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第13章:ミュンヘルンの街

第5話:理想は一男二女

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 コッシロー=ネヅには悩みがあった。ミュンヘルン名物の黒ソーセージを味わいたいというのに、隣を陣取る幼竜がご飯を欲しそうに、こちらへ口をパクパクと開閉させている。彼のママ役であるアリス=アンジェラはベリアルの話に耳を傾けているために、幼竜の世話はおざなりになっている。コッシロー=ネヅは白いネズミ姿で、幼竜を餌付けしなければならなかった。

 コッシロー=ネヅも黒ソーセージを腹いっぱい食べたいのだが、幼竜がマンママンマと忙しなく、コッシロー=ネヅに訴えかけてくる。コッシロー=ネヅは眉をひそめ、眉間にシワを寄せる。幼竜のふてぶてしいところは、黒ソーセージの付け合わせに出されたフライドポテトに一切、口をつけようとはしなかった。鳥のクチバシのように突き出した口をしている癖に、彼が望むのは肉である。

 コッシロー=ネヅは自分の皿の上に盛られている黒ソーセージを仕方なく、幼竜に分け与えるのであった。しかしながら、この幼竜の憎たらしいことは、まるでペンギンのように口を天井に向けて、その黒ソーセージを咀嚼することもなく、胃の中へと流し込むことであった。

 もっと味わって食べろよとツッコミを入れたくなるコッシロー=ネヅであったが、どんどん次を食べさせてほしいと幼竜がせがんでくる。そして、コッシロー=ネヅはむつかしい顔をしながら、自分の皿の上にある黒ソーセージを仕方なく、幼竜の口へと運ぶ。幼竜はピギャー! ピギャー! と嬉しそうな声をあげ、コッシロー=ネヅの分を半分ほどたいらげた後、コッシロー=ネヅの顔に竜鱗だらけの頬を擦り付けるのであった。

「そ、そんなことされても、う、嬉しくないのでッチュウ!」

「ピギャー! ピギャー!」

 しかしながら、今のコッシロー=ネヅはツンデレそのものであった。アリス=アンジェラの抱き枕になる権利を幼竜に奪われてしまったが、それでも、この赤ん坊のような仕草をしまくる幼竜に対して、段々と心を許してしまっている自分に気づくコッシロー=ネヅであった。

「お肉の後は野菜もしっかり食べるのでッチュウ」

「ピギャー!! ピギャー!!」

「ちょっと、コッシローさん、うちの子をいじめないでほしいのデス!」

「チュチュゥ!? 我輩は栄養を考えてのことでッチュウよ!?」

 コッシロー=ネヅは自分の分の黒ソーセージをを半分も、幼竜に分け与えたというのに、待っていたのは、アリス=アンジェラからの御叱りであった。アリス=アンジェラは幼竜を抱きかかえ、よしよし……と宥めている。そして、幼竜は今までコッシロー=ネヅに世話をされていたというのに、それを忘れてしまったかのように、アリス=アンジェラに甘えだすのであった。

 さらにコッシロー=ネヅが面白くないと思ってしまうのは、自分がフライドポテトを食べさせようとした時は、大騒ぎした癖に、アリス=アンジェラが右手に持つフライドポテトを渋い顔をしつつも、パクつき始めたことである。コッシロー=ネヅはぐぬぬ……と唸りつつ、恨めしい眼で幼竜を睨みつけてしまうことになる。

 そんなコッシロー=ネヅの様子を見ていたミサ=ミケーンが、ひょいひょいと彼女の皿に乗せられている黒ソーセージを数本、コッシロー=ネヅの皿の上へと置いていく。コッシロー=ネヅはミサ=ミケーンの御慈悲に思わず、からし色の眼が潤んでしまうのであった。

「この御恩は決して忘れないのでッチュウ……」

「あちきは目ざといだけなのニャン。でも、どうしても恩返ししたいのなら、デートちゃんに意地悪をしないようにしてほしいですニャン。彼は幼いゆえに、その辺の機微がわかってないだけですニャン」

 コッシロー=ネヅはうんうんと頷きながら、幼竜と仲直りしようと思うのであった。そして、幼竜もまた、アリス=アンジェラの腕の中から飛び出し、コッシロー=ネヅに近づき、ペロペロとコッシロー=ネヅの頬を舐め始めたのである。コッシロー=ネヅはこの憎たらしくて可愛らしい幼竜を大いなる慈悲の心で許そうと思うようになる。

 コッシロー=ネヅと幼竜が仲直りを果たしたのを見て、ミサ=ミケーンの顔もほころんでしまう。アンドレイ様に赤ちゃんを授けてほしいと願っているが、出来るなら2人以上が良いと思ってしまうようになる。

「アンドレイ様ぁ。ひとりだと寂しいですし、ふたりだと喧嘩してしまうんだろうけど、あちきは出来るなら、3人ほど、子どもが欲しいのですニャン!」

「ブフゥゥゥ!! げほげほがはっ!」

「うちは100人ほど息子や娘が居るが、しょっちゅう、喧嘩ばっかりだぞ。子供が増えれば増えるほど、悩みが増える。だが、幸せだと思うことはその30倍以上になる。おい、アンドレイ。ミサちゃんが3人欲しいって言うなら、その3倍、仕込んでやれよ?」

 アンドレイ=ラプソティは盛大に麦酒ビールを口から噴き出すことになる。しかしながら、ベリアルはミサ=ミケーン同様にアンドレイ=ラプソティの身体に自分の身体を押し付け、ミサ=ミケーンの願いを叶えてやれと言い出す始末であった。

 アンドレイ=ラプソティは口元をハンカチで拭った後、ベリアルを押しのけ、ミサ=ミケーンの両肩に両手を乗せる。そして、真剣な顔つきで、マジマジとミサ=ミケーンの顔を見つめるのであった。

「天使の赤ちゃんは創造主:Y.O.N.N様や神々が運んできてくれます。ミサ殿は私の子宝袋から、子種をせがむよりも、創造主:Y.O.N.N様たちにしっかりお祈りをしてください。それも、毎日欠かさずです」

「うっ! これは痛いところを突かれましたニャン! あちきが信奉するのはアンドレイ様そのものなのですニャン!」

「それはダメです。天使信仰はそれはそれで意味がありますが、天使たちの上には、創造主:Y.O.N.N様たちが居るのです。そこを忘れての天使信仰は異端者として、罰せられてしまうのです」

 ベリアルは横で聞きながら、よくもまあ、ぺらぺらと詭弁を並べられるモノだと感心してしまう他無かった。要は、ミサ=ミケーンの祈りの時間を増やして、アンドレイ=ラプソティから子種を搾取する時間を物理的に減らそうとしているのは、見え見えであった。だが、アンドレイ=ラプソティはベリアルに向かって、背中でモノを語りかけていた。

 それは、先ほど、ベリアルもアンドレイ=ラプソティ相手にやっていたことであり、ベリアルは要らぬツッコミを入れぬようにと、細心の注意を払わざるをえなくなる。だが、それでも、黙っていられないのがベリアルであった。

「ミサちゃん、良いことを教えてやろう。実は男の子と女の子はとある方法を使えば、ある程度は選べるんだ。食べ物やセックスの回数を調整するとかで出来るから、試してみるのも手だぞ?

「へーーー! それは知らなかったのですニャン! あちきは創造主:Y.O.N.N様がお決めになることだと思っていましたニャン!」

「ベリアル……。ミサ殿に禁断の知恵を授けないでください。さすがは七大悪魔ですね、貴方は……」
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