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第18章:地上界の伏魔殿

第6話:自由意志の権現様

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 悪魔宰相:ベルゼブブが去った後、アンドレイ=ラプソティたちは自分たちが目指している魔城へと視線を向ける。そして、再度、確認するように各々が自分たちの意見を言う。

「よっしゃ! 魔城まであと少し。ここで引き返したい奴はいるか!?」

「愚問なのデス。ここまで来たら、一蓮托生。皆であの魔城ごと、悪魔皇:サタンの企みも粉々にしてやるのデス!」

「あちきはアンドレイ様と、どこまでも一緒ですニャン! お腹の子のことは心配ですけど、アンドレイ様の加護が、あちきを護ってくれますニャン!」

「ミサ殿。せめて貴女だけでも引き返してほしいのですが、それは言うだけ無駄なのでしょうね。ここは男としての責任を果たしましょう。行きますよ、ベリアル」

「うっしっ! 誰も欠けることなく、真っ直ぐにあの魔城まで駆けるぞ! 遅れた奴は置いていかれる覚悟で必死についてきやがれってんだっ!」

 ベリアルはそう言うと、死神の大鎌デスサイズを両手で構え直し、皆の先頭を走り始める。それに遅れまいとアンドレイ=ラプソティ、ミサ=ミケーン、アリス=アンジェラが続く。しかしながら、この濃い魔素によって、身体に変調をきたしているのは、ミサ=ミケーンだけでなかった。

(うぅ……。お腹がジンジンとして、熱いのデス……。でも、ここで用を足すために時間が欲しいと言えば、ベリアルに置いていかれるのデス……)

 アリス=アンジェラは尿意に近い何かを下腹に感じていた。しかしながら、それを周りの皆に知られるわけにもいかない。アリス=アンジェラは下腹に感じる何かを、なるべく頭の中から振り払い、走り続けた。怠惰の権現様であるベリアルがようやく、やる気を出して、さっそく現れた悪魔たちを、その手に持つ死神の大鎌デスサイズでバッサバッサと斬り伏せていってくれているのだ。彼の活躍のおかげで、アリス=アンジェラはかなり休めることになる。尿意に近しい何かを感じていても、ここで足を止めるわけにはいかなかったのだ。

「チッ! 魔城がすぐ眼の前だってのに、分厚い肉の壁がせせり上がってきやがった! アンドレイ! 塩の柱で、壁に穴を開けてくれっ!」

「承知しました。皆さん、私から少し離れた位置にいてくださいっ!」

 アンドレイ=ラプソティはベリアルたちにそう言った後、紅き竜の槍レッド・ドラゴン・ランスを地面に突き立て、両手を空ける。その両手を右脇へと引き絞る。アンドレイ=ラプソティの背中から天使の6枚羽が翻る。

「ソドムの街を塩の柱と化した私にとって、こんな壁、有って無いようなものです! 処女膜を突き破るように大穴を開けてやりますっ!」

 アンドレイ=ラプソティが引き絞った両手を前方へと突き出す。それと同時にその両手からは銀色の光が飛び出し、それはぶっとい一条の光線ビームとなる。その光線ビームはまるで処女膜を破るかのように、ブチブチッ! ブッチンチン! という男が聞くのであれば気分が良い音を鳴らしながら、肉の壁群に次々と大穴を開けていくのであった。

「処女膜が破れる時って、こんな痛そうな音がなるん……デス?」

「ひ、ひとそれぞれだと思いますニャン。あちきはちょっと嫌な気分になってしまいましたニャン」

「ご、ごほん……。私もこのような音を鳴らしたくて、鳴らしたわけではありませんからね??」

「今の音から察するに、5000人くらいの処女おとめの処女膜が儚く、ぶち破られたみたいだな。案外、今の肉壁は比喩表現無しで、ミハエル坊やがうちの御大将に捧げた女たちのみさおだったのかもよ?」

 ベリアルの言っていることは冗談であった。しかし、彼らは知る由も無い。この魔都と化したレオンハイマートオートを覆っている肉の魔界を構成しているのは、悪魔皇:サタンへ捧げられた女性たちの膣そのものであることを。

 皮肉なことに、アンドレイ=ラプソティたちが、この魔都で神力ちから呪力ちからを使う度に、女たちの膣は性的な刺激を受け続けたのである。そして、神力ちから呪力ちからを浴びさせられるほどに、強力な悪魔を召喚するというメカニズムだったのだ。

 そんなことを露とも知らぬアンドレイ=ラプソティたちは、巨大な膣から産み出される悪魔たちを次々と倒していく。倒された悪魔たちは一度、純粋な呪力ちからへと戻り、次の悪魔を産み出すための『スペル魔』となるのだ。そして、『膣』である魔都はそのスペル魔を吸収すると、またもや新たな悪魔を産み出すことになる。

「うがぁぁぁ。こりゃキリが無いぜ。そろそろ、先頭を変わってくれないか?」

「いやデス。ベリアルはもっともっと働くべきなのデス。散々、さぼってきた以上、ここで活躍せねば、いつどこで活躍するつもりなのデス?」

「ひどいお嬢ちゃんもいたもんだ。ミサは身重だから、ミサに任せようものなら、アンドレイから鉄拳が飛んでくるしなぁ?」

「そんな回りくどい言い方はやめてください。素直に私にも分担してほしいと言ってくれれば良いでしょ?」

 アンドレイ=ラプソティのその一言を受けて、ベリアルはニヤリと笑う。アンドレイ=ラプソティはやれやれ……と言った表情になるが、ベリアルと同じく先頭に立ち、ベリアルと共に、次々と現れる悪魔たちを斬り伏せていくのであった。悪魔たちは断末魔を上げた後、ドロドロの白い液体へと変わっていく。

 そのドロドロの白い液体は、脈打つ肉の地面へと吸い込まれていく。ベリアルとアンドレイ=ラプソティはちらりとその様子を横目で見ていたが、その現象について、深く考える暇が無い間隔で、次の悪魔が現れる。

 もし、もう少し、ベリアルとアンドレイ=ラプソティに考える時間があったなら、この魔都のシステムを理解できていたかもしれない。しかし、魔城の玉座に座っている悪魔皇:サタンはその猶予を決して、ベリアルとアンドレイ=ラプソティに与えはしなかった。

「ククッ! 怠惰の権現様とも呼ばれるベリアルが必死に槍働きしているぞ?」

「彼は怠惰のくせに、何の役割も与えられないと、暇だ暇だとほざきますからね。怠惰なのか、働き者なのか、はっきりとしてほしいところです」

「ウフフッ。彼って、七大悪魔のひとりであることをすっかり忘れてませんコト? 本来なら、ワタクシたちの味方をするべきなのデスワ」

 悪魔宰相:ベルゼブブが冗談半分で、ベリアルを非難してみせる。しかしながら、悪魔皇:サタンはアーハハッ! と高笑いをするのであった。ベルゼブブの冗談が面白くてしょうがなかったのである。

「あいつほど悪魔らしい悪魔は居ないだろうよ。自分の興味があるモノだけに固執し、飽きればポイっと捨てる。愛情とか友情とかそんな高尚なモノではない。まさにあいつは『自由意志』で動いている悪魔の中の悪魔よ」

「そう言われると、悪魔のくせに、悪魔らしくないことをしているのが私たちになりますね。これぞ『皮肉』というやつです」

「ベリアルが羨ましいのデスワ。出来れば、彼と役割を変えてほしかったのデスノ」

「あのド天然の代わりになる奴はそうそう居ない。そして、あいつほどバランス良く、状況をかき回してくれる奴も居ない。ああいう存在は貴重なのだ、我々にとっても。そして、創造主:Y.O.N.Nにとってもな……っ!」
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