。

「コタロー兄。俺はこぶしでしか、サラ姐と語り合うことが出来なかった……」

「そうすることが拳聖:キョーコ=モトカードの弟子である僕たちの宿命だウキー。後悔するくらいなら、最初からこの場に立つんじゃないんだウキー」

 コタロー=サルガミは振り返りもせずに、そうロック=イートに告げる。ロック=イートは彼の言葉を受けて、自分たちはまだ兄弟子、姉弟子、弟弟子の仲であることを察する。それがどれほどまでにロック=イートにとっての救いであったろうか? ロック=イートは思わず膝から崩れ落ちる。顔を両手で抑えながら、瞳から流れる涙を覆い隠そうとする。そんな感傷的なロック=イートに対して、ふんっ……と鼻を鳴らすコタロー=サルガミであった。

「拳聖:キョーコ=モトカードが俺たちに残してくれた緋緋色金製の手甲ナックル・カバーは一旦、お前に預けておくんだウキー」

「それってどういう意味なん……だ?」

 ロック=イートは涙を無理やりに堰き止めて、石畳の上に転がっている緋緋色金製の手甲ナックル・カバーに視線を移す。そして、段々と自分から離れていく兄弟子:コタロー=サルガミに問いかける。だが、彼はそれ以上は何も言わない。何故に自分たちにとって大切なヒトの武具を自分に託すと言ってくれたのかがわからないロック=イートである。自分がこの武具を預かることで、拳聖の三大高弟たちの身に何かが起きようとしているのでないかという危惧が心に湧き上がってくる。

 ロック=イートの危惧はあながち間違っていなかった。コタロー=サルガミたちが試合場である石畳の上から立ち去った後、ロック=イートがその石畳の上に転がっている緋緋色金製の手甲ナックル・カバーを手に取ろうとしたまさにその時、それを邪魔する人物が登場したのだ。

「待つんだピョン! それはアルカード=カラミティ様の所有物なんだピョン! コタロー! 何を勝手にロック=イートに渡そうとしているんだピョン!!」

 サラ=ローランをお姫様抱っこしながら試合場から去っていくコタロー=サルガミと入れ替わりに、黒い毛が特徴的な半兎半人ハーフ・ダ・ラビットが現れる。その女性はコタロー=サルガミの尻にローリングソバットをかましたのだ。だが、コタロー=サルガミはフン……と小さく鼻を鳴らし

「ウキッ。貴様ら『裏』のお膳立てのためにサラはその身を犠牲にしたんだ。ならば、そのお代として拳聖の武具のひとつやふたつ、『表』側が失敬しても良いだろう?」

「なーにが失敬しても良いだろう? だピョン! ふざけるのも大概にするんだピョン!」

 黒毛の半兎半人ハーフ・ダ・ラビットがもう一度、コタロー=サルガミの尻に向かって、蹴りを放つ。だが、コタロー=サルガミはハハッ! と笑いながら、今度こそ完全に試合場から姿を消していく。事情がよくわかっていないロック=イートはいったい彼女たちは何を揉めているのかと不思議に思ってしまう。ロック=イートは手甲ナックル・カバーを拾おうとした手を止めて、自分の方に向かってくる黒毛の半兎半人ハーフ・ダ・ラビットに注視することに決める。

「何をジロジロと見ているピョン。ミーナちゃんの身体をまじまじと見て良いのは、この世ではアルカード=カラミティ様だけなんだピョン!」

 ロック=イートとしては、こいつはいったいぜんたい何を言っているんだ? という怪訝な表情になってしまう。そんなことを言われてしまったために胸から胴回りをフード付きのタイトなパーカーに身を包む半兎半人ハーフ・ダ・ラビットを余計にマジマジと見てしまうロック=イートであった。胸は同じ半兎半人ハーフ・ダ・ラビットであるリリー=フルール以下だし、パーカーの裾からはみ出ているふとももにかけては、やわらかそうというよりはぶっちゃけ堅そうといった具合で、とてもじゃないが女性らしさを微塵も感じない。なのに、自分を性的に見るなと言われては腹立たしさのほうが段々と勝ってくるのであった。

「おっとっと。ロックなんかに構っている暇なんて無いんだピョン。まったく……。拳聖:キョーコ=モトカードの武具はこちらが貸し出してやっているだけなのに、まるで自分たちのモノのような言い方はやめるんだピョン。これだから『表』の連中は厚かましいんだピョン」

 黒毛の半兎半人ハーフ・ダ・ラビットはそう言いながら、ひょいひょいと緋緋色金製の手甲ナックル・カバーを二つとも拾い上げてしまう。そして、ささっとそこから立ち去ろうとするので、ロック=イートは待てっ! とつい叫んでしまう。呼び止められた彼女はうろんな目でロック=イートの方に振り向き

「なんだピョン? もしかして、俺こそが拳聖:キョーコ=モトカードの後継者とでも言いたいのかピョン?」

 ロック=イートはこの言われ方に完全に頭に血が昇ることとなる。自分だけでなく、師匠のことまで馬鹿にされた気がしてならないのであった。そのため、ロック=イートは右手を真っ直ぐと突きだし、人差し指で小生意気な黒毛の半兎半人ハーフ・ダ・ラビットを指さしてしまう。それに対して彼女は眉間にシワを寄せつつハアアア……と深いため息をつき

「キミは訳ありの存在だから、仕方なく生かしてやると言っているのがわからないピョン? もしかして、ミーナちゃんのことを思い出せないんだピョン?」

「てめえっ! やっと思い出したぞっ!」

 ロック=イートは頭に昇った血がさらに沸騰するかのようであった。どこか既視感のある黒毛の半兎半人ハーフ・ダ・ラビットだとは思ってはいたが、自分にとって因縁の相手であることを今更ながらに気づく。彼女はあの5年前の日にロック=イートの右腕を切断した張本人なのだ。何故に今の今となってそれを思い出したのかとロック=イートは切歯扼腕となってしまう。

 ロック=イートは彼女をこのまま逃がす気はまったく無くなっていた。ヒトを見下すかのようなあの表情を浮かべる顔面に右のこぶしをめり込ませてやろうと思い立つ。そして、そう思った時は既に行動を開始しているロック=イートである。左足で石畳を力強く蹴っ飛ばし、右足でドスンッ! とその石畳を踏みつける……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる
ファンタジー
この作品は改稿版があります。こちらはサクサク進みますがそちらも見てもらえると嬉しいです!  大事なモノは、いつだって手の届くところにある。――人も、魔法も。  幼い頃憧れた、兵士を目指す少年ジャック。数年の時を経て、念願の兵士となるのだが、その初日「行ってほしい部署がある」と上官から告げられる。  なくなくその部署へと向かう彼だったが、そこで待っていたのは、昔、隣の家に住んでいた幼馴染だった。  ――モンスターから魔法を作るの。  悠久の時を経て再会した二人が、新たな魔法を生み出す冒険ファンタジーが今、幕を開ける!! ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット!」にも掲載しています。

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

処理中です...