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第20章:巣立ち
第2話:アリスの心配事
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「神聖マケドナルド帝国がさらに繁栄せんことをっ!」
「ミハエル帝の下でエイコー大陸を統一してみせんっ!」
「我らがミハエル帝! 東征のあかつきには、是非、我らの槍働きをご覧くだされっ!」
新年最初の政務が終わった後、2大将軍の補佐や、部下に任じられた若い士官たちは、晩餐会に招かれていた。そこで、彼らは若いながらの野望をワインで湿らせた舌で、饒舌に語ってみせる。この晩餐会にはミハエル帝も妃を伴い、出席していた。立食パーティの様式を採用しており、若い士官たちは、ミハエル帝の周りに集まり、輪を成していた。
「やれやれ。あいつら、存外に図太いかもしれんぞ。うかうかしてたら、将軍の座を奪われちまうかもしれんな」
「ボクはそれで良いと思っていマス。いくら地上界ではお目にかかれない超絶美少女と言えども、女が将軍の地位では、他国に舐められてしまうのデス」
ベリアルとアリス=アンジェラはミハエル帝を囲む輪から、少し離れた場所で、料理に手を付けていた。ベリアルはあの一件の後、天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅと共に、アリス=アンジェラの保護者として名乗りを上げ、さらには、アリス=アンジェラに悪い虫が近づかないように奔走しまくった。
その甲斐もあってか、アリス=アンジェラは18歳となった今でも、聖女であり、処女のままであった。しかしながら、この行き過ぎた保護者たちのせいで、アリス=アンジェラに彼氏の『か』の字も、噂にのぼることは無くなってしまったのである。
「なんだ? 浮かない顔をして。そんなに神聖マケドナルド帝国の2大将軍に選出されるのは嫌だったのか?」
「ベリアルが思っていることとは、ちょっと違います。これでますます、ボクに言い寄ってくれる殿方が居なくなると思うと……。今後の幸せな天使生計画について不安感が募ってしまうのデス」
「チュッチュッチュ。華も恥じらう18歳でッチュウもんね、アリスちゃんは。20歳になる前には素敵な殿方と結婚して、子供は最低3人は欲しいと言ってたのを思い出したのでッチュウ」
「うぅ……。このままでは、ミカエルお姉様のようにいかず後家になってしまうのデス。ミカエルお姉様の強さには憧れていますケド、それとは別で、ボクは幸せな家庭に憧れているのデス……」
アリス=アンジェラの心境の吐露に、ベリアルとコッシロー=ネヅは苦笑いする他無かった。確かに、自分たちは悪魔皇:サタンが罵詈雑言のようにアリス=アンジェラに叩きつけた言葉が気になり、そのせいもあって、変な虫をアリス=アンジェラに近づけさせないようにしてきた。しかしながら、アリス=アンジェラは、そんな2人に感謝しつつも、このままでは婚期を逃してしまうかもしれないということに恐れを抱いているのも事実だ。
「なあ、コッシロー。我輩たちは散々に、アリス嬢ちゃんに近づく男どもを決闘の場に呼び寄せて、ぶっとばしてきた経緯がある。それを重々承知しているうえで言うが、もしかしたら、あの青びょうたんたちの中でも、アリス嬢ちゃんに相応しい男が居たんじゃねえか?」
「それはあり得ないのでッチュウ。あいつらの言う通り、ベリアルには散々、ハンデを設けさせたのでッチュウ。それでも、指先ひとつでダウンするようなヤワな男たちが、アリスちゃんの旦那様になることなど、断じてありえないのでッチュウ!」
さすがはアリス=アンジェラの保護者第1号のコッシロー=ネヅである。彼は酒に酔っているのか、今までアリス=アンジェラを紹介してほしいと言ってきた男たちのことを吐き捨てるように扱い、それだけでは済まぬと、ぶつぶつと文句を言いまくるのであった。ベリアルはそんなコッシロー=ネヅをあやすかのように、まあまあ……と言ってみせる。
そんなベリアルであったが、ふと、ハンデなど要らぬ! と豪語した男のことを思い出す。そいつの名前を酔っているコッシロー=ネヅの前で言って良いのか、一瞬だけ逡巡するベリアルであったが、やはりここは怠惰の権現様である。どうとでもなれぇとばかりに、その者の名前を出すのであった。
「うーん。ロック=イートでっちゅうか。彼だけはハンデなど要らないって、豪語してたッチュウねえ。でも、ベリアルにやられるどころか、付き合ってほしいアリスちゃんにぶっ飛ばされた日には、山籠もりをするしかなくなるのでッチュウ」
「ボクが彼を追い詰めたような言い方はやめてほしいのデス! ハンデは要らぬと言うだけはあって、実力もある程度は備わっているんだろうと、怠け者のベリアルに代わって、相手をしてさしあげただけなのデス!」
「あれ!? そんな顛末だったっけ!? あまりにも美しい華にタカってくる害虫ばっかりだったから、あいつがどうなったのかをてんで覚えてなかったわっ!」
ベリアルはロック=イートの名前は憶えてはいたものの、彼がどのようにアリス=アンジェラに振られたかまでは覚えていなかった。そもそも、記憶しておくことすら億劫なベリアルなのである。強烈な興味心が無ければ、男の名前など、三日も経てば忘れてしまうのだ。
そんなベリアルだからこそ、ロック=イートの名前を憶えていたことでも、殊勝なのだが、残念ながら、彼がどのようにプロポーズを失敗したのかを失念していたわけである。
「うーーーん。教えてもらっても、全然、思い出せねえ……」
「所詮、その程度の男だったということでッチュウ。まあ、アリスちゃんに完敗した後、山籠もりするって言っているだけ、マシだったなってところでッチュウ」
「ロックさんはどこで山籠もりするんでしタッケ? 真冬のアルピオーネ山脈デシタ?」
「確か、そう叫びつつ、泣きながら南の方へと走っていったでッチュウ。今頃、竜相手に、おしっこでもちびっているんじゃないでッチュウ?」
コッシロー=ネヅの言うことに、さもありなんと思ってしまうアリス=アンジェラとベリアルである。アルピオーネ山脈の山頂付近には、竜の巣がある。あそこに一般人レベルが間違って足を踏み入れて、命を取られるならまだマシだと言える。竜たちは地上界の生物に根源的な恐怖を与えるのだ。
さしもの、天使や悪魔のほうが竜よりも高位な存在であるため、アリス=アンジェラたちはあの時、竜を前にしても平然としていた。これはこれでどうなのか? と問われるが、所詮、竜族は地上界の雄であるだけなのだ。
その辺りの生物の序列はともかくとして、アリス=アンジェラは神聖マケドナルド帝国において、2大将軍のひとりという確たる地位に就いてしまったため、ますます婚期が遅れそうであった。ほとほと、アリス=アンジェラはため息を漏らす他無かった。そして、その運命という超絶な壁を打ち破ろうと、ある男が神聖マケドナルド帝国の首都であるヴァルハラントに足を踏み入れたことも、今のアリス=アンジェラは知る由も無かった……。
「ミハエル帝の下でエイコー大陸を統一してみせんっ!」
「我らがミハエル帝! 東征のあかつきには、是非、我らの槍働きをご覧くだされっ!」
新年最初の政務が終わった後、2大将軍の補佐や、部下に任じられた若い士官たちは、晩餐会に招かれていた。そこで、彼らは若いながらの野望をワインで湿らせた舌で、饒舌に語ってみせる。この晩餐会にはミハエル帝も妃を伴い、出席していた。立食パーティの様式を採用しており、若い士官たちは、ミハエル帝の周りに集まり、輪を成していた。
「やれやれ。あいつら、存外に図太いかもしれんぞ。うかうかしてたら、将軍の座を奪われちまうかもしれんな」
「ボクはそれで良いと思っていマス。いくら地上界ではお目にかかれない超絶美少女と言えども、女が将軍の地位では、他国に舐められてしまうのデス」
ベリアルとアリス=アンジェラはミハエル帝を囲む輪から、少し離れた場所で、料理に手を付けていた。ベリアルはあの一件の後、天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅと共に、アリス=アンジェラの保護者として名乗りを上げ、さらには、アリス=アンジェラに悪い虫が近づかないように奔走しまくった。
その甲斐もあってか、アリス=アンジェラは18歳となった今でも、聖女であり、処女のままであった。しかしながら、この行き過ぎた保護者たちのせいで、アリス=アンジェラに彼氏の『か』の字も、噂にのぼることは無くなってしまったのである。
「なんだ? 浮かない顔をして。そんなに神聖マケドナルド帝国の2大将軍に選出されるのは嫌だったのか?」
「ベリアルが思っていることとは、ちょっと違います。これでますます、ボクに言い寄ってくれる殿方が居なくなると思うと……。今後の幸せな天使生計画について不安感が募ってしまうのデス」
「チュッチュッチュ。華も恥じらう18歳でッチュウもんね、アリスちゃんは。20歳になる前には素敵な殿方と結婚して、子供は最低3人は欲しいと言ってたのを思い出したのでッチュウ」
「うぅ……。このままでは、ミカエルお姉様のようにいかず後家になってしまうのデス。ミカエルお姉様の強さには憧れていますケド、それとは別で、ボクは幸せな家庭に憧れているのデス……」
アリス=アンジェラの心境の吐露に、ベリアルとコッシロー=ネヅは苦笑いする他無かった。確かに、自分たちは悪魔皇:サタンが罵詈雑言のようにアリス=アンジェラに叩きつけた言葉が気になり、そのせいもあって、変な虫をアリス=アンジェラに近づけさせないようにしてきた。しかしながら、アリス=アンジェラは、そんな2人に感謝しつつも、このままでは婚期を逃してしまうかもしれないということに恐れを抱いているのも事実だ。
「なあ、コッシロー。我輩たちは散々に、アリス嬢ちゃんに近づく男どもを決闘の場に呼び寄せて、ぶっとばしてきた経緯がある。それを重々承知しているうえで言うが、もしかしたら、あの青びょうたんたちの中でも、アリス嬢ちゃんに相応しい男が居たんじゃねえか?」
「それはあり得ないのでッチュウ。あいつらの言う通り、ベリアルには散々、ハンデを設けさせたのでッチュウ。それでも、指先ひとつでダウンするようなヤワな男たちが、アリスちゃんの旦那様になることなど、断じてありえないのでッチュウ!」
さすがはアリス=アンジェラの保護者第1号のコッシロー=ネヅである。彼は酒に酔っているのか、今までアリス=アンジェラを紹介してほしいと言ってきた男たちのことを吐き捨てるように扱い、それだけでは済まぬと、ぶつぶつと文句を言いまくるのであった。ベリアルはそんなコッシロー=ネヅをあやすかのように、まあまあ……と言ってみせる。
そんなベリアルであったが、ふと、ハンデなど要らぬ! と豪語した男のことを思い出す。そいつの名前を酔っているコッシロー=ネヅの前で言って良いのか、一瞬だけ逡巡するベリアルであったが、やはりここは怠惰の権現様である。どうとでもなれぇとばかりに、その者の名前を出すのであった。
「うーん。ロック=イートでっちゅうか。彼だけはハンデなど要らないって、豪語してたッチュウねえ。でも、ベリアルにやられるどころか、付き合ってほしいアリスちゃんにぶっ飛ばされた日には、山籠もりをするしかなくなるのでッチュウ」
「ボクが彼を追い詰めたような言い方はやめてほしいのデス! ハンデは要らぬと言うだけはあって、実力もある程度は備わっているんだろうと、怠け者のベリアルに代わって、相手をしてさしあげただけなのデス!」
「あれ!? そんな顛末だったっけ!? あまりにも美しい華にタカってくる害虫ばっかりだったから、あいつがどうなったのかをてんで覚えてなかったわっ!」
ベリアルはロック=イートの名前は憶えてはいたものの、彼がどのようにアリス=アンジェラに振られたかまでは覚えていなかった。そもそも、記憶しておくことすら億劫なベリアルなのである。強烈な興味心が無ければ、男の名前など、三日も経てば忘れてしまうのだ。
そんなベリアルだからこそ、ロック=イートの名前を憶えていたことでも、殊勝なのだが、残念ながら、彼がどのようにプロポーズを失敗したのかを失念していたわけである。
「うーーーん。教えてもらっても、全然、思い出せねえ……」
「所詮、その程度の男だったということでッチュウ。まあ、アリスちゃんに完敗した後、山籠もりするって言っているだけ、マシだったなってところでッチュウ」
「ロックさんはどこで山籠もりするんでしタッケ? 真冬のアルピオーネ山脈デシタ?」
「確か、そう叫びつつ、泣きながら南の方へと走っていったでッチュウ。今頃、竜相手に、おしっこでもちびっているんじゃないでッチュウ?」
コッシロー=ネヅの言うことに、さもありなんと思ってしまうアリス=アンジェラとベリアルである。アルピオーネ山脈の山頂付近には、竜の巣がある。あそこに一般人レベルが間違って足を踏み入れて、命を取られるならまだマシだと言える。竜たちは地上界の生物に根源的な恐怖を与えるのだ。
さしもの、天使や悪魔のほうが竜よりも高位な存在であるため、アリス=アンジェラたちはあの時、竜を前にしても平然としていた。これはこれでどうなのか? と問われるが、所詮、竜族は地上界の雄であるだけなのだ。
その辺りの生物の序列はともかくとして、アリス=アンジェラは神聖マケドナルド帝国において、2大将軍のひとりという確たる地位に就いてしまったため、ますます婚期が遅れそうであった。ほとほと、アリス=アンジェラはため息を漏らす他無かった。そして、その運命という超絶な壁を打ち破ろうと、ある男が神聖マケドナルド帝国の首都であるヴァルハラントに足を踏み入れたことも、今のアリス=アンジェラは知る由も無かった……。
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