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第9章:移り変わる世界

第5話:政変

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――テンショウ21年5月30日 ドワーフ族が支配するダイクーン王国の首都:セイにて――

 この日、覇王:シノジ=ダイクーンはダイクーン王国の政治が改まったことを国民たちに宣言する。覇王:シノジ=ダイクーンと女王:アイナ=ワトソンのツートップによる政権を樹立したと国民たちに告げる。そして、その補佐として宰相:アンドレ=ボーマンだけでなく神託の巫女が政治に深く関わることも伝達したのだ。

 国民たちは覇王の言葉に眉をひそめることになるが、覇王に意見すれば、それはすなわち死に繋がると直感し、誰も直接的には覇王に異を唱えることは出来ずじまいとなる。あの温和なドワーフ族の国主はいったいどこに行ってしまったのか? と噂が飛び交うが、その国主の存在について言及されることはなかったので、覇王の手により、雲の上に存在すると言われている天の国へ投げ飛ばされたのだろうと予測する。

 そんな国主にすら手をあげてしまうような覇王をどう迎えれば良いかわからぬドワーフ族であったが、彼らの不安が払しょくされる前に覇王は未だにコロウ関とトウ関に居座るニンゲン・エルフ・魔族・亜人族の4種族の排除をおこなうことを国民たちに約束する。国民たちにとって、覇王よりも不安視していたのは、やはりドワーフ族の国境である二つの要塞を4種族たちに未だに占拠されているという事実であった。

「女王:アイナ=ワトソンから国民の皆様にお願いがあります……。あなたがたの力の全てを覇王様に差し出してくださいますよう、尽力してください」

 女王として君臨したアイナ=ワトソンが宮殿のバルコニーから、そのようにドワーフ族たちにお願いをする。宮殿の周りを取り囲む聴衆たちは、自分たちがどのように覇王に尽力すれば良いのかと隣に立つ者同士、ひそひそと耳打ちするのであった。金はもちろん、兵力として徴兵されるのであろうという予測を立てるが、国民たちの予想を遥かに飛び越えた要求を女王からされることとなる。

「覇王様が欲しているのは、あなたがたの命そのものですわ。あなたがたひとりの命により、死役兵100人を産み出すことができますの。そして、覇王様は100万の軍勢でコロウ関、トウ関を奪い返すという算段なのですわ」

 国民たちは自分の耳をつい疑ってしまうこととなる。生者をニエに死役兵を産み出すことについてはもちろんとして、何故に100万もの大軍勢が必要になってくるのか、それがわからない。伝説に謳われる覇王ならば、生者によって構成された兵1万で事足りるはずだという想いがあった。女王:アイナ=ワトソンの言いにより、覇王はコロウ関、トウ関だけを取り戻すためにそれほどの大軍勢を求めているのではないと察する。

「もしかして、覇王様はテクロ大陸全土を掌握するつもりなのでは?」

「そう……かもしれん。でなければ、100万もの大軍勢をどこで使おうというのだ??」

 聴衆たちは覇王の意思を女王の宣言から汲み取っていた。ドワーフ族がテクロ大陸の支配者となるのは非常に魅力的な話である。だが、だからといって、誰がそのために必要な死役兵を呼び起こすための犠牲になるのか? という疑問も湧いてくる。女王は志願してくれるヒトの命を使わせてもらうと言うが、眉唾モノすぎて信頼できる話ではなかった。

「あなたがたの危惧していることはわかりますわ。無理やりに宮殿へ連行されるのではないか? と。でも、安心してほしいの。志願では足りぬ人数は罪人たちの命を使わせていただきますので」

 この言葉に国民たちはほっと安堵してしまう。死罪に値するヒトがその罪を償うためにその命をドワーフ族の繁栄のために使ってもらえるならば、それに越したことは無いと思うのであった。だが、国民たちはこの時点では知らなかった。続いて、宰相が大戦を生き残るためにもドワーフ族全体の法を厳しく律すると言い、盗みに関して、今まで以上に厳しい取り締まりをおこなうと宣言したのである。

 そして、後日、明らかになることだが、盗みは金銭や食料品だけでなく、恋人の浮気はもちろんとして、他人の妻や旦那と不倫をおこなった者も窃盗という枠組みに組み込まれてしまう。そして、その者たちも牢に囚われることとなる。そして、銅貨1~2枚程度の窃盗ですら、その者は刑務所に連行されていってしまった。

 さらにはその厳しすぎる法に異を唱えた者は政治犯として、お縄を頂戴することとなる。新しい刑法が発布されるや否や、ドワーフ族が支配するダイクーン王国の首都:セイの刑務所は受刑者で満杯になってしまう。だが、一時期を過ぎれば、すぐに刑務所の空が出来上がり、つぎの受刑者が牢に繋がれることとなる。しかし、受刑者がシャバに帰っていくわけではない……。

 そんなことになろうとはドワーフ族は誰も予想だにしていなかった。ただ今は覇王様がテクロ大陸全てを掌握してくれるであろうという夢に国民たちは酔いしれることとなる。宮殿のバルコニーの前にある広場に集まる聴衆たちに軽く会釈した後、女王:アイナ=ワトソンはそこから退席し、宮殿にある玉座の間に戻り、自分には不似合いな玉座にちょこんと尻を落ち着けることとなる。

 遅れて戻ってきた覇王:シノジ=ダイクーンが玉座に座るアイナ=ワトソンの頭を右手で優しく撫でる。そして、良き演説であったぞと彼女を褒めたたえるのであった。

「わたくしはわたくしの出来る限りをしたにすぎませんわ。シノジ様。これで兵を続々と前線へ送ることができますわ。後はシノジ様のご活躍次第ですの」

「ガハハッ! 言うてくれるものだっ! どこぞの凡将とは違うことをしっかりとアイナに教えねばならぬようだな!?」

 覇王:シノジ=ダイクーンはアイナ=ワトソンに嫌みを込めた言葉を送られたが、それでも終始ご機嫌であった。覇王はアイナ=ワトソンを抱きかかえ、そして自分が代わって玉座に座ったのである。覇王がそうしたのは、この生意気なことをいう女に辱めを与えてやろうと思ったからだ。

 覇王は玉座に座るや否や、アイナ=ワトソンが着飾っていた儀式用のドレスをそのゴツゴツの両手でビリビリに破いてしまう。そして、ドレスだけでなくブラやショーツまでをも剥ぎ取り、産まれたままの姿にさせてしまう。だが、覇王は一瞬、怪訝な表情になる。

「アイナ……。おぬし、わざとわれを焚きつけたな?」

「うふふっ。わたくし、乱暴にされるのが好きなのですわよ?」

 覇王:シノジ=ダイクーンはアイナ=ワトソンの履いているショーツを剥ぎ取ったのだが、そのショーツは覇王が何かをする前に、とっくの昔にずぶ濡れになっていたのだ。これには一杯食わされたと、カハッ! と軽快に笑ってみせるしかない覇王であった……。
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