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第11章:竜皇の宮殿

第6話:腐りかけ

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 アンドレイ=ラプソティとミサ=ミケーンが竜の住処ドラゴン・テリトリーに囚われている最中のことであった。ベリアルたちは幼竜に誘われるままにのこのこと彼の後をついていったは良いが、そこで竜皇ことバハムートと出会う。しかしながら、バハムートの身体のあちらこちらの竜鱗が剥がれ、さらには肉と骨が剥き出しになっていた。

「よくお出でになった。しかし、われが正気を保てるのはあと数刻も無い。悪いことは言わぬ。ここから立ち去るが良い」

「どういうことだ!? 竜皇のあんたからは竜力ちからでは無く、瘴気が溢れ出してやがるぞっ!」

「察しの悪いボクでもわかります。禍々しい何かに変ずる予兆を感じマス!」

「察しの悪さは自覚しているんでッチュウね……。でも、今はそんなことを言っている場合では無さそうでッチュウ!」

 竜皇の身体からは紫色の煙があちらこちらから噴出していた。肉が腐ったような匂いがこの空間に立ち込めており、アリス=アンジェラは思わず、手で鼻を覆い隠す。だが、そんなことをしても、手と鼻の隙間からその瘴気が入り込み、アリス=アンジェラは吐き気を催すことになる。

 ゲホッゲホッ! と盛大に咳をするが、それでも自分の身体に纏わりついてくる瘴気を払うことが出来ないアリス=アンジェラであった。そして、そんな状態のアリス=アンジェラに向かって、竜皇の身体から太い腸が飛び出してく。アリス=アンジェラは左の手刀で自分の身に襲い掛かる太い腸を次々と掻っ捌いていく。

 アリス=アンジェラがそのような状況に陥るということは、ベリアルたちも同様であった。竜皇の身から流れ落ちている腐った血が、地面に段々と広がっていき、ベリアルたちの足元にまで到達する。するとだ。まるでそこだけが底なし沼になってしまったかのように、ベリアルたちの身体は沈んでいく。ベリアルは必死にそこから足を出そうともがくが、もがけばもがくほど、ベリアルの足に絡みつく粘液の粘度が高まっていく。

 アリス=アンジェラはベリアルのようにならないためにも、右手を鼻から離し、その空いた右手で幼竜を抱き上げる。そして、その場から逃げ出そうしたが、幼竜が竜皇の方へ顔を向け、ピギャーピギャー! と盛大に鳴きだしてしまうのうであった。

「竜皇様は貴方のお父さんなのデスネ? わかりまシタ。アリスが何とかしてみせるのデス!」

「アリス嬢ちゃん! 足を止めてんじゃねえよっ! アンドレイに助けてもらうのが最上の手だろうがっ!」

 足を止めて、竜皇の方へと身体の向きを向け直したアリス=アンジェラを一喝したのがベリアルであった。この腐った血が創り出す底なし沼はアリス=アンジェラの膂力では絶対に抜け出せないと思えるほどの粘度を持っていた。それゆえに、逃げるのが上策であり、足を止めていい場面では無かったのである。

 だが、アリス=アンジェラは誰もが認めるほどの頑固者だ。幼竜を右腕で抱えたまま、アリス=アンジェラは身体の奥底から神力ちからを溢れ出させ、その身に戦乙女ヴァルキリー・天使装束を纏わせる。その紅と黄色を基調とした天使装束はアリス=アンジェラの戦闘力を一気に30倍へと膨れ上げさせた。

 アリス=アンジェラは地面を蹴り、横たわる竜皇の頭上へと飛び上がる。そして、左手を振りかぶり、その左手に光の束を纏わせる。

「シャイニング・グーパンなのデス! この一撃は創造主:Y.O.N.N様の愛が込められているのデス!」

 アリス=アンジェラは振りかぶった光って唸る左の拳を竜皇の顔面へと叩きこむ。まるで金属と金属がぶつかり合うような硬い音が洞窟内に響き渡ることになる。しかし、その一撃で痛そうに顔をしかめっ面にしたのは、竜皇ではなく、アリス=アンジェラの方であった。

 アリス=アンジェラは左足の甲に光の束を現出させる。その神力ちからを持ってして、竜皇の顔にサッカーボールキックを叩きこむ。

「硬すぎ……マス! アリスの身体のほうが先におかしくなってしまいそう……デス!」

「ばっかやろう! 古龍ほどの竜鱗となりゃ、アダマンタイトクラスが裸足で逃げ出すほどに硬いに決まってるだろっ! 徒手空拳でどうにかなる相手と思うんじゃねっ!」

「う、うるさいデス! そんなこと、おつむの足りないボクにだって、わかっていマス!」

「おつむが足りないのは自覚しているんでッチュウね……。って、こっちに振り向いて、左手に神力ちからを込め始めるのをやめるのでッチュウ!」

 アリス=アンジェラは痛さを我慢しつつ、不平不満を表す表情になりながら、左手に神力ちからを込めまくった。本当ならいちいちツッコミがわずらわしいコッシロー=ネヅに、この神力ちからを叩きこんでやりたい気持ちであったが、そこはグッと抑えて、その左のこぶしを竜皇の眉間へとぶち込む。

「おかしいのデス! ドラゴン族は、ここが弱点じゃなかったのデス!?」

「確かに狙いとしちゃ悪くないが、圧倒的に神力ちからが足りてねえっ! アリス嬢ちゃん、一旦、竜皇から離れて、俺の足元をそのこぶしでぶち抜いてくれっ!」

 ドラゴン族には三つの弱点と呼ばれる場所がある。有名なのが、首の喉仏あたりにあるとされている逆鱗。そして、眉間。さらには唯一、固い竜鱗でガードされていない口の中である。竜皇の身体の3分の1が腐食し、そこから骨や肉が剥き出しになっていたが、そこを攻撃しようにも、腹からはみ出している腸がそれを許してくれそうにもなかった。

 ならば、攻めるは竜皇の頭部であろうと、アリス=アンジェラが果敢に攻め立てたが、年季の入った竜皇の鱗1枚すら剥がせはしなかった。アリス=アンジェラはベリアルに命じられるまま、一旦、竜皇の頭から距離を取り、光って唸る左のこぶしをベリアルの足元に出来ている血の池へと叩きこむ。

 血の池は彼女の一撃で吹っ飛び、ベリアルも吹っ飛ぶことになる。だが、ベリアルはそうなることは予想済みで、空中で身を翻し、地面に着地する頃には死神の大鎌デスサイズを両手で構えていたのである。ベリアルはアリス=アンジェラにこくりと頷き、合図を送る。アリス=アンジェラもベリアルに頷き返し、攻撃のタイミングを計り出す。

「コッシロー。お前もわかってるよな!?」

「も、もちろんでッチュウ!」

「さすがはコッシローさんなのデス! 一斉のーせー! で行きマス!」

 コッシロー=ネヅは大きく口を開き、そこから清浄なるブレスの塊を吐き出す。竜皇は眉根をピクリと動かし、地面に置いている自分の首級くびを少しだけ動かす。まるで、コッシロー=ネヅの吐き出したブレスの塊を上手い角度でぶち当たるように調整しているかのようにも見えた。

 しかしながら、竜皇の気遣いは彼がその身に纏う竜鱗が拒絶してしまう。コッシロー=ネヅの吐き出した清浄なるブレスの塊は竜皇の顔面を滑るようにあらぬ方向へと吹っ飛んで行ってしまうのであった……。
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