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第13章:ロリョウの町・攻防戦

第3話:カップリング

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 コッサンは熱弁を続けた。ホバート王国出身であるエーリカたちに、アデレート王国とはそもそもどんな国か知ってほしいと思ったからだ。

「建前では『天命』という言葉を使いますが、その時代において、天下をとった人物とその人物が所属する民族が一番偉いのです」

「う~~~ん。文化の違いってやつなのはわかっているつもりなんだけど、気持ちが追い付いてこないわ」

「エーリカ殿は王道を大切にされるがゆえに納得できないのはわかっています。しかしながら、建前では天命を唱えるわりには、実際は武力で他民族を抑えつけているのがアデレート王国なのです」

 いちゃもんレベルであろうが、それは立派な大義である。相手よりも強い戦力を保持し、そこに大義さえあれば、相手をぶん殴れる口実と出来るのだ。力こそがまず先に来て、その後に正義がやってくる。ホバート王国とは根本的にそこが違うだとコッサンはエーリカたちを説く。

「でも、いくらコッサンが熱くなろうが、あたしはあたしのやり方を変えるつもりは無いわよ。あたしの正義がいつでも正しいとまでは言わないけど、あたしはあたしのやり方で、テクロ大陸に平和な国を創る気よ」

「それでこそ、我があるじと仰いでいるエーリカ様です。どうか、エーリカ様はアデレート王国の文化に染まらないようにしていただきたい」

 エーリカの返答に満足したのか、コッサンはエーリカに拱手きょうしゅし、その場から三歩下がるのであった。エーリカはコッサンが元の位置に戻ったのを確認すると、軍議の話に戻るのであった。

「クロウリーの予測では南ケイ州からの1万の軍がロリョウの町に到達するのは五日後の昼前ってところよ。そして、あたしたちにはホランド将軍が率いてくる2千の兵の到着を待つ猶予は無い。残された五日間があたしたちの勝負を決めるわ」

「腕が鳴るでござるなっ! 遅れてきたホランド将軍が、自分の活躍場所はどこだ!? と慌てふためる姿を見ようではござらぬかっ!」

「然り。ホランド将軍をしり目にブルースがマーベル女傑と安心してデートが出来るようにセッティングしてやらねばなるまい」

「アベル、何を言っているのでござる!? 拙者はマーベル殿とデートしたいがために戦うわけではござらぬよ!?」

「まあまあ、良いじゃない。それくらいの不埒な動機で息巻いてくれるほうが、ニンゲンらしくて、あたしは好きよ。建前は大事だけど、誰かのために頑張ったほうが、よっぽどブルースらしいもん」

 真面目なアベルが珍しくも冗談を言うので、エーリカはアベルの冗談を前向きに捉えるようにとブルースに言う。ブルースは納得しがたい顔をしていた。そんなブルースに対して、畳みかけるのがタケルであった。

「ブルース。そんなに難しく考えるなっての。アベルはアベルなりに、気負うブルースを気遣ってのことなんだ。ブルースはいくさで頑張ったから、ご褒美にマーベル殿とデートが出来るってくらいに思っておけばいい」

「タケルお兄ちゃん、ご褒美って言い方、気に入ったわ。じゃあ、1万の軍隊を全部蹴散らしたら、ブルースだけでなく、他の皆にもご褒美として、デートの時間を作るわね。クロウリーは兵の皆にそう伝えておいて」

 エーリカがクロウリーにそう言うと、クロウリーはかしこまりましたと受ける。エーリカは満足気な表情で、軍議をお開きにするのであった。ブルースはもう少し何かを言いたげな表情であったが、彼の補佐であるケージ=マグナとラン=マールがブルースの手を引っ張って、デートのプランを俺たちが考えておくぜ? と作戦室から退出していく。

 エーリカはブルースのことはケージたちに任せておけばいいでしょという顔つきになっていた。そんなエーリカの目の端に映ったのがコッサンであった。他の者が次々と作戦室から退出していくのに、コッサンだけはその場で不動のままであった。エーリカは作戦室にクロウリーとタケル、それにセツラ、さらにはコッサンだけとなった後、コッサンにどうして、この場に残り続けたのかを問うことになる。

「身共はこんな性格がゆえに、デートをする相手が居ませんでしてね」

「あらっ。それは大変ね。ご褒美として、デートの時間は確保するつもりだけど、デート相手まで用意しろと言われても困っちゃう。クロウリー、あたしが約束したのはデートの時間までだったわよね?」

「意地悪が過ぎますよ、エーリカ殿。アデレート王国風の嫌みに染まらないようにご注意してください。それはさておき、先生もうっかりしていました。血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は若いひとが多いので、放っておいても自由にカップルが成立しちゃいますので」

 ニンゲンは歳を取れば取るほど、恋愛すること自体が億劫となってしまう。元からまったくモテないニンゲン性の人物は除外するとして、人生において、何かしらカップリングが成立しそうになる時期が訪れるものだ。それを受け入れるか拒否するかは本人次第だが、それでも、そういう機会にまったく恵まれないほうがおかしいとも言えた。

 何かしらのグループに所属している以上、ニンゲン関係というものが発生するし、それを醸成するイベントも起きて当然なのだ。世間と隔絶して、仙人になる修行をするなどの、よっぽどのことが無い限り、そういう機会は必ず一度は訪れる。

「恥ずかしい限りなのですが……。男にモテるのだが、女性からはなんだか底が見えなくて怖いと言われてですな……」

「わかるーーー。ほんと、わかるーーー。あたしもコッサンのことを異性として、付き合いたいとかまったく思わないもーーーん」

「エーリカ殿……。コッサンがいじり甲斐のあるネタをコッサンの方からぶっこんできたのはわかりますが、彼はまだ血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団に所属してから十日余りなのです。彼が思っている以上に血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部がエーリカ殿の提案をすんなり受け入れたことに焦りを感じているのです」

 クロウリーがコッサンに代わり、弁明をおこなえばおこなうほど、エーリカとタケルの顔にはニヤニヤ感が強まっていく。エーリカは単純にこの状況を面白がっていた。だが、エーリカはタケルという男を見誤っていた。タケルは基本、お節介焼きなのだ。そして、タケルとしては善行として、次のような発言をしてしまったのだ。

「なら、セツラとデートするってのはどうだ? エーリカはしょうがないとして、セツラに声掛け事案が驚くほどにないんだよ、うちは。コッサンが良いなら、俺がセツラを紹介するぜ?」

「タケ……ルお兄ちゃ……ん??」

「あの……、タケル殿は本当に……なんて言うか??」

 エーリカとクロウリーはタケルのとんでも発言により、一瞬で固まってしまう。しかしながら、固まってしまった身体を何とか動かし、タケルのド天然で、とばっちりを受けてしまったセツラの方を向く。セツラからはとんでもない量の怒気が身体から溢れ出さんとしていた。エーリカとクロウリーは固まった身体から止めどなく冷や汗が噴出しまくる。

「タケルお兄さんから見て、わたくしはコッサンさんと釣り合うのでしょうか?」
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