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第2章:国主たちの野望

第7話:退かぬドワーフ族

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 タムラ=サカノウエの鋭い眼光を直接喰らおうが、マーロン=ダイクーンは立派な口ひげを右手の先で余裕たっぷりといじる。彼がそういうふてぶてしい態度に出たのは、ここが『円卓の間』であるからだ。刃傷沙汰は先に手を出した側が圧倒的に不利になる。そして、言葉の応酬で負けた者ほど、力に訴えることが多い。

 この円卓の間では言葉での駆け引きは許されており、挑発行為は何ら問題無い。しかしタムラ=サカノウエはこの円卓の間から一歩、外に足を踏み出せば、どうなるのかわかっているのか問うているのである。その意味をちゃんと理解しているのかという鋭い眼光だったのである。

「重ねて言うのでござる。マーロン殿。貴殿はニンゲン族全体を相手にすることも厭わないと言いたいのでござるかな?」

「力こそが正義と、マロの宰相がそう言っていたことを忘れたでおじゃるか? そして、ドワーフ族はそう言えるだけの力を持っていると主張させてもらうのでおじゃる」

 そのマーロン=ダイクーンの言葉を受けて、タムラ=サカノウエは理解したとばかりに顎先に持ってきていた両手を解き、円卓の下側に両手を引っ込めることになる。そして、円卓の下に持ってきた右手で何かの印字を斬ることとなる。そのサインを受け取ったマサユキ=サナダがごほんとひとつ咳払いをする。そして、今度はマサユキ=サナダがエルフ族の宰相であるバーラ=イシュタルに声をかけることとなる。

「バーラ殿。そう言えば今年の鷹狩はどうするつもりですかな? どちらがより大物を狩れるか、賭けに興じると言うのはどうですかね?」

「ふむ。エルフ国では、とある商人から立派な鷹を購入したばかりです。今年こそはニンゲン族に負けぬと思いますが、そちらはタムラ様が直々に参加されるのですか?」

「そこは調整中といったところですかね。しかしながら、アンジェラ様も出張ってくるというのであれば、うちの御大将をひっぱり出さねばならないでしょうなっ!」

 バーラ=イシュタルはマサユキ=サナダの言葉を受けて、うんうんと頷いて見せる。そして、左手の先でアンジェラ=キシャルの着る白銀色のドレス越しに右肩の裏側当たりにとあるサインを描くこととなる。しかしながら、バーラ=イシュタルにそうされていながらもアンジェラ=キシャルは表情をひとつも変えずに、ただ眼を閉じて、顔の前で広げていた孔雀羽の扇子をパチリという音を立てて、閉じてしまうのであった。

「あまりにもバカバカしいマーロンさんとその下僕の言い草に、ワタクシは白けてしまいましたわ。ハジュン=ダイロクテンさん。貴方もニンゲン・エルフ族が催す鷹狩に参加しませんこと? ワタクシ、こう見えても、鷹狩は得意なのですわよ?」

「ほうほう。それは一興ですね。でも、先生たちもそこまで暇じゃないところが惜しいですね。イヴァンくん。うちはうちで催しモノがあるんじゃないんでしたっけ?」

「そ、そうでしたっけ? おい、マリーヤ。そんな予定などあったか?」

 イヴァン=アレクサンドロヴァが自分の右に控えるマリーヤ=ポルヤノフにそう問いかける。彼女は心底、呆れたという感じで深くて長いため息をついてみせる。そして、その整った唇を開くや否や

「イヴァン……。あとで説明してやるのじゃ。まったく、理解が遅くて困るのじゃ。ハジュン=ダイロクテン様。あとで予定表をチェックし直し、うちのアホ亭主に事細かく説明しておくのじゃ」

「はい、頼みますね。ドワーフ族の戯言に耳を貸す前に、魔族・亜人族の春の交流会にしっかり力を入れないといけませんね」

 ドワーフ族のマーロン=ダイクーンとその宰相であるアンドレ=ボーマンを蚊帳の外に置き、他の4種族がそれぞれに春の催し物について語り始めることにマーロン=ダイクーンたちは怪訝な表情となる。だが、彼らのその言動を無視する形で自分の主張を再び始めることとなる。

「マロは本気の本気なのでおじゃる。そして、ここでもうひとつ宣言させてもらうのでおじゃる。もし、ドワーフ族の主張を無視するというのであれば、ドワーフ族から他国に対して、武器類の輸出を禁止させてもらうのでおじゃる!」

「ほう……。それは面白ことを言いますわね? 物理的に4種族の力を削いでやると言いたいわけですわね?」

 アンジェラ=キシャルが不気味な感じでニッコリと笑顔で、マーロン=ダイクーンの言葉を受けてみせる。やれるものならやってみろという雰囲気を身体から発散させるのであった。実際、テクロ大陸における武具の生産はドワーフ族が一手に担っていた。それぞれの国は鉱山を所有していたが、どちらかと言えば、金山、銀山、そして宝石類の類の算出に力を入れていた。それもそうだろう。ドワーフ族が武具の生産に力を入れてくれている以上、自分たちは金貨や銀貨を準備するだけで良い状況となっていたのだ。

 基本的にドワーフ族は歴史上、他の4種族に対して、中立的立場をとっている。とは言っても、死の商人に近い形で他の4種族に寄与している存在だと言っても良かった。ニンゲン・エルフ族が支配する国々と、魔族・亜人族の支配する国々と国境は砂漠であったり、大きな河川だったりする。ドワーフ族を相手にする場合よりかは遥かに国境線を越えることは容易かったのだ。そしてドワーフ族が支配するダイクーン王国は山脈にすっぽり囲まれている土地柄であり、交通の要所には二つの巨大な関所を建設していたのである。

 だからこそ、ドワーフ族の国は防衛に絶対の自信を持っていた。そして、自分たちが武器類の輸出を止めてしまえば、各国は段々と弱体化し、自分たちの主張を受け入れるしか無くなってしまうことになると予想していた。そして、段階的に武器の輸出禁止を解除し、テクロ大陸のパワーバランスを調整しようという腹積もりだったのであった。

「根っからの商人という者は、自分たちは絶大なる力を持っていると、勘違いしやすい人種ですわ。確かに金を持っていて、そして、自分たちは他とは段違いなほどに良い武器を持っているのは事実ですわね。ワタクシ、マーロンさんのことを見くびっていたようですわ」

「うむ。拙者もマーロン殿の決意には胸を打たれた気分なのでござる。マーロン殿の言う新しいシステム、いや、秩序と言ったほうが良いでござるかな? 拙者は自分の国に帰り、マーロン殿の高尚な言い分を民衆たちに言い広めたい気持ちでいっぱいなのでござる」

 エルフ族の女王とニンゲン族の首魁は、ドワーフ族の国王の主張を自分たちの国で言い広めていいのか? と申し出る。マーロン=ダイクーンは上機嫌に、ほほっ! と笑い、そのまま笑顔で民衆たちを説得してくれるようにと言い出す始末であった。そして、善は急げとばかりに円卓の間からエルフ族の女王とニンゲン族の首魁はそれぞれの補佐を引き連れて、退出してしまうのであった……。
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