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第18章:黄金郷

第3話:寂しさ

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「ほな、思う存分、収穫してほしいんやで!」

 シュウザン将軍たちが血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団が入植した土地に到着してから1日が経つ。エーリカたち血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の幹部たちは農作業員が一気に1000人以上増えたことに喜びを隠せなかった。

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員たちと流民たちを合わせて、その8割近くを住居や穀物庫の建築に当たらせていた。残りの2割で農作業をおこなっていた。大精霊使いのヨン=ウェンリーのおかげで、農作業に当てれる人員を大幅にカットできたことは大きかった。建築に割いている8割は入植地の外と内側を決めるための境界線作りにも回せたのである。

 いよいよ作物の刈り入れとなった時、タイミング良くシュウザン将軍が1500人くらいの兵士たちと共に、この地で合流してくれた。エーリカたちはその中から1千人を選び、刈り入れの作業員にした。総勢2千に及ぶ農作業員が一斉に実りに実った作物に襲い掛かるのであった。

「ちょっと時期的に無理がありそうなスイカや瓜だったけど、さすがは大精霊使いのヨン=ウェンリー様だぜ! まるで真夏の真っ只中で育ちましたと言わんばかりのみずみずしさだわっ!」

「チュッチュッチュ。じゃあ、さっそく、ボクが味見をするでッチュウね。う~~~ん、みずみずしいでッチュウ!」

「こらっ! コッシロー! ネズミの手も借りたいくらいなんだから、ちゃんと働きなさい! セツラお姉ちゃん、新しい駕籠を持ってきてくれる? 茄子の量が尋常じゃないわっ。もう、茄子だけでお腹がいっぱいになりそうなくらい」

「本当に形が良い茄子ですわ。カエルの肉と茄子炒め。カエルの肉と茄子の煮物。カエルの肉と茄子のおひたし……」

「セツラ様……。カエルの肉に恨みでもあるのですかな? 身共が茄子満杯のかごを運びますゆえ、そちらの小さいほうのかごをお願いしますぞ」

 コッサンはそう言うと、セツラはぷくっとほっぺたを可愛らしく膨らませる。セツラはそもそもとしてオダーニ村の田舎っ子である。農作業など当たり前に手伝ってきたという自負がある。

「コッサンさんはわたくしを甘く見てますの。そちらの大きい方を背負いますわ」

 コッサンはヤレヤレ……と嘆息してしまう。セツラをかご越しに背中を支えようとする。だが、セツラはその清廉さとは裏腹に軽々と大きい方のかごを難なく背負ってしまうのであった。しかも自分が支える必要など、どこにもありはしないという威厳に溢れる姿であった。

「これは失礼した……。身共はまだまだセツラ様のことをよくわかっていなかったようだ。道すがら、セツラ様がどのように育ったのかを教えてくだされ」

「わかりましてよ。こう見えても、わたくしもブールスやアベル同様にお転婆すぎるエーリカの相手をしてきましたもの。清廉だけが売りのわたくしではありまわんわ」

 セツラとコッサンは仲良く茄子がこれでもかと入れられているかごを運んでいく。セツラとコッサンは談笑しながら、エーリカたちから一旦、離れるのであった。

「クロウリーが今のあの二人を見たら、可愛い娘をコッサンに取られました……って嘆き悲しみそうね」

「んーーー。俺もちょっと寂しい気がするな。自分からコッサンにセツラを紹介しておきながら、いざ、セツラが俺にタケルお兄さんって頼ってくれないのは」

「チュッチュッチュ。今更、こいつは何を言ってるんだがってやつでッチュウ。お前は最後まできっちり、セツラのお兄ちゃん役を貫けでッチュウ」

「頼りにしてるわよ、タケルお兄ちゃん。あたしの時のためにも、今のうちにセツラお姉ちゃんで慣れておいてね?」

「おいおい、それってどういう意味だよ。もしかして、エーリカもついにそう思っちゃうほどの男が現れたのか??」

 挙動不審になってしまったタケルお兄ちゃんに対して、エーリカは意地悪をしてやろうと思った。タケルお兄ちゃんの方にお尻を向けて、タケルお兄ちゃんの方から少しづつ距離を取っていく。タケルはタケルで自分から離れていくエーリカに近づいていく。

「ちょっと、タケルお兄ちゃん! セツラお姉ちゃんで空いた心の穴をあたしで埋めようとしないでっ!」

「そんなこと言われてもさぁ……。エーリカを嫁に出すと思うと、お兄ちゃん、寂しくなっちまったんだよぉ……」

 エーリカは場所を変えて、芋を掘り始めていた。そのエーリカを追うようにタケルが捨てられた子犬のような顔つきになってしまっている。それだけでは足りないのか、エーリカが芋を掘っているところを邪魔し始めた。最初は甘えん坊のタケルお兄ちゃんで笑っていられたが、タケルお兄ちゃんがどんどんエーリカに体重を預けてきたのだ。

 エーリカはドンッと両手でタケルお兄ちゃんを突き飛ばす。タケルはますます寂しそうな顔になっていく。エーリカは段々、怒りが心の奥底から沸きだしていた。

「タケルお兄ちゃん? あたし、言ったよね? 二尻を追うものは一尻も追えないって」

「随分、前のことを言ってきたな??」

「随分じゃないわよ。あたしにとっては昨日言った台詞くらいに覚えてるわよっ。タケルお兄ちゃんはセツラお姉ちゃんをぞんざいに扱いすぎっ!」

「おいおい。なんでそんなに怒ってるんだ!? 俺が何かしたってのか!?」

「知らないっ! タケルお兄ちゃんのバカッ! 鈍感! すけこまし! 天然タラシ!」

 エーリカはそう言うと、すくっとその場で立ち上がり、タケルお兄ちゃんをその場に置いて、どんどん先へと進んでいく。作物の間を通り、さらにはあぜ道まで来ると、そこでくるっと身体の向きを変えて、タケルが居ない場所へと進んでいく。残されたタケルはコッシローに俺はどうしたらいいんだとういう表情で訴えかける。

 コッシローはこいつは……と思いながら、タケルにさっさとエーリカちゃんを追いかけろッチュウ! と叱り飛ばすのであった。タケルは立ち上がると、走ってエーリカの後を追いかける。それでも、エーリカは怒りが滲む足音を立てながら、向こうへと行ってしまう。タケルがエーリカの右の手首を捕まえた時には、タケルたちは入植地の境界線辺りまでやってきていた。

「すまん。俺は何も決めちゃいないが、エーリカまで俺の前からいなくなるのが嫌だった」

「ふんっ。それでこそタケルお兄ちゃんだわっ。あたし、何怒ってたんだろ。タケルお兄ちゃんは良くも悪くもタケルお兄ちゃんなのにっ」

 エーリカはタケルお兄ちゃんに対して、怒っていたこと自体が馬鹿馬鹿しく感じてしまう。タケルお兄ちゃんの立場を考えれば、タケルお兄ちゃんが寂しく思うのは当然なのだ。それはクロウリーがセツラお姉ちゃんに抱いている感情と似ている。

 タケルお兄ちゃん、クロウリー、セツラお姉ちゃん、そしてエーリカは同じ屋根の下に住む、特別なひとつの家族なのだ。その家族の仲に誰かが混ざろうとすれば、それ相応の態度をそれぞれに示すだけなのだ。その人物を歓迎するよりも、不快感が先に現れて当然だ。だが、タケルお兄ちゃんはその不快感と根が同じであるはずの『寂しさ』を今更に感じた。それがエーリカには許せなかっただけなのだ。

「タケルお兄ちゃん。今のうちに言っておくね? もし、あたしが家族以外の男のひとと一緒になろうとした時に、タケルお兄ちゃんはその男に対して、どんな態度で臨むのか。その日が来るまでに、タケルお兄ちゃんの中で答えを決めておいてね」
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