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第3章:王都:キヤマクラ

第4話:真打ち

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 エーリカと準決勝で相対しているのはラン=マールという美少年であった。しかし、この美少年はどちらかというと『男の娘』という部類に属する生き物であった。半猫半人ハーフ・ダ・ニャンらしい男女と区別しがたい中性の体つきであり、実際、身体の柔らかさはエーリカが裸足で逃げ出すほどである。

 その半猫半人ハーフ・ダ・ニャン特有の身体の柔らかさとしなやかさを用いての直刀による連続突きはおおいにエーリカを惑わせた。蝶のように舞い、蜂のように刺すとはまさに彼? にとって相応しい戦闘スタイルであった。そんなラン=マールの動きを捉えるためにも居合斬りの一閃で決めようとしたのがエーリカであった。

 ランは興奮が尻から腰、背中、さらには首筋へとゾクゾクと駆けあがっていくのを感じる。たまらない興奮に毒されたランは不用意にも居合斬りの間合いに入ってしまう。エーリカはもらった! と思い、目にも止まらぬ速さで木刀を抜刀してみせる。しかしながら、エーリカは何もない空間を切り裂いてしまうことになる。

「ふふっ! うふふっ! ぶべほぉ!」

「ふんっ。一太刀目が躱されるのなんて予想済みよ。てか、あんたってついてるモノはついてたのね。つぶしてたらごめんなさいね」

 エーリカの気合のこもった居合斬りを背中を考えられない方向にまで逸らしきることで躱したランであった。そして、興奮さめやらぬランは不敵な笑みを零す。そこまではよかった。ランが身体を起こそうとする前に、エーリカは振り切った木刀の柄をすぐさま両手で掴み、強引に居合斬りを二段斬りにしてみせたのだ。さらにエーリカが極悪なところは、二段目を上段斬りにしたことだ。

 股間に痛烈な一撃を喰らったランは背中側から石畳の上へと卒倒してしまうことになる。エーリカの両手には確かなる手応えがあった。ランの運が良かったことは、股間の短剣ダガーがフル勃起していたことであろう。大切な子宝袋はそのフル勃起していた短剣ダガーが身を挺して守ってくれたのである。

 しかしながら、その短剣ダガーはしばらく使いモノにならないくらいにへし折れてしまう。ブクブクと血の色の泡を吹き、さらには白目を剥いたランは急いで医務室に運ばれる。それを見ていた観衆たちの半数はゾゾゾ……と背中に怖気が走ってしまう。

「うっわ。俺でもドン引きだっ。少しくらい手加減してやれよ……」

「いーやーでーすぅぅぅ。あいつは目つきだけで、あたしを犯そうとしてたのは丸わかりだったしぃぃぃ。金輪際、あいつと関わり合いたくないわっ!」

 試合場から控室へと帰ってきたエーリカにセコンド役のひとりであるタケル=ペルシックが苦言を呈す。だが、エーリカはふんっ! と機嫌悪そうに顔を横に背けるのであった。タケルはやれやれ……と嘆息した後、エーリカに向かって、いよいよ次は決勝戦だなっと告げる。エーリカは機嫌を直し、にんまりとした笑顔になる。

「ようやっとるわい。決勝の前にあれほどの難敵が待ち構えていたのは想定外じゃったな」

「アイス師匠が言っていた、あたしが勝てない相手ってのはあいつでしょ? もう優勝は決まったものねっ!」

「おや? おやおや? いつ、あたいがあの程度の男を指し示したと思っておったのじゃい? 真の強者が待ち構えているのは、エーリカの決勝ぞ。そやつこそが、今大会の目玉じゃわい」

「ええーーー!? 剣の腕前だけで言えば、さっきのランなんとかって奴のほうがあたしよりも上だったわよ!? それよりも強い相手が決勝で待っているの!?」

「そのとおりぞ。さあ、当たって砕けてくるが良い」

 エーリカはアイス師匠の言っていることが信じられないといった顔つきになっていた。トーナメント戦における他の山から勝ちのぼってくる剣士の戦いを時折、観戦していたエーリカであったが、他の山では悪い意味で目に引く戦いをしている剣士くらいしか、記憶に残っていないのだ。

 そして、エーリカの予想通り、とてつもなく悪い意味で目立っていた半虎半人ハーフ・ダ・タイガの剣士らしき女性がエーリカの決勝の相手となる。

「ぷはぁ! 祖国の酒は五臓六腑にしみわたるわいっ! 傷心の果て、祖国に戻りはしたが、この味だけはうちを慰めてくれるのぉ!」

「お酒くさっ! 遠巻きに見ている時ですら、ほのかに酒臭かったのに、近くに立ってみると、とんでもないわねっ!」

 試合場の石畳の上でウィヒック! と酩酊状態の半虎半人ハーフ・ダ・タイガの女性とエーリカは相対することになる。エーリカは眼の前の女剣士がまともに剣を振るうことさえ、ままならないのでは? と思えて仕方がない。それほどまでに出来上がっているのだ、決勝戦の相手であるキョーコ=モトカードなる女剣士は。

 しかもだ。こんな酩酊状態の相手だというのに、胸を借りてこいと言っていたのがアイス師匠であった。エーリカにとって、こんな面白くない話はなかなかになかった。エーリカは木刀の柄をしっかりと両手で握りしめ、試合開始の合図と共に、一気にキョーコ=モトカードの懐へと飛び込んだ。

「なん……ですって!? あたしの渾身の一撃を軽々とあしらった!?」

「ウィヒック! どこかで見たことがある剣筋。はてさて、いつぞやの記憶かのぉ??」

 キョーコなる女剣士は左手に大きな徳利。右手にはバンブーブレードであった。しかも、そのバンブーブレードは半ばから折れている。まさに対戦相手を舐めているとしか言いようがない。だが、いくら木刀だからといって、折れ曲がっているバンブーブレードで易々と攻撃を弾かれてしまうなど、エーリカの想定から大きく外れていた。

 エーリカを最も驚かせたのは、キョーコから感じる剣筋がド素人のモノであることだ。そう、キョーコはただの反射神経でエーリカの剣戟を次々と打ち払ってみせたのだ。剣技とは程遠い位置にいたのがキョーコという存在である。そして、何故、剣技らしい剣技を持ち合わせていないのかを、エーリカはキョーコが右手に持つバンブーブレードを完全に粉砕してみせた後に気づくことになる。

「ありゃりゃ。やっぱり、土産屋で買ったバンブーブレードでは、こんなものか。これ1本で武術大会を勝ち上がるのには無理があったわい。おい、審判。徒手空拳でも失格にはならないよなぁ?」

 キョーコの問いかけにコクコクと頷く審判であった。実際、セスタスや鈎爪カギヅメを両手に装着した者も武術大会に参戦していた。だが、そういった参加者はあくまでも拳・格闘術部門でだ。得物有りのエーリカがエントリーしている部門では、剣や槍を持つ相手にとって、リーチの短さは致命的とも言える。普通なら剣術部門で徒手空拳は認めづらいモノであった。

 だが、基本的にこの武術大会の勝敗は戦意喪失による敗北宣言や、失神といった戦闘不能状態にでもならなければ、試合は続行された。だが、得物を失った状態で戦うと言ってのけたのはキョーコ=モトカード以外にはほぼ存在しなかった。

 丸腰相手に戦うのは普通は気が引けてしまうエーリカであったが、キョーコ相手にそう感じているいとまなど存在しなかった。キョーコは左手に持っていた徳利を石畳の上に起き、さらには虎の構えとも言ってよい戦闘体勢を取る。その途端、エーリカはこの円形闘技場コロッセウムに集まる観衆の前でお漏らしをしてしまいそうになるほどの衝撃を受けるのであった……。
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