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第18章:地上界の伏魔殿

第4話:宿る命

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「シャイニング・マグナム・パンチなのデス!」

 アリス=アンジェラは大きく振りかぶった右腕を内側に巻き込むように肩口から発射させる。巨大な壁となって立ちはだかる炎の巨人を一撃の下に沈めるのであった。アリス=アンジェラはハァハァと肩で息をしていた。首都の中ほどまでに到達するまでに、アリス=アンジェラが討伐した悪魔はこれでちょうど100体目であった。

 腕が何本もある蜘蛛のような姿をした悪魔群を突破したかと思えば、地中から全身が炎で包まれた悪魔が突然、アリス=アンジェラたちの眼の前に立ちはだかった。だが、アリス=アンジェラは走っている勢いを殺さずに跳躍し、炎の悪魔の顔面に右のこぶしを叩きこんだのである。

「ノリノリじゃねえか、アリス嬢ちゃん!」

「ボクばかりに悪魔を倒させないでくだサイッ! ベリアルも働くのデスッ!」

「そう言われても、我輩は怠惰の権現様だからなぁ。おい、アンドレイ、今度はお前の方から氷の巨人が現れたぞっ!」

「やれやれ……。アリス殿。ベリアルにツッコミを入れていると、無駄に体力を消費してしまいますよ。登場したばかりで悪いですが、氷の悪魔には塩の柱となってもらいますっ!」

 アンドレイ=ラプソティは右手に紅き竜の槍レッド・ドラゴン・ランスを握っていたが、空いている左手を氷の悪魔に向けると、その手のひらから、白銀色のぶっとい光線ビームを打ち出す。その光線ビームが氷の悪魔の首付近に当たると、そこを中心にして、半径3ミャートルが塩化してしまう。氷の悪魔は何かを言わんとする前にズズーーンと巨大な建造物が横倒れになっていく音を立てながら、地面へと伏してしまうのであった。

 アリス=アンジェラたちは障壁となって立ちふさがる悪魔群をたった3人で屠りに屠る。彼女らは魔城まで残すところ1キュロミャートル付近まで到達していた。しかし、2人に戦闘を任せっきりのベリアルを除き、アリス=アンジェラとアンドレイ=ラプソティの疲労は顔にまで浮かび上がりつつあった。

「次に大物が出てきたら、絶対にベリアルに任せますカラネ!」

「我輩が出張るほどの大物なんて、まだ現れていないだろ? まだまだアリス嬢ちゃんが頑張るターンだなっ!」

「だから、アリス殿……。ベリアルに構うなと言っているのです。言い争いをしている時間があるなら、一体でも多く、悪魔を狩りましょう」

 アリス=アンジェラは一度、右腕で額から流れる汗を拭い払うと、ふうふうと呼吸を整える。その間にも不気味に揺れる地面や建物から、悪魔たちがこの地上界へと浸食するかのように現れる。アリス=アンジェラが呼吸を整え終わる時間を稼ぐためにも、彼女ら3人の後ろで待機していたミサ=ミケーンが彼女らの前へと躍り出る。

 ミサ=ミケーンは両手に1本ずつ持つ蝶の短刀バタフライ・ナイフを振り回す。それにより、地上界へと現れたばかりの悪魔たちは細切れにされてしまうのであった。

「よくわからないですけど、あちきは今、絶好調なのですニャン! 魔素が濃く渦巻くこの地獄の入り口なのに、何故か、身体からは力が溢れてきますニャン!」

 ヨーコ=タマモですら、難儀しているこの魔素が濃く渦巻くレオンハイマートオートにおいて、たかだか一介の半猫半人ハーフ・ダ・ニャンでしかないミサ=ミケーンは、皆の不安を裏切り、躍動し続けていた。彼女の相方であるアンドレイ=ラプソティも訝しむほどの活躍ぶりである。

「ミサ殿が、この空間において、元気いっぱいなのは喜ばしいのですが、別の不安も感じてしまいます」

「あちきも、首都に足を踏み入れるまでは、心が不安で押しつぶされそうでしたニャン。でも、何故か、元気いっぱいですニャン!」

 アンドレイ=ラプソティも、ミサ=ミケーンがこの空間で元気いっぱいな理由がよくわかっていなかった。しかしながら、次に現れた悪魔が、アンドレイ=ラプソティたちの疑問を少しだけ解消するのであった。

「ご機嫌ヨウ。ベリアル。あなた、そっち側につくのであれば、少しは活躍しなサンナ」

「おおっ。久しぶりだな、ベルゼブブ。悪魔皇、悪魔将軍がこの地に居るなら、絶対に悪魔宰相のベルゼブブも来ていると思ったぜ。どこでアブーラを売っていたんだ?」

「あなたたちに置いてけぼりを喰らっている面々にご挨拶してきタノ。彼らはこの土地に足を踏み入れただけで、満身創痍でしタワ」

「その口ぶりだと、直接的には手を出していないってことか。ありがてえ話だ。ここに集う面々に比べりゃ、あちらはここに足を踏み入れる前から疲弊していたからなっ!」

 紫色の濃い魔素が集う場所に向かって、ベリアルは身構える。いつでも相手をしてやるとばかりに右手に持つ死神の大鎌デスサイズを背中側に持っていく。未だ完全に地上界へと降臨していないベルゼブブはウフフ……と妖艶な笑みを零す。しかしながら、彼女の興味はベリアル以外に向くことになる。

「あら、あらあらあら。珍しい生き物が居ますコト。魔素を膣に散々受けたせいか、その本質をニンゲンから悪魔に近しい存在に作り替えられつつある人物が居ますワネ?」

「魔素を膣に受け……た? いったい、どこの誰のことを指して言っているんだ? 我輩はまだ、アリス嬢ちゃんの卑肉におちんこさんをねじ込んじゃいねえぞ!?」

「そこの可愛らしい胸が絶望的に育つ可能性が無いお嬢様のことを指していませんコトヨ。そちらではなくて、ニャン・シャンの尻尾が生えている方デスワ」

 一同の視線が半猫半人ハーフ・ダ・ニャンに注がれることになる。皆の視線を一身に受けたミサ=ミケーンは、えっ!? えっ!? と驚きの表情となるのであった。

「た、確かにここ最近、アンドレイ様とずっこんばっこんやってきましたけど、魔素をたっぷりと注がれた記憶はありませんニャン!?」

「あら? あらあらあら? 女のワタクシには感じますワヨ。貴女のお腹には新しい命が宿っていまスノ。そして、その新しい命が貴女に新しい呪力ちからを与えていますワヨ」

「ええーーー!? あちきはついにアンドレイ様の子をお腹に宿したのですかニャン!? これは、今夜はお赤飯じゃないですかニャン!?」

「えっと……。ミサ、そこは喜んでいいところなんだろうけど、あんまり喜ばしいことじゃねえぞ!?」

「な、なんですかニャン!? あちきとアンドレイ様の間に赤ちゃんが出来たのですニャン! そこは皆で祝ってほしいのですニャン!}

 ミサ=ミケーンの言うことはもっともであった。純粋な天使とニンゲンの間で赤ちゃんが出来るのは稀な現象である。ミサ=ミケーンにとって、これほど喜ばしいことは無いと言っても過言ではない。ついに待望の御懐妊となったのだ。だが、それが同時にミサ=ミケーンの身体に悪影響を及ぼしていることを、ミサ=ミケーンは数分後に知る由となる。
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