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第11章:竜皇の宮殿

第4話:降臨

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 紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンは自分の右腕の先から右肩全体が塩の塊になってしまったことに大層驚くことになる。他者の神力ちからを自分の神力ちからに変換する天使は数多く居るが、ドラゴン竜力ちからさえも、自分の神力ちからにしてしまえるアンドレイ=ラプソティに敬意を示したくなってしまう。

 彼との戦いはここまでだと感じた紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンは、竜の住処ドラゴン・テリトリー内部から、冷気を消していく。それによって、敵意を失くしたと感じたアンドレイ=ラプソティもまた、現出させていた背中の6枚羽と紅き竜の槍レッド・ドラゴン・ランスを光の粒子へと変えて、この場から消すのであった。

「何故、私たちを敵視したのですか?」

 アンドレイ=ラプソティは神力ちからを示したことで、対等に古龍と話し合えると思った。そして、紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンもまた、竜皇様の宮殿で起きていることをアンドレイ=ラプソティに告げるだけの価値があると認識する。アンドレイ=ラプソティは眉根をひそめ、そんなことを創造主:Y.O.N.N様がおこなうはずが無いと言う。

 紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンは紅いふたつの三日月を細め、アンドレイ=ラプソティを睨む。だが、次の瞬間には鋭い目つきを止め、アンドレイ=ラプソティの言葉を信じようとするのであった。

「では、誰が竜皇様にあのような無体なことをしたのだと思う?」

「七大悪魔がもっともやりそうなことですが、彼らもまたドラゴン族の竜力ちからを借りたい側のはずです」

「そうだ。天界も魔界も、次の天魔大戦でもドラゴン族の竜力ちからを欲するはずだ。我らはそれだけの竜力ちからを持っているという自負がある。自分の敵に回るかもしれないからといって、竜皇様を排除する理由にはならないはずだ」

 アンドレイ=ラプソティは両手をミサ=ミケーンにかざしながら、紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンの言いを聞いていた。アンドレイ=ラプソティもまた訝し気な表情になっており、いったいぜんたい、誰が何の目的で竜皇に危害を加える必要があったのだろうか? と思わざるをえなかった。

「ここ30年近く、天界には戻っていませんが、創造主:Y.O.N.N様が竜皇様を排除しようとしている話など、噂程度にも流れてきていません」

「そうか……。ならば、七大悪魔にも聞かねば、不公平と言うものだな……。そろそろ、姿を現してはどうか?」

 紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンはアンドレイ=ラプソティから視線を逸らし、竜の住処ドラゴン・テリトリー内のとある一点を見つめる。紅いふたつの三日月に睨まれたかの存在は顎をコリコリと右手のひとさし指で掻きながら、その存在感を露わにする。

われの意見を聞きたいってか。この宮殿にはベリアルも居るんだ。そっちに聞けば良いだけの話だろう」

「ふんっ……。怠惰の権現様こと、ベリアルに何を問えと? 貴様はあの男の道化っぷりにさぞかし満足しているはずだ、サタン」

 紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンが『サタン』という名を言葉にすると、その言霊ことだま竜力ちからにより、現世に悪魔皇が降臨する。古龍が羽根虫であるかのように思えるほどの、圧倒的な存在が竜の住処ドラゴン・テリトリー内部に現れ出でる。その存在はニヤリと口の端を歪ませ、背中の悪魔の8枚羽を緩く羽ばたかせている。厳かな風が竜の住処ドラゴン・テリトリー内部に吹くことになるが、この内部の重力自体が30倍になってしまったかの印象を受けてしまう面々であった。

「うぅ……。耳がキーーーーン! とするニャン。さっきまで感じていた寒さとはまた異質の寒さなのですニャン」

「サタン殿。この竜の住処ドラゴン・テリトリーの中には、いたいけな半猫半人ハーフ・ダ・ニャンも居ます。どうか、その威厳を少しだけも和らげてくださいませんか?」

「おっと、悪い悪い。このクソ生意気なドラゴンが、俺様を現世に降臨させるために言霊ことだま竜力ちからを込めやがったからな。ちょっと、仕置きでもしようと思ったんだぜ」

 力を持つ者は、その発声自体に力を乗せることが出来る。それを『言霊ことだま』と呼ぶのだが、その言葉通り、まさに言葉に力が乗るのだ、古龍や高位の天使、そして高位の悪魔ともなると。そして、言霊ことだま竜力ちからにより、様子見していただけの悪魔皇をこの竜の住処ドラゴン・テリトリー内に呼び寄せたのが、紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンだったのである。

 この行為に損害を被るのは、半猫半人ハーフ・ダ・ニャンに過ぎないミサ=ミケーンであった。ようやく、紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンからの冷気から解放されたというのに、ねっとりとねばつく粘液に絡み取られたかのような重さを身体に感じてしまうミサ=ミケーンであった。

 しかしながら、悪魔皇ことサタンが地面へと着地し、背中の8枚羽をしまうと、彼から受ける重力は眼に見えて和らぐことになる。ミサ=ミケーンはようやく安堵の息を吐くことが出来るようになった。

「アンドレイ様のお知り合いですかニャン? すっごいイケメンですけど、底のわからない悪を感じるのですニャン」

「ミサ殿、それは彼にとってはただの誉め言葉なので、やめておいたほうが良いですよ。ほら、聞き耳を立てているのが丸わかりです。サタン殿の右耳がピクピク動いています」

 悪魔にとって『悪』という言葉はそのまま誉め言葉になってしまう。気を良くした悪魔皇は腰に両手を当てながら踏ん反り返っていく。ここまで鼻高々な態度は、同じ七大悪魔のベリアルでも取らない。さすがは悪魔皇といった不遜な態度でもあった。

「よぉし、よぉし。気分が良い内に言っておいてやろう。竜皇がああなったのは、ただの寿命だ。しかし、それから後のことは、われも創造主:Y.O.N.Nも預かり知らぬことだ」

「ただの寿命? そして、その後のことは、お前たちですら、関わっていないことだと? それを信じろと言うのか!?」

「そんなにがなるんじゃねえ……。俺様が誰だと知っての狼藉……か?」

 紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンはグヌゥ……と唸る他無かった。悪魔皇の身体からドス黒いオーラが溢れ出したのだ。先ほどまで上機嫌だったと思えば、自分の言葉ひとつで、みるみる内に豹変していくのだ。まるで、今まではただ単に虫の居所が良かっただけだと言っているようにも思えた。古龍なぞ、指先ひとつでぶち殺しても構わんのだぞ? と、その雰囲気がそう言っていた。

「すまない。疑ったことは謝ろう」

「ちょっと!? アンドレイ様に対しての態度と、このイケメン悪魔に対しての態度が720度違うニャン!?」

「ミサ殿……。720度だと、2周回って同じですよ……」
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