上 下
111 / 197
第11章:上陸

第7話:吊り橋効果

しおりを挟む
「おいおい。放っておいていいのか? 命までは取らないとあの蒼き竜ブルー・ドラゴンを脅したのは、クロウリー、お前だろっ」

「はい。その通りです。蒼き竜ブルー・ドラゴンもその辺り、上手くやってくれますよ。ちなみに、タケル殿は吊り橋効果って知ってます? 女性を堕とす時の汚い技術テクニックのことですが」

「ん~~~。言わんとしていることはわかる。だが、それも程度によるよな?? あちゃぁ~~~。ミンミンなら、そうすると思ったぜ」

 タケルとクロウリーは蒼き竜ブルー・ドラゴンの巣に入り、タマゴを収穫していた。そこに巣の異常を嗅ぎつけた蒼き竜ブルー・ドラゴンのオスが戻ってきた。そして、メスたちの前で威勢よく、クロウリーを怒鳴りつけてみせた。だが、如何せん、蒼き竜ブルー・ドラゴンのオスが鼻息を荒くして対峙している相手は、偉大なる4人の魔法使いであった。

 鼻息を荒くしていた蒼き竜ブルー・ドラゴンのオスはうってかわって、大魔導士に命乞いを始める。大魔導士は見逃す代わりにと、竜の住処ドラゴン・テリトリーの入り口で大暴れしている男女にほどよくちょっかいをかけてこいと命じたのであった。

 クロウリーとタケルは小高い丘の上へと移動し、ミンミンの活躍を観察していた。打ち合わせ通り、先ほどの蒼き竜ブルー・ドラゴンが逃げ惑うミンミンを追いかけている。そして、極めつけの竜の凍てつく息吹ドラゴニック・アイスブレスであった。

 役目を終えた蒼き竜ブルー・ドラゴンはバッサバッサと背中の羽を羽ばたかせ、その場から去っていく。その場に残されたのは氷漬けになったミンミンであった。ミンミンが盾となったことで、ケンキには傷ひとつ付いていない。だが、彼女は氷漬けになってしまったミンミンの前で両膝をつき、号泣していた。

「ミンミン……。ミンミン……」

 ケンキはこの世の終わりかのように号泣していた。しかし、いくら泣いても、もうミンミンは戻ってこない。それがどれほどに悲しいことなのか、ケンキは知ることになる。だが、ミンミンは『真に優しい男』であった。

 泣き崩れるケンキは、眼の前で起きている現象が創造主:Y.O.N.N様の御力で起きている奇跡だと思ってしまう。氷漬けになっているはずのミンミンが内側から、その氷の棺を砕いたのである。氷の棺に次々と内側から亀裂が入っていく。その亀裂は瞬く間に氷の棺全体に走っていく。

 ついには、ミンミンは自力で氷の棺から脱出してしまうのであった。

「ミンミン……。ミンミン……」

「いやぁ~~~。本当に死ぬかと思ったんだべさ。ケンキさんの泣き声が聞こえた気がした瞬間、エーリカがおいらを怒鳴りつけたんだべさ。あんた、惚れた女を泣かしてどうすんのよっ!! って。おいらもそんなの嫌だと思って、あらん限りの力で抗ってみせたんだべさ!」

「ミンミン……。ミンミン……。本当にバカぁぁぁ……」

「よ~~~しよ~~~しだべさ~~~。おいらはバカだから、こんな時、どんな風にケンキさんの涙を止めたら良いかわかんないんだべさ。バカなおいらにケンキさんの涙を止める方法を教えてほしいんだべさ」

 ミンミンは泣きじゃくるケンキを宥める。ケンキを抱え上げ、あとでゆっくり叱られるからと、その場から立ち去るのであった。ミンミンはゆっくりと歩きながら、キョロキョロと辺りを見渡す。すると、視線の先にはクロウリーが心配そうな顔つきをしながら、ミンミンの方に急いで走ってきていたのである。

