150 / 197
第15章:転落
第5話:誓う再起
しおりを挟む
「きびきび歩けでッチュウ! お前ら、今から葬式会場にでも向かうような顔をしているでッチュウね!? いつもの能天気さはどこに行ったでッチュウか!?」
クロウリーが血濡れの女王の団全員に代わり、剣王軍の捕虜となった。血濡れの女王の団にとって、クロウリーは無くてはならない存在である。皆は敗戦だけでなく、クロウリーが囚われの身となってしまったことで暗い顔になっていた。
その暗さは足取りの重さにも表れていた。彼らが解放された場所は急ぎ足ならば2~3日で州境を跨げる距離であったのに、予定していた行程の半分も消化していなかった、もちろん、剣王軍にめった打ちにされたことで、傷を負っていない者なぞ、ひとりもいない。だが、それを考慮に入れたとしても、血濡れの女王の団の進軍速度は遅すぎた。
それに激昂したのが、エーリカの頭の上にちょこんと乗っている白いネズミのコッシロー=ネヅであった。コッシローから言わせれば、所詮、こいつらは甘ちゃんだというのが正直な感想であった。ここまで連戦連勝出来ていたことのほうが、よっぽど奇跡なのである。運も味方したことで、血濡れの女王の団は大きな被害を被ることなく、やってこれた。
「お前たちは戦が水物だと知識では知っていただけでッチュウ! でも、肌で感じ、実際にそれを知らなかったのが不運なんでッチュウ! だけど、お前たちは生きているだけで幸運だと言うことを今こそ実感するべきなのでッチュウ!」
エーリカは頭の上で大演説を行っているコッシローを止めようとはしなかった。コッシローが今、放っている怒号は、エーリカにとっての諫言であることをしっかりと受け止めようとしたからだ。
「腹上死する予定のクロウリーに対して、情けないと思わないんでッチュウか!? そして、ボクに叱責されて、悔しいという気持ちが沸いてこないんでッチュウか!?」
「コッシロー……」
「だから、そんな悲しい声を出すなと言っているのでッチュウ! 生きていれば、この汚名はいつでも返上出来るのでッチュウ! たった一度の敗戦でクヨクヨしてたら、草葉の陰から見ているクロウリーに笑われちゃうでッチュウよ!? しかも、腹が立つほどのクールな笑みでッチュウ!」
コッシローはクロウリーの悪どさをとくとくと説いてみせる。コッシローの言っていることがあまりにもひどい内容になっていき、思わず、プッと噴き出す者たちが出始める。一度、笑いが起きれば、それは連鎖反応になる。お互いに顔を見合うことで、自然と笑みが零れるのであった。
「何だな。コッシローなんかに勇気づけられてんじゃ、俺たちはまだまだだったってことだ」
「タケル殿と同じ感想でござる。マーベル殿。拙者はまだまだこれからでござる!」
「おうよっ! ブルース。あたいに見合う男になれってんだい! あんたが立ち上がれなくなっても、あたいが抱っこしてやるからなっ!」
ブルースとマーベルの夫婦漫才が始まったことで、どんどんと血濡れの女王の団内に笑みが広がって行く。アベルは自分も皆を奮い立たせるための言葉を探し始める。
「むむぅぅぅ……、考えれば考えるほど、クソ真面目な自分が憎いなっ! こういう時にさらっと良い台詞を出せるようにせねばならぬっ!」
「アベル隊長! アベル隊長だけで思いつかないのなら、私も一緒に考えるのです! うーーーん! アベル隊長の素晴らしさを皆に伝えれる言葉は何でしょうかっ! 私もアベル隊長と同じくらいにクソ真面目なので、何も思い浮かびません!」
「おいらがツッコミを入れるところだべか? 真面目かっ! って」
アベル隊長とその補佐であるレイヨンがクソ真面目夫婦であることはアベル隊の常識となっていた。そのため、こんな時には癒し枠であるミンミンの出番である。だが、そのミンミンも戸惑いながら、ツッコミを入れている。アベル隊の皆は苦笑してしまう他無かった。だが、そんなクソ真面目な隊長たちを支えるのが自分たちである。次はやってやるぜ! という声が上がるようになる。
エーリカはそろそろね……と思うようになった。雰囲気がだんだんと良くなっていくのを肌で感じると、エーリカは馬の足を止める。そうした後、エーリカは後ろに続く皆へと振り向く。
「これはクロウリーが、あたしたちに敗北の味を知ってほしいという親心からの大作戦だと思っておくこと! 被害は甚大だけど、それでもあたしたちはこうして生きている! あたしたちはあたしたちの国を興すその時、それ以降も成長し続けるわよっ!」
