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第1章:エーリカの野望

第10話:恋心

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 エーリカはうんうんと頷きながら、教師役を務める大魔導士の話を聞く。そうでありながらも、どうするかはエーリカ殿次第だと最後に付け加えるのであった。エーリカは一通り、クロウリーからの話を聞いた後、テーブルの席から立ち上がり、お縄にした賊徒たちの前へと歩を進めていく。

「あんたたちが夢や希望、そして情熱を失って、野盗に身を落としたってのは少しだけ同情するわ。でも、もう1度、ひと花咲かせてみたいと思わない?」

「ウキキ。それはいったいどういうことだ? あっしたちをテクロ大陸本土へ送り返すつもりか?」

 賊徒の頭領であるコタロー=モンキーが縄によって後ろ手で縛られている状態でエーリカに質問返しをする。エーリカはフルフルと頭を左右に振った後、ドンッ! と無い胸を右こぶしで叩いてみせる。

「あんたたちの命をあたしに預けろって言っているのっ! この意味わかる!?」

「おかしら……。この娘、なんか面白そうだぞ」

「んだんだ。この娘の熱いまなざしにはきっと理由がありそうだ。おかしら、話に乗ってみても良いんじゃないですかい!?」

 連座させられているオニタ=モンドとジゴロー=パーセンは、おかしらのコタロー=モンキーに自分たちは乗り気だと伝える。コタロー=モンキーはウキィィィ……と思い悩むことになる。そして、自分たちの命を使って、何を為そうとしているのかとエーリカに尋ねることになる。

「あたしは【自分の国】が欲しいのっ! それは自分の欲望のためじゃないっ! あんたたちみたいな行くところを失くしたヒトたちが安心して暮らせる国を築きたいのっ!」

「見た目10歳にしか見えない小娘が大きなことを言いやがるんだウキィ」

「うっさいわね! 胸はぺったんこだけど、これでも14歳よっ!」

「これは失敬失敬! しかしだ。あんたさんの言っていることは、すなわち、テクロ大陸本土の剣王を始めとする4人の武王を屈服させ、さらには四皇にすら認めてもらおうということなのか?」

「そう、その通りよっ! あたしが国を興すということは4人の武王たちと相対することになるわ。そいつら全員、屈服させて、あたしの配下に置くのっ。んで、あたしは晴れて四皇に認められて、一国のあるじになるって寸法よっ!」

 エーリカのとんでもない宣言を聞かされた賊徒たちはおおいに笑うことになる。夢をあざ笑われたと思ったエーリカは形の良い唇をアヒルのクチバシのような形に変えて、ムスッとした表情になる。

「いや、これまた失敬。今のは感心したという意味での笑いだウキィ。金貨4枚にも満たぬあっしらの命でよければ、エーリカ姐さんに預けようと思うんだウキィ」

「呼ばれ方が少し釈然としないけど、まあいいわ。あんたたちのようなやからには、あたしの力を見せつけたほうが良さそうだし。将来はあたしのことを女王陛下と心からそう呼ぶようにしてやるんだからっ!」

「楽しみにしているんだウキィ。じゃあ、エーリカ姐さん。あっしらの命、好きなように使ってくだせえな。いいな、おめえら! これから、エーリカ姐さんと敬って呼ぶんだぞっ!」

 魂に新たな息吹を感じたコタロー=モンキー率いる賊徒は身体の奥底から熱が再び湧き上がってくるのを感じるのであった。心が折れたゆえにテクロ大陸から逃げ出すようにホバート王国へと侵入した。だが、これからは盗賊稼業から足を洗うことを決心する。

 賊徒たちを改心させたエーリカたち若者組が次にとった行動は、賊徒たちが荒らしまわった町や集落に赴き、賊徒たちは改心したから、工夫こうふとして雇ってほしいと頼み込むことであった。町や集落に住む人々は最初、エーリカたちの提案に眉をひそめる。

 しかし、ここで役に立ったのが大魔導士:クロウリー=ムーンライトの存在であった。

「エーリカ殿の野望のためなら、使えるものは親でも使え。先生の名をいくらでも利用してください」

「利用するなんて人聞きが悪いわね。クロウリー様のほうから率先して町の皆の前に名乗り出たくせに」

「いいじゃないでござるか。これでとりあえずは丸く収まったんでござるから」

 ブルース=イーリンはなんとも承諾しがたい言い方をするクロウリーと憮然としているエーリカの仲介役を買ってでた。エーリカが野望を本気で果たそうとするならば、クロウリー様の言っていることはある意味正しい。だが、エーリカはエーリカで己の考えというものがある。ブルースの仲介はその辺りをごまかす行為であるが、まだ14歳のエーリカに酷な選択を迫るのはまだ早いと感じるブルースであった。

 ブルースがそう感じるのと同様に、アベルカーナ=モッチンもブルースと同じ考えを抱いていた。それゆえにブルースとアベルはふたりっきりの時に、エーリカに対する思いを吐露することになる。

「アベル。わかってはいると思うが、エーリカへの恋慕は捨てるでござる」

「わ、わかっているぞ! それがしたちはエーリカを護る二大騎士だ! エーリカを女王の座につけるために、いついかなる時でもエーリカのために死ぬ準備をせねばならぬっ!」

 エーリカ、ブルース、アベルの3人は幼馴染であると同時に、良き悪ガキ集団であった。そうでありながらも、淡い期待をエーリカに対して抱いていた。だが、エーリカは辺境の村:オダーニやその周辺で一生を終える女性だとはどうしても思えない。

 この3週間の出来事で、エーリカは大器の片りんをブルースとアベルに見せつけた。ブルースたちはエーリカに大きく開けられた差を埋めるために、これから毎日、精進を積み重ねていかねばならないと心に誓いあう。

 エーリカたちは3週間ぶりに辺境の村:オダーニに帰ってくる。賊徒退治の成り行きと結果をセツラ=キュウジョウの父親に報告する。セツラの父親であるカネサダ=キュウジョウは、このオダーニの村長兼神主であった。

「すいません。お借りしていた神聖な木刀をボロボロにしてしまいました」

 いつものエーリカらしくもなく、この時ばかりはカネサダ=キュウジョウに対して、大変申し訳ないという感情を表情だけでなく、身体全体からも醸し出していた。樹齢200年の樫木かしのきを使って作ったと言われている木刀は見るも無残にボロボロであった。

 その変わり果てた木刀の姿を見て、カネサダはフゥゥゥ……と長い息を吐くのであった。その呼吸音を聞いて、一層、身体までもが縮こまるエーリカであった。

「今から説教をするわけではない。それよりもよく無事で戻ってきてくれた。おぬしに怪我でもしてもらった日には、私がブリトリー殿に半殺しの目に合っていただろう。そうならなくてよかったというのが半分」

「もう半分はなん……ですか?」

「おぬしの運命の扉を開くきっかけを間接的ながら、私が与えてしまったという後悔が半分だな。左手の甲を見せてくれ」」

 エーリカは恐る恐る自分の左手をカネサダに向かって差し出す。カネサダは彼女の左手の甲をじっくり見る。すると、どんどん彼の顔は憂いに満ちていく。

「おぬしの父親:ブリトリー=スミス殿が娘の身体の奥から漏れだす不思議な神気が時々、漏れ出すことを、私に相談してきていたよ。私もまさかと思っていたが、左手を見せてもらって腑に落ちた。エーリカ、よく聞くのだ。おぬしは創造主:Y.O.N.Nさまによって【聖痕スティグマ】をその身に刻まれた存在だ……」
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