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第10章:里帰り

第9話:再出立

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 村の広場で談笑しあうエーリカたちに村の大人たちが近づいていく。別れの時間は刻々と近づいていた。エーリカたちは親との別れを惜しむように抱き合う。そして、もう1度、元気な姿を見せるんだぞと、大人たちから言われてしまう。エーリカたちは元気にハイ! と答えるのであった。

「エーリカ。オリハルコンを溶かしたこんだ特性の刀油を渡しておく。今はこれだけしか作れていないが、時期を見つつ、途切れぬようにお前の手元に届くようにしておくぞ」

「ありがと、パパ。でも、すごいわ。パパの説明では、ちょっとした刃こぼれくらいなら、直しちゃうなんて。この刀って、もしかしてオーバーテクノロジー??」

 エーリカが腰に佩いている刀に左手を添えて、自分のパパからとんでもないものをプレゼントれたのではなかろうかと、今更ながらに驚いてしまう。ブリトリー=スミスが打ったこの刀をブリトリー本人は『神殺しの剣ゴッド・スレイヤー』と名付けている。エーリカ本人は小恥ずかしい気持ちになってしまい、この刀の名をそのまま呼ぶことが出来ないでいた。

「エーリカのためだけに打った刀だ。それだけの自信がある逸品だ。先の大戦おおいくさでも、微塵も刃こぼれもしなかった。だが、それでもエーリカ本人の腕がまだまだ未熟であるために、歪みは起こしていた。その刀の面倒はエーリカ本人がおこなうのだぞ」

「確かに、あたし自身の剣の腕前が、この刀の出来に追いついてないのは痛々しいほどに実感させられたわ。でも、そう遠くない将来で、この刀で剣王の刀を打ち砕いてみせるっ! パパの最高傑作はこっちのほうだって、剣王に見せつけてやるのっ!」

「そうなることを祈っているぞ。剣王様に渡した刀は、自分の禍々しさが宿っている。今思えば、あの刀は純心ピュアとは言い難いほどに歪んだ自分の心情が乗せられている。エーリカ。お前に頼むのは本当は間違っているのかもしれん。だが、あの刀の間違いをエーリカが正してくれ」

 エーリカはパパに向かって、力強く頷いてみせる。そうした後、エーリカはもう1度、パパを抱きしめ、目を閉じる。

「次はいつ戻ってこれるか、わからないけど、ママとパパの間に産まれて、育てられたことを誇りに思ってる」

「ばかやろう。それは結婚式の時にパパに言う言葉だろ。お前はこれから、自分の果てしない野望を叶えるだけでなく、お前はお前の幸せを見つけるんだ。それがパパとママにとっての本当の幸せだ」

「もしかしたら、野望はちゃっちゃっと果たしちゃって、むしろ結婚のほうがかなり遅れちゃうかも。パパが生きているうちに孫を見せれなかったら、ごめんね? 先に謝っておく」

「ふんっ。エーリカはママに似て、これから一層、美人になるんだ。何を寝言を言っている。嫌でも男のほうから言い寄ってくるようになる」

 ブリトリーはエーリカから身体を離すと、次はエーリカのお兄ちゃん役をやっている男の方に視線を向ける。エーリカのお兄ちゃん役は、エーリカのパパと目線が合うと、ん? 俺の顔に何かついてる? という表情になる。この飄々としている男にイラッとくるブリトリーであった。だが、ブリトリーはタケルに深々とお辞儀をする。

「エーリカのことを頼んだぞ、タケル。俺がエーリカの側にいてやれない分、タケルがエーリカを護ってくれ」

「はい、わかりました。エーリカのことは俺がこの命にかけて、護り抜いてみせます」

「おーーーい。良い雰囲気のところ悪いが、タケルくん。うちの娘のことも護ってくれやせんか! 出来るなら、うちの娘の子供の分も頼むわっ!」

「カネサダさん、俺はエーリカだけで手がいっぱいですよ!? 大事なセツラさんを俺なんかに任せていいんですか??」

 せっかく、タケルと真正面から向き合っていたというのに、それに水を差してきたカネサダ=キュウジョウをブリトリーは睨みつける。この男はいつもそうだ。村のまとめ役でありながらも、どこかタケルと似た部分を匂わせる男だ。あとでこってりと説教してやろうとさえ思ってしまう。

 そうしておかないと、これから先、妻のタマキが出産を終えた後、カネサダに散々にイジられることが確定であったからだ。職人気質でぶっきらぼうで、さらに余所者であるブリトリーを何も言わずにオダーニの村に快く迎え入れてカネサダである。都会より、田舎のほうがよっぽど陰湿だと言われることがあるが、それは余所者に対してのことだ。

 だが、カネサダは事あるごとに、スミス一家の面倒を見てくれた。タケルにエーリカの将来も託そうと思って、タケルにエーリカを頼むと言ったのに、そこに便乗してくるのは、さすがに過干渉だろうとツッコミを入れたくなってしまう。しかし、そのカネサダが娘に蹴りを入れられている。その2人の姿を見て、ブリトリーはもっと娘に嫌われてしまえと思ってしまう。

「じゃあ、皆、行ってくるね! 次に戻ってくる時は、エーリカ帝国ご自慢の品々を持ってくるわっ!」

 それって、何年、いや、何十年、何百年先の話だよと大人たちから総ツッコミを喰らってしまうエーリカであった。エーリカははにかみながら幌付き荷馬車の荷台へと飛び乗る。そして、村が見えなくなるまで、大きく手を降り続けた。

「ほんと、1年くらい振りだってのに、オダーニの村は相変わらず、オダーニの村だったわ」

「あのジャイアンが結婚していたのには驚いたでござるがな。変わっていくことは変わっていくでござるが、オダーニの村自体の雰囲気は、これからも変わらないと思うでござる」

「そうであるからこその故郷であろう。それがしたちの原点にして、出発点だ。この先、何があっても、オダーニの村のことをそれがしは忘れないぞ!」

「いや、お前ら2人は未来の嫁さんを連れて、近いうちにもう1度、オダーニの村に挨拶回りだぞ? 何を良い感じにしめてるんだ??」

 タケルの冷静なツッコミを受けて、ブルースとアベルは塩をかけられたナメクジのように小さくなっていく。まったく、こいつらは……とタケルにまで言われてしまう始末であった。ミンミンがアベルにおいらも一緒にレイのことを説明するだべさと言ってくれる。だが、エーリカはそれはダメよとはっきりとミンミンを静止する。

「ミンミンは優しすぎる。これはブルースとアベルが大人の男としての、通らなきゃならない通過儀礼なのっ。優しくすることと甘やかすことはまったくもって別物よ」

「うっ。申し訳ないだべさ。アベル、おいらはアベルがもっともっと立派になってほしいから、おいら、心を鬼にするだべさ!」

「ミンミン……。それがしを甘やかしてくれ……。最近のレイはそれがしを立派な隊長にしたくて、エーリカ以上にスパルタなのだっ! それがしの心のオアシスはミンミンしかいないのだっ!」

 アベルが泣きごとをミンミンに言っている。だが、幌付き荷馬車の荷台で相席している面々は王都に戻るなり、レイヨンにちくってやろうと思っていた。アベルの味方は残念ながら、ここにはいなかったのだ……。
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