68 / 123
第7章:刻まれた恐怖
第6話:意地悪な問いかけ
しおりを挟む
「知ってます? カマキリのメスって、オスと交尾した後、こんな感じでオスを動けぬ身にして、物理的にむさぼり喰らうって」
「ふむ……。これは勉強になりますな。さすがはキングオブゴリラですよ。愛しいからと言って、絞め技をかましますかね?」
カミラ=ティアマトからの報告を受けるためにニンゲン・エルフ・魔族・亜人族の代表者たちが仮の本部へと姿を現したのは5月17日の昼過ぎであった。彼女本人からの連絡は無かったが、いい加減、被害状況のまとめがひと段落しているはずだと、そこに自然と集まったのである。そして、彼らがその眼にしたのは、床に倒れ伏せていたカミラ=ティアマトとユキムラ=サナダの両名であったのだ。
「ふふっ。良いではないですか。ワタクシとしましては、ようやくカミラさんに良いヒトが出来たと安心してましてよ。あらあら、幸せそうな寝顔ですこと」
カミラ=ティアマトは夜を問わずに働き詰めであった。そこにユキムラ=サナダという珍客を迎えて、そしてすったもんだの展開を披露し、ついには絡み合ったまま、2人は眠りに落ちたのである。カミラ=ティアマトはもちろん疲労が積み重なったことによる睡眠であり、ユキムラ=サナダは頭突きの後遺症プラス、カミラ=ティアマトの絞め技による合わせ技1本であった。
そんな微笑ましい? 彼女らの姿を見て、ニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエは彼女らの身体の上に薄手の毛布を掛けるのであった。そして、彼はそこらに散乱していた書類を拾い上げて、机の上にキレイに並べ終える。
「ううむ……。予想していた以上の損害を被っているようでござるな。ニンゲン族の将だけでも10人は犠牲になったようでござる」
「ワタクシのところは将こそ、それほど死にはしなかったものの、巻き込まれる形で兵は2万もの損害を被っていますわね」
ニンゲン軍は死者だけで2万。そして、エルフ軍は傷を負った者を合わせて2万。総勢14万の内、3分の1が戦える状況に無いことを知る、ニンゲン族の首魁とエルフ族の女王であった。そして、兵自体には損害が無かった魔族・亜人族であったが、三頭龍(トライヘッド・ドラゴン)と三大闘士を失ったのは痛すぎた。これでは魔族・亜人族は軍として統括できる者がほとんどいなくなってしまったと同義だったからだ。
「将がいなければ、兵を動かすことなど出来ません。うちは6万の軍を持ってきていましたけど、先生とイヴァンくん2人では精々1万ずつの運用になるでしょうね」
「そうなると、残りの4万にはトウ関に戻ってもらうしかないな。アニキ、こちらでそう手配しておくが、問題ないですか?」
亜人族の長であるイヴァン=アレクサンドロヴァがカミラ=ティアマトが取りまとめた報告書を片手に魔族の代表者に確認する。魔族の代弁者はコクリと頷き、同意したという意思をイヴァン=アレクサンドロヴァに伝えるのであった。しかしながら、そこで待ったをかけたのがニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエである。
「将がいなくて軍を統括しきれないのはわかるのでござるが、そちらの本国から応援を呼べぬでござるか? ニンゲン・エルフ連合軍は3分の1も損害を出してしまったのでござる」
「言いたいことはわかりますよ? タムラくん。でも、あの覇王がそのような時間的猶予を先生たちに与えてくれると思いますか? 明らかに覇王は先日の襲撃の際に、狙って将を殺した風に感じますけどね」
ハジュン=ダイロクテンの言いを受けて、むむ……と零しながら口をつぐんでしまうタムラ=サカノウエであった。覇王のあれほどの力をもってすれば下級兵士がどれほどに壁になろうが、彼奴を押し留まらせるのは無理だということはわかっている。そして、将たちが進んで犠牲になってくれたのはありがたいが、それも彼奴の計算の内だったと主張するのがハジュン=ダイロクテンであったのだ。
ただ、運が良かったことはそれぞれの国の代表者たちがだれひとりとて犠牲にならなかったことである。これだけでも、軍全体が崩壊しなかったという結果が残ったのだ。これは大きなアドバンテージでもあった。
戦において、一番やっていけないのは、総大将が死ぬことである。悪く言えば、部下たちは代えが利くが、総大将はそうはいかないのである。特にタムラ=サカノウエはこの『聖戦』の総大将なのだ。配下の将をいくら失おうとも、タムラ=サカノウエが生きている内は、まだ本格的な敗けが決定したわけではないのだ。
ドワーフ族が成さねばならぬことは、この戦における一地方において、一時的に勝つことではない。このドワーフ族の支配する国に侵略を開始した総大将の首を取ってこそ、この侵略は止まるのである。
「拙者が死んではいけないことが一番重要だということでござるな……。して、これからどうすれば良いのでござろうか?」
「それをこっちに振ってきますか? 総大将がどうしたいかで決まることじゃないんです? 先生たちはあくまでも『火事場泥棒』ですから、そこは間違わないでほしいんですけどぉ!?」
この後に及んで、自分たちはただニンゲン・エルフ連合軍の侵攻にあわせて、それに乗っかっただけだと主張する魔族の代弁者に対して、ニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエはこめかみに青筋が立ちそうになってしまう。明らかに挑発しているのだ、魔族の代弁者は。自分たちに正当な地位を約束するようにと、念書を書けと言ってきているのである。
魔族・亜人族によるドワーフ族が支配するダイクーン王国への侵攻を正式に認めてしまえば、彼らにも戦後、ダイクーン王国との交渉について、口を挟まれることとなる。だからこそ、魔族・亜人族と合流した後も、その辺りをわざと曖昧にしてきたのだ、タムラ=サカノウエを初めとするニンゲン軍は。
しかし、今や、ニンゲン軍の後ろ盾となっていたエルフ族の女王は手のひらを返して、魔族の代弁者とねんごろな関係になってしまっている。いくら朴念仁のタムラ=サカノウエであったとしても、2人がどこまでの関係を築いてしまっているかはわかっていないが、面白くない状況になっていることは察している。
「くっ……。それについてはうちの軍師であるカンベー=クロダと協議中でござる。しかしながら、今は利権争いよりも先に、あの覇王をどうにかすべきだと言わせてもらうのでござるっ!」
「覇王をどうにかすべき、ですか。確かにアレをまずどうにかしないと、この先のことなんて考えても意味がないことは承知です。ですが、承知の上で言わせてもらいますけど、タムラ=サカノウエくんは先生たちに何を望むのです?」
「手を貸せと言いたいのでござるっ! ええいっ! 貴殿とやり合うのは性に合わぬでござるっ!」
「ふむ……。これは勉強になりますな。さすがはキングオブゴリラですよ。愛しいからと言って、絞め技をかましますかね?」
カミラ=ティアマトからの報告を受けるためにニンゲン・エルフ・魔族・亜人族の代表者たちが仮の本部へと姿を現したのは5月17日の昼過ぎであった。彼女本人からの連絡は無かったが、いい加減、被害状況のまとめがひと段落しているはずだと、そこに自然と集まったのである。そして、彼らがその眼にしたのは、床に倒れ伏せていたカミラ=ティアマトとユキムラ=サナダの両名であったのだ。
「ふふっ。良いではないですか。ワタクシとしましては、ようやくカミラさんに良いヒトが出来たと安心してましてよ。あらあら、幸せそうな寝顔ですこと」
カミラ=ティアマトは夜を問わずに働き詰めであった。そこにユキムラ=サナダという珍客を迎えて、そしてすったもんだの展開を披露し、ついには絡み合ったまま、2人は眠りに落ちたのである。カミラ=ティアマトはもちろん疲労が積み重なったことによる睡眠であり、ユキムラ=サナダは頭突きの後遺症プラス、カミラ=ティアマトの絞め技による合わせ技1本であった。
そんな微笑ましい? 彼女らの姿を見て、ニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエは彼女らの身体の上に薄手の毛布を掛けるのであった。そして、彼はそこらに散乱していた書類を拾い上げて、机の上にキレイに並べ終える。
「ううむ……。予想していた以上の損害を被っているようでござるな。ニンゲン族の将だけでも10人は犠牲になったようでござる」
「ワタクシのところは将こそ、それほど死にはしなかったものの、巻き込まれる形で兵は2万もの損害を被っていますわね」
ニンゲン軍は死者だけで2万。そして、エルフ軍は傷を負った者を合わせて2万。総勢14万の内、3分の1が戦える状況に無いことを知る、ニンゲン族の首魁とエルフ族の女王であった。そして、兵自体には損害が無かった魔族・亜人族であったが、三頭龍(トライヘッド・ドラゴン)と三大闘士を失ったのは痛すぎた。これでは魔族・亜人族は軍として統括できる者がほとんどいなくなってしまったと同義だったからだ。
「将がいなければ、兵を動かすことなど出来ません。うちは6万の軍を持ってきていましたけど、先生とイヴァンくん2人では精々1万ずつの運用になるでしょうね」
「そうなると、残りの4万にはトウ関に戻ってもらうしかないな。アニキ、こちらでそう手配しておくが、問題ないですか?」
亜人族の長であるイヴァン=アレクサンドロヴァがカミラ=ティアマトが取りまとめた報告書を片手に魔族の代表者に確認する。魔族の代弁者はコクリと頷き、同意したという意思をイヴァン=アレクサンドロヴァに伝えるのであった。しかしながら、そこで待ったをかけたのがニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエである。
「将がいなくて軍を統括しきれないのはわかるのでござるが、そちらの本国から応援を呼べぬでござるか? ニンゲン・エルフ連合軍は3分の1も損害を出してしまったのでござる」
「言いたいことはわかりますよ? タムラくん。でも、あの覇王がそのような時間的猶予を先生たちに与えてくれると思いますか? 明らかに覇王は先日の襲撃の際に、狙って将を殺した風に感じますけどね」
ハジュン=ダイロクテンの言いを受けて、むむ……と零しながら口をつぐんでしまうタムラ=サカノウエであった。覇王のあれほどの力をもってすれば下級兵士がどれほどに壁になろうが、彼奴を押し留まらせるのは無理だということはわかっている。そして、将たちが進んで犠牲になってくれたのはありがたいが、それも彼奴の計算の内だったと主張するのがハジュン=ダイロクテンであったのだ。
ただ、運が良かったことはそれぞれの国の代表者たちがだれひとりとて犠牲にならなかったことである。これだけでも、軍全体が崩壊しなかったという結果が残ったのだ。これは大きなアドバンテージでもあった。
戦において、一番やっていけないのは、総大将が死ぬことである。悪く言えば、部下たちは代えが利くが、総大将はそうはいかないのである。特にタムラ=サカノウエはこの『聖戦』の総大将なのだ。配下の将をいくら失おうとも、タムラ=サカノウエが生きている内は、まだ本格的な敗けが決定したわけではないのだ。
ドワーフ族が成さねばならぬことは、この戦における一地方において、一時的に勝つことではない。このドワーフ族の支配する国に侵略を開始した総大将の首を取ってこそ、この侵略は止まるのである。
「拙者が死んではいけないことが一番重要だということでござるな……。して、これからどうすれば良いのでござろうか?」
「それをこっちに振ってきますか? 総大将がどうしたいかで決まることじゃないんです? 先生たちはあくまでも『火事場泥棒』ですから、そこは間違わないでほしいんですけどぉ!?」
この後に及んで、自分たちはただニンゲン・エルフ連合軍の侵攻にあわせて、それに乗っかっただけだと主張する魔族の代弁者に対して、ニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエはこめかみに青筋が立ちそうになってしまう。明らかに挑発しているのだ、魔族の代弁者は。自分たちに正当な地位を約束するようにと、念書を書けと言ってきているのである。
魔族・亜人族によるドワーフ族が支配するダイクーン王国への侵攻を正式に認めてしまえば、彼らにも戦後、ダイクーン王国との交渉について、口を挟まれることとなる。だからこそ、魔族・亜人族と合流した後も、その辺りをわざと曖昧にしてきたのだ、タムラ=サカノウエを初めとするニンゲン軍は。
しかし、今や、ニンゲン軍の後ろ盾となっていたエルフ族の女王は手のひらを返して、魔族の代弁者とねんごろな関係になってしまっている。いくら朴念仁のタムラ=サカノウエであったとしても、2人がどこまでの関係を築いてしまっているかはわかっていないが、面白くない状況になっていることは察している。
「くっ……。それについてはうちの軍師であるカンベー=クロダと協議中でござる。しかしながら、今は利権争いよりも先に、あの覇王をどうにかすべきだと言わせてもらうのでござるっ!」
「覇王をどうにかすべき、ですか。確かにアレをまずどうにかしないと、この先のことなんて考えても意味がないことは承知です。ですが、承知の上で言わせてもらいますけど、タムラ=サカノウエくんは先生たちに何を望むのです?」
「手を貸せと言いたいのでござるっ! ええいっ! 貴殿とやり合うのは性に合わぬでござるっ!」
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる