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第14章:首都攻防戦

第4話:ヨーコの主

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 傘付き戦車の上で足を放り投げて、ぞんざいな態度を示し続けるダン=クゥガーの右隣りに位置する半狐半人ハーフ・ダ・コーンのヨーコ=タマモは狐色の眼を細めて、この戦場の成り行きを見守り続けた。

「神聖マケドナルド帝国の首都を陥落させようとすれば、アンドレイ=ラプソティの邪魔が入ることは予想通りだったのですじゃ。しかしながら、アンドレイ=ラプソティには予定通りクリスをあてがっておりますのじゃ」

「うむ。ちんは、其方の采配に満足している。引き続き、ヨーコの好きなように戦場を動かすが良い」

 ヨーコ=タマモは、報告をわざわざしなくても、あるじであるダン=クゥガーに裁可を任せられるであろうという自負を持っていた。しかしながら、実際に軍の全権を掌握しているのは、ダン=クゥガー様である。彼自身が働いたら負けだという雰囲気をバリバリに出してはいるが、体面上の問題ゆえに、これからのことに関して、報告・連絡・相談を怠らないヨーコ=タマモであった。

 とにかく、ダン=クゥガー様は用心深い男であり、いくら同じベッドの上で、激しく肉棒と肉穴を絡め合った仲であったとしても、彼からの絶対的信頼を得られたと思えていないヨーコ=タマモであった。そんな、決して自分以外を信じていないあるじから、指揮権を与えられたヨーコ=タマモは、余裕たっぷりといった感じで首級くびをコクリと縦に振る。

(ダン=クゥガー様はわらわの好きにしろとおっしゃってくれているが、本人にとって、この首都攻防戦の結果なぞ、どうでも良いことに感じますなあ……)

 ダン=クゥガーはそもそもとして、自分が神聖ローマニアン帝国で廃嫡となってしまった経緯に、あのレオン=アレクサンダー帝が関わっていたことが気に喰わないのである。そして、ダン=クゥガーの復讐の対象者は複数人おり、そのひとりはレオン=アレクサンダー帝そのひとであった。そのレオン=アレクサンダー帝はダン=クゥガーの復讐の対象者をことごとく、神聖ローマニアン王国から物理的に排除してくれた。

 しかしながら、真に復讐をしてやりたいと思っていたレオン=アレクサンダー帝が、どこぞの小娘により、惨殺されてしまう。ダン=クゥガーが復讐したい人物は、結果的にレオン=アレクサンダー帝の参謀役であるアンドレイ=ラプソティのみになってしまう。

 自分の手で復讐したい相手が、この世にアンドレイ=ラプソティのみとなってしまったダン=クゥガーは、出来る限り、アンドレイ=ラプソティを生かさず殺さずで、徹底的にイジメぬいてやろうと考えていた。まずはアンドレイ=ラプソティの周りを固めている守護者たちの命をことごとく奪い、孤立してしまったアンドレイ=ラプソティ相手に、今、どんな気持ちなのか? と尋ねながら、両腕両足を切り落として、ダルマにしてやろうとさえ、思うのであった。

 そして、物理的に手も足も出せなくなってしまったアンドレイ=ラプソティの眼の前に、レオン=アレクサンダー帝がこの世に遺した、神聖マケドナルド帝国を継ぐ者たちの首級くびをことごとく刎ねてやろうと考えていたのである。

 そして、その願いを叶えるためにも、ダン=クゥガーの参謀である半狐半人ハーフ・ダ・コーンのヨーコ=タマモは、西へ西へと進む道中、色々とアンドレイ=ラプソティたちへの嫌がらせを用意しつつ、自分たちも魔物モンスターで構成された一軍を形成するのであった。

 その3万に達する魔物モンスターの集団の半分を、七大悪魔のひとりであるベリアルにぶつけ、もう半分は神聖マケドナルド帝国の首都であるヴァルハラント攻略に当て続けた。しかし、こうやって戦力を配置することにより、とある少女の存在が浮くことになる。

「いくら魔物モンスターと言えども、ボクに興味の一切を示さない相手を背中から襲うのは気が引けマス」

「おや。ようやくワイルドカードのお出ましなのじゃ。ダン=クゥガー様。どうされますかえ?」

「ふん。こいつがこの場にやってくるのも、お前の計算通りなのだろ? 俺様の座右の銘を知っての戦術か?」

「さすがは誰よりも聡いダン=クゥガー様ですじゃ。戦略的にダン=クゥガー様の望みは叶えることが出来る状況となっております。後は、この『戦略を戦術でひっくり返す』存在であるアリス=アンジェラを、ダン=クゥガー様が屠殺とさつすることで完成と相成りますのじゃ」

 傘付き戦車の横にまで接近してきた、片翼の半天半人ハーフ・ダ・エンゼルに対して、思いっ切りため息をついてみせるのが、ダン=クゥガーであった。彼はダークエルフ特有の紫水晶アメジストの双眸で、舐めるように片翼の半天半人ハーフ・ダ・エンゼルを値踏みする。

「おい。ヨーコ。俺様は処女おとめとヤルほど、初心うぶじゃねえ」

「そう言いなさんな。確かに処女おとめでは、ダン=クゥガー様の性癖を満足させられないのは百も承知のこと。しかし、たまには処女おとめをその手で、自分色に染めるのも一興かと」

「ふんっ。さすがは口がよく回る。その口車に乗せられてやろうじゃねえか」

 ダン=クゥガーはさも面倒くさいといった感じを身体全体から放ちつつ、よっこらせと傘付き戦車から飛び降りて、真冬の冷気で固くなってしまっている地面へと両足をつける。そして、ふぁぁぁと思いっ切り眠たそうなあくびをするのであった。

 こんな不遜すぎる態度に出られては、いくら気の長い天使族と言えども、カチンと頭にきてしまうのは当然であったはずだ。しかし、ダン=クゥガーの計算外は、対峙している片翼の半天半人ハーフ・ダ・エンゼルからも、さも興味のなさそうな雰囲気を醸し出されていることであった。

「なんだ? 神聖マケドナルド帝国を滅ぼし、神聖ローマニアン帝国を復興させようとしている俺様が直々に相手をしてやろうというのに、その興味無さげな態度は、何なんだ?」

「ボクは貴方に一切、興味を持っていまセン。アンドレイ様から、ヴァルハラントの中へと魔物モンスターがなだれ込まないようにしてほしいと頼まれましたノデ」


 片翼の半天半人ハーフ・ダ・エンゼルの言いに、ビキッ! とこめかみに青筋が立ってしまうダン=クゥガーであった。要は自分を倒したところで、魔物モンスターが首都:ヴァルハラントから手を引くことはあり得ないのだが、それをたかが小娘に的確に指摘されることは腹立たしい気持ちで感情が染め上がるのも無理が無かったと言えよう。

 ヨーコ=タマモは思わず、ほぅ……と感心を示す声を漏らす他無かった。この片翼の半天半人ハーフ・ダ・エンゼルは、目的を達成するために倒さねばならぬ相手を的確に見抜いてた。
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