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第7章:エーリカの双璧

第6話:査問会

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「本会議の司会であるクロウリー=ムーンライトです。本日はこの査問会にお集まりいただきありがとうございます。さっそくですが審議をおこないます。アベルカーナ=モッチンが有罪か無罪か、査問会の皆様、ご提示ください」

「もちろん有罪ギルティね」

有罪ギルティに一票、だなっ」

「控えめに言って有罪ギルティですわ」

「というわけで残念ながら、アベルカーナ=モッチンは有罪ギルティと……」

「ちょっと待てぃぃぃ! 被疑者のそれがしへの質疑応答の時間は用意されていないのか!?」

 被告席に立つ男、アベルカーナ=モッチンが異議あり! 大有りだ! と大声で叫ぶ。だが、査問会のメンバーは眉をひそめ、さらにはひそひそと互いに耳打ちし合うのであった。ざわつく会議場において、議長であるクロウリーがごほんとひとつ咳払いをした後、木づちで机を叩き、静粛にお願いしますと査問会のメンバーに注意を促すのであった。

「確かに被告である被疑者:アベルカーナ=モッチン殿には弁明する機会を与えていませんでした。しかしながら、自分でもわかっていますよね? いくら弁明したところで罪は消えないって」

「そこはそれがしの話を聞いた後にしてほしいっ! やましいところが一切無かったと証明してみせよう!」

 アベルカーナ=モッチンの立ち姿は堂々としていた。しかしながら、こういうのを男の開き直りよねと査問会の女性陣がまるで汚物を見るような視線をアベルに飛ばす。アベルは憤慨しそうになるが、討論中に怒れば、それはやましさからきている証拠と受け取られるホバート王国ならではの風土から言えば、アベルは怒りに任せての弁明は不利だと考える。

 査問会はここ1週間のアベルの取った行動を問題視していた。アベルにしてみれば、いきなりこっちに来なさいとエーリカに言われて、借りている屋敷の会議室に顔を出してみれば、すでに査問会の準備はすっかり整えられていた。さらには今回の事件の被害者とも呼べる人物が原告席に座るべきかどうかなのか、おろおろと迷っているのであった。

 アベルはいまいち、この査問会が何故、開かれたのかわからない。だが、被告の弁明者と思われるミンミン=ダベサが、とある事実をアベルに告げるのであった。アベルの目は剥き出しになる。未だに原告席に座っていいのかどうか迷っている人物とミンミン=ダベサを交互に見ることになる。

 そして、頭が混乱しきっているところに追い打ちをかけるように、査問会が開かれると同時に査問会のメンバーたちが口を揃えて、アベルに有罪ギルティだと突きつけてきたのである。こんなのを査問会と呼べるならば、私刑リンチですら立派な査問会だと叫んでしまいかねないアベルであった。

「では、査問会用に時間を取ってありますので、その時間潰しのためにもアベル殿の話を皆様で聞きましょう」

「時間潰しとはこれ如何に!? それがしは必死に語らせてもらうぞ!?」

 アベルは鼻息を荒くしながら、絶対に無罪を勝ち取ろうとした。そして、熱い情熱をそのままにここ1週間の詳細を査問会のメンバーに教えるのであった……。

 これより時間を1週間巻き戻そう。この日、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団のエーリカ、クロウリー、そしてクロウリーの事務方の補佐であるボンス=カレーが一同に介した。彼女ら3人は血濡れの女王ブラッディ・エーリカの双璧であるブルース=イーリンとアベルカーナ=モッチンに付ける2人の補佐に関して話し合っていた。

「ブルースはケージやランと上手くやっているようね。ブルース隊の士気も上がってきて、あたしは満足だわ」

「そうですね。普段は少し気弱なところを見せるブルース殿ですが、陽気なケージや良い意味でも悪い意味でもポジティブシンキングなランが上手く補佐として働いてくれているようです」

「しかし、問題はアベル殿の補佐ですな。ひとりはミンミン=ダベサ殿で今はその席を埋めていますが、ミンミン殿は一角ひとかどの将器を十分に持っている御方。このまま、アベル殿の補佐のままで終わらすのは非常にもったいない限りですぞ」

 ブルース=イーリンに関しては何ら問題が無かった。この時点ではだが。この後、ブルースとその補佐たちがとある将軍旗下の隊長を巻き込んでの大騒動を起こすのだが、まだ可愛いほうであった。

 まさか自分たちが血濡れの女王ブラッディ・エーリカの未来のために取った施策を台無しにしかねないことを、こともあろうか、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの数少ない常識枠のひとりであるアベルがかましてくれることになる。

 ブルースは鉄火場のクソ力を発揮するタイプである。それゆえにブルースのほうは普段は地味だが、いくさ場の重大場面には欠かせないほどの将器を見せてくれる。ブルースはまさに戦場の華であった。そういう意味からしても、補佐のケージやランとは相性が良かったのだ。

 一方のアベルカーナ=モッチンは本当に生真面目な男だ。クソがつくほど真面目だ。辺境の村:オダーニの悪ガキ集団の一員のくせに、その反動もあってか、今では真面目一筋に生きている。そんなアベルだからこそ、心優しい力持ちのミンミンとは相性が良かったとも言える。互いの弱点を認め合い、互いに切磋琢磨できる間柄であった。

 だが、ミンミンは文官のボンス=カレーから見ても、将の器を有しているほどの武辺者であった。なぜ、こんな優しい男が気荒らしいエーリカの一配下に収まっているのかがわからないほどである。普段でも頼りになるミンミンの包容力。そんなミンミンは先の大戦おおいくさでは、何度もアベルの窮地を救ったと聞かされている。

 本当にもったいないと思っているボンス=カレーであるが、ここで1点、大きな問題が血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団にあった。その問題とは、どうやりくりしたところで、兵数自体も足りない。そして、隊長格を増やしたことろで、彼らに補佐をつけることが出来ない状況であった。

 武官に限った話になるのだが、1軍の将としての資質に溢れた人物と、その人物を補佐することに長けた人物。その他大勢の3種類に分けられる。ここで言う、その他大勢には凡将も含まれている。そこそこの活躍くらいしか期待できない人物であるなら、そこまで肩入れする必要は無い。血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は精鋭部隊となるべく、団員採用でも、そこを徹底してきた。

 しかし、その狭き門が弊害を産み出していたのは、まさに皮肉としか言いようがなかった。あまりにも1軍の隊長格にこだわりすぎたために、そもそもとして採用される人数が少なすぎたのだ。

「無い腹を背と変えるわけにはいかないわ。別にクロウリーたちの採用基準に文句を言っているわけじゃないわよ」

「雪が溶け、春の訪れ、さらには初夏がやってくる頃には先生たちはテクロ大陸本土へカチコミをかけなければなりません。ここは折衷案でいきましょう」

「良すぎる人材を採用できないならば、代わりに良い人材に育てる作戦ですな。最初の実験台としては、真面目なアベル殿が適任でしょう」
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