エーリカはそう言った後、左の拳を高々と振り上げる。エーリカの左手の甲には光り輝く痣が浮き上がっていた。エーリカが指し示す未来には光があった。それも希望の光だ。血濡れの女王の団員たちは、エーリカの意志に呼応し、自分たちも左の拳を高々に振り上げる。
この日、この時から血濡れの女王の団の進軍速度はおおいにあがることになる。その進軍速度は敗戦による撤退速度では無かった。州境を越えた先にある砦で先に待っていたホランド将軍が驚いてしまうほどであった。
「よくぞ、戻った。こう言っては何だが、敗戦したというのに、一段と成長した顔つきになっている。三日会わずはなんとやらか?」
「ご心配おかけました。血濡れの女王の団、1192名、撤退完了です!」
随分、兵数が減ってしまったと思うホランド将軍であった。この砦を進発して、南ケイ州の地へと足を踏み入れた時に比べれば、4割近くの損害を出している血濡れの女王の団であった。通常の基準で言えば、全体の4割にも及ぶ被害となると、大敗を喫したと表現する。だが、血濡れの女王の団員たちは、大敗の憂き目に会い、やっとのこさで砦に到着したばかりというのに、すぐに次の行動を起こしていた。
これも若さか、羨ましいばかりだと思ってしまうホランド将軍であった。エーリカはやることがありますのでとホランド将軍に断りを入れて、その場から去ろうとする。ホランド将軍は去って行こうとするエーリカを引き留める。
「え? ロリョウの町で、慰労会を開く……んですか?」
「うむ。剣王軍の介入があったことは不運ではあるが、南ケイ州2万の軍を蹴散らしたことには変わりないとな。勝利を祝いつつも、敗戦を慰めるという何とも不思議な慰労会よ」
「そう……ですか。少し、考えさせてもらって良い? あたしたちは砦に戻ってきたばかりで、戦の汚れも取れていないし」
「そうだな。まずは水でも良いから、汚れを落としてくるが良いだろう。向こうはえらくこちらを急かしていたが、エーリカ殿たちの事情を優先して良いだろう。では、返事は後ほどな」
クロウリーが血濡れの女王の団全員に代わり、剣王軍の捕虜となった。血濡れの女王の団にとって、クロウリーは無くてはならない存在である。皆は敗戦だけでなく、クロウリーが囚われの身となってしまったことで暗い顔になっていた。
その暗さは足取りの重さにも表れていた。彼らが解放された場所は急ぎ足ならば2~3日で州境を跨げる距離であったのに、予定していた行程の半分も消化していなかった、もちろん、剣王軍にめった打ちにされたことで、傷を負っていない者なぞ、ひとりもいない。だが、それを考慮に入れたとしても、血濡れの女王の団の進軍速度は遅すぎた。
それに激昂したのが、エーリカの頭の上にちょこんと乗っている白いネズミのコッシロー=ネヅであった。コッシローから言わせれば、所詮、こいつらは甘ちゃんだというのが正直な感想であった。ここまで連戦連勝出来ていたことのほうが、よっぽど奇跡なのである。運も味方したことで、血濡れの女王の団は大きな被害を被ることなく、やってこれた。
「お前たちは戦が水物だと知識では知っていただけでッチュウ! でも、肌で感じ、実際にそれを知らなかったのが不運なんでッチュウ! だけど、お前たちは生きているだけで幸運だと言うことを今こそ実感するべきなのでッチュウ!」
エーリカは頭の上で大演説を行っているコッシローを止めようとはしなかった。コッシローが今、放っている怒号は、エーリカにとっての諫言であることをしっかりと受け止めようとしたからだ。
「腹上死する予定のクロウリーに対して、情けないと思わないんでッチュウか!? そして、ボクに叱責されて、悔しいという気持ちが沸いてこないんでッチュウか!?」
「コッシロー……」
「だから、そんな悲しい声を出すなと言っているのでッチュウ! 生きていれば、この汚名はいつでも返上出来るのでッチュウ! たった一度の敗戦でクヨクヨしてたら、草葉の陰から見ているクロウリーに笑われちゃうでッチュウよ!? しかも、腹が立つほどのクールな笑みでッチュウ!」
コッシローはクロウリーの悪どさをとくとくと説いてみせる。コッシローの言っていることがあまりにもひどい内容になっていき、思わず、プッと噴き出す者たちが出始める。一度、笑いが起きれば、それは連鎖反応になる。お互いに顔を見合うことで、自然と笑みが零れるのであった。
「何だな。コッシローなんかに勇気づけられてんじゃ、俺たちはまだまだだったってことだ」
「タケル殿と同じ感想でござる。マーベル殿。拙者はまだまだこれからでござる!」
「おうよっ! ブルース。あたいに見合う男になれってんだい! あんたが立ち上がれなくなっても、あたいが抱っこしてやるからなっ!」
ブルースとマーベルの夫婦漫才が始まったことで、どんどんと血濡れの女王の団内に笑みが広がって行く。アベルは自分も皆を奮い立たせるための言葉を探し始める。
「むむぅぅぅ……、考えれば考えるほど、クソ真面目な自分が憎いなっ! こういう時にさらっと良い台詞を出せるようにせねばならぬっ!」
「アベル隊長! アベル隊長だけで思いつかないのなら、私も一緒に考えるのです! うーーーん! アベル隊長の素晴らしさを皆に伝えれる言葉は何でしょうかっ! 私もアベル隊長と同じくらいにクソ真面目なので、何も思い浮かびません!」
「おいらがツッコミを入れるところだべか? 真面目かっ! って」
アベル隊長とその補佐であるレイヨンがクソ真面目夫婦であることはアベル隊の常識となっていた。そのため、こんな時には癒し枠であるミンミンの出番である。だが、そのミンミンも戸惑いながら、ツッコミを入れている。アベル隊の皆は苦笑してしまう他無かった。だが、そんなクソ真面目な隊長たちを支えるのが自分たちである。次はやってやるぜ! という声が上がるようになる。
エーリカはそろそろね……と思うようになった。雰囲気がだんだんと良くなっていくのを肌で感じると、エーリカは馬の足を止める。そうした後、エーリカは後ろに続く皆へと振り向く。
「これはクロウリーが、あたしたちに敗北の味を知ってほしいという親心からの大作戦だと思っておくこと! 被害は甚大だけど、それでもあたしたちはこうして生きている! あたしたちはあたしたちの国を興すその時、それ以降も成長し続けるわよっ!」
エーリカはそう言った後、左の拳を高々と振り上げる。エーリカの左手の甲には光り輝く痣が浮き上がっていた。エーリカが指し示す未来には光があった。それも希望の光だ。血濡れの女王の団員たちは、エーリカの意志に呼応し、自分たちも左の拳を高々に振り上げる。
この日、この時から血濡れの女王の団の進軍速度はおおいにあがることになる。その進軍速度は敗戦による撤退速度では無かった。州境を越えた先にある砦で先に待っていたホランド将軍が驚いてしまうほどであった。
「よくぞ、戻った。こう言っては何だが、敗戦したというのに、一段と成長した顔つきになっている。三日会わずはなんとやらか?」
「ご心配おかけました。血濡れの女王の団、1192名、撤退完了です!」
随分、兵数が減ってしまったと思うホランド将軍であった。この砦を進発して、南ケイ州の地へと足を踏み入れた時に比べれば、4割近くの損害を出している血濡れの女王の団であった。通常の基準で言えば、全体の4割にも及ぶ被害となると、大敗を喫したと表現する。だが、血濡れの女王の団員たちは、大敗の憂き目に会い、やっとのこさで砦に到着したばかりというのに、すぐに次の行動を起こしていた。
これも若さか、羨ましいばかりだと思ってしまうホランド将軍であった。エーリカはやることがありますのでとホランド将軍に断りを入れて、その場から去ろうとする。ホランド将軍は去って行こうとするエーリカを引き留める。
「え? ロリョウの町で、慰労会を開く……んですか?」
「うむ。剣王軍の介入があったことは不運ではあるが、南ケイ州2万の軍を蹴散らしたことには変わりないとな。勝利を祝いつつも、敗戦を慰めるという何とも不思議な慰労会よ」
「そう……ですか。少し、考えさせてもらって良い? あたしたちは砦に戻ってきたばかりで、戦の汚れも取れていないし」
「そうだな。まずは水でも良いから、汚れを落としてくるが良いだろう。向こうはえらくこちらを急かしていたが、エーリカ殿たちの事情を優先して良いだろう。では、返事は後ほどな」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
魔法武士・種子島時堯
克全
ファンタジー
100回以上の転生を繰り返す大魔導師が今回転生したのは、戦国時代の日本に限りなく近い多元宇宙だった。体内には無尽蔵の莫大な魔力が秘められているものの、この世界自体には極僅かな魔素しか存在せず、体外に魔法を発生させるのは難しかった。しかも空間魔法で莫大な量の物資を異世界間各所に蓄えていたが、今回はそこまで魔力が届かず利用することが出来ない。体内の魔力だけこの世界を征服できるのか、今また戦いが開始された。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる