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第1章:我は覇王なり

第5話:2匹の蛇

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 ミイラと化している覇王の下半身、いや股間から生まれ出でた2匹の赤黒い蛇は棺から勢いよく飛び出したと同時に、その太い胴をアイナ=ワトソンが着るウエディングドレスの上から、彼女の身体へ纏わりつき、縛り付ける。アイナ=ワトソンはいきなりそうされたために左手に持っていた短剣ダガーを床に落としてしまう。そして苦しむ表情で、自分の顔近くまで接近している赤黒い蛇の頭を見る。

 だが、その蛇の頭は蛇のモノというより、亀の頭のようであった。先端部分が異様に膨れ上がっており、蛇とは思えなかったのである。さらにその亀の頭が横方向にパカリと開いたと思えば、蛇のような紫色の舌をチロチロと素早く出し入れしていた。アイナ=ワトソンはゾゾッ! と背中に怖気が走る。その亀の頭はアイナ=ワトソンの唇に軽くキスをする。だがそれだけでは飽き足らず、蛇のような舌でアイナ=ワトソンの唇を舐めまわすのであった。

 あっけに取られていたワット=ワトソンはその亀の頭が何であるかをいち早く察する。それはワット=ワトソンが男であるからこその気づきであろう。不気味な蛇であったが、その先端部分を視認すると同時に頭に思い浮かんだのは男性器そのものである。だからこそ、ワット=ワトソンは激昂した。姉が不浄なモノで身体をがんじがらめにされているだけでなく、朱が引かれた唇をけがされている真っ最中であったからだ。

 ワット=ワトソンは腰の左側に佩いた長剣ロング・ソードを抜く前に、身体を動かす。姉の身体にまとわりつく赤黒い男性器に両手をかけて、無理やりにはがそうとする。だが、赤黒い男性器の先端は必死の形相で自分の身を絞りあげようとする男に対して、シッシッシッ! と可笑しそうに息を吐く。その赤黒い男性器の力はすさまじく、ワット=ワトソンの腕力をもってしても、何とも出来ないのであった。そして、2匹の男性器のうち、1匹が鞭のようにしなり、ワット=ワトソンの横腹を薙ぎ払うように打ち付ける。

 ワット=ワトソンはオゴッ! と胃液を吐きながら、姉から身を離されることとなる。赤黒い男性器はワット=ワトソンの様子が面白いのか、開いた口からまたしてもシッシッシッ! と息を吐く。そして、邪魔者が離れたと同時に、その先端をアイナ=ワトソンの唇に押し当て、さらに無理やりに彼女の口腔を犯しはじめるのであった。アイナ=ワトソンは口の中が悪臭で満ち溢れることで、涙目になってしまう。こんな味と匂いを今まで体験したことなどない。

 口の中に押し込められた匂いは栗の花の匂いに似ていたが、どちらかと言えば、生臭いイカの匂いのほうが勝っていた。強烈な悪臭が口の中を通り、鼻から抜けだす。アイナ=ワトソンは猛烈な吐き気に襲われ、胃液を吐き出すが、口を赤黒い蛇に防がれているために、胃液は口から出ずに、鼻の穴から噴き出してしまうことになる。しかし、アイナ=ワトソンが驚愕したのは自分の噴き出した胃液の色であった。胃液はやや黄色い色をしているはずだというのに、そうではなく、明らかに白濁した色に変貌していたのだ。

 アイナ=ワトソンが吐き気を催したのは匂いだけの所為ではなかったのだ。赤黒い蛇の亀の頭から、白濁液が噴出されており、その味でアイナ=ワトソンは吐き気を催したのだ。そして、白濁液は口内だけでなく、胃の中に無理やり捻じ込まれそうになっていた。そして、アイナ=ワトソンの身体が拒否反応を示し、胃液が食道を遡り、体外へ排出せしめたのであった。

(助けて、ワット……)

 アイナ=ワトソンは鼻からダラダラと白濁液を垂れ流しながら、横腹を抑えながら床にうずくまる自分の弟に視線を向けた。弟は未だに脇腹を両手で抑えながらガハッゲホッ! と咳込んでいる。弟が動けるようになるにはまだ時間がかかりそうであった。アイナ=ワトソンは弟が自分を助けてくれようにと願っていた。だが、赤黒い蛇のもう1匹はそんなアイナ=ワトソンの視線を遮るように彼女の顔面10センチュミャートルのところで鎌首をもたげる。そして、またもやシッシッシッ! と笑ったかと思えば、その赤黒い蛇はアイナ=ワトソンの首筋からウエディングドレスの内側へと侵入する。

 その赤黒い蛇が向かった先はアイナ=ワトソンのたわわに実った二つの果実であった。アイナ=ワトソンはその二つの果実に白いブラジャーという防具を身に着けていたのだが、赤黒い蛇は口と舌を器用に使い、その防具を剥ぎ取ってしまう。そして、露わになった乳房の先端をまるで中年の汚いおっさんが若い娼婦にそうするかのように、いやらしくいじり始めたのである。

 アイナ=ワトソンは快感を感じるどころか、怖気しかなかった。無理やりに舐められ、口の先端で乳房の先端を引っ張られ、そしてあろうことか、その豊満な果実をたんねんに揉みしだかれる。アイナ=ワトソンは気持ち悪さのあまりにウエディングドレスを自分の黄色い尿で汚してしまう結果となる。その有様に歓喜したのか、赤黒い蛇はわざわざウエディングドレスの首元から一度、頭を出し、彼女に向かってシッシッシッ! と笑ってみせたのであった。

 アイナ=ワトソンは自害できるものなら、そうしたかった。舌を歯でかみ切ってしまいたくなるほどの恥辱を赤黒い2匹の蛇に与えられているのだが、自害を許してくれるほど、赤黒い蛇は甘くはなかった。そのうちの1匹は未だにアイナ=ワトソンの口内で暴れ回っている。何故、2匹の内、1匹がまず彼女の口の中に飛び込んだのかが、アイナ=ワトソンにはこの時になって初めて理解できたのだった。アイナ=ワトソンに出来ることはただ涙目になることだけである。

「くっ……、この野郎っ! 姉上から離れやがれっ!」

 ようやく身を起こしたワット=ワトソンが痛む脇腹から右手を離して、その右手で腰の左に佩いた柄から長剣ロング・ソードを抜き出す。それをもってして、姉の身体に纏わりつく赤黒い男性器を切断しようとするのであった。まず、姉の口を犯す男性器を左手で鷲掴みし、右手に持つ長剣ロング・ソードの刃を当てがおうとする。だが、ワット=ワトソンがそうしようとしたとき、背中側から右肩に手を置く人物が現れることとなる。

 ワット=ワトソンは何だ!? と思い、身体を少しだけ右にひねり、後方を確認する。そして、彼の眼に映ったのは紅いボサボサ髪のミイラの顔であった。そのミイラの顔は土色というよりかは灰色に近いものであったのだが、その眼孔部分には怪しい炎に燃えたつ赤い紅玉ルビーがはめ込まれているかのように錯覚させられたのであった……。
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