「はぁはぁはぁ……。すいません、蒼き竜ブルー・ドラゴンのタマゴを収穫していたら、怒った蒼き竜ブルー・ドラゴンが先生たちを追いかけ回しまして……。ミンミンさんは大丈夫でした?」

「おいらはちょ~~~とばっかり寒い思いをしただけなんだべさ。でも、ケンキさんがショックで心に大きな傷を負ってしまったようなんだべさ」

「それはいけませんね。すぐに竜の住処ドラゴン・テリトリーの外へ出ましょう!」

 迫真の演技をしているクロウリーに対して、頬がぴくぴくと痙攣してしまっているタケルであった。本当のことをぶっちゃけたいが、普段、温厚なニンゲンがキレるのがこの世で1番怖いというのは定説通りである。クロウリーの手によって生成されたゲートをミンミンが先に通り抜けていく。

「おい、クロウリー。今回のは明確な貸しだからな?」

「あれ? 先生と共犯になってくれないのですか?」

「うるせぇ。本当のことをエーリカが知ったら、さすがにブチキレるに決まってる。いくら、エーリカのためとは言え、これは墓場まで持っていかなきゃらん秘密だわっ!」

「先生もやりすぎだとは重々承知です。でも、これはエーリカ殿のみならず、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団全体にも関わるカップリングです。先生は喜んで、自ら進んで地獄行きの切符を購入します。タケル殿が同じ切符を買ってくれないのは寂しいですが……」

「ちっ! わかったよ。俺も共犯ってことにしておいてくれ。エーリカにどでかい神鳴りを落とされるなら、二人で仲良く受けるぞ」

 タケルはクロウリーに告げると、ゲートをくぐる。そして、誰も居なくなった後、コッシローがクロウリーの肩で存在感を露わにするのであった。その後、ガブリと思いっ切りクロウリーの鼻を噛むのであった。

「本当、バカはお前なのでッチュウ。お前は無駄に罪を背負いすぎでッチュウ」

「コッシローくんでも、さすがに今回の件は大激怒ですね」

 クロウリーは困ったような顔つきになる。怒りが収まらないのか、コッシローはフンッ! と顔を背ける。だが、コッシローは再び存在感を消していく途中で、クロウリーに告げる。

「タケルを共犯者にするなら、ボクも当然、共犯者にすべきなのでッチュウ。お前は優しいゆえに、悪者になりたがる。悪者役はボクに押し付けるべきでッチュウ。それがボクの存在する意味なのでッチュウ」

「コッシローくん」

 クロウリーが返事を返す前に、コッシローの存在感は消え失せてしまう。クロウリーはおおいに反省すべきですねと思う。しかし、クロウリーには軍師としての使命があった。エーリカ並びに、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団全体のことを考えて行動せねばならない。クロウリーは来た道を戻れぬ覚悟をしつつ、自分で作ったゲートをくぐるのであった。

 こっち側の世界に戻ってきたクロウリーは花茶をティーカップに注ぐ。それを手渡されたミンミンは毛布でグルグル巻きにされ、さらにその上からケンキに抱きしめられていた。

「あのぉ……。おいら、そこまで重傷じゃないんだべさ」

「ばかもんっ! 凍傷を甘く見るでないっ! わたくしが温めてやるといっておるのだっ! ミンミンは三日ほど、激しい運動は厳禁だぞっ!」

 熱々のふたりを部屋において、花茶以外に何か身体が温まるものを持ってくると言い、タケルとクロウリーは部屋から逃げるように退散する。タケルは部屋から出るなり、肩をがっくしと落とす。

「クロウリー。俺は罪の意識で、自分からゲロッちまいそうだ」

「ダメですよ。墓場まで持っていくと先ほど言ったばかりじゃないですか。しっかし、やりすぎたことは認めます。もちろん違う意味で。先生たちがもう1度、この部屋に戻ってくる頃には、裸で抱き合った方がより身体を温められるぞっ! とか言い出していませんよ……ね??」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...