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第3章:聖戦の始まり
第1話:カミラ=ティアマト
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――テンショウ21年3月30日 ニンゲン族が支配するヤマダイ国のオゥサカ城・天守閣にて――
「ふむ。カミラ=ティアマト殿の言いを信じるのであれば、この聖戦の総大将はニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエで良いということですかな? いくらなんでも、ニンゲン族に都合が良すぎる気がするのだが……」
「ははっ! マサユキ=サナダは腹黒・狸のくせに、尻の穴は存外狭いみたいだな? 安心していいんだぞ? アンジェラ=キシャルが譲ると言っていたんだ。もらえるモノは借金とゴミ以外はもらっておくのがお利口ってもんだっ!」
ニンゲン族の国:ヤマダイの首都の中心部にそびえ立つオゥサカ城の天守閣にて、ニンゲン族の諸将とエルフ族の諸将が一同に介し、軍議を開いていた。そこでニンゲン族の宰相であるマサユキ=サナダがエルフ族の総指揮官であるアンジェラ=キシャルから巻物型の書状を受け取り、それを両手で開いて、中身を吟味する。そして、口から漏れだしたのが先ほどの言葉であった。
簡単に言えば、エルフ族はあくまでもニンゲン族を後押しするという形を取ると言ってきている。それは選帝侯会議の時のように、ニンゲン族が推す次帝をエルフ族も推すと言ってきているのだ。このドワーフ族相手の聖戦が終われば、再び、選帝侯会議が開かれるのは間違いない。もちろん、その時にドワーフ族相手に賠償金を請求するための会議も行なわれるはずである。エルフ族はそれら一切の主導権をニンゲン族に託すと言ってきたのである。
これを頭から信じろと言われたら、さすがに疑わざるをえない事案である。こんな都合の良い展開をエルフ族の女王:アンジェラ=キシャルが望んでいるとは思えない。どこかに裏があると思っていたほうが良いことは、裏表の無いと言われがちなタムラ=サカノウエでも、わかる話であった。それゆえに念には念を押して、マサユキ=サナダがカミラ=ティアマトに確認するのであった。
「だからさあ? 何度も言わせるなって。あたしゃは戦えればそれで良いって言ってんだっ! 何をそんなに訝しむ必要があるってんだい? 総大将はタムラ=サカノウエ。もし、うちのアンジェラ=キシャルが後でその座を奪おうってんなら、あたしゃがアンジェラ=キシャルをぶん殴ってやる。ここまで言わせれば十分かい?」
「頼みますぞ。とんびが油揚げをかっさらうのは勘弁こうむる。うちが主力だと言うのであれば、それ相応の謙虚さをもってほしいのです」
カミラ=ティアマトはニンゲン族との書面による約束まではしなかったが、マサユキ=サナダは言質は取ったとばかりに、それで良しとする。この天守閣にはニンゲン族の諸将だけでなく、エルフ族の諸将たちも集まっているのだ。そこで口約束に過ぎないと、後で反故すれば、立場が危うくなるのはアンジェラ=キシャルの方である。カミラ=ティアマトが自分の独断でニンゲン族との約束事に書面にてサイン出来ないのはわかりきっている。だからこそ、言葉だけでも良いので、彼女の口からそう言わせるように仕向けたのであった。
カミラ=ティアマトはしてやられたという気分であったが、これはこれで良いだろうとも思ってしまう。連合軍というのはとにかく神経を使うモノだ。やれ軍規が違う等、細やかなところでニンゲン族とエルフ族の間でいさかいが起きるのは火を見るよりも明らかなのだ。それならば、自分がその火の粉を先に被ってしまえば良いだけだと考えるカミラ=ティアマトであった。
「ニンゲン族から5万。エルフ族から9万の兵。ううむ。これだけの大軍勢、果たして必要なのかどうかわかりかねるでごわす」
胸元で腕を組み、唸り声をあげるのはニンゲン族の軍師であるカンベー=クロダであった。彼の予想では、ニンゲン族が5万の兵を出せば、その半分程度の3万の兵をエルフ族が拠出してくれると思っていたのだ。しかし、実際には予想の3倍近くの兵を差し出してくれることになってしまったのである。カミラ=ティアマトがいくら口ではニンゲン族に主導権を預けると言っても、これでは主力はエルフ族のように思えて仕方がない。魔族・亜人族の動向が読めぬ今、ニンゲン族からは5万の兵が精いっぱいと言ったところである。
「5万なんて、けち臭いことを言わずに10万出せばいいじゃねえか。魔族・亜人族は口に指を咥えて、見ていることしか出来やしねえんだからよっ!」
「いやしかしでごわすよ? 魔族・亜人族とは半年間における不可侵協定しか結べていないのでごわす。ニンゲン族はドワーフ族にそれを破られた苦い歴史があるのでごわす。いくら、ドワーフ族とは違うと言われても、背中を留守にするのは……」
ニンゲン族の軍師であるカンベー=クロダが、うぬぬ……と唸る姿を見て、カミラ=ティアマトは右手でボリボリと金色に染まる頭を掻くしかなかった。何故に、男所帯のニンゲン族のほうがエルフ族よりも悩みに悩んでいるのかがわからない。しかしながら、ニンゲン族から言わせれば、エルフ族のほうがあいつらは伝説に謳われるアマゾネスだと揶揄している。ぶっちゃけ、戦に従事している女戦士のことを男以上の野蛮人だと言っているのだ。
そして、その代表格なのがエルフ族の総指揮官であるカミラ=ティアマトであった。せっかくの金色のボブカットだというのに、そこからは可憐さや可愛さと言った表現は相応しいと思えず、女性としては高伸長なのも相まって、裏では『ゴリラよりもゴリラ』と言われてしまっていたりする。その『キングオブゴリラ』ことカミラ=ティアマトが畳をガンッ! と右手で殴り
「ドワーフ族は陰険でいけすかない金の亡者であることは認めるんだぜ。だが、魔族・亜人族はあたしゃたちと同じく、誇り高き種族だっ! あいつらは一度決めたことを反故にするようなことはしない。あたしゃが保証するぜっ!」
カミラ=ティアマトがおっぱいなのか、厚い胸板なのか判別付きにくい胸を張り、威勢よく、魔族・亜人族を擁護してみせる。宰相:マサユキ=サナダと軍師:カンベー=クロダが眉間にシワを寄せつつ、互いの顔を交互に見合う。そして、彼らの慎重な性格がそうさせたように、彼女にその根拠を問うこととなる。そして、カミラ=ティアマトは鼻高々に次のように言いのける。
「女性の勘ってやつだっ! あたしゃのは特に当たるぞっ!」
マサユキ=サナダとカンベー=クロダは、はあ……と深いため息をつき、やれやれと大袈裟に身体の左右に両腕を広げて見せる。そして、その所作にカチンときたカミラ=ティアマトが彼らの両足を両腕で抱え、そのままジャイアント・スイングをぶちかますこととなる……。
「ふむ。カミラ=ティアマト殿の言いを信じるのであれば、この聖戦の総大将はニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエで良いということですかな? いくらなんでも、ニンゲン族に都合が良すぎる気がするのだが……」
「ははっ! マサユキ=サナダは腹黒・狸のくせに、尻の穴は存外狭いみたいだな? 安心していいんだぞ? アンジェラ=キシャルが譲ると言っていたんだ。もらえるモノは借金とゴミ以外はもらっておくのがお利口ってもんだっ!」
ニンゲン族の国:ヤマダイの首都の中心部にそびえ立つオゥサカ城の天守閣にて、ニンゲン族の諸将とエルフ族の諸将が一同に介し、軍議を開いていた。そこでニンゲン族の宰相であるマサユキ=サナダがエルフ族の総指揮官であるアンジェラ=キシャルから巻物型の書状を受け取り、それを両手で開いて、中身を吟味する。そして、口から漏れだしたのが先ほどの言葉であった。
簡単に言えば、エルフ族はあくまでもニンゲン族を後押しするという形を取ると言ってきている。それは選帝侯会議の時のように、ニンゲン族が推す次帝をエルフ族も推すと言ってきているのだ。このドワーフ族相手の聖戦が終われば、再び、選帝侯会議が開かれるのは間違いない。もちろん、その時にドワーフ族相手に賠償金を請求するための会議も行なわれるはずである。エルフ族はそれら一切の主導権をニンゲン族に託すと言ってきたのである。
これを頭から信じろと言われたら、さすがに疑わざるをえない事案である。こんな都合の良い展開をエルフ族の女王:アンジェラ=キシャルが望んでいるとは思えない。どこかに裏があると思っていたほうが良いことは、裏表の無いと言われがちなタムラ=サカノウエでも、わかる話であった。それゆえに念には念を押して、マサユキ=サナダがカミラ=ティアマトに確認するのであった。
「だからさあ? 何度も言わせるなって。あたしゃは戦えればそれで良いって言ってんだっ! 何をそんなに訝しむ必要があるってんだい? 総大将はタムラ=サカノウエ。もし、うちのアンジェラ=キシャルが後でその座を奪おうってんなら、あたしゃがアンジェラ=キシャルをぶん殴ってやる。ここまで言わせれば十分かい?」
「頼みますぞ。とんびが油揚げをかっさらうのは勘弁こうむる。うちが主力だと言うのであれば、それ相応の謙虚さをもってほしいのです」
カミラ=ティアマトはニンゲン族との書面による約束まではしなかったが、マサユキ=サナダは言質は取ったとばかりに、それで良しとする。この天守閣にはニンゲン族の諸将だけでなく、エルフ族の諸将たちも集まっているのだ。そこで口約束に過ぎないと、後で反故すれば、立場が危うくなるのはアンジェラ=キシャルの方である。カミラ=ティアマトが自分の独断でニンゲン族との約束事に書面にてサイン出来ないのはわかりきっている。だからこそ、言葉だけでも良いので、彼女の口からそう言わせるように仕向けたのであった。
カミラ=ティアマトはしてやられたという気分であったが、これはこれで良いだろうとも思ってしまう。連合軍というのはとにかく神経を使うモノだ。やれ軍規が違う等、細やかなところでニンゲン族とエルフ族の間でいさかいが起きるのは火を見るよりも明らかなのだ。それならば、自分がその火の粉を先に被ってしまえば良いだけだと考えるカミラ=ティアマトであった。
「ニンゲン族から5万。エルフ族から9万の兵。ううむ。これだけの大軍勢、果たして必要なのかどうかわかりかねるでごわす」
胸元で腕を組み、唸り声をあげるのはニンゲン族の軍師であるカンベー=クロダであった。彼の予想では、ニンゲン族が5万の兵を出せば、その半分程度の3万の兵をエルフ族が拠出してくれると思っていたのだ。しかし、実際には予想の3倍近くの兵を差し出してくれることになってしまったのである。カミラ=ティアマトがいくら口ではニンゲン族に主導権を預けると言っても、これでは主力はエルフ族のように思えて仕方がない。魔族・亜人族の動向が読めぬ今、ニンゲン族からは5万の兵が精いっぱいと言ったところである。
「5万なんて、けち臭いことを言わずに10万出せばいいじゃねえか。魔族・亜人族は口に指を咥えて、見ていることしか出来やしねえんだからよっ!」
「いやしかしでごわすよ? 魔族・亜人族とは半年間における不可侵協定しか結べていないのでごわす。ニンゲン族はドワーフ族にそれを破られた苦い歴史があるのでごわす。いくら、ドワーフ族とは違うと言われても、背中を留守にするのは……」
ニンゲン族の軍師であるカンベー=クロダが、うぬぬ……と唸る姿を見て、カミラ=ティアマトは右手でボリボリと金色に染まる頭を掻くしかなかった。何故に、男所帯のニンゲン族のほうがエルフ族よりも悩みに悩んでいるのかがわからない。しかしながら、ニンゲン族から言わせれば、エルフ族のほうがあいつらは伝説に謳われるアマゾネスだと揶揄している。ぶっちゃけ、戦に従事している女戦士のことを男以上の野蛮人だと言っているのだ。
そして、その代表格なのがエルフ族の総指揮官であるカミラ=ティアマトであった。せっかくの金色のボブカットだというのに、そこからは可憐さや可愛さと言った表現は相応しいと思えず、女性としては高伸長なのも相まって、裏では『ゴリラよりもゴリラ』と言われてしまっていたりする。その『キングオブゴリラ』ことカミラ=ティアマトが畳をガンッ! と右手で殴り
「ドワーフ族は陰険でいけすかない金の亡者であることは認めるんだぜ。だが、魔族・亜人族はあたしゃたちと同じく、誇り高き種族だっ! あいつらは一度決めたことを反故にするようなことはしない。あたしゃが保証するぜっ!」
カミラ=ティアマトがおっぱいなのか、厚い胸板なのか判別付きにくい胸を張り、威勢よく、魔族・亜人族を擁護してみせる。宰相:マサユキ=サナダと軍師:カンベー=クロダが眉間にシワを寄せつつ、互いの顔を交互に見合う。そして、彼らの慎重な性格がそうさせたように、彼女にその根拠を問うこととなる。そして、カミラ=ティアマトは鼻高々に次のように言いのける。
「女性の勘ってやつだっ! あたしゃのは特に当たるぞっ!」
マサユキ=サナダとカンベー=クロダは、はあ……と深いため息をつき、やれやれと大袈裟に身体の左右に両腕を広げて見せる。そして、その所作にカチンときたカミラ=ティアマトが彼らの両足を両腕で抱え、そのままジャイアント・スイングをぶちかますこととなる……。
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