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第14章:首都攻防戦

第10話:ダンの感情

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 ダン=クゥガーたちに付き従う貴族と衛兵たちはこの後宮にたどり着くまでに時間をかけ過ぎたと言っても過言ではなかった。

「おい、お前たち。俺様は後宮に入る。俺様が神聖マケドナルド帝国の皇位継承者たちを全員殺すまでの時間稼ぎをしろ」

「え!? ダン=クゥガー様自身が戦ってくれるのではないのですか!?」

「何故にちんがそのような真似をせねばならぬ。お前たちは何かを勘違いしているのではないか?」

 ダン=クゥガーに付き従っていた貴族や衛兵たちは顔を真っ青に染めあげていた。先ほどまで、レオン=アレクサンダー帝の文官たちやその陪臣たちまでをも捕縛し、宮殿に仕える侍女たちを犯し尽くした。彼らはこの世の春を謳歌していたのだが、それを止めるために現れたとある一行を目の当たりにした途端、ダン=クゥガー様に助けてほしいと願った。だが、ダン=クゥガーは、宮殿に混乱をもたらした者たちを一眼ともせず、後宮へ続く大扉を開け放ち、そこをくぐるや否や、その大扉を閉じて、さらには封印を施してしまったのである。

「ちっ! ここまで来たっていうのに、肝心の首謀者には逃げられちまったぞっ!」

「これはまた強固な封印術を施してくれたものです。アリス殿。私がこの封印術を破るので、この宮殿を荒らしまわった賊を殺し尽くしておいてくださいっ!」

 後宮へと続く大扉の向こう側に消えたダン=クゥガーの後を追おうとしたアンドレイ=ラプソティたちであった。ベリアルは両手で持つ死神の大鎌デスサイズの刃をその大扉にぶち当てたのだが、紫色の雷が四方八方へと飛び散るのみで、その大扉をこじ開けることは出来なかった。ベリアルの代わりに大扉の前へと進んだアンドレイ=ラプソティが、その大扉に両手を添えて、ぶつぶつと天使術詠唱の文言を呟き始める。

「あのコッシローさん……。ベリアルとアンドレイ様が真剣モードなので、ツッコミを入れれなかったのデスガ。アリスがあの殺す価値も無さそうな奴らを殺さなければならないのデス……カ?」

「奴らは関わり合いにもなりたくない賊徒でッチュウから、そんな奴らの返り血を一滴すら浴びたくないアリスちゃんの気持ちもわかるのでッチュウ。でも、罪には罰をという言葉を忘れてはいけなないのでッチュウ」

「ごほんげほん。あちきが大怪我さえしなければ、アリスちゃんの手を汚させはしなかったのニャン」

 天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅの背中に乗っている半猫半人ハーフ・ダ・ニャンのミサ=ミケーンは申し訳なさそうな表情で、アリス=アンジェラに謝罪するのであった。息も絶え絶えのミサ=ミケーンにそう言われては、断ることも出来なくなってしまうアリス=アンジェラである。せめて、汚い賊徒の血で天使装束が汚れていくのを、我が子同然に可愛がっている幼竜のデートに見せないためにも、デートの眼を手で塞いておいてほしいと自分の傍らに立つ半狐半人ハーフ・ダ・コーンのヨーコ=タマモにお願いするアリス=アンジェラであった。

 ヨーコ=タマモはアリス=アンジェラのお願いを快諾し、幼竜を抱きかかえ、パイナップルのようなサイズもあるおっぱいの谷間に幼竜の顔を埋めるのであった。アリス=アンジェラは少しだけ、ムッとした表情になるが、賊徒たちは既に散り散りに逃げ回っている。アリス=アンジェラは幼竜から眼を離し、その眼で周囲を見渡す。かつては荘厳な宮殿であったにもか関わらず、今やボロ小屋同然にしてしまった賊徒たちをひとりひとり丁寧に屠殺とさつしていくのであった。

 アリス=アンジェラは自分の手を賊徒たちの汚い血で汚すことを毛嫌いした。彼女としては珍しく、腰の左側に佩いた竜鱗さえも紙のように切り裂いてしまう黄金こがね色に輝く長剣ロング・ソードを用いて、賊徒を殺し尽くしていくのであった。

 アリス=アンジェラは徒手空拳を用いて、自らの手を血で汚すことを厭わぬ戦い方をするのはご存じであろう。だが、今回ばかりはいくら悪に染まりやすいニンゲンたちの中でも、邪悪すぎる賊徒の蛮行に辟易としていた。アリス=アンジェラはスパスパとまるで大根ビッグ・コンを真っ二つにしていくかのように逃げ惑う賊徒たちの首級くび黄金こがね色に輝く長剣ロング・ソードで斬り飛ばしていく。

 そして、宮殿の床に転がるその首級くびを右足で蹴っ飛ばし、宮殿の外へと物理的に追い出してしまうのであった。あらかたの賊徒を屠殺とさつし終えたアリス=アンジェラは、顔を涙で、股間を小便で汚しまくっているとある貴族を壁際まで追い詰める。

「た、助けてくれっ! 私はあのダン=クゥガーなる男に騙されていただけなんだっ!」

 命乞いをし、両手をアリス=アンジェラの身体に纏わりつかせてくるその貴族の男を無下に蹴飛ばしたアリス=アンジェラは右手をクルリと回す。それにつられて、その右手に握られていた黄金こがね色の長剣ロング・ソードもまた円弧を描く。後にはゴトリ……という音が宮殿に重く響き、命乞いをしていた貴族の首級くびが床に転がることになる。

 アリス=アンジェラは床に転がる首級くびに対して、何一つ感情が揺れ動くことは無かった。ただひとつ言えることは、汚物をこの宮殿から払いのけようと思うだけであった。アリス=アンジェラはもれなく、この貴族の首級くびも右足で蹴っ飛ばし、宮殿の外へと追い出すのであった。

 そんなアリス=アンジェラの背中側から奇声を上げながら、襲い掛かる者が居た。その男はダン=クゥガーと、とある約束を交わしていた貴族である。その貴族はダン=クゥガーが神聖ローマニアン帝国を復興させた折には、自分を大臣に任命してもらえるようにと約束を交わしていた。

 しかしながら、ダン=クゥガーは大臣ではなく、宰相の座でも良いのだぞ? と、その貴族に邪悪な笑みを浮かべながら、彼の耳元で囁く。その貴族はめっそうもござませぬと、その場では断ったが、ダン=クゥガーの首都進攻の手引きは、自分が一番功績があるという自負を持っていた。それゆえに、自分は数多くいる大臣のひとりとして数えられるような身分で収まるのではなく、宰相へと格上げしてもらえると思っていた。

 だが、ダン=クゥガーにとって、この貴族の男の存在など、どうでもよかったのだ。ただ、自分の成し遂げようとしていることに対して、一役担ってくれれば良い。そして、その対価として、何かを欲するのであれば、欲するがままに与えてやってよいとも考えていた。それはまさに、この国の行く末など、『どうでもよい』という感情から生まれた口約束だったのである。

 だからこそ、神聖マケドナルド帝国の首都に混乱をもたらす一助となった彼を躊躇なく、見限ったのである。そして、ダン=クゥガーは後宮の奥に歩を進めるが、後宮の外に残してきた、この貴族の断末魔なぞ、ダン=クゥガーの耳に届くことは決して無かった……。
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