上 下
146 / 202
第15章:ダン=クゥガー

第4話:黒い羽

しおりを挟む
 ダン=クゥガーにしては珍しく、怒りの色をその顔に浮かべていた。青筋をこめかみに一本、浮き立たせ、ギリギリと歯噛みをする。そして、ダン=クゥガーは怒りに任せて、レオン=アレクサンダーの元・正妻であるフローラ=アレクサンダーの髪の毛を掴みつつ、何度もふかふかのベッドへと、彼女の顔面を叩きつける。

 しかし、フローラ=アレクサンダーはダン=クゥガーにグイッと頭を引っ張られ、彼のギラギラとした眼で睨みつけれても、彼女は一切、ひるむことはなかった。それどころか、二度目の唾吐きをダン=クゥガーの顔面に喰らわすことになる。

 ダン=クゥガーは強情すぎるこの女を殺してしまいたいという激情に駆られることになる。両手でフローラ=アレクサンダーの細い首を鷲掴みにし、まるで雑巾を絞るかのように、捻り上げていく。フローラ=アレクサンダーはカハッカハッ! と酸素を望むが、それを拒むのがダン=クゥガーの両手であった。

 フローラ=アレクサンダーは段々と白目を剥いていく。それに対して、ダン=クゥガーの瞳には黒い炎が宿り、ますます、そのギラギラ感を強めるばかりであった。フローラ=アレクサンダーの魂がこの地上界にある身体から天界に昇ろうとするまで、残り数秒も無かった……。

「フローラ様への乱暴はそこまでです!」

 ダン=クゥガーに遅れること30分。ついに後宮内部に入ることが出来たアンドレイ=ラプソティたちは駆けに駆けた。そこらで血の匂いが漂っていたが、それに構うことなく、後宮の奥へと走っていく。そんな彼らの眼に映ったのは、豪奢な天幕とカーテン付きのベッドの上で争う2人の男女であった。

 首を締め上げられている女性の姿を見るなり、アンドレイ=ラプソティの身体の奥底から、黒い熱が一気に噴き出す。その黒い熱がアンドレイ=ラプソティの背中をおおいに刺激し、彼の背中に6枚羽を現出させる。しかし、アンドレイ=ラプソティの背中の6枚羽の内、2枚がおぞましい黒色に支配されていた。

「アンドレィ、お前っ!?」

 アンドレイ=ラプソティの異変に気付いたベリアルが彼を静止しようとする。だが、アンドレイ=ラプソティは口を開けれるだけ、大きく開き、まるで獣のような吼え声をあげる。その咆哮ハウリングが豪奢な天幕とカーテン付きのベッドの天幕とカーテンを吹き飛ばす。そして、勢いそのままに、フローラ=アレクサンダーの首を絞り上げているダン=クゥガーまでをも吹き飛ばすことになる。

 しかし、アンドレイ=ラプソティはそれだけでは満足せずに、宙に放り投げられたダン=クゥガーを追うことになる。ベリアルはチィィィッ! と盛大に舌打ちすることになるが、首を絞められていた女性が生きているかの確認をすることになる。

「おい、大丈夫か!?」

「げほっげほっ! うぅ……。天界への扉が開かれようとしていたわ……。わたくし、まだ生きてい……る?」

「ふぅ……。なんとか間に合ったってところか。おい、お嬢さんよ。あんたを引き金に、アンドレイが堕天しそうになっちまってる。お嬢さんとアンドレイの間に何かあったのか!?」

 ベリアルはアンドレイ=ラプソティの身に起きた異変に、この半裸の女性が関わっていると踏む。しかし、彼に問われた側のフローラ=アレクサンダーには、何を問われているのか自体がよくわかっていなかった。そもそもとして、この場にアンドレイ=ラプソティがやってきたこと自体が驚きなのである、フローラ=アレクサンダーにとっては。孤立無援の中、それでも自分だけでもあのダークエルフの男に抗ってみせようとしただけなのである。

 彼女からまともな返答を得られぬと感じたベリアルは、おろおろと戸惑うコッシロー=ネヅに対して喝を入れる。

「自分がどうこうできる話ではないのでッチュウ! それこそ、力づくでぶん殴って、目を覚ませ! ってやったほうが、マシな結果を得られる気がするのでッチュウ」

「チッ! 七大悪魔としての立場から言わせてもらえば、アンドレイに堕天してほしいとは思ってはいるが、ここで堕天してもらっちゃ、収拾がつかなくなるっ。アリス嬢ちゃん。何をすればいいか、わかるよなっ!?」

「目を覚ませシャイニング・グーパンをアンドレイ様にぶちかますのデスネ。わかりまシタ。その大役を担いマス!」

 アリス=アンジェラはベリアルにそう返答すると、アンドレイ=ラプソティとダン=クゥガーが消えていった先へと駆けていく。しかし、アンドレイ=ラプソティとダン=クゥガーとの戦いの余波が後宮の中に嵐を呼び込み、その余波にアリス=アンジェラだけでなく、ベリアルたちも吹っ飛ばされることになる。

 アンドレイ=ラプソティは滾っていた。身体の奥底から留めなく溢れてくる真っ黒な神力ちからに酔いしれていた。ハァハァ……とまるでおちんこさんを丹念に舌で舐められている時に出してしまうような甘い吐息を吐いた。それと同時に、いつ、その感情の高まりをおちんこさんの先端から噴き出してやろうかという、獣のようなギラギラとした眼で、アンドレイ=ラプソティは紅き竜の槍レッド・ドラゴン・ランスでダン=クゥガーを殴り飛ばしていた。

 その熱量が嵐を産むためのエネルギーとなり、後宮中が荒らされていく。後宮に住まう面々はさらに逃げ惑うことになるが、いくつも並ぶ豪奢なベッドや家具と共に吹き飛ばされ、その下敷きになって、身動きが取れなくなってしまう。

 アンドレイ=ラプソティはその面々を気遣うそぶりすら見せずに、ダン=クゥガーとの戦いに酔いしれたのである。ただただ、獣のように口をだらしなく開けて、そこからヨダレを垂らし放題にしつつ、ダン=クゥガーの喉笛をいつ噛み千切ってやろうかとだけ、考えるのみであったのだ、アンドレイ=ラプソティは。

「いい加減しつけぇぇぇ! 俺様は神聖ローマニアン帝国のあるじなるぞっ! いぬっころはひざまずけぇぇぇ!!」

 ダン=クゥガーはアンドレイ=ラプソティに攻め続けられるのを嫌がった。それゆえに、ひとびとを魅了し、自分の部下に仕立てあげてきた秘術をアンドレイ=ラプソティに向かって放つ。ダン=クゥガーの舌には魔法陣が描かれており、彼の一言一言が『言霊ことだま』のように周囲へと響き渡る。

 ダン=クゥガーがひざまずけという命令を発するや否や、アンドレイ=ラプソティだけでなく、後宮内でダン=クゥガーの声が鼓膜に届いた者たち全てにとんでもない重力がのしかかることになる。ベッドや家具に押しつぶされそうになっていた面々は、最初、自分の身体にのしかかってくるそれらの重さが10倍になったと勘違いした。しかし、実際のところは、自分自身の身体に直接、重しが乗せられているような感覚を覚えることになる。

 後宮内の面々は幾人かを除き、ダン=クゥガーの発した言葉に屈することになる……。しかし、堕天移行状態へと足を踏み入れたアンドレイ=ラプソティは動きが多少鈍くなる程度であり、その状態から、ダン=クゥガーへと攻撃し続けるのであった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ店員二人に、マッサージと称して喉奥責められながらおまんこほじられて上も下も強制快感責めされる女の子の話

ちひろ
恋愛
前回のマッサージのお話の続きです。 今回は村上くんも加わって、喉奥責められて喘げないのにいっぱいおまんこイかされちゃうし潮吹きでお顔びしょびしょになっちゃう話です。お楽しみくださいませ。

睡眠開発〜ドスケベな身体に変えちゃうぞ☆〜

丸井まー(旧:まー)
BL
本人に気づかれないようにやべぇ薬を盛って、毎晩こっそり受けの身体を開発して、ドスケベな身体にしちゃう変態攻めのお話。 なんかやべぇ変態薬師✕純粋に懐いている学生。 ※くぴお・橘咲帆様に捧げます!やり過ぎました!ごめんなさい!反省してます!でも後悔はしてません!めちゃくちゃ楽しかったです!! ※喉イキ、おもらし、浣腸プレイ、睡眠姦、イラマチオ等があります。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

イケメン御曹司の初恋

波木真帆
BL
ホテル王の御曹司である佐原恭一郎はゲイを公言しているものの、父親から女性に会うようにと頼まれた。 断りに行くつもりで仕方なく指定されたホテルラウンジで待っていると、中庭にいた可愛らしい人に目を奪われる。 初めてのことにドキドキしながら、急いで彼の元に向かうと彼にとんでもないお願いをされて……。 イケメンスパダリ御曹司のドキドキ初恋の物語です。 甘々ハッピーエンドですのでさらっと読んでいただけると思います。 R18には※つけます。

【R18】先生が、なんでもお願い聞いてくれるって言ったから【官能】

ななこす
恋愛
痴漢に遭った谷珠莉(たにじゅり)は、かねてから憧れていた教師、村瀬智生(むらせともき)に助けられる。 ひょんなことから距離の縮まった珠莉と村瀬の、禁断関係の行く末を見守る話。 *官能表現、R-18表現多くなる予定です。ご容赦下さい。

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

その令嬢は兵器である

基本二度寝
恋愛
貴族の子女だけを集めた舞踏会。 その場で王太子は婚約破棄を宣言した。 傍らに、婚約者令嬢の従妹を侍らせて。 婚約者は首を傾げる。 婚約の破棄などしてもよいのかと。 王太子と従妹は薄ら笑いを浮かべている。 彼らは愚かな事をしたことに、気づかずに。 ※若干のR表現 ※タイトル【凶器】→【兵器】に変更しました。 ※ちょこちょこ内容変更しまくってすいません…。

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

ヒーローの末路

真鉄
BL
狼系獣人ヴィラン×ガチムチ系ヒーロー 正義のヒーロー・ブラックムーンは悪の組織に囚われていた。肉体を改造され、ヴィランたちの性欲処理便器として陵辱される日々――。 ヒーロー陵辱/異種姦/獣人×人間/パイズリ/潮吹き/亀頭球

処理中です...