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第11章:竜皇の宮殿
第2話:氷点下40度
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「また遊んでやろう」
それが悪魔皇:サタンがミカエルに告げた言葉であった。第2次天魔大戦の趨勢がだいたい決まった時に、サタンはこの辺で良いだろうとばかりにミカエルに突きつけた言葉でもあった。ミカエルはただただ歯ぎしりするしか他無かった。
悪魔皇:サタンには信頼すべき補佐官が居た。それは悪魔将軍とも呼ばれるルシフェルであった。天界側が総指揮官を直接、悪魔皇にぶつけるという作戦を取ったことまでは良かった。悪魔皇さえ討ち取れば、早期にこの第2次天魔大戦を終結できたからだ。
しかし、悪魔将軍であるルシフェルは悪魔皇が天界の総指揮官を釘付けにしてくれている内に、悪魔軍団を地上界で暴れさせたのだ。悪魔皇はひとりで一騎当千の活躍をしてくれる存在ではあるが、あくまでも駒のひとつでしかないという考えで、悪魔将軍は天魔大戦全体を操作したのである。
それに気づいた頃には天界側は悪魔軍団との泥仕合をし続けるしかない状況へと追いやられる。言わば、『消耗戦』にもつれ込まされたのだ。第2次天魔大戦が『千日戦争』と言われる所以はここにある。決着がつきそうもない戦いは双方の士気を否応なく下げさせる。厭戦感情がどちらの陣営にも日に日に漂うのだ。そして、それを打破してくれるのは、天界の総指揮官であるミカエル、もしくは悪魔皇:サタンであった。
だが、サタンとルシフェルは最初から、第2次天魔大戦で勝つ気も負ける気もなかったのだ。それは何故かと言えば、戦争で決着をつける気が無かっただけである。泥仕合に相手を引き込んで、創造主:Y.O.N.Nから譲歩を引き出そうとしてしていただけなのである。
悪魔側が願ったことは、地上界に混沌を生み出すことであった。そして、その混沌の代表者として『亜人』を作れとのたまったのである。創造主:Y.O.N.Nは悪魔側の提案はまさに悪魔的であると感じてしまった。非常に魅惑的な提案であったのだ。この凝り固まってしまった世界に変革を求めるのは、悪魔だけではないのだ。
創造主:Y.O.N.Nは創造主であるが、世界が『変革するため』の創造も行う。第2次天魔大戦後の地上界は悪魔にとっても、創造主:Y.O.N.Nにとっても都合の良い世界となる。
この頃より、純血種と混血種と呼ばれる言葉までもが産まれてしまったことは、創造主:Y.O.N.Nも頭を悩ませることになるが、それでも、純血種だけが繁栄するのは、面白味に欠けていた世界であったのだ。
天使や神は『秩序』こそ、絶対だと考える。しかし、悪魔は『混沌』こそが至上だと考える。だが、天使や神、そして悪魔たちすらも創った創造主:Y.O.N.Nは『変革と平衡』こそが最上だと考えた。善と悪、そして『混ざり者』たちが世界を構成している姿こそが、正しい姿だと考えたのだ。
創造主:Y.O.N.Nは、この世に存在する生きとし生ける者たちのために、今のこの世界を創ったのだ。だが、今のこの状態で満足するほど、創造主:Y.O.N.Nは謙虚では無かった。もっともっと、変革を求めていた。創造主:Y.O.N.Nは『完全なる世界』を創りたいと今でも思っている。
今日よりも明日。明日よりも未来。その完全なる世界を創るためならば、世界全体を巻き込んでの『天魔大戦』が何度起きても良いと考えていた。
しかし、それに巻き込まれる者たちにとって、創造主:Y.O.N.Nの考え方は迷惑千万であった。そして、創造主:Y.O.N.Nが目指す世界にいち早く気づいたのが竜族であったのだ。
竜族は、天界や魔界に対して、中立的な立場を取り続けていた。創造主:Y.O.N.Nが目指す世界に危惧を抱いていたからだ。古龍ともなれば、神と等しき長命となる。その知識の深さは短命種のニンゲンたちとは比較にならない。その卓越した知識により、創造主:Y.O.N.Nの企みに竜族は気づいてしまった。
それゆえに創造主:Y.O.N.Nが、竜皇様に異変を起こさせたのだと考えたのだ。
今、竜族がそれを危惧しているがゆえに、その代表として紅玉眼の蒼き竜が、ひょっこり眼の前に現れた高位の天使に問いかけたのだが、その高位の天使はそのことにまったく気づいていないことに気づいたのである、紅玉眼の蒼き竜は。
