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第11章:覇王と代弁者と女王
第3話:覇王の前に立つ二人
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アンジェラ=キシャルは急に賑やかになった砦の雰囲気に、心底、気持ちが安らぐ気分となってしまう。そして、それに対して、感謝を伝えるためにも礼儀正しく背中を折り曲げて、皆に深々と礼をする。
「皆さま、改めて、ありがとうございます。ワタクシが夫のハジュン=ダイロクテンと共に、覇王を打ち倒してきますわ」
「ちょっと待ってください!? まだ籍を入れるとかっていう話はしていませんでしたよね!?」
ハジュン=ダイロクテンが驚きの表情を浮かべるが、言い逃れはさせぬとばかりにアンジェラ=キシャルが自分の豊満な胸の谷間にハジュン=ダイロクテンの左腕をすっぽり挟み込み、さらには右腕でがっちりホールドしてしまうのであった。いかにも幸せそうな笑みを零すアンジェラ=キシャルであったために、ハジュン=ダイロクテンはたじたじと言った雰囲気だ。
「年貢の納め時ってやつだ、アニキ。さあ、さっさと覇王をどうにかしてくれ。その後は皆で祝杯でもあげようじゃないか」
「ほんにうちの旦那の言う通りじゃ。報告書を読んだ時は卒倒しそうになったものじゃが、案外、良いカップルとして成立しているようで安心したわい。わらわもそろそろ、この戦いに決着が欲しいとこぞえ?」
ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルに当てられたのか、亜人族の宰相であるマリーヤ=ポルヤノフも旦那の左腕に自分の右腕を絡めて、ひっつく形となる。そして、彼女はごにょごにょとイヴァン=アレクサンドロヴァに耳打ちすると、彼はニッコリとマリーヤ=ポルヤノフに微笑むのであった。
「皆を見ていると、拙者も良いヒトを真剣に探したほうが良い気がしてきたのでござる。カンベー=クロダよ。拙者にとびっきりの男の娘を紹介してほしいのでござる」
「男の娘よりも、まずは世継ぎを作ってほしいのでごわす……」
タムラ=サカノウエの言いにニンゲン族の軍師はがっくりと肩を落とす。ニンゲン族の首魁は齢40を過ぎても、未だに結婚もせずに、さらには特定の女性相手に世継ぎとなる子供も作っていない。このままではニンゲン族のトップ事情は不安定極まりないことになるというのに、タムラ=サカノウエ本人はこの口ぶりだ。カンベー=クロダは策を講じなければならないが、それも、この聖戦をどう決着をつけるかに集中すべきであるので、とりあえず、ニンゲン族の宰相に丸投げしておこうと思うのであった。
しばしの歓談を終えた皆は、ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルに覇王の対処を任せたと言う。それに対して、彼らはニンゲン族の首魁と亜人族の長たちに、自分たちにもしものことがあれば、後事のことを託すと言って、足並みを揃えて、砦の門をくぐる。
砦の外には覇王の言葉により、困惑しきっていた兵士たちが居た。彼らは砦の門をくぐり、外へとやってきた二人の男女の姿を見て、一様にゴクリと唾を喉奥に押下する。下っ端も下っ端の下級兵士たちですら、彼らの顔には見覚えがあるからだ。そして、この戦況を打開するために、どうにかしてくれるという期待感と共に、彼らが覇王に勝てるのか? という不安感に押しつぶされそうになっていた。
そんな複雑な表情を浮かべる兵士たちをよそに、ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルはしっかりとした足取りで歩を進めていく。覇王は30分前から砦の西、500ミャートル地点で一歩も動かずに、骸骨馬に跨ったままであった。そして、見知りある顔が自分に接近してくるや否や、カハッ! と嬉しそうに笑ってみせる。
覇王は段々と自分に近づいてくる二人に失礼が無いように、下馬してみせる。使者に対して、居丈高な態度で迎えぬようにとの心遣いにも似ていた。しかしながら、実際のところ、近づいてくる二人の雰囲気は覇王に対して、何一つ悪びれることなく、さらには存在感たっぷりなオーラを放ちながら歩いて近づいてくる。
「魔族の代弁者よ。久方ぶり也。そちらの女性は誰か? 殺す前に名を聞いておこう」
「ワタクシの名はアンジェラ=キシャル。今世において、エルフ族の代表を務めさせていただいておりますわ。かの伝説に謳われた覇王と相まみえることとなり、胸が昂ってしまいます」
言いこそは丁寧ではあるが、アンジェラ=キシャルの声には覇気が宿っていた。決して、覇王などに屈しないといった雰囲気が言葉そのものに乗っている。覇王はクククッ……と不敵に笑い、背中に背負っていた大剣と戦斧を両手に一本づつ持って、戦闘態勢へと移行する。まるでこれ以上の言葉は無粋とばかりの所作であった。
それに合わせて、魔族の代弁者とエルフ族の女王も動きを見せる。魔族の代弁者は腰の左側に佩いた鞘からドウジキリヤスツナを抜き出して見せる。そして、そんな魔族の代弁者から2~3歩下がった位置で、エルフ族の女王が鞘から宝剣・絶対王者の剣を抜いてみせる。絶対王者の剣は鞘から抜かれると同時に、エルフ族の女王が身に宿す魔力と共鳴し、黄金色の光を周囲に放ってみせる。
その光を顔に浴びて、覇王が眼を細める。アレは厄介なシロモノだという認識が覇王の脳裏をかすめるのであった。互いに武器をその手に取り、じりじりと互いの間合いを詰めていく。覇王が右斜め前方向に動くと同時に、それに釣られて魔族の代弁者とエルフ族の女王も右斜め前方向へと移動する。
その互いの距離を推し量る姿を見て、砦の外に配置されている兵士たちは息が詰まりそうになる。異様な緊張感が兵士たちにも伝播し、喉が渇いてしょうがない。ひとりの兵士が思わず、右手に持っていた短槍を地面に落としてしまう。カラカラカラン! という軽快な音を戦場に響かせたその時、覇王たちは素早く動きを見せたのであった。
「風林火山、毘沙門天。吼える也ッ!!」
覇王が自分の両手に一本づつ持つ大剣と戦斧の真名を呼ぶ。次の瞬間、大剣からは地から天に昇る稲光を発し、戦斧は真っ黒な暴風を巻き起こす。覇王はまずは小手調べとばかりに大剣をぞんざいに振り回し、四方八方へ稲光を発散させるのであった。これをどうにか出来ないようであれば、自分と相対することすら出来ぬぞと言わんばかりの行動であった。
「アンジェラくん。雷のほうは自分に任せていてください。先生が避雷針となってみせましょう」
「いえ。ワタクシがどうにかしてみせますわ。覇王はワタクシが戦力足りえるのかを見定めている気がしますもの」
アンジェラ=キシャルはそう言うと、ハジュン=ダイロクテンより3歩、前に出て、自分たちに向かって天地を同時に穿つ稲光へと宝剣・絶対王者の剣を振るってみせる……。
「皆さま、改めて、ありがとうございます。ワタクシが夫のハジュン=ダイロクテンと共に、覇王を打ち倒してきますわ」
「ちょっと待ってください!? まだ籍を入れるとかっていう話はしていませんでしたよね!?」
ハジュン=ダイロクテンが驚きの表情を浮かべるが、言い逃れはさせぬとばかりにアンジェラ=キシャルが自分の豊満な胸の谷間にハジュン=ダイロクテンの左腕をすっぽり挟み込み、さらには右腕でがっちりホールドしてしまうのであった。いかにも幸せそうな笑みを零すアンジェラ=キシャルであったために、ハジュン=ダイロクテンはたじたじと言った雰囲気だ。
「年貢の納め時ってやつだ、アニキ。さあ、さっさと覇王をどうにかしてくれ。その後は皆で祝杯でもあげようじゃないか」
「ほんにうちの旦那の言う通りじゃ。報告書を読んだ時は卒倒しそうになったものじゃが、案外、良いカップルとして成立しているようで安心したわい。わらわもそろそろ、この戦いに決着が欲しいとこぞえ?」
ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルに当てられたのか、亜人族の宰相であるマリーヤ=ポルヤノフも旦那の左腕に自分の右腕を絡めて、ひっつく形となる。そして、彼女はごにょごにょとイヴァン=アレクサンドロヴァに耳打ちすると、彼はニッコリとマリーヤ=ポルヤノフに微笑むのであった。
「皆を見ていると、拙者も良いヒトを真剣に探したほうが良い気がしてきたのでござる。カンベー=クロダよ。拙者にとびっきりの男の娘を紹介してほしいのでござる」
「男の娘よりも、まずは世継ぎを作ってほしいのでごわす……」
タムラ=サカノウエの言いにニンゲン族の軍師はがっくりと肩を落とす。ニンゲン族の首魁は齢40を過ぎても、未だに結婚もせずに、さらには特定の女性相手に世継ぎとなる子供も作っていない。このままではニンゲン族のトップ事情は不安定極まりないことになるというのに、タムラ=サカノウエ本人はこの口ぶりだ。カンベー=クロダは策を講じなければならないが、それも、この聖戦をどう決着をつけるかに集中すべきであるので、とりあえず、ニンゲン族の宰相に丸投げしておこうと思うのであった。
しばしの歓談を終えた皆は、ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルに覇王の対処を任せたと言う。それに対して、彼らはニンゲン族の首魁と亜人族の長たちに、自分たちにもしものことがあれば、後事のことを託すと言って、足並みを揃えて、砦の門をくぐる。
砦の外には覇王の言葉により、困惑しきっていた兵士たちが居た。彼らは砦の門をくぐり、外へとやってきた二人の男女の姿を見て、一様にゴクリと唾を喉奥に押下する。下っ端も下っ端の下級兵士たちですら、彼らの顔には見覚えがあるからだ。そして、この戦況を打開するために、どうにかしてくれるという期待感と共に、彼らが覇王に勝てるのか? という不安感に押しつぶされそうになっていた。
そんな複雑な表情を浮かべる兵士たちをよそに、ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルはしっかりとした足取りで歩を進めていく。覇王は30分前から砦の西、500ミャートル地点で一歩も動かずに、骸骨馬に跨ったままであった。そして、見知りある顔が自分に接近してくるや否や、カハッ! と嬉しそうに笑ってみせる。
覇王は段々と自分に近づいてくる二人に失礼が無いように、下馬してみせる。使者に対して、居丈高な態度で迎えぬようにとの心遣いにも似ていた。しかしながら、実際のところ、近づいてくる二人の雰囲気は覇王に対して、何一つ悪びれることなく、さらには存在感たっぷりなオーラを放ちながら歩いて近づいてくる。
「魔族の代弁者よ。久方ぶり也。そちらの女性は誰か? 殺す前に名を聞いておこう」
「ワタクシの名はアンジェラ=キシャル。今世において、エルフ族の代表を務めさせていただいておりますわ。かの伝説に謳われた覇王と相まみえることとなり、胸が昂ってしまいます」
言いこそは丁寧ではあるが、アンジェラ=キシャルの声には覇気が宿っていた。決して、覇王などに屈しないといった雰囲気が言葉そのものに乗っている。覇王はクククッ……と不敵に笑い、背中に背負っていた大剣と戦斧を両手に一本づつ持って、戦闘態勢へと移行する。まるでこれ以上の言葉は無粋とばかりの所作であった。
それに合わせて、魔族の代弁者とエルフ族の女王も動きを見せる。魔族の代弁者は腰の左側に佩いた鞘からドウジキリヤスツナを抜き出して見せる。そして、そんな魔族の代弁者から2~3歩下がった位置で、エルフ族の女王が鞘から宝剣・絶対王者の剣を抜いてみせる。絶対王者の剣は鞘から抜かれると同時に、エルフ族の女王が身に宿す魔力と共鳴し、黄金色の光を周囲に放ってみせる。
その光を顔に浴びて、覇王が眼を細める。アレは厄介なシロモノだという認識が覇王の脳裏をかすめるのであった。互いに武器をその手に取り、じりじりと互いの間合いを詰めていく。覇王が右斜め前方向に動くと同時に、それに釣られて魔族の代弁者とエルフ族の女王も右斜め前方向へと移動する。
その互いの距離を推し量る姿を見て、砦の外に配置されている兵士たちは息が詰まりそうになる。異様な緊張感が兵士たちにも伝播し、喉が渇いてしょうがない。ひとりの兵士が思わず、右手に持っていた短槍を地面に落としてしまう。カラカラカラン! という軽快な音を戦場に響かせたその時、覇王たちは素早く動きを見せたのであった。
「風林火山、毘沙門天。吼える也ッ!!」
覇王が自分の両手に一本づつ持つ大剣と戦斧の真名を呼ぶ。次の瞬間、大剣からは地から天に昇る稲光を発し、戦斧は真っ黒な暴風を巻き起こす。覇王はまずは小手調べとばかりに大剣をぞんざいに振り回し、四方八方へ稲光を発散させるのであった。これをどうにか出来ないようであれば、自分と相対することすら出来ぬぞと言わんばかりの行動であった。
「アンジェラくん。雷のほうは自分に任せていてください。先生が避雷針となってみせましょう」
「いえ。ワタクシがどうにかしてみせますわ。覇王はワタクシが戦力足りえるのかを見定めている気がしますもの」
アンジェラ=キシャルはそう言うと、ハジュン=ダイロクテンより3歩、前に出て、自分たちに向かって天地を同時に穿つ稲光へと宝剣・絶対王者の剣を振るってみせる……。
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