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第6章:覇王がもたらす死
第4話:混乱する本部
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キントキ=サガタはスモウの名手でもあった。彼の伸長は200センチュミャートルちょうど。体重は0.2トゥンにも達し、ヤマダイ国において『横綱』と呼ばれていたのだ。そんな彼がたった50センチュミャートルほど伸長が上回っている覇王に左手の先だけでぶん投げられたのだ。そして、覇王は宙を飛んでいくキントキ=サガタに向かって、右眼で軽くウインクしてみせる。
「我の強さをしっかりと伝えてくるが良い也っ。我はあと30分ほど、雑兵どもと戯れておく也っ!」
呆けた顔のままに宙を泳ぐキントキ=サガタにも、彼奴の通る大声を耳に聞き届ける。そして、キントキ=サガタは1キュロミャートルほどを空中で過ごしたあと、土色の地面に激突する。その衝撃で、彼の左腕はもげ、さらには顔の半分がぐしゃぐしゃになってしまう。だが、それでも絶命しないのがキントキ=サガタであった。ニンゲン軍が誇る重装備隊の隊将を務めるだけの生命力に溢れていたのであった。
そんな彼が地面で十数度、バウンドした後、向かったのはニンゲン・エルフ・魔族・亜人族の代表者たちが集う本部であった。その本部は急造の掘っ建て小屋であったが、その周りに色とりどりの旗印が掲げられており、そこがひと目で本部だとわかるように細工されていたのであった。
「に、逃げてくれでごんす! 覇王が攻めてきたのでごんすっ!」
キントキ=サガタは自分の体重を用いて、本部の木製の扉を無理やりにこじ開けて、中に入り込み、急ぎ、伝えねばならぬことを伝えきる。だが、本部にある軍議用の長机を食事をするための食卓へと変えていた各国の代表者たちは怪訝な表情を浮かべるだけで、実際に動きを見せることはなかった。そのため、キントキ=サガタはもう一度、彼らに向かって、危機が迫っていることを告げるのであった。
「俺様が力負けしたのでごんす! 前線からこの付近まで、投げ飛ばされたのでごんすっ!!」
「何を言っているのでござる? 貴殿は我が軍が誇る重装備部隊の隊将でござるぞ? そんな貴殿を1キュロミャートルほど投げ飛ばす? 何を言っているのか、まったくもって理解不能でござる」
ニンゲン軍の総大将であるタムラ=サカノウエですら、今、何が起きているのか、すぐには理解できなかった。本部を中心として、西側へと扇状に兵を展開させている。そして、その最前線は本部から1キュロミャートル離れているのだ。その距離を文字通りに飛んできたというキントキ=サガタの言うことをどうしても頭が理解してくれない。いや、理解というよりは納得できないのであった。キントキ=サガタの勇猛さはタムラ=サカノウエ自身がわかっているのだ。
彼はヤマダイ国における第102代目の『横綱』なのだ。その称号を与えたのはタムラ=サカノウエ本人なのである。タムラ=サカノウエはキントキ=サガタの実力がどれほどのものかと、土俵の上で確かめたのだ。そして、タムラ=サカノウエすら赤子の手をひねるように、キントキ=サガタはタムラ=サカノウエを土につけたのである。だからこそ、元はスモウ取りの身分でありながらも、一軍の将へと召し抱えたのだ。
そんな力自慢の男が空中を1キュロミャートルほど旅してきて、そして、本部にやってきたなど、どうやって頭の中で処理できようものか? タムラ=サカノウエは3度目となる質問をキントキ=サガタにしてしまうことになる。ついにキントキ=サガタは無事な右手でタムラ=サカノウエの首根っこを捕まえて、色鮮やかな料理が並ぶ長机へと投げ飛ばしてしまうのであった。
「寝ぼけるのも大概にするのでごんすっ! 俺様でも止められないのを他の将ができるわけがないのでごんすっ! ここは逃げの一手でごんすっ!!」
キントキ=サガタは顔面の半分をぐちゃぐちゃにしている状態で、怒りの色を表情に浮かばせることとなる。まさにその様は『仁王の如き』であった。そして、言いたいことを言い終えると、痛む身体を押して、本部から退出し、またもや前線へ向かっていくのであった。
キントキ=サガタが本部から退出した後、本部内はしばしの静寂が訪れる。タムラ=サカノウエは軍議用の長机に並べられていた料理を頭から被っていながらも、未だに間抜け面を晒していた。ここまでされても、タムラ=サカノウエは事態を把握できていなかったのである。
「う~~~ん? アンジェラ=キシャルくん。ドワーフ族がかの『覇王』を復活させたと思っていいのですか?」
「それはどうかしら? ワタクシとしましても、にわかに信じがたい情報なのですわよ? いくら帝がお隠れになられたと言っても、まだ二月ほどですもの。封印が緩むことはありましても、復活までは遂げれないと踏んでいますわ」
魔族の代弁者であるハジュン=ダイロクテンが胸の前で腕を組みつつ、首を傾げてみせる。そして、自分の左隣に立つアンジェラ=キシャルに問いかけると、彼女もまた、覇王の復活には時が早すぎるという推論を述べるのであった。
「しかしだ。あたしゃもキントキ=サガタとやりあったことがあるが、あそこまであいつをボロボロに出来るとなれば、三頭龍(トライヘッド・ドラゴン)のヨンくらいだぞ? あたしゃでも単純な力比べとなれば、キントキ=サガタとは互角がよいところだが?」
さすがはエルフ族が誇るキングオブゴリラことカミラ=ティアマトである。女性でありながら、ニンゲン族が誇る『横綱』と互角だときっぱり言ってしまえるところが、彼女の恐ろしさでもある。だが、そんなカミラ=ティアマトと膂力においては互角であるはずのキントキ=サガタがボロ雑巾のようにされてしまったのだ。相手が『覇王』かどうかはさておき、対処を誤れば、ニンゲン・エルフ連合軍14万だけでなく、魔族・亜人族6万も危険な状態に追い込まれるのは確かであった。
「コッヒローくん、どうします? キントキくんの言う通り、逃げます?」
魔族の代弁者であるハジュン=ダイロクテンは自分の補佐から助言をもらおうと、彼の方に視線を向ける。しかしウィル・オー・ウィスプのコッヒロー=ネヅも答えに困っているのか、歯切れ悪く口を開くこととなる。
「キントキ=サガタの怪力は皆が知るところでッチュウ……。彼をあそこまでズタボロに出来る相手はテクロ大陸では限られてくるのでッチュウ……。しかし、自分の眼で見たものしか信じられない実在主義のハジュンは、覇王の存在をその身で体験するくらいじゃないと……でッチュウよね?」
「そうです、まさにそこなんですよ、コッヒローくん。いやあ、さすがは魔族の宰相なだけはありますよね。先生のことをよくわかっています」
「じゃあ、私が確かめにいこうか? アニキは私が実際に見たってんのなら、流石に信じるだろ?」
「我の強さをしっかりと伝えてくるが良い也っ。我はあと30分ほど、雑兵どもと戯れておく也っ!」
呆けた顔のままに宙を泳ぐキントキ=サガタにも、彼奴の通る大声を耳に聞き届ける。そして、キントキ=サガタは1キュロミャートルほどを空中で過ごしたあと、土色の地面に激突する。その衝撃で、彼の左腕はもげ、さらには顔の半分がぐしゃぐしゃになってしまう。だが、それでも絶命しないのがキントキ=サガタであった。ニンゲン軍が誇る重装備隊の隊将を務めるだけの生命力に溢れていたのであった。
そんな彼が地面で十数度、バウンドした後、向かったのはニンゲン・エルフ・魔族・亜人族の代表者たちが集う本部であった。その本部は急造の掘っ建て小屋であったが、その周りに色とりどりの旗印が掲げられており、そこがひと目で本部だとわかるように細工されていたのであった。
「に、逃げてくれでごんす! 覇王が攻めてきたのでごんすっ!」
キントキ=サガタは自分の体重を用いて、本部の木製の扉を無理やりにこじ開けて、中に入り込み、急ぎ、伝えねばならぬことを伝えきる。だが、本部にある軍議用の長机を食事をするための食卓へと変えていた各国の代表者たちは怪訝な表情を浮かべるだけで、実際に動きを見せることはなかった。そのため、キントキ=サガタはもう一度、彼らに向かって、危機が迫っていることを告げるのであった。
「俺様が力負けしたのでごんす! 前線からこの付近まで、投げ飛ばされたのでごんすっ!!」
「何を言っているのでござる? 貴殿は我が軍が誇る重装備部隊の隊将でござるぞ? そんな貴殿を1キュロミャートルほど投げ飛ばす? 何を言っているのか、まったくもって理解不能でござる」
ニンゲン軍の総大将であるタムラ=サカノウエですら、今、何が起きているのか、すぐには理解できなかった。本部を中心として、西側へと扇状に兵を展開させている。そして、その最前線は本部から1キュロミャートル離れているのだ。その距離を文字通りに飛んできたというキントキ=サガタの言うことをどうしても頭が理解してくれない。いや、理解というよりは納得できないのであった。キントキ=サガタの勇猛さはタムラ=サカノウエ自身がわかっているのだ。
彼はヤマダイ国における第102代目の『横綱』なのだ。その称号を与えたのはタムラ=サカノウエ本人なのである。タムラ=サカノウエはキントキ=サガタの実力がどれほどのものかと、土俵の上で確かめたのだ。そして、タムラ=サカノウエすら赤子の手をひねるように、キントキ=サガタはタムラ=サカノウエを土につけたのである。だからこそ、元はスモウ取りの身分でありながらも、一軍の将へと召し抱えたのだ。
そんな力自慢の男が空中を1キュロミャートルほど旅してきて、そして、本部にやってきたなど、どうやって頭の中で処理できようものか? タムラ=サカノウエは3度目となる質問をキントキ=サガタにしてしまうことになる。ついにキントキ=サガタは無事な右手でタムラ=サカノウエの首根っこを捕まえて、色鮮やかな料理が並ぶ長机へと投げ飛ばしてしまうのであった。
「寝ぼけるのも大概にするのでごんすっ! 俺様でも止められないのを他の将ができるわけがないのでごんすっ! ここは逃げの一手でごんすっ!!」
キントキ=サガタは顔面の半分をぐちゃぐちゃにしている状態で、怒りの色を表情に浮かばせることとなる。まさにその様は『仁王の如き』であった。そして、言いたいことを言い終えると、痛む身体を押して、本部から退出し、またもや前線へ向かっていくのであった。
キントキ=サガタが本部から退出した後、本部内はしばしの静寂が訪れる。タムラ=サカノウエは軍議用の長机に並べられていた料理を頭から被っていながらも、未だに間抜け面を晒していた。ここまでされても、タムラ=サカノウエは事態を把握できていなかったのである。
「う~~~ん? アンジェラ=キシャルくん。ドワーフ族がかの『覇王』を復活させたと思っていいのですか?」
「それはどうかしら? ワタクシとしましても、にわかに信じがたい情報なのですわよ? いくら帝がお隠れになられたと言っても、まだ二月ほどですもの。封印が緩むことはありましても、復活までは遂げれないと踏んでいますわ」
魔族の代弁者であるハジュン=ダイロクテンが胸の前で腕を組みつつ、首を傾げてみせる。そして、自分の左隣に立つアンジェラ=キシャルに問いかけると、彼女もまた、覇王の復活には時が早すぎるという推論を述べるのであった。
「しかしだ。あたしゃもキントキ=サガタとやりあったことがあるが、あそこまであいつをボロボロに出来るとなれば、三頭龍(トライヘッド・ドラゴン)のヨンくらいだぞ? あたしゃでも単純な力比べとなれば、キントキ=サガタとは互角がよいところだが?」
さすがはエルフ族が誇るキングオブゴリラことカミラ=ティアマトである。女性でありながら、ニンゲン族が誇る『横綱』と互角だときっぱり言ってしまえるところが、彼女の恐ろしさでもある。だが、そんなカミラ=ティアマトと膂力においては互角であるはずのキントキ=サガタがボロ雑巾のようにされてしまったのだ。相手が『覇王』かどうかはさておき、対処を誤れば、ニンゲン・エルフ連合軍14万だけでなく、魔族・亜人族6万も危険な状態に追い込まれるのは確かであった。
「コッヒローくん、どうします? キントキくんの言う通り、逃げます?」
魔族の代弁者であるハジュン=ダイロクテンは自分の補佐から助言をもらおうと、彼の方に視線を向ける。しかしウィル・オー・ウィスプのコッヒロー=ネヅも答えに困っているのか、歯切れ悪く口を開くこととなる。
「キントキ=サガタの怪力は皆が知るところでッチュウ……。彼をあそこまでズタボロに出来る相手はテクロ大陸では限られてくるのでッチュウ……。しかし、自分の眼で見たものしか信じられない実在主義のハジュンは、覇王の存在をその身で体験するくらいじゃないと……でッチュウよね?」
「そうです、まさにそこなんですよ、コッヒローくん。いやあ、さすがは魔族の宰相なだけはありますよね。先生のことをよくわかっています」
「じゃあ、私が確かめにいこうか? アニキは私が実際に見たってんのなら、流石に信じるだろ?」
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