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第2章:社会勉強

第2話:引率役

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 エーリカたち若者組が賊徒を改心させてから早くも半年が過ぎようとしていた。エーリカは大きな事件が起きないことに飽きを感じ始めていた。

「うーーーん。せっかくコタローたちを改心させたけど、もう少し暴れさせてたほうが良かったのかしら?」

「それはどうかと思いますわ……」

 エーリカは薙刀を手に取り、セツラと稽古を積んでいた。その休憩中にエーリカがぼそりとセツラに不満を漏らしたのである。セツラとしては苦笑せざるをえなかった。あれ以上にコタロー=モンキー率いる賊徒たちが大暴れしていたら、エーリカが頭を下げまくり、かつ、大魔導士:クロウリー=ムーンライトの介在があったとしても、被害を被った人々は決してコタロー=モンキーたちを許しはしなかったであろう。

 コタロー=モンキーたち賊徒が人的被害を最小限にとどめていたことも功を奏していた部分があるが、賊徒がその勢力を異様に膨れ上がらせていたらと思えば、ゾッとするしかないセツラである。

「何事もやりすぎないことが肝要といったところですわ。引くに引けない状況になること自体が間違いですの」

「うん、それはわかってる。コタローたちが受け入れられたことは幸運すぎたと思ったほうが良いもんね。でも、あの後から半年経っても大きな事件なんて起きやしないのが、退屈すぎるのも事実なのっ!」

 不満が募っているエーリカに対して、やれやれと頭を左右に振るしかないセツラであった。確かにエーリカにとって、辺境の村:オダーニは狭すぎたと言って過言では無い。200人に及ぶ賊徒をたった20人ほどの若者組で退治し、さらには改心させてみせたのだ。

 エーリカに大舞台を与えれば与えるほど、水を得た魚のようにエーリカは世の中を踊りながら渡り歩いていける気がしてならないセツラである。だが、エーリカはまだ14歳である。時期尚早と思うのは誰しもが感じるところであった。現にエーリカの師匠であるアイス=キノレも、これからのことを考えるならば、もっと若者組での訓練に身を入れろと忠告している。

「まったく……。そんなにイベントに飢えているというならば、少しは世の中がどうなっているのか、その眼で確かめてくるかい?」

「良いんですか!? さすがはアイス師匠! さっそく、ブルースとアベルに連絡しないとっ!」

「ダメじゃ。ブルースとアベルとそれにエーリカが3人セットじゃ、トラブルを自分たちから起こすじゃろ。大魔導士:クロウリー=ムーンライト様。以前、相談に乗ってもらった通り、エーリカの引率を頼んで良いですかい?」

「えー!? クロウリー様が付き添ってくれるんです!? あたし、勝手なこと、できなくなっちゃう!!」

 エーリカが素っ頓狂な声をあげながら、抗議すると同時にクロウリーはハハハ……と苦笑を零してしまう。それほどまでにエーリカが日々おこなっている訓練に対して、飽きを感じている証拠とも取れる。だからこそ、アイス=キノレはエーリカに気合を入れ直してもらうためにも、社会勉強が必要だと感じた。そして、そんな彼女の引率者として選ばれたのが、偉大なる4人の魔法使いのひとりであるクロウリー=ムーンライトであった。

「先生はエーリカ殿が成長するためならば、どんな苦痛も受け入れます。いや、決して、エーリカ殿の引率がつらいってわけではありません。むしろ楽しみでしょうがありません」

「むぅ。頼んだ相手を間違えてしまったようじゃ。セツラ。おぬしも社会勉強のために、村の外に出てみようとは思わぬかい?」

「えっ? わたくしですか? でも、お父様が何と言うかわかりません……」

 セツラ=キュウジョウの父親は神主であると同時にオダーニの村長であった。いくら他の国と比べれば、まだまだ平和と呼べるホバート王国であるが、それでも年頃の世間知らずの箱入り娘を村の外へ出すとは思えないと自覚しているセツラであった。

 セツラが父親にアイス様からそのような提案があると一応相談してみたところ、父親は少しだけ考えさせてくれと言って、やしろの奥の間へと消えていく。十数分後に戻ってきた父親の言葉にセツラは目を丸くさせてしまう。

「お父様から村の外へ出る許可をいただきました。でも、その条件として、タケルさんも同行させろとのことでした……」

「えっ!? タケルお兄ちゃんも引率役になるの!? どっちかていうと、タケルお兄ちゃんは引率される側でしょ!?」

「へっぶしっ!! おい、エーリカ。ヒトの噂を本人の前でするんじゃねぇっ!!」

 セツラが父親に言われるがままにタケル=ペルシックを連れて、若者組が集う道場へとやってきていた。そうだというのに、エーリカはタケルがセツラの隣に立っている事実を無視して、タケルへの悪口とも取れる発言をかましたのである。こればかりはアイス=キノレとクロウリー=ムーンライトはおおいに笑う他無かった。

「タケルお兄ちゃん。1日のおやつは銅貨2枚までよ」

「それはちょっと少なくないか? 板チョコ2枚ってことだろ?」

「うん。そのうち1枚は、あたしのお腹の中ね。嬉しいでしょ?」

「夫婦漫才とはまさにこのことを言うんでしょうか? エーリカ殿は男を見る目が無さ過ぎですね」

「わしゃからは兄妹仲良くじゃれ合っているようにしか見えんがな」

 エーリカとタケルがやいややいやと騒いでいることろを遠目に見るクロウリーたちであった。とにもかくにもエーリカとセツラの社会勉強のための一団が出来上がった。いつ出発し、どこに向かうかは大魔導士:クロウリー=ムーンライトに一任する流れとなる。エーリカはそれから1週間、意気揚々と若者組での訓練と仕事に励むことになる。

 そして、ついに社会勉強のための旅が始まる朝となる。エーリカは父親と母親に元気に朝の挨拶をする。その後、テーブルを囲み、朝食を食べ始めるのであった。

「くれぐれもクロウリー様の手に余るような大事件を起こすんじゃないぞ?」

「あら、あなた。それじゃ、エーリカは普通の事件なら起こしても大丈夫って前提になるわ」

「そりゃそうだ。エーリカが事件を起こす前提だからこそ、アイス殿は引率役にクロウリー様を選んだのであろう。何か間違っているかい? ママ」

「ですって。朝から失礼だと思わない? エーリカ」

「タケルお兄ちゃんと違って、クロウリー様なら大事件以外なら何とかしてくれそうって期待しているのは嘘じゃないわ。でも、セツラお姉ちゃんが一緒だから、ほどほどの事件で済むようにしてくるねっ!」

 なんとも物騒な親子の会話であった。そもそもとして、エーリカの父親であるブリトリー=スミスは自分の一族に難癖をつけられたことと、嫁との結婚にあまり良い顔をしてくれなかった両親に対して、反抗の意志を示した。さらには嫁と駆け落ちして、辺境の村:オダーニに流れ着いた男である。この男にして、この娘有りなのだ、エーリカは。

 その父親の血が半分流れているだけあって、エーリカはその身に高貴な気品を纏えることが出来なかったとも言えよう。しかし、テクロ大陸本土が戦国時代真っ盛りの中、高貴な気品よりも、荒々しさのほうがよっぽど大事なのも否めない。ブリトリー=スミスはエーリカがすくすくと健やかに育ってくれたことに関していえば、創造主:Y.O.N.Nに感謝するばかりであった。
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