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第16章:マーラ様

第5話:怠惰の戦闘力

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「オープン・チャクラ!! 怠惰の権現発動っっっ!!」

 真っ白なスペル魔の奔流に飲み込まれたベリアルであったが、彼のみぞおち付近から黄色の光が溢れ出す。そこを中心として、マーラが吐き出したスペル魔がどんどん飲み込まれていく。マーラはそもそもとして、魔界に属する悪魔だ。そして、ベリアルは七大悪魔のひとりである。呪力ちからに対して、呪力ちからをぶつけてきたが、それはそもそも間違いであることに気づいたベリアルは、自分よりも下位に属するマーラの呪力ちからを飲み込んでしまおうとする。

「グギギギッ! グガガガッッッ!!」

 しかしながら、それでもマーラが放つ真っ白なスペル魔の量はとんでもないモノであった。ベリアルの背中から悪魔羽がいくつも生える。ベリアルの変化はそれだけではなかった。黄色と黒を基調とした全身鎧フルプレート・メイルがベリアルの身を包み込む。その全身鎧フルプレート・メイルはどんどん歪な形へと変わっていく。

 その様はベリアルの身体から直接、突起物が突き出しているかのようにも見えた。ベリアルが着こむ七大悪魔装束は、呪力ちからの奔流を受け入れすぎて、ついにはあばら骨が剥き出しになっているボーンメイルのような形へと変貌する。

「これっくらい吸収すれば、我輩ひとりでもマーラを地上界から魔界へ送り返すことができるだろっ! 怠惰の解放っっっ!!」

 変貌したベリアルは吸収しまくったスペル魔から抽出した呪力ちからを、次には放つための呪力ちからへと変換する。彼の剥き出しになったあばら骨の中心部には、黄色い光を放つ珠が出現し、みるみるうちに、そのサイズを巨大化させていく。

 ベリアルはその巨大化した黄色い珠を両手で持ち上げ、地上界で不気味にうねるマーラに向かって投げつける。巨大な黄色い珠はゆっくりとゆっくりと、未だにスペル魔を放出して抵抗するマーラの方へ向かっていく。マーラは半狂乱になりながら、亀頭をブンブンと振り回し、そこら中へと真っ白なスペル魔を噴射した。

「そんなに嫌がんじゃねえよ……。元々はお前の放ったスペル魔だ。ちょっと、色を変えたモノをお前にぶつけるだけだ。もしかして、ぶっかけるのは好きだが、ぶっかけられる性癖は無かったのか?」

 ベリアルはさも気だるそうな雰囲気を醸し出しながら、巨大な黄色い珠とマーラを見つめていた。巨大な黄色い珠は自分に向かってくる真っ白なスペル魔を弾き飛ばしながら、どんどんマーラの方へと近づいていく。そして、メリ……メリメリッミチィッ! という肉が押しつぶされ破砕されていく音と共に、巨大な黄色い珠はマーラの亀頭を侵食していく。

 ベリアルは勝負あったと思いながらも、巨大な黄色い珠をどんどんマーラへと押し込んでいく。亀頭を失ったマーラは断末魔を上げつつ、その勃起を収縮させていく。まさにヒルが火で焙られて、小さくなっていく姿と似ていた。しかしながら、拡大化したマーラの玉袋のサイズはそのままに、その玉袋の肉壁にヒビが入ることになる。そのヒビの隙間から間欠泉から噴き出す水鉄砲のようにスペル魔の原液が飛び出していく。

「後始末は怠惰な我輩の仕事じゃねえ。アンドレイの想いが籠ったヴァルハラントが真っ白な海に沈むかもしれねえが、そこまでは知らん」

 ベリアルはさも気だるそうな雰囲気を出しつつ、クローズ型フルフェイス兜を脱ぎ、それを左腕で抱え込む。さらには右の手櫛でべったりとスペル魔で濡れてしまった髪の毛を整え始めるのであった。

「ベリアル……。とってもスペル魔臭いのデス! 今すぐシャワーを浴びるべきデス!」

「ハハハ……。髪に付着したスペル魔って、かなり取りにくいんですよ? そこも性教育で教えておくべきなのでしょうか?」

「おう、しっかり教え込んでおけ、アンドレイ。お前が堕天しきる前に、アリス嬢ちゃんに男がどういう生き物で、どんだけ顔面にスペル魔をぶっかけたい愚か者なのかもセットで勉強させておけ」

処女おとめに教えるには、少しばかり難度が高いですね」

「そこはお前が実地で教えりゃいいだろ」

ひるがえって言えば、私は堕天することは不可能になりますね」

「そういうことだ。お前がアリス嬢ちゃんの顔面にスペル魔をぶっかける姿なんざ、まったくもって想像出来ないからな。アリス嬢ちゃん、喜べ。我輩がアンドレイの堕天を止めたぞ」

 ひとしきり言葉を交わしたベリアルとアンドレイ=ラプソティは、地上のヴァルハラントが段々と真っ白なスペル魔の原液に飲み込まれていくのを、黙って見ていることしか出来なかった。呪力ちから神力ちからを出し切った2人が、これ以上、出来ることなど何も無い。ただただ、スペル魔の原液が広がっていく様子を観察し続けた。

「コッシローさん。ディート。ミサさん。スペル魔が引いた後に、亡骸を探してあげマス」

「そこまで沈痛な顔してんじゃねえよ。少しばかり生命の源という名の『原初の海』に飲み込まれるだけだ。力を奪われるどころが、逆に元気いっぱいになってるっつうのっ!」

「えっ!? そうなんデス?? じゃあ、疲れ切って、今にも倒れ込みそうなアリスは、あの真っ白な海へと沈んだほうが良かったりしマス!?」

 アリス=アンジェラは連戦に次ぐ連戦で、もはや身体のどこにも神力ちからは残されていなかった。ダン=クゥガーたちが率いる魔物モンスターの一軍との戦い。ダン=クゥガーの部下であるクリスティーナ=ベックマンとの一騎打ち。先に宮殿へと入ったダン=クゥガーを追った後、彼との決着をつけるための戦い。さらにはそのダン=クゥガーをマーラへと変貌させた悪魔皇:サタンとの決闘。

 しかしながら、悪魔皇;サタンはアリス=アンジェラとの決闘を『じゃれ合い』程度にしか感じていなかったのが、アリス=アンジェラとしては、悔しい限りであった。そして、怒り心頭のままに、マーラとの決着をつけようとしたのだ、アリス=アンジェラひとりでは対抗できる神力ちからは彼女の身には残されていなかった。

 それだけではない。神力ちからの足らなさを痛感し、さらには自分の身に迫りくる、生物なら誰でも孕まれそうな濃厚のスペル魔をマーラの亀頭の割れ目から大量放出されたことで、アリス=アンジェラの精神は崩壊寸前にまで追い込まれることになる。

 一言で言えば、今のアリス=アンジェラは『非常にお疲れモード』であったのだ。先ほどまで、マーラが噴射していたスペル魔に恐怖を覚えていたが。今のアリス=アンジェラはあのスペル魔の原液スープの中へとダイビングしたいとさえ思ってしまうほどに、心も身体も疲弊していたのである。

「本当の本当に、あのスペル魔の原液スープの中へ飛び込んでも、ボクは孕んだりしませんよ……ネ?」
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