「もう少しだけ、激しい攻撃に切り替えても良いか?」
「まるで冷風を吹き付ける扇風機かと思いましたよ。そろそろ突風でも吹き荒れるのですか?」
紅玉眼の蒼き竜は眼の前の高位の天使が減らず口をよく叩くとしか思わなかった。高位の天使は肩でぜえぜえはあはあと苦しそうに呼吸をしている。いくら氷塊を砕き、氷片まで炎で焼き尽くそうが、彼に纏わりつく冷気が減っているわけではない。
むしろ、氷塊を砕くことで、竜の住処の内部は冷えに冷えていた。アルピーノ山脈の頂上でも、これほどの寒さは体感できぬほどまでに、この竜の住処内部の温度は下がり切っていた。
実際、この内部は氷点下40度にまで達していた。凍ったバナナで釘を打てるほどであり、熱々のコーヒーですら、この空間でぶちまければ、一瞬でダイヤモンドダストとなってしまうほどである。そして、高位の天使は気づいていないのか、彼の後ろに居る半猫半人はすでに地面に突っ伏していた。
「アンドレイ様……。骨まで凍りそうなほどに……、寒いですニャン」
ミサ=ミケーンは極寒の中で意識が段々と失われていく。手足が寒さで痺れ、逆に温かさを感じてしまうほどであった。せめて、逝く時はアンドレイ様の腕の中でと思い、アンドレイ様に語り掛ける。しかし、アンドレイ=ラプソティは横たわる彼女の横腹にドスンと紅玉眼の蒼き竜の石突をめり込ませる。
その途端、ミサ=ミケーンの身体全体が清浄なる炎で包まれることになる。ミサ=ミケーンはまるで憑き物が取れた表情になり、安らかな顔つきでまぶたを閉じる。ミサ=ミケーンは身体の外側だけでなく、内側からも熱を感じる。まるで、母の揺り籠の中に帰ってきたかのような感覚を受けることになる。
「ミサ殿。しばしの間、眠っていてください。紅き竜の槍の神力が、貴女を護ってくれます」
アンドレイ=ラプソティが紅き竜の槍を介して、ミサ=ミケーンを清浄なる炎で出来た神力で包み込み、彼女の身の安全を確保する。そして、眼の前の不遜な態度を貫き通す紅玉眼の蒼き竜に対して、驚愕の一撃を与えるためにも、背中から6枚の天使の羽を現出させる。
「そろそろ、私も貴方に一段階上の神力を見せてあげましょう。天界の十三司徒の一員として、古龍如きに舐められっぱなしではないことの証明をしておきましょう」
それが悪魔皇:サタンがミカエルに告げた言葉であった。第2次天魔大戦の趨勢がだいたい決まった時に、サタンはこの辺で良いだろうとばかりにミカエルに突きつけた言葉でもあった。ミカエルはただただ歯ぎしりするしか他無かった。
悪魔皇:サタンには信頼すべき補佐官が居た。それは悪魔将軍とも呼ばれるルシフェルであった。天界側が総指揮官を直接、悪魔皇にぶつけるという作戦を取ったことまでは良かった。悪魔皇さえ討ち取れば、早期にこの第2次天魔大戦を終結できたからだ。
しかし、悪魔将軍であるルシフェルは悪魔皇が天界の総指揮官を釘付けにしてくれている内に、悪魔軍団を地上界で暴れさせたのだ。悪魔皇はひとりで一騎当千の活躍をしてくれる存在ではあるが、あくまでも駒のひとつでしかないという考えで、悪魔将軍は天魔大戦全体を操作したのである。
それに気づいた頃には天界側は悪魔軍団との泥仕合をし続けるしかない状況へと追いやられる。言わば、『消耗戦』にもつれ込まされたのだ。第2次天魔大戦が『千日戦争』と言われる所以はここにある。決着がつきそうもない戦いは双方の士気を否応なく下げさせる。厭戦感情がどちらの陣営にも日に日に漂うのだ。そして、それを打破してくれるのは、天界の総指揮官であるミカエル、もしくは悪魔皇:サタンであった。
だが、サタンとルシフェルは最初から、第2次天魔大戦で勝つ気も負ける気もなかったのだ。それは何故かと言えば、戦争で決着をつける気が無かっただけである。泥仕合に相手を引き込んで、創造主:Y.O.N.Nから譲歩を引き出そうとしてしていただけなのである。
悪魔側が願ったことは、地上界に混沌を生み出すことであった。そして、その混沌の代表者として『亜人』を作れとのたまったのである。創造主:Y.O.N.Nは悪魔側の提案はまさに悪魔的であると感じてしまった。非常に魅惑的な提案であったのだ。この凝り固まってしまった世界に変革を求めるのは、悪魔だけではないのだ。
創造主:Y.O.N.Nは創造主であるが、世界が『変革するため』の創造も行う。第2次天魔大戦後の地上界は悪魔にとっても、創造主:Y.O.N.Nにとっても都合の良い世界となる。
この頃より、純血種と混血種と呼ばれる言葉までもが産まれてしまったことは、創造主:Y.O.N.Nも頭を悩ませることになるが、それでも、純血種だけが繁栄するのは、面白味に欠けていた世界であったのだ。
天使や神は『秩序』こそ、絶対だと考える。しかし、悪魔は『混沌』こそが至上だと考える。だが、天使や神、そして悪魔たちすらも創った創造主:Y.O.N.Nは『変革と平衡』こそが最上だと考えた。善と悪、そして『混ざり者』たちが世界を構成している姿こそが、正しい姿だと考えたのだ。
創造主:Y.O.N.Nは、この世に存在する生きとし生ける者たちのために、今のこの世界を創ったのだ。だが、今のこの状態で満足するほど、創造主:Y.O.N.Nは謙虚では無かった。もっともっと、変革を求めていた。創造主:Y.O.N.Nは『完全なる世界』を創りたいと今でも思っている。
今日よりも明日。明日よりも未来。その完全なる世界を創るためならば、世界全体を巻き込んでの『天魔大戦』が何度起きても良いと考えていた。
しかし、それに巻き込まれる者たちにとって、創造主:Y.O.N.Nの考え方は迷惑千万であった。そして、創造主:Y.O.N.Nが目指す世界にいち早く気づいたのが竜族であったのだ。
竜族は、天界や魔界に対して、中立的な立場を取り続けていた。創造主:Y.O.N.Nが目指す世界に危惧を抱いていたからだ。古龍ともなれば、神と等しき長命となる。その知識の深さは短命種のニンゲンたちとは比較にならない。その卓越した知識により、創造主:Y.O.N.Nの企みに竜族は気づいてしまった。
それゆえに創造主:Y.O.N.Nが、竜皇様に異変を起こさせたのだと考えたのだ。
今、竜族がそれを危惧しているがゆえに、その代表として紅玉眼の蒼き竜が、ひょっこり眼の前に現れた高位の天使に問いかけたのだが、その高位の天使はそのことにまったく気づいていないことに気づいたのである、紅玉眼の蒼き竜は。
「もう少しだけ、激しい攻撃に切り替えても良いか?」
「まるで冷風を吹き付ける扇風機かと思いましたよ。そろそろ突風でも吹き荒れるのですか?」
紅玉眼の蒼き竜は眼の前の高位の天使が減らず口をよく叩くとしか思わなかった。高位の天使は肩でぜえぜえはあはあと苦しそうに呼吸をしている。いくら氷塊を砕き、氷片まで炎で焼き尽くそうが、彼に纏わりつく冷気が減っているわけではない。
むしろ、氷塊を砕くことで、竜の住処の内部は冷えに冷えていた。アルピーノ山脈の頂上でも、これほどの寒さは体感できぬほどまでに、この竜の住処内部の温度は下がり切っていた。
実際、この内部は氷点下40度にまで達していた。凍ったバナナで釘を打てるほどであり、熱々のコーヒーですら、この空間でぶちまければ、一瞬でダイヤモンドダストとなってしまうほどである。そして、高位の天使は気づいていないのか、彼の後ろに居る半猫半人はすでに地面に突っ伏していた。
「アンドレイ様……。骨まで凍りそうなほどに……、寒いですニャン」
ミサ=ミケーンは極寒の中で意識が段々と失われていく。手足が寒さで痺れ、逆に温かさを感じてしまうほどであった。せめて、逝く時はアンドレイ様の腕の中でと思い、アンドレイ様に語り掛ける。しかし、アンドレイ=ラプソティは横たわる彼女の横腹にドスンと紅玉眼の蒼き竜の石突をめり込ませる。
その途端、ミサ=ミケーンの身体全体が清浄なる炎で包まれることになる。ミサ=ミケーンはまるで憑き物が取れた表情になり、安らかな顔つきでまぶたを閉じる。ミサ=ミケーンは身体の外側だけでなく、内側からも熱を感じる。まるで、母の揺り籠の中に帰ってきたかのような感覚を受けることになる。
「ミサ殿。しばしの間、眠っていてください。紅き竜の槍の神力が、貴女を護ってくれます」
アンドレイ=ラプソティが紅き竜の槍を介して、ミサ=ミケーンを清浄なる炎で出来た神力で包み込み、彼女の身の安全を確保する。そして、眼の前の不遜な態度を貫き通す紅玉眼の蒼き竜に対して、驚愕の一撃を与えるためにも、背中から6枚の天使の羽を現出させる。
「そろそろ、私も貴方に一段階上の神力を見せてあげましょう。天界の十三司徒の一員として、古龍如きに舐められっぱなしではないことの証明をしておきましょう」
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