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第15章:ダン=クゥガー
第7話:ダン=クゥガーの領域
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アリス=アンジェラの怒りはすぐさま、彼女が着こむ戦乙女・天使装束に変化をもたらす。赤より紅く燃えるその天使装束はダン=クゥガーを消し炭にしてしまうほどの熱量を発する。しかし、ダン=クゥガーはその熱量に晒されながらも、笑みを含んだ表情を変えもしなかった。
「剣と魔法の闘技場を通して、お前の激情が伝わってくるぜ。だが、頭に血が昇った状態で、俺様と対等に戦えると思っているのか?」
ダン=クゥガーはアリス=アンジェラにそう助言するが、怒り心頭のアリス=アンジェラの耳には、彼の忠告は届きはしなかった。アリス=アンジェラは真っ赤に燃える右の拳を大きく振りかぶり、笑みを含む表情のままのダン=クゥガーの横っ面をぶん殴ろうとした。
「拳が届か……ナイ!?」
「そりゃそうだろ……。ここは俺様の領域なんだ。決闘のルールを破れるのは俺様のみだっ!!」
アリス=アンジェラは右腕全体に蜘蛛の糸が纏わりつく感触を味わう。その纏わりついた蜘蛛の糸が、ダン=クゥガーへの攻撃を一切合切、禁じているとでも言いたげであった。アリス=アンジェラはクッ! と唸りながら、右腕を引っ込める。すると、スポンと石綿の塊から右腕を引き抜いたように、あっさりと呪縛から解き放たれるのであった。
「あなたのようなゲスが設けたルールに従わなければ、ボクはあなたへまともに拳のひとつも叩きこめないことは理解しまシタ」
「ほう? 少しは冷静になったか? ならば、先ずはお互いに名乗りを上げようじゃねえかっ!」
「申し訳ございまセン。ゲスに名乗るような名前を持ち合わせていまセン」
この返しにブチッ! と脳みその血管が1本、ブチ切れそうになるダン=クゥガーであった。その途端、ダン=クゥガーが展開している剣と魔法の闘技場の境界線がグニャリと歪む。その様子を外から見ていたベリアルはクククッ! と可笑しそうに笑うのであった。
「おい、そこの雑魚悪魔っ! 何を笑っていやがるっ!」
「おっと、すまんすまん。たかだかダークエルフにすぎんお前が、外から一切、手を出せない領域を形成しているのは殊勝なことだ。だが、やけに脆い作りをしていやがると思ってな」
「チッ! この貧相な肉付きのクソアマを始末したら、今度はてめえをこの剣と魔法の闘技場に引き込んで、始末してやるからなっ!」
ダン=クゥガーは数の不利がある場合は、正面から戦おうとはしない戦術家としては正しい姿勢を取りたがる。だが、数の不利など、拳ひとつでぶっ飛ばしてきたアリス=アンジェラやベリアルに、この結界は無意味に近いことをダン=クゥガーは知る由も無かった。
常に安全圏で戦ってきた男と、死線を喜んでくぐり抜けてきたアリス=アンジェラとベリアルは根本的にその中身が違うのである。ダン=クゥガーは堕天移行状態に陥ったアンドレイ=ラプソティにそうしたように、アリス=アンジェラの周囲に魔法陣を展開していく。しかしながら、アリス=アンジェラはその魔法陣群から放たれる白緑色の光線の雨に晒されようが、まるで小雨に身体を打たれているが如くに、一歩一歩、ダン=クゥガーの下へと歩いていく。
「俺様の攻撃など、蚊に刺された程度にしか思わないってか!? このクソアマがっ!」
ダン=クゥガーは今まで冷静沈着に、不測の事態に対処してきた。その様はまるで厭世の浮世人の如くでもあった。何事にも関心が薄く、結果など、どう転がってもよいと言いたげな態度を取り続けていた。
しかし、アリス=アンジェラは激昂するダン=クゥガーに対して、一切、省みるようなことはしなかった。ただ、右肩に左手を添えつつ、グルングルンと右腕を大きく振り回すのみである。アリス=アンジェラの右腕が一回転するたびに、アリス=アンジェラの右手を包む赤より紅い炎が大きくなっていく。
ダン=クゥガーは歩を止めぬアリス=アンジェラに対して、魔法陣群の数を増やし、そこから飛び出す白緑色の光線の数を次々と増やしていく。その光線の数が30を超えると、さすがのアリス=アンジェラの顔に苦痛が浮かび上がる。そして、ついにはアリス=アンジェラは片膝をつく恰好へと追い込まれるのであった。
「クク……フハハハッ! 所詮、強がりだったわけだっ! 『天界の十三司徒』であるアンドレイ=ラプソティですら、苦慮したんだぞっ!? 出来損ないの片翼の天使が俺様の攻撃を浴び続けて、平気なわけがないよなぁぁぁ!?」
アリス=アンジェラが片膝をつき、その場でうずくまったと同時に、ダン=クゥガーは幾何か余裕を取り戻す。魔法陣群を巧みに操り、四方八方から白緑色の光線を放ち続けた。その衝撃により、アリス=アンジェラはどんどん前かがみに小さくなっていく。まるで豪雨に打たれるウサギのようにも見えた。
だが、ダン=クゥガーは見当違いの考えを頭の中に浮かべていた。クソ生意気なアリス=アンジェラが自分の猛攻に耐えきれなくなって、その場でうずくまるしかなくなってしまったと。だが、そう考えること自体が間違いであったことを、彼女が次に取った行動で、思い知らされる結果となる。
アリス=アンジェラは次への動きを見せる前に、ぼそりと口から零す。
「剣と魔法の闘技場。なかなかに面白い魔術結界なのデス。アリスは少しだけ考えまシタ。この領域のルールはいったいどういうものなのかヲ」
アリス=アンジェラは自分の導き出した答えが正しいのであれば、自分の一撃がダン=クゥガーに届くと考えた。アリス=アンジェラは溜めに溜めた神力を折りたたんだ足を縮んだバネがその抑圧から解き放たれるかのように伸ばした。そうすることで、アリス=アンジェラは魔法陣群から放たれる光線群に打たれようとも、後宮の天井近くまで跳ね上がることが出来た。
「我が名はアリス=アンジェラ。創造主;Y.O.N.N様から使命を与えられた半天半人ナリ。いざ尋常に勝負ッッッ!」
アリス=アンジェラは空中でそう宣言するや否や、剣と魔法の闘技場の天井部分を両足で蹴っ飛ばし、さらには真っ赤に燃える右の拳を真っ直ぐ、ダン=クゥガーに向かって突き伸ばしていく。ダン=クゥガーは驚きの表情をその顔に浮かべるが、すぐさま防御体勢を取るのであった。
「てめぇっ!? 俺様の剣と魔法の闘技場のルールをどこで知った!?」
「あなたはゲスな癖に、『決闘の名乗りをあげろ』とのたまったのが、どうにも引っかかっていたのデス! あなたはゲスでありながらも、正々堂々、1対1で戦うためのこの領域を形成シタ。違いマスカ!?」
「剣と魔法の闘技場を通して、お前の激情が伝わってくるぜ。だが、頭に血が昇った状態で、俺様と対等に戦えると思っているのか?」
ダン=クゥガーはアリス=アンジェラにそう助言するが、怒り心頭のアリス=アンジェラの耳には、彼の忠告は届きはしなかった。アリス=アンジェラは真っ赤に燃える右の拳を大きく振りかぶり、笑みを含む表情のままのダン=クゥガーの横っ面をぶん殴ろうとした。
「拳が届か……ナイ!?」
「そりゃそうだろ……。ここは俺様の領域なんだ。決闘のルールを破れるのは俺様のみだっ!!」
アリス=アンジェラは右腕全体に蜘蛛の糸が纏わりつく感触を味わう。その纏わりついた蜘蛛の糸が、ダン=クゥガーへの攻撃を一切合切、禁じているとでも言いたげであった。アリス=アンジェラはクッ! と唸りながら、右腕を引っ込める。すると、スポンと石綿の塊から右腕を引き抜いたように、あっさりと呪縛から解き放たれるのであった。
「あなたのようなゲスが設けたルールに従わなければ、ボクはあなたへまともに拳のひとつも叩きこめないことは理解しまシタ」
「ほう? 少しは冷静になったか? ならば、先ずはお互いに名乗りを上げようじゃねえかっ!」
「申し訳ございまセン。ゲスに名乗るような名前を持ち合わせていまセン」
この返しにブチッ! と脳みその血管が1本、ブチ切れそうになるダン=クゥガーであった。その途端、ダン=クゥガーが展開している剣と魔法の闘技場の境界線がグニャリと歪む。その様子を外から見ていたベリアルはクククッ! と可笑しそうに笑うのであった。
「おい、そこの雑魚悪魔っ! 何を笑っていやがるっ!」
「おっと、すまんすまん。たかだかダークエルフにすぎんお前が、外から一切、手を出せない領域を形成しているのは殊勝なことだ。だが、やけに脆い作りをしていやがると思ってな」
「チッ! この貧相な肉付きのクソアマを始末したら、今度はてめえをこの剣と魔法の闘技場に引き込んで、始末してやるからなっ!」
ダン=クゥガーは数の不利がある場合は、正面から戦おうとはしない戦術家としては正しい姿勢を取りたがる。だが、数の不利など、拳ひとつでぶっ飛ばしてきたアリス=アンジェラやベリアルに、この結界は無意味に近いことをダン=クゥガーは知る由も無かった。
常に安全圏で戦ってきた男と、死線を喜んでくぐり抜けてきたアリス=アンジェラとベリアルは根本的にその中身が違うのである。ダン=クゥガーは堕天移行状態に陥ったアンドレイ=ラプソティにそうしたように、アリス=アンジェラの周囲に魔法陣を展開していく。しかしながら、アリス=アンジェラはその魔法陣群から放たれる白緑色の光線の雨に晒されようが、まるで小雨に身体を打たれているが如くに、一歩一歩、ダン=クゥガーの下へと歩いていく。
「俺様の攻撃など、蚊に刺された程度にしか思わないってか!? このクソアマがっ!」
ダン=クゥガーは今まで冷静沈着に、不測の事態に対処してきた。その様はまるで厭世の浮世人の如くでもあった。何事にも関心が薄く、結果など、どう転がってもよいと言いたげな態度を取り続けていた。
しかし、アリス=アンジェラは激昂するダン=クゥガーに対して、一切、省みるようなことはしなかった。ただ、右肩に左手を添えつつ、グルングルンと右腕を大きく振り回すのみである。アリス=アンジェラの右腕が一回転するたびに、アリス=アンジェラの右手を包む赤より紅い炎が大きくなっていく。
ダン=クゥガーは歩を止めぬアリス=アンジェラに対して、魔法陣群の数を増やし、そこから飛び出す白緑色の光線の数を次々と増やしていく。その光線の数が30を超えると、さすがのアリス=アンジェラの顔に苦痛が浮かび上がる。そして、ついにはアリス=アンジェラは片膝をつく恰好へと追い込まれるのであった。
「クク……フハハハッ! 所詮、強がりだったわけだっ! 『天界の十三司徒』であるアンドレイ=ラプソティですら、苦慮したんだぞっ!? 出来損ないの片翼の天使が俺様の攻撃を浴び続けて、平気なわけがないよなぁぁぁ!?」
アリス=アンジェラが片膝をつき、その場でうずくまったと同時に、ダン=クゥガーは幾何か余裕を取り戻す。魔法陣群を巧みに操り、四方八方から白緑色の光線を放ち続けた。その衝撃により、アリス=アンジェラはどんどん前かがみに小さくなっていく。まるで豪雨に打たれるウサギのようにも見えた。
だが、ダン=クゥガーは見当違いの考えを頭の中に浮かべていた。クソ生意気なアリス=アンジェラが自分の猛攻に耐えきれなくなって、その場でうずくまるしかなくなってしまったと。だが、そう考えること自体が間違いであったことを、彼女が次に取った行動で、思い知らされる結果となる。
アリス=アンジェラは次への動きを見せる前に、ぼそりと口から零す。
「剣と魔法の闘技場。なかなかに面白い魔術結界なのデス。アリスは少しだけ考えまシタ。この領域のルールはいったいどういうものなのかヲ」
アリス=アンジェラは自分の導き出した答えが正しいのであれば、自分の一撃がダン=クゥガーに届くと考えた。アリス=アンジェラは溜めに溜めた神力を折りたたんだ足を縮んだバネがその抑圧から解き放たれるかのように伸ばした。そうすることで、アリス=アンジェラは魔法陣群から放たれる光線群に打たれようとも、後宮の天井近くまで跳ね上がることが出来た。
「我が名はアリス=アンジェラ。創造主;Y.O.N.N様から使命を与えられた半天半人ナリ。いざ尋常に勝負ッッッ!」
アリス=アンジェラは空中でそう宣言するや否や、剣と魔法の闘技場の天井部分を両足で蹴っ飛ばし、さらには真っ赤に燃える右の拳を真っ直ぐ、ダン=クゥガーに向かって突き伸ばしていく。ダン=クゥガーは驚きの表情をその顔に浮かべるが、すぐさま防御体勢を取るのであった。
「てめぇっ!? 俺様の剣と魔法の闘技場のルールをどこで知った!?」
「あなたはゲスな癖に、『決闘の名乗りをあげろ』とのたまったのが、どうにも引っかかっていたのデス! あなたはゲスでありながらも、正々堂々、1対1で戦うためのこの領域を形成シタ。違いマスカ!?」
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