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第18章:地上界の伏魔殿

第1話:色濃い瘴気

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 旧マケドナルド王国。現在はレオンハイマートオートと改名されている。この王国は北西に海が広がり、北東と南西は山に囲まれている盆地であった。エイコー大陸の西側に存在する他の王国や帝国に比べれば、領地はネコの額と呼べるほどに狭い。そんな王国出身のレオン=アレクサンダーは、この小国の王位を奪ってから、快進撃を続けて、エイコー大陸の西側を完全に征服せしめた。

 レオン=アレクサンダー帝は神聖ローマニアン帝国、さらにはフランクリン帝国を滅ぼしただけでは事足りず、東征へと赴くことになる。彼の覇業を食い止めたのは、創造主:Y.O.N.Nから使命を与えられた絶壁洗濯板美少女のアリス=アンジェラであった。アリス=アンジェラはレオン=アレクサンダー帝の事情など、一切省みずに彼の左胸から心臓を引っこ抜き、さらには白銀に輝く長剣ロング・ソードで、その首級くびを叩き落としたのであった。

 その突然の出来事に、アンドレイ=ラプソティは大きく動揺し、さらには愛しのレオンを失った悲しみに囚われて、堕天移行状態へと陥る。しかしながら、最初は敵対したアンドレイ=ラプソティとアリス=アンジェラであったが、今は目的を共にした仲間となっている。これもまた、創造主:Y.O.N.N様の計らいなのだろうか? とアンドレイ=ラプソティは旅の道中で、幾度も考えることになる。

 瘴気があちらこちらから噴き出すレオンハイマートオートを歩いて進むアンドレイ=ラプソティたちは、途中、途中で休憩をおこなっていた。最後まで同行させてほしいと願い出たヨーコ=タマモであったが、時折、うなされるように痛みを訴えかけたのである。

「わらわの失われた左腕がうずくのじゃっ! まるで、傷口から大きな蛇が生まれてきそうなのじゃっ!」

「大丈夫かニャン? やっぱり、今からでも、ヨーコさんだけでも引き返したほうが良いと思いますニャン」

 ヨーコ=タマモはコッシロー=ネヅの背中の上で、ぐったりと倒れ伏していた。もこもこの気持ちの良い背中はヨーコ=タマモの体力と妖力ちからを回復させるにはうってつけのベッドであったが、それでも、辺りを覆う瘴気の量がレオンハイマートオートの首都へと近づくほどに、とんでもない量になってきていたのだ。ヨーコ=タマモは、この失くした左腕の痛みを消すには、ミハエル=アレクサンダーの産まれたてのスペル魔を飲めば治ると豪語した。

「あの……。スペル魔とはいったい、何のことだ?」

「なんとっ! 先日まで、3歳児だったというのは、本当の本当じゃったのか!? 皆の者。いらぬ知識をミハエルに与えるのではないぞっ!!」

 ヨーコ=タマモは初心うぶ初心うぶであるミハエル=アレクサンダーをギラギラとした眼で、全身を舐めるように見るのであった。獰猛な蛇に睨まれたミハエル=アレクサンダーは、まさに睨まれたカエルの如くに、たじたじとなってしまう。

「鈍い汗を顔に浮かべているので、大層心配してしまいましたが、私としては、ミハエル殿の貞操の心配をしたほうが良いんでしょうかね?」

「ほっとけば良いんじゃねえの? 生きる気力ってのはどうしても必要なほどの瘴気が噴き出している状況だ。アンドレイはヨーコやミハエルの心配よりも、ミサの心配をしてやれよ。なあ、ミサ」

「あ、あちきですかニャン!?」

 ベリアルが不意打ちで、ミサ=ミケーンの状態を心配してやれと言い出す。ミサ=ミケーンは七忍の御使いであるが、それでも元々、一般人に近しい半猫半人ハーフ・ダ・ニャンである。この瘴気渦巻く土地を歩いているだけで、体力と精神力をガリガリと削られていた。それを見逃さなかったのがベリアルである。

 アンドレイ=ラプソティは、しまったという想いが強くなり、少しでもミサ=ミケーンの力になろうと、彼女の右手を左手で包み込むことになる。ミサ=ミケーンはアンドレイ=ラプソティの右手から流れ込んでくる神力ちからによって、ざわついていた心が落ち着きを取り戻していくことを実感する。

「ありがとうですニャン! アンドレイ様のぬくもりが伝わってきますニャン!」

「はは……。ミサ殿なら大丈夫だろうと、ほっといてしまって、こちらこそ、すいません。もっと早くに手を繋ぐべきでしたね」

「では、ご褒美に恋人繋ぎを所望するのですニャン!」

 アンドレイ=ラプソティは、顔に喜色が溢れるミサ=ミケーンを受け入れる。繋いでいる手を恋人繋ぎにし、ラブラブカップルぶりを周囲に見せつけるのであった。この発端となったベリアルは、少し面白くない表情となり、自分もカップリングを作ろうと、余っているアリス=アンジェラに紳士のように右手を差し伸べる。

「ベリアルはアホなのデスカ?」

「うぉいっ! 男がそっと差し出した手をパッシーン! って勢いよくひっぱ叩くんじゃねえよ。下手すりゃ、決闘の合図だぞ!?」

「男は皆、けだものだと創造主:Y.O.N.N様から教えられているのデス。手を繋いだが最後、そのまま、あれよあれよとベッドの上で押し倒されて、さらには裸にひん剥かれてしまうから、よくよく警戒しろと言われていマス」

「けっ! そういうところだけは、きっちり教育を受けているんだな!? どうせなら、ベッドの上で押し倒された後に、どれだけ気持ち良いことをされるかも、教えておけってのっ!」

 ベリアルははねのけられた右手をズボンのポケットの中へと仕舞いこみ、そのままの姿勢で、皆の先頭を不機嫌に歩いてみせる。アリス=アンジェラはちょっとやりすぎたのかもしれないと、コッシロー=ネヅと顔を見合わせることになる。しかしながら、コッシロー=ネヅはさもありなんといった表情であった。次にアリス=アンジェラが視線を送ったのは、アンドレイ=ラプソティとミサ=ミケーンであった。

「まあ、アリス殿の反応は天使としては、合格点をあげますよ。致し方無かったことだと思います」

「天使とニンゲンが仲良くするのは、よくあることですニャン。でも、天使と悪魔ともなると、悪魔はその下心で、天使をけがそうとしますから、アリスちゃんが一方的に悪いわけじゃありませんニャン」

 アンドレイ=ラプソティとミサ=ミケーンがアリス=アンジェラの肩を持つのは当然のことであったが、面白くないのがベリアルである。不機嫌なままに皆の先頭をずんずんと足音をわざとらしく立てて、歩いていく。少しでもアリス嬢ちゃんに罪の意識を芽生えさせようとする、まるで児戯の行動であった。

 しかしながら、ベリアルはそんな態度を数分後には改めることになる。ベリアルがケッ! と、これまで以上に面白くなさそうな息を吐き、見えてきた魔城に嫌気を見せたのである。

「うちの御大将にしては、かなり悪趣味な魔城だ。ミハエル坊やに捧げれた女性たちによって、かつての城を『受肉』のための魔城へ作り替えたってか」
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