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第10章:アルピオーネ山脈

第6話:結婚

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 アンドレイ=ラプソティをからかい疲れたベリアルはよっこらせっくすと言いながら立ち上がる。空になったお椀をアリス=アンジェラに預け、すたこらと横穴の奥へと消えていくのであった。

「あっ。アリスも気になっていたのに、横穴の奥へと向かっていくのデス。ベリアルひとりでずるいのデス」

 アリス=アンジェラがベリアルから空になったお椀を受け取ったは良いが、自分も気になっていた横穴の奥へとどんどん向かっていくので、彼の後を追おうと、急いで自分の分の朝食を腹の中へと納めようとする。

 しかし、その動きを止めたのが、ミサ=ミケーンであった。アリス=アンジェラはきょとんとした顔つきでミサ=ミケーンの方を見てくるので、ミサ=ミケーンは苦笑いする他無かった。

「ベリアル様はお花摘みに行っただけですニャン。アリスちゃんを置いて、ひとりで探索しに行ったわけではありませんニャン」

「なるほどなのデス。横穴の入り口が雪と氷で塞がっている以上、用を足すには、横穴の奥に行くしかないのでシタ。アリスはまたひとつ賢くなったのデス!」

 元気の良い返事をもらって、ミサ=ミケーンは無性にアリス=アンジェラが可愛くて仕方が無くなってしまう。そんな可愛らしいアリス=アンジェラの頭を右手でわしゃわしゃと乱暴に撫でる。アリス=アンジェラはくすぐったいといった表情で、ミサ=ミケーンの右手を受け入れるのであった。

「もし、あちきとアンドレイ様の間に子供が出来たらって話に戻しますけど、アリスちゃんのように元気で可愛い女の子に育ってほしいですニャン」

「元気が有り余りすぎて、手に負えない娘になりそうですけどね」

「それはそれで可愛くて仕方が無いのでは? と思いますニャン!」

 アンドレイ=ラプソティは箸を止め、少しだけであるが、ミサ=ミケーンと自分の間柄について、考え込むことになる。アンドレイ=ラプソティとミサ=ミケーンを始めたとした『七忍の御使い』についての身体の関係は、そもそも彼女たちと結んだ契約に関わる問題だ。

 愛しのレオンの安全のために創った対暗殺組織ではあるが、『くノ一』たちを、こちら側に引き込むために、否応なく、アンドレイ=ラプソティはその子宝種から産まれる子宝液を交渉材料にする他無かったのである。金でどちらにでも転ぶシノビたちには、『情』という筋金を入れなければならない。アンドレイ=ラプソティと七忍の御使いたちは『契約』で結ばれた身体の関係だ。

 しかし……。愛が無ければ結婚をしてはいけないのか? 子供を産んではいけないのか? という至上命題に行きつく。

 そもそも、結婚とは何か? それは『契約』なのである。

 まさか……と訝しむヒトがいるかもしれないが、教会で神父や牧師が新郎新婦に誓いの言葉を告げる内容は、そもそも『契約書の内容』なのである。

『健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?』

 これはそのまま、創造主:Y.O.N.Nの御前に置いて、ニンゲンたちが契約書にサインをするのだ。この契約書の内容を破ったり、放棄するということが、すなわち『離婚』なのである。契約内容を履行できないからこそ、彼や彼女たちは別の人生を歩むために『別れる』という選択肢を採る権利を、結婚する時に同時に得るのだ。

 結婚も離婚もどちらも『契約』に基づく権利の主張なのである。そして、この契約の一文に『愛』が含まれるようになったのは、意外なことに今から100年ほど前のことである。何故、そうなかったかと言えば、愛が無くても、別段、結婚すること自体に支障は無かった。

 だが、年月が経るごとに、愛を高らかに叫ばなければならない事態に陥っただけなのである。先ほど、愛が無くてもと言ったが、語弊を産むので、弁解させてもらおう。この世は愛で満ち溢れている。だからこそ、結婚は愛があってこそ、成り立つと思われていたのだ。

 ここが肝心だ。愛が満ち溢れていたために、誰しもが愛はあって当然だと思うようになる。当然だと思うことは『当然すぎて、忘れられる』のだ。地上界の人々は当たり前すぎることをいつしか忘れてしまったのだ。だからこそ、わざわざ愛を声高らかに宣言しなければならないジレンマに陥ってしまう。

 愛はどこから発生するのか? と長年、議論してきた学者がいた。創造主:Y.O.N.N様が大空から降り注ぐ太陽の光のように燦々と地上界に降らせてくれているからだと主張する学者がいた。そして、愛は自発的な行為により、産まれると主張する学者もまたいた。そして、それぞれに自己の主張を押し付け合った。

 そんな学者たちに対して、ある日、創造主:Y.O.N.Nはおっしゃられた。

『敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことが出来ぬ相手を愛することが出来るのか?』と。学者たちは創造主:Y.O.N.Nの御言葉に涙した。自分たちがどれほど傲慢な態度で『愛』を語っていたのか? と気づかされることになる。

「ミサ殿。私は貴女のことを尊敬していますし、助け合いたいとも思っています。しかし、慰め合ったりする仲では無い気がするのです」

 アンドレイ=ラプソティは大変申し訳なさそうな表情でミサ=ミケーンにそう言う。しかしながら、ミサ=ミケーンはあっけらかんとした顔つきで、右手をアンドレイ=ラプソティの股間に忍び込ませるのであった。

「痛っ!! 掴むにしても加減ってものがあるでしょうがっ!」

 アンドレイ=ラプソティの言うことはもっともであった。いくら分厚い防寒具の上から、揉みしだかられたといっても、今は漂う冷気により、通常の3分の1のサイズまで縮こまっているおちんこさんである。その状態のおちんこさんを弄られては、たまったものではないことは、男性なら誰しもが同意してくれるであろう。

 しかし、そんなことはお構いなしにミサ=ミケーンはアンドレイ=ラプソティのおちんこさんを防寒具の上から弄り倒し、さらには唇をアンドレイ=ラプソティの首元から耳たぶへと移動させていく。そして、小声でぼそぼそと何かを呟き、アンドレイ=ラプソティは思わず赤面してしまうしかなかった。

「卑怯ですね、ミサ殿は。私の想いを知っていながら、なお、私にそう言ってきますか?」

「はい。あちきは七忍の御使いの中で一番の性悪女なのですニャン! アンドレイ様の慰み者になるのは、へっちゃらですニャン!」

「チュッチュッチュ。ふたりに当てられたようでッチュウ。ちょっと、戻りの遅いベリアルでも探しに行くでッチュウ」

 コッシロー=ネヅはそう言うと、アリス=アンジェラを誘い、横穴の奥へと向かおうと言う。アリス=アンジェラはベリアルがもしも大の方だったら、どうするんデス? と問うが、それならケツを蹴っ飛ばして、ひっこませれば良いという暴言を吐くのであった。

 アンドレイ=ラプソティはコッシロー=ネヅたちがこの場から消えてほしくないと願うのであるが、コッシロー=ネヅはアリス=アンジェラを引き連れて、横穴の奥へとどんどん向かっていってしまう……。
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