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第13章:ロリョウの町・攻防戦

第8話:人質

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 南ケイ州からロリョウの町まで進軍してきたチンオウ将軍の1万を撃破した血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は、その日から三日間、戦後処理に追われることになる。エーリカたちはやり過ぎたとも言えた。1万の内、死傷者は5割にまで達している。ロリョウの町の住民たちもチンオウ軍の死体を埋葬するのに駆り出されることになる。

「負傷者には悪いけど、故郷の南ケイ州に帰ってもらうことにしましょう」

「野垂れ死にする可能性が高いが、ロリョウの町じゃ、満足に怪我を治療することも出来んからなぁ。投降した吸収予定の2千の兵に対しても、ロリョウの町民たちは殺せ犯せと声高に主張しやがるし」

「どの口でそんなことを言えるのかと小一時間ほど問い詰めたくなります。先生たちに媚を売るするつもりで言っているなら、お門違いも甚だしいです」

 ロリョウの町は手のひらを返して、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団に従順な姿勢を示すようになった。チンオウ軍の死者を埋葬してくれることも手伝ってくれる。だが、それでも足りぬとばかりに血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団のことを考えて、投降した兵を殺せ犯せと言ってきたのだ。

 本当に州境の町らしい態度である。生き残るためならば、ダブルスタンダードは仕方ないのだ。だが、あからさまに気に入られようとする態度を見せられて、気分が良くなる者は血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団ではひとりも居なかった。

「クロウリー様。言われていたように、町長を説き伏せてまいりましたぞ。いやはや。あの町長のカエルの面に小便な態度には私でも辟易してしまいますな」

「お疲れ様です、カキン殿。あのレベルで厄介な相手にはカキン殿が適任です。これからも頼りにしていますよ」

 カキン=シギョウはロリョウの町でひと仕事を終えて、その報告に砦にあるクロウリーの執務室へとやってくる。クロウリーはカキンを歓迎し、お茶をどうぞとカキンに勧めるのであった。カキンは執務室にあるソファーに座り、クロウリー付きの従者からお茶を受け取るのであった。

「おや。可愛い従者様ではありませんか。いつの間にたらしこんだのですかな?」

 カキンはお茶を受け取り、その従者に感謝の念を伝える。従者は頬をほんのり赤く染めながら、ペコリと可愛らしくお辞儀をするのであった。カキンは好々爺こうこうやの表情をしながらも下衆の極みの発言をする。まさにカキンらしい。

「人聞きが悪いですね。先生は最初、立志式も迎えていない少年兵だとばかり思っていたのです。でも、よくよく聞いてみたら、先生もびっくりしたまでです」

「男の子にしては可愛らしすぎると思ったんだよな、最初は。でも、通りすがりのランがそのひと、女の子ですよ? って、俺たちにツッコミを入れたんだ。まさかと思って、エーリカが裸にひん剥いたら、あーらびっくりってところだ」

 クロウリーたちは投降した兵を一か所に集め、怪我人とそうでは無い者たちとでふるいにかけた。その過程において、あまりにも線が細い少年兵がいたので、何やら事情がありそうだと、少年兵を特別に尋問していたのである。少年兵は最初、おっかなびっくりといった感じであったが、それでも激しく抵抗してみせた。

 クロウリーたちはとって喰うわけではないと、少年兵を説得する。ようやく落ち着いた少年兵はクロウリーたちの尋問に協力的になる。だが、その少年兵は性別までも明かそうとはしなかった。それは当然であろう。敵に捕らえられただけでも、身は危ういというのに、ここで自分が女の子とバレれば、嫁にいけない身体にされるのは必定であったからだ。

「彼女は借金で首が回らなくなった両親のために、兵士となって金を稼ぐ方法を採ったようです。まあ、それはそれで問題があるんですが……」

「見たところ、13歳といったところですな。いくら戦乱のさなかにいるアデレート王国であっても、娼館勤めはできませんゆえに」

 アデレート王国は面子を大切にする国だ。成人していない少女を娼館で働かせることは絶対にないと言い切れる。逆に言うと、成人していない少女は働き口が無いとも言えた。少女は歳を少しだけごまかし、14歳なら働ける場所で働いたまでである。

「で? 大切なことは、この娘さんをクロウリー様が見受けするかどうかですぞ。故郷に帰したところで、根本的なことは変わりませぬ」

「痛いところをずけずけと突いてきますね」

 カキンが正論をもってして、クロウリーを責め立てる。犬や猫を拾う感覚で、13歳の少女を拾ってくるんじゃないと説教したのだ。クロウリーは苦笑しながら、カキンに弁明をおこなう。

「もちろん、彼女については先生が責任を取ります。それこそ、彼女の親代わりとして。その証明として、彼女の両親の保護をアヤメ殿とビロン殿に頼んでいますから」

「うむ。そこが一番大切ですな。家族を人質に取られるは戦国の世の必定。よその州の兵を吸収するのであれば、そやつらの家族もこちらで保護せねばなりませぬ」

 アデレート王国では子の罪は親の罪という概念がホバート王国の10倍以上、強い。ホバート王国は敵に捕縛されたとしても、故郷に残った家族までに塁が及ぶことはそんなに無い。だが、アデレート王国は違う。将軍の家族といえども、敵に捕縛されれば、裏切り者扱いされて、家族の命が危険に晒される。

 先日、捕縛されたチンオウ将軍はエーリカに家族の亡命を手助けしてほしいと願い出る。エーリカは最初、何を言っているのかわからないという表情になっていた。そして、カキンとコッサンはエーリカたちは知ったうえで、チンオウ将軍を捕らえたのだと思い込んでいた。

 エーリカたちは慌てて、投降した兵たちの家族を保護する動きを見せた。ニンジャであるアヤメ、そして狩人ハンターであるロビンを南ケイ州に送ったのだ。彼女らからの報告待ちであるクロウリーは何かあれば、自分の従者にしているネーネを自分の娘として責任を取る覚悟を持っていた。

「そこまでの考えがあるなら、自分からはこれ以上、何も言いますまい。しかしだ。いっそ、クロウリー様の嫁にしてしまっても良いかと思いますぞ」

「それはさすがにどうかと思いますね。先生はボンキュッボンな女性が大好物なので……」

「ネーネ、いいか? 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の掟として、こういうやからに対しては、タイキックを太ももの裏に思いっ切りぶち込むんだ。そして、機嫌を悪くして、どこかに消える。そしたら、クロウリーがお前を探しに行く。俺たちはそんなクロウリーを見て、ニヤニヤとした笑顔になれる」

 それ、どこのお前だよとツッコミを入れたくなってしまうクロウリーとカキンであった。ネーネの方はクロウリーとタケルの方を交互に見つつ、そんなたいそれたことは出来ませんと断りを入れるのであった。

「タケル殿の世迷言は無視しておいてください。でも、もしもの場合は先生が責任を取って、ネーネ殿を養育し、さらにはネーネ殿が幸せになれる殿方を見つけてさしあげましょう」
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