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第13章:ミュンヘルンの街

第1話:ミサの挺身

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 山小屋で1泊したアンドレイ=ラプソティたちは勢いよくアルピオーネ山脈を下っていく。道中、コッシロー=ネヅがつまづき、前を歩くベリアルを巻き込み、雪玉と化す。その姿を笑って見ていたミサ=ミケーンであったが、後ろに続くアリス=アンジェラが,アッ……と言った後、すっ転んだと同時にミサ=ミケーンの背中に怖気が走ることになる。

「ちょっと! あちきは雪だるまになる予定はなかったのですニャン!」

「ははは……。私も巻き込まれておくべきだったのでしょうか?」

 どこまでも山肌を大きな雪玉となりながら転がっていくベリアルたちを神力ちからで止めたアンドレイ=ラプソティであった。しかしながら、創造主:Y.O.N.N様の御神力のためか、ベリアルとコッシロー=ネヅが作った大きな雪玉の上に、ちょうど良く着地したのがアリス=アンジェラとミサ=ミケーンが作ったそれよりかは少しばかり小さ目の雪玉であった。

 アンドレイ=ラプソティは創造主:Y.O.N.N様は茶目っけが過ぎますよとぼやきつつ、雪玉の中からミサ=ミケーンを救い出す。ミサ=ミケーンの手を取り、彼女を立ち上がらせ、防寒具に付着する雪の塊を落とす手伝いをするのであった。

 アンドレイ=ラプソティたちの現在の居場所はアルピオーネ山脈の1合目付近である。2合目を雪玉となりつつ、駆け下りてきたため、予定よりも早くアルピオーネ山脈を越えれそうであった。この場所から今は神聖マケドナルド帝国となった領地が見える。薄っすらと雪化粧に覆われている平原や森林、そして、その先に村や街と思われる風景が見える。

 アンドレイ=ラプソティはやっと帰ってこれたのだなと、少しばかり感慨深くなっていた。しかし、残念なことは、隣に愛しのレオンが居ないことである。エイコー大陸の中央部にまで軍を進めていたというのに、その軍に従軍していた者は誰一人とていなかった。

 レオン=アレクサンダー帝が東征のために率いた軍の全てをこの世から消し去ったのは、他でもない、アンドレイ=ラプソティ本人である。帝国の関係者で、この事実を告げている相手は、ミサ=ミケーンだけだ。アンドレイ=ラプソティは自然と山を下りる足取りが重くなってしまう。

「アンドレイ様。気にしちゃダメなのニャン。アンドレイ様が進んでそうしたいから、為したことじゃありませんニャン」

「はは……。100万近くの兵士たちの命を奪ったのは、まぎれもなく、この私です。彼ら彼女らの近親者は、私を磔刑、火あぶりの刑、串刺しの刑、八つ裂きの刑などなど、恨みを雪ぎたくて、仕方が無いはずです」

「それはそうかもしれませんけど、あちきは兵士たちの近親者全員を敵に回しても、アンドレイ様を護る側につきますニャン。アンドレイ様がもし、島流しの刑で済んだら、あちきもいっしょに島流しにされますニャン!」

 ミサ=ミケーンは真剣な表情で、アンドレイ様とどこまでもお付き合いすると言ってくる。アンドレイ=ラプソティはそんなミサ=ミケーンを心配させまいと、にっこりと微笑み返す。そして、ベリアルのように軽口のひとつでも叩いておこうと発言する。

「もし、私の罪が島流しで済むのであれば、そこを地上の楽園にしなければなりませんね」

「それが良いですニャン! 地上の楽園にはアダムとイヴが必要ですニャン! あちきと一緒に新人類を創るのですニャン!」

 このミサ=ミケーンの返しに、アンドレイ=ラプソティは思わず苦笑してしまう。アダムとイヴは『原初の人間』と呼ばれる人物たちであり、禁断の果実を食べたことで、創造主:Y.O.N.N様から楽園の外へと出るように命じられた。もし、自分とミサ殿がアダムとイヴであるなら、自分たちが創った地上の楽園だからといっても、将来的にはその外へと追い出されそうだなと思ってしまうアンドレイ=ラプソティであった。

 しかし、そんなことを言ってしまえば、ムードが台無しだとミサ殿に怒られるのは間違いない。アンドレイ=ラプソティは、きっと地上の楽園は新人類で溢れかえり、繁栄しつづけていくでしょうと返すのであった。だが、そこに生真面目にツッコミを入れる人物が居た。それがアリス=アンジェラである。

「アンドレイ様は地上界での用事を済ませたら、天界に戻っていただく予定なのデス。地上の楽園うんぬんは、天界裁判の後になりマス」

「ええーーー!? あちきはアンドレイ様と離れ離れになるのですニャン?」

「ハイ。でも、安心してくだサイ。ボクとコッシローさんが、アンドレイ様の弁護役になるので、それほど裁判に日数はかからないと思うのデス!」

「ベリアルに言うのもアレでっちゅうけど……。アリスちゃんが裁判に関わると、逆に3倍以上の日数がかかると思うでッチュウ」

「でも、アリス嬢ちゃんなら、実直に審問官たちの質問に答えるんじゃねえのか? それこそ、そこはお茶を濁しておけとアンドレイにつっこまれそうなこともさ? 我輩が弁明に回るよりかは遥かに早く刑が決まると思うぜ?」

 確かにベリアルの言うことはもっともであった。怠惰の権現様であるベリアルに弁護役を任せたら、それこそ目も当てられない惨状となることは、自明の理である。しかし、そうは言っても、ベリアルの言う通り、アリス=アンジェラは正直すぎる性格だ。天界裁判において、嘘をつくのは大罪である。だが、『ホトケも嘘』という言葉があり、被疑者が一方的に不利になるような証言を被疑者自身や弁護役がそれをする必要性は無いのである。

 自分の権利を護るためであるならば、多少のごまかしくらいなら、天使といえども許される。その許される範囲においての、ちょっとした嘘なら、審問官も眼をつぶってくれるのだ。その辺りの上手い駆け引きをコッシロー本人は出来る自信はあるが、その話術というべき技術をアリスちゃんに求めるのは酷な話であった。

「アリスちゃん。世の中には言って良いことと、悪いことがあるように、天界裁判の弁護役でも、それがあるのでッチュウ」

「そうなんデス? ボクは何度か、天界裁判の様子を社会勉強だということで、創造主:Y.O.N.N様の御命令で、傍聴席に座っていたことがあります。でも、被疑者の天使たちやその方の弁護役は全員、審問官の質問に誠実に答えていたように見えます」

「創造主:Y.O.N.N様。アリスちゃんは何も学んでいなかったようでッチュウ……」

 コッシロー=ネヅは少しばかり、創造主:Y.O.N.N様を恨まずにはおられなかった。創造主:Y.O.N.N様は何かしらの意志をもって、アリスちゃんに学びの場をお与えになったのであろうが、場を与えただけで満足したのか、それ以上のことをされていないことが、アリスちゃんとのこの会話でわかってしまうコッシロー=ネヅであった。

 コッシロー=ネヅは大きなため息を口から出して、アンドレイ様の天界裁判が開かれる際は、アリスちゃんの発言機会を出来るだけ、奪わねばならないと心に誓うのであった……。
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