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第7章:エーリカの双璧

第1話:ブルースはモテたい

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「あら~~~、ブルースちゃん。若いのに腹筋がバキバキじゃないのぉ!」

「肌もすべすべ……。オネエさん、うらやましぃ!」

「イヤァァァ! ブルースちゃんの太ももで締め落とされたいわーーー!」

「そ、そうでござるか? あまり身体をまさぐらないでほしいのでござ……る」

 ブルース=イーリンはケージ=マグナに誘われて、王都にあるとあるバーへとやってくる。そこでは16歳のブルース=イーリンにとっては刺激が強すぎる場所であった。オネエさんたちが一斉にブルースを取り囲み、今晩、ブルースちゃんを筆おろしをするのはワタシよ! とばかりに自分たちの魅力をアピールしまくるのであった。

 しかしながら発情期真っ盛りであるはずのブルースは困り顔になっていた。それもそうだろう。ブルースの性的指向は至って『ノーマル』であったからだ。オカマのオネエさんたちに囲まれても嬉しい気持ちになれるわけがない。それどころか、戸惑いのほうがよっぽど強かった。

「羨ましいねえ。俺っちにもおすそ分けしてくれねえか?」

「あらいやだ。ケージちゃん。オネエさんたちに供物を捧げにきたのはケージちゃん本人でしょ? う~~~ん。若いエキスがプンプン匂ってきてるぅ!」

 オネエさん集団にもみくちゃにされてるブルースを助けようと、ケージがその輪に無理やり入り込もうとしたが、オネエさんたちはお姉さんの100倍パワフルである。ケージは輪から追い出されてしまうのであった。

「ケージ殿。助けて……ほしいので……ござる」

「いやあ。すまんすまん。俺っちでもこれはどうにもならねえわっ!」

「こっちの世界も学んでおいて損は無いのですぅ。最初は抵抗がありますけど、じっくり慣らすとあっさり入るようになりますよぉ?」

「入るって、どこに入るのでござるか!? いやぁ! 童貞を卒業する前に処女を卒業してしまうのでござるぅぅぅ!」

 ブルースはホバート統一戦において、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の一翼を担う大活躍をしてみせた。血濡れの女王ブラッディ・エーリカの軍師であるクロウリー=ムーンライトは団の力を高める方策として、あらゆる戦場で隊長とその補佐の組み合わせを変えてみた。

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は基本的に本隊と4個の中隊に分けられていた。それぞれの中隊の隊長として、ブルース=イーリン、アベルカーナ=モッチン、コタロー=モンキー、そして、大魔導士:クロウリー=ムーンライトが当てられた。

 とある戦場で、クロウリーは隊長のブルースの補佐としてケージ=マグナ、ラン=マールをあてがった。彼らの相性が抜群なのか、ブルースは中隊の攻撃力だけでなく、防御力も各段に上がったのだ。エーリカは両翼にブルース隊とアベル隊を配置して戦うことが多かった。その片翼が強固であることは、本隊を率いるエーリカをどれほど安心させたのかは言うに及ばずだった。

 南島軍が北島部に乗り込み、統一戦もいよいよ大詰めとなっていた時、しばらくこのままの配置でいきましょうとエーリカはブルース隊の編成を固めるのであった。クロウリーもこのエーリカの案には賛成だ。そのこともあり、王都に戻ってきてからというもの、ブルースは悪ガキ仲間のアベルとではなく、新参者のケージとランとよくつるむようになったのは、自然の成り行きとでも言えた。

 だが、ブルースは自分の補佐たちに対して、ひとつだけ、大いなる不満を持っていた。ケージとランは所謂、『人気者』であった。それに対して、ブルースは『地味』そのものである。王都を歩く際にケージとランを引き連れているブルースであったが、都民から黄色い声援を受けるのは決まって、ケージとランの方であった。

 如何せん。ブルースはあくまでも相対的にケージたちよりも目立たなかった。ケージは気持ちが良い婆娑羅男であるし、ランはランで女子もうらやむほどの男の娘だった。そんなふたりを差し置いて、自分だけ目立つのは至難の技である。

 日に日に気落ちしていくブルース隊長を労おうと、ケージたちはまさに余計なお世話をしてしまう。あくまでもケージたちはブルース隊長を元気づけようとした。それで、ガールズバーに連れていく前に、オネエさんが集まるオカマバーを経験させて、そういう場に慣れさせようとしたのだ。

 しかしながら、オネエさんたちは常連のケージを吹っ飛ばして、ブルースの周りを陣取ってしまう。ケージもこればかりは計算外であった。オネエさんたちは確かに誰もが認めるほどにパワフルだ。しかし、そんじょそこらの女子に比べれば、すごく優しいのである。

 ブルースも最初はオネエさんたちに囲まれて、さらには褒めちぎられたことにより、気分はそこそこ良かった。だが、オネエさんたちの距離が物理的に近づいてきたことで、ブルースは嫌な予感をひしひしと感じていた。だが、オネエさんたちは猛る心を抑えきれずに肌と肌の触れ愛を楽しみ始めたのであった。

「ん~~~。ほっぺたとほっぺたをくっつけてるだけで10歳は若返るわぁぁぁ!」

「あらいやだ! アタシもブルースちゃんの若いエキスを吸わないと! んぅぅぅちゅぅぅぅ~~~!」

 ケージも引くほどにブルースはオネエさんたちにモテモテであった。自分が最初にこのオカマバーにやってきた時以上の熱狂がこのオカマバーに吹き荒れていたのだ。ケージはやれやれ……と嘆息しながら、オカマバーのカウンターに座ることになる。そこのバーテンダー兼店長であるプッチィ=アラモンドがケージにグラスを差し出す。ケージはそれを受け取るとその中身を一気に飲み干し、お代わりを所望するのであった。

「相変わらず男らしい良い飲みっぷりね。今日はお仲間さんの元気付けにきたってところ?」

「仲間ってか、俺っちの上司だけどなっ! プッチィさんも知ってるだろ? 俺っちが大戦で血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団で大活躍したってのは」

「大活躍したとまでは聞いてないけど、そこそこには悪名よりも名声のほうが高まっているわね」

 ケージはマグナ家の暴れん棒と称されていた。そんな悪ガキが今や王都で名前が広まりつつある血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団で確かな地位を手に入れていた。プッチィ=アラモンドはその事実を眼を細めながら喜んでいた。そして、この一杯はアタシの奢りよとばかりにケージにお代わりのグラスを差し出すのであった。

「ケージちゃんが出世祝いに、供物を捧げにきてくれたのは嬉しい限りよ。でも、隊長さんはアタシの目から見ても、至って『ノーマル』。そっちの気が無い子の筆おろしをする気は、うちの子たちには無いわよ?」

「その点は信用してるさ、プッチィさん。まずはこのお店でオンナに慣れさせておこうとしたまでだ」

「あらそうなの。でも、うちの女子たちで困り顔になっているようじゃ、ガールバーは100年早いんじゃないの?」

「まあ……。それはごもっともなんだが。うちの隊長には一皮も二皮もむけてほしいとは思っているんだ。うちの隊長殿は俺っちから見ても、将の器がでけえからな」
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