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第9章:スタート地点

第7話:拳王の過去

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 拳王の過去を興味深く聞いていた面々はとある疑問を口にする。キョーコは若いこいつらなら、そう思って当然だろうなと、ふむ……と息をつく。

「うちは剣王と互角に渡り合っていたのは事実じゃわぃ。ただ、それは剣王との一騎打ちにおいてに限ってだわぃ。まあ、それも急に力をつけた剣王に一騎打ちですら、破れてしまったんだがな」

「キョーコ殿を一騎打ちで破るのも、大概のバケモノっぷりでござる、剣王は。いくら反攻作戦に打って出たとしても、かなめはキョーコ殿本人を打ち破ったとういう事実でござる」

「自分で答えを言っているではないか。うちは負けてはいけないここ1番で負けてしもうたんじゃぁ。だから、うちは傷心の果て、生まれ故郷のホバート王国へと流れてきたんじゃぁ」

 拳王はなかなかにすごい人生を送っているもんだと、感心してしまう血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部たちであった。4人の武王は『一騎当千』と呼ばれるほどの存在だ。並みの兵士では絶対に抑えきれない武力を個人で有している。本来は拮抗し合う存在であるがゆえに、剣王は拳王と斧王のタッグにより、どんどんとテクロ大陸の端っこへと追い詰められた。

 だが、その状況を一変させる存在が大賢者であった。大賢者は剣王に知恵と道筋を与え、剣王はその通りに動いた。そして、小賢しい罠など食い破れると思っていた拳王は、大賢者が用意していたドラゴンすらも捕らえる罠へと飛び込んだ。自分の率いた軍と孤立させられ、進退窮まるキョーコは剣王との一騎打ちをおこなう。

 しかし、いちかばちかの勝負もまた大賢者の描いた物語りストーリーであった。キョーコは身体から滲み出る悔しさを何とか抑えながら、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団のために、辛い思い出を語ってみせる。

 あの時のキョーコ率いる一軍は孤立していた。明らかに今までの剣王の戦い方とは違っていたことに気づかぬにだ。剣王の戦い方は大賢者を迎え入れたことで、少しずつ変わってきていたのを野生の勘で気付きはしていた。だが、それは剣王と異質な存在である大賢者を迎え入れてしまったがゆえの『綻び』だと断じていた拳王である。

 しかし、その綻びを好機と見てしまった拳王は斧王の静止も聞き入れず、単独で軍を動かし、あまつさえ、大賢者が用意した罠へと飛び込んだ。

「あの時はイケる! と思っておった。それこそが罠よ。博打打ちが大チョンボをかますアレに似ていたのぉ」

 拳王はまるで100年前の出来事を思い出すかのように、あの時の戦いを懐かしんでみせる。今、思い返せば、自分はキレイすぎるほどに大賢者の策でハメられた。こうやって、時間を置いてみせると、あの当時、見えなかったものが見えてくる。

「剣王配下の将が率いる一軍が瓦解し、さらにはこちらに背中を向けて、一目散にとある場所に逃げ込んだんじゃぁ。うちも本当のバカじゃないから、それが罠とはわかっておったわぃ。でも、あの時は何故か、野生の勘が鈍っておったわぃ」

 キョーコが追っていた将を救援するために、小勢がキョーコの軍へとちょっかいを出してきた。そのひとつひとつを打ち破っていくたびにキョーコはこのまま行けると思ってしまった。まさにドツボにハマる5秒前へと、キョーコは誘われていた。

「そして、気づいた時には、とっくに手遅れになっていたというわけだわぃ。うちに残されていたのは、高笑いしている剣王と一騎打ちすることだけじゃったなぁ。いや……。今思えば、あの一騎打ちを受けることすら、大賢者の思惑通りったのじゃろうてぇ」

 剣王との一騎打ちに敗れた後、キョーコは捕縛された。そして、捕縛されたままに、大賢者によって見せられた光景により、キョーコの心はボッキリと折れてしまう。

「いや~~~。相変わらず悪趣味ですね、ヨーコ殿は。軍全体が崩壊していく様を拳王殿にわざわざ見せつけますかね??」

「チュッチュッチュ。クロウリーは甘いところがあるから、そこまでしないでッチュウね。しかも、ネチネチとお前のせいじゃぞ? おーほほほっほっほ! と高笑いしているあいつの姿が容易に想像できるのでッチュウ」

「傍若無人だと自分で言ってしまえるうちでも、あの光景は絶望に尽きるわぃ。ああいうのは二度と体験したくないほどじゃぁ」

 大賢者:ヨーコ=タマモは拳王を捕縛した後、彼女をわざわざ見晴らしの良い高台へと連行する。拳王の目に映ったのは、さまざまな場所で剣王の軍に負けていく自軍であった。大賢者は拳王のために特等席を用意していた。拳王は最初、怒りで身体全体を振るわせていた。斧王が抗いを見せ、さらには剣王の勢いを挫いてほしいと願っていた。

 その願いは空しく崩れ去ることになる。それと同時に、キョーコも膝を折り、高台で懺悔するのであった。そんな拳王をさらに追い込むべく、大賢者が次の行動に出る。

「いやぁ。あの時のうちは憔悴し、さらにはまともな判断ができなかったわぃ。釈放された時点で、大賢者の喉笛を噛み切ってやればよかったのに」

「そうならないことも計算済みですよ、あの女狐は。いやぁ、聞けば聞くほど、追い込み方が徹底してますね。釈放して、さらには放置プレイですよ? ヨーコ殿は生まれながらにしてのサドなのかと思ってしまいます」

「チュッチュッチュ。あいつは自分が放置プレイをされると、ブチ切れしていたでッチュウね。なんで、わらわを構ってくれぬじゃっ! と。その度にボクが八つ当たりをされていたのでッチュウ」

「いや、まあ……。高飛車で高慢ちきに見えて、裏ではめちゃくちゃ甘えてくるんですよね。先生がもう立たない出ないと申しているのに、それでもくっついてくるんです。……。コッシローくん、先生を非難するような目で見るのはやめてくださいませんか?」

 話が脱線しそうな雰囲気を感じたクロウリーはわざとらしく咳払いをひとつする。さらにはごまかすように、キョーコの話をまとめ始める。

「剣王:シノジ=ザッシュは大賢者:ヨーコ=タマモというブレーンを迎え入れました。そのタッグにより、拳王殿ですら赤子扱いです。そのアデレート王国で一旗揚げようとしている以上、幹部の皆さんにはより一層、日頃の鍛錬に励んでほしいということです」

「クロウリーと大賢者の過去は気になるけど、それはまたの機会にじっくり話を聞きましょ。クロウリーの言う通り、あたしたちは進んで火中の栗を拾いにいくことになるわ。でも、それは剣王と大賢者の餌になりにいくわけじゃない。あたしたちがあのタッグを喰ってやるのっ! 皆、その意気でお願いねっ!」

 エーリカがそう宣言すると同時に、会議室に集まる面々は互いの顔を見合い、コクリと頷き合う。そうした後、エーリカを支え続けようと、各々が口に出す。エーリカはホッと安堵する。拳王:キョーコ=モトカードに剣王と大賢者の恐ろしさをとくとくと語ってもらった。

 だが、その話を聞いて、必要以上に委縮してしまう者は居なかった。それどころか、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の名をあげるための踏み台になってもらおう! と勇ましい声をあげる幹部たちであった。
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