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第9章:移り変わる世界

第9話:第二射目

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 コロウ関の上から散々に太槍の雨が降ろうとも、いっこうに死役兵たちの足が鈍ることはなかった。しかしながら、30万の大軍団は確実にその数を減らされていることは間違いないと思ったニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエは亜人族のおさに続けて連弩を使用するように指示を飛ばす。

「おう、任せろってんだっ! しっかし、ぬかに釘を打っている気分なのは否めないぞ? 『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』の次射はまだなのか!?」

「装填から発射まで30分の間隔を要するのは致し方ないのでござる! そちらの防衛はカミラ=ティアマト殿に任せている以上、彼女を信じるしかないのでござるっ!」

 タムラ=サカノウエの言う通り、コロウ関にある一番大きな門を塞ぐ形で設置されている『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』の周りを陣取るニンゲン・エルフ連合軍3万を指揮するのはエルフ軍の総指揮官であるカミラ=ティアマトであった。彼女は連合軍の内、2万を指揮し、志願してきたニンゲン族の将であるユキムラ=サナダに残りの1万を預ける形となる。

 雨あられのように降り注ぐ太槍ゾーンを抜けてきた死役兵がついにコロウ関まで100ミャートル地点まで接近する。カミラ=ティアマトは『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』を護るように2万の兵を扇状に軍を展開させる。そして、近づく死役兵たちを砕けと皆に伝達するのであった。

「ここが勝負の分かれ目だっ! あんたたち、次弾発射まであと15分。『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』を死守しろっ! 下がることは決して許さねえからなっ!」

「カミラ様、俺様は遊軍として動きますっ! 敵陣を切り裂いてごらんになりましょうぞっ!」

「無理すんじゃねえぞっ! おめえから、まだ子種をもらってないんだからなぁっ!!」

 カミラ=ティアマトが1万の軍勢を引き連れて死地に向かっていくユキムラ=サナダに怒声を飛ばす。そんな彼を心配する声を受けても、ユキムラ=サナダは異様に晴れやかな表情のままである。彼の表情に不安がよぎるカミラ=ティアマトであったが、それについて言及している時間はなかった。

 死役兵たちは頭上から降り注ぐ太槍のせいで、陣形を崩していた。それでもコロウ関の中央を陣取る『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』に向かって一点集中して狙いにくるのであった。カミラ=ティアマトは半円陣を組み、徹底した防御陣を敷く。前方180度の方向から、死役兵たちが蜜に群がる蜂のように四方八方から一斉に向かってくる。カミラ=ティアマトは半円陣の一番前に立ち、その両手に握る2本の幅広直剣ブロードソードをブンブンと左右に振り回してみせる。

「おらおらっ! かかってこいよっ! あたしゃの幅広直剣ブロードソードはわざわざ刃を潰しているんだっ! 砕くにはもってこいってことだよぉ!!」

 死役兵を倒すために必要なことは『斬る』ことでなく、『砕く』ことが重要である。それゆえに、カミラ=ティアマトはご自慢の光り輝く幅広直剣ブロードソードの分厚い刃をあらかじめ潰しておいたのだ。これにより、重量武器へと変化した彼女の武器は死役兵たちの身体を構成する骨という骨を砕くために特化したのである。

 彼女が刃を潰しておいた幅広直剣ブロードソードを一振りすることで、5~6体の死役兵たちの身体が砕かれてしまうこととなる。そして、彼女の周りに集まるエルフ兵たちは、その死役兵たちが再生しないように炎の柱ファー・ピラーと呼ばれる炎柱を産み出す魔法で火葬してしまうのであった。

 『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』を中心として、そこら中から炎柱が天を衝くかのように吹き上がる。さすがは魔法を得意とするエルフ軍と言っても良い。死役兵との相性の良さを散々に敵へと見せつけるカミラ=ティアマトの隊であった。

 しかしながら、死を恐れぬ死役兵たちは太槍が降り注ぐゾーンを抜ける数を増やし、どんどんとカミラ=ティアマトの隊に接近していく。彼女はチィッ! と舌打ちせざるをえなくなる。いくら相性が良くても、魔法を発動するのにはタイムラグを生じせざるをえないのだ。圧力を増やしてくる死役兵たちによって、カミラ=ティアマトの隊は疲労度を急激に蓄積させられることとなる。

 それを救ったのが遊撃部隊となっていたユキムラ=サナダが率いる1万の隊であった。彼らは『砕く』という行為はせずに『突く』という行為に集中したのである。ユキムラ=サナダは速さを重視したのだ。彼の隊は長蛇の陣を敷き、カミラ=ティアマトの隊に向かっていく死役兵に対して、斜めから侵入し蛇行しながら食い破っていく。彼らは一様に槍をしっかりと両手で握り、自分が向かう先にしっかりと添えて、前へ前へと走っていく。

 ただでさえ、まともな陣形を取れぬ死役兵たちは横っ腹を突かれたことにより、その形をおおいに乱されることとなる。それでも死役兵たちはひとどころにまとまることもせずに散見的にカミラ=ティアマトの隊へと各々で突っ込んでいく。明らかに死役兵たちの密度が減り、カミラ=ティアマトの隊への負担が減ることとなる。

「やるじゃねえか、ユキムラ! よし、この戦いに勝ったら、てめえを抱いてやるから覚悟しておけよっ!」

 カミラ=ティアマトの顔は喜色ばることとなる。ユキムラ=サナダの隊の突進力は徒歩であるのにすさまじいモノを持っており、いくら敵が陣を崩しているとはいえ、彼らを止めれる者など皆無と思えたのである。ユキムラ=サナダの突進に元気をもらったのか、カミラ=ティアマトもまた縦横無尽に戦場を駆けまわり、自分の隊に近づいてくる死役兵たちを砕きまくる。

 彼女らの活躍により、『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』の次弾装填はつつがなく終了する。金色に輝く大きな水瓶みずがめの底にはパンパンに魔力が充填されており、いつでも発射可能な態勢へと移行したのであった。

「カミラさん。第二射を放ちますわよっ! 『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』に巻き込まれぬように散会しなさいっ!」

 大きな水瓶みずがめの後方に陣取るエルフ族の女王であるアンジェラ=キシャルが音声拡張器マイクを用いて、水瓶みずがめを護っていてくれるカミラ=ティアマトの隊に『散れ』と指令を出す。

「合点承知だぜっ! おい、てめえら、間抜け面をさらしたまま、巻き込まれんじゃねえぞっ! 一旦、ばらけろってんだっ! 第二射が終わり次第、また戻ってくるんだぞっ!」

 カミラ=ティアマトの指示を受けたエルフ軍2万は向かってくる死役兵を左右に押しのけるようにしながら、『土竜の咆哮ドラゴニック・バースト』の射線上から退避していく。そして、射線が十分に開けたことを確認した後、アンジェラ=キシャルは土竜の咆哮ドラゴニック・バーストの発射を部下たちに命ずるのであった。その射線上にあの男が居ることも知らずにだ……。
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