上 下
134 / 197
第13章:ロリョウの町・攻防戦

第9話:文化の違い

しおりを挟む
 エーリカたちに命を下されたアヤメ=イズミーナとロビン=ウィルは南ケイ州の奥深くにまで潜入しいていた。今回のいくさで投降兵は2千。その家族となると6千はくだらない。そんな数のニンゲンを保護しろという無茶振りをされたアヤメとロビンであったが、出来る限りの手は尽くそうとする。

「ロビンの旦那っ! ネーネちゃんの家族を見つけたですニャン! あいつら、ひどいですニャン!」

「落ち着け、アヤメ。しかし、ホバート王国では考えられんな、この光景は……」

 ロビンは絶句しそうになっていた。投降兵たちの家族の夜逃げを手伝いながら、南ケイ州の奥地までやってきたのた。そして、投降兵のひとりであるネーネ=ブランの家族がいるという集落に到着した。しかし、ネーネの家族は今まさに村人たちによって、釜茹での刑にされそうになっていたのだ。

 大きな釜の縁に細い木製の板が乗せられていた。ただでさえ、足を滑らせて落ちてしまいかねない場所に立たされているネーネの両親たちであった。だが、落ちてしまえとばかりにその両親を竹やりの先で突く村人たちであった。こんな光景を見ることなど、ホバート王国では無いと言っても良かった。

 ホバート王国でも、敵に寝返るようなことがあれば、その家族は村人たちから村八分を喰らうことは確かにある。だが、ここまで憎悪の心を持ってして、命で償えとまではいかない。これぞ、ホバート王国とアデレート王国の文化の違いなのかと、ロビンはこぶしを握り込み、怒りで身体を震わせていた。

「どうしますニャン? 村人全員を敵に回すことになりますが、アヤメちゃんはそれでも構いませんニャン。あんな非道なことは許せないですニャン!」

「落ち着け、アヤメ。2人を救う代わりに、30人を殺す気か? それはエーリカの望むことでは無い」

 殺る気満々のアヤメを落ち着かせようとするロビンであった。だが、アヤメの頭には血が上り、さらには先祖返りジュウジンモードを発動させつつあった。ロビンは激情に流されつつあったアヤメに感化されないように尽力する。

「ちょっと、何をしているニャン!?」

 アヤメが驚いたのも無理が無い。ロビンが背中に背負っていた弓と矢筒をアヤメに渡し、さらには両手をあげて、茂みから出ていくのであった。村人たちは見知らぬ男がいきなり登場したことで、手に持った竹槍の切っ先を一斉にその男に向けたのである。

「そこの男女2人を明け渡してもらうための交渉にきた!」

 ロビンは臆することなく、村人たちにそう言ってみせる。村人たちは何を言っているだ? という怪訝な表情になる。だが、続くロビンの言葉で、釜茹でにしようとしている男女と、この男の関係を察することになる。

「ただで譲り渡す気は無いな。こいつらは俺たちに借金しているだけでなく、村に泥を塗ったんだ。そこは理解してもらえるな?」

 下衆の極みとも言える肥満体の大男が怒りにたけ狂う村人たちの前に出てくる。ロビンはこいつは口だけでなく、魂からもドブのような匂いが漂ってくると思った。だが、ロビンはキリッとした顔立ちで、大男の胸に向かって、金子きんすの入った袋を投げる。

 大男はその袋を両手で拾い上げ、ひいふうみいとその中身を数え上げていく。そして、これでもかという下衆な笑みを浮かべ、ネーネの両親を釜茹でにしろと村人たちに命ずるのであった。

「ふんっ。自分がネーネ殿から聞いていた借金は金子きんす4枚分だったがな? そこに迷惑料もつけたはず」

「勘違いしてくれるな。確かに十分な量の金子きんすはもらった。だが、村人たちの気持ちはどうなる。俺様ひとりが納得したところでどうにもならん」

「なるほど。アヤメ。交渉は決裂だ。お前が正しい。エーリカにはこの村は存在する価値など無かったと俺から報告しておく」

「もうっ! ロビンの旦那は優しすぎですニャン! でも、そんなロビンの旦那だから、アヤメちゃんはロビンの旦那に惚れこんだんですニャン!」

 アヤメはそう言いながら、さも嬉しいという表情で、茂みから飛び出す。さっき、ロビンに預けられた弓と矢筒をロビンに向かって投げる。そして、空いた手を懐に突っこみ、そこからクナイを取り出し、次々と村人たちの胸や喉に投げ飛ばす。村人たちは一撃で急所をクナイによって、傷つけられることになる。

 アヤメは立ち止まることなく、跳ね回る。クナイを投げてはその場から木の上、さらには家屋の屋根の上に飛び乗っていく。村人たちは最初、自分たちを傷つけるアヤメを追いかけまわそうとしていた。だが、狩人ハンターはアヤメの方である。自分と彼女との立場を理解した村人たちは、一斉に逃げ出すのであった。

「お、お前ら!? 俺様を置いて、どこに逃げる気だ!?」

 大男は所詮、2人だとタカをくくっていた。跳ね回る女を捕まえろと村人たちを扇動した。だが、村人たちは勝てない相手だとわかった瞬間、怒鳴り散らすだけの大男を置いて、背中に向かって射られる矢から逃れるように、村の外にまで逃げ出すのであった。

「ふんっ。下衆の最後にはふさわしい」

「なんだと、てめぇっ! 余所者がデカイ態度を取ってんじゃねブヘェッ!」

 大男は顔を真っ赤にしながら、ロビンの胸元を掴もうとした。だが、ロビンは伸ばされてきた手をスルッと風に流される布のように躱してみせる。体勢を崩しかけた大男の足に左足を引っかけて、大男を転ばせるのであった。

 大男が転んだところを馬乗りになるアヤメであった。大男は地面を這いまわる虫のように手足をばたつかせる。背中で馬乗りになっているアヤメは一応、確認のためにロビンの方に顔を向ける。ロビンはアヤメにコクリと頷くと、アヤメはにんまりとした暗月のような笑顔になる。

「た、助けてくれぇぇぇ!? 俺様はこの国のルールに従ったまでだぁぁぁ!?」

「確かにこの国のルールに則るならば、お前たちのやっていることは正しいのだろう。だが、そんなルールは直に、我があるじが改める」

「ひ、ひぃぃぃ!?」

 大男は泣き叫びながら、命ばかりは救ってくれとロビンに懇願してくる。だが、ロビンはすでに大男に背中を向け、ネーネの両親の方へと歩いていた。アヤメはうるさいですニャンと言って、クナイを大男の首に突き刺す。そして、かけれるだけ体重をかけていき、クナイをグイグイと首の奥の奥へと押し進めていく。

 大男は標本される虫のように手足をばたつかせ、さらには口から紅い泡を吹きだすのであった。しかしながら、その抵抗も数秒後には終わることになる。アヤメは良い仕事をしましたニャンという表情で、大男から身体を離す。

「どこのどなたかは、なんとなく察しておりますが……」

「話が早くて助かる。この地図にあるこの場所を目指してくれ。自分たちは他にも南ケイ州から亡命させなければならないひとたちがいる。隣の州まで案内出来ずにすまない」

「ようやくこれで半分といったところですニャン。さて、お次はいよいよ、南ケイ州のみやこですニャン。しっかし、エーリカ様はロビンの旦那よりも優しいですニャン。敵兵の命だけじゃなく、その家族の命まで助けろとは……。まあ、アヤメちゃんは依頼された仕事をこなすだけですけどニャン